その胃管、本当に胃に入っている?―誤挿入を防ぐ3つの鉄則
第116回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
経管栄養を目的とした仰臥位での経鼻胃管の挿入について適切なのはどれか。
- a.挿入前に鼻腔にリドカインを塗布する。
- b.挿入時に患者の頸部を後屈させる。
- c.標準的な成人では鼻孔から35cmの深さまで挿入する。
- d.挿入後生理食塩液を注入し流入音を確認する。
- e.チューブ先端位置をエックス線写真で確認する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
経鼻胃管挿入で最も警戒すべき合併症は気管・気管支への誤挿入であり、咳反射の弱い患者では本人の反応だけでは気づけません。挿入時は頸部を前屈させて嚥下を促し(後屈は気管挿管の体位で気管に入りやすくなる)、成人では鼻孔から約45〜55cmをNEX法で見積もって挿入します。先端位置の確認はエックス線写真が最も確実で、チューブ全長の走行と先端が胃内にあることを栄養剤注入前に確かめます。位置確認前の液体注入は禁物で、気泡音は単独では信頼性が低いため、pH測定などと組み合わせて判断します。日常的な処置ほど事故につながりやすいことを意識し、根拠に基づく安全確認の手順を身につけることが臨床現場での患者安全に直結します。
解答・解説
正解はeです
経管栄養のための経鼻胃管(鼻から胃まで通すチューブ)挿入の手技と安全確認を問う問題である。 経鼻胃管の挿入で最も危険な合併症は、チューブが気管・気管支に誤って入ること(誤挿入)である。意識障害や嚥下障害のある患者では咳反射が弱く、気管に入っても咳き込まないことがあるため、本人の反応だけでは誤挿入に気づけない。誤挿入に気づかないまま栄養剤や液体を注入すると、誤嚥性肺炎や窒息など重篤な事態につながり、医療事故として繰り返し報告されている。 そのため、手技の要点は次の3つに整理できる。 1. 挿入しやすく安全な体位(頸部前屈)をとる。 2. 先端が確実に胃内に届く長さを、体格から見積もって挿入する。 3. 栄養剤を注入する前に、先端位置を信頼性の高い方法で確認する。 これらに照らすと、エックス線写真での先端位置確認が適切な手順であり、頸部後屈、35cm での留置、液体注入による確認はいずれも誤りである。
選択肢考察
- ×a. 挿入前に鼻腔にリドカインを塗布する。
適切とはいえない。挿入時には摩擦を減らし粘膜損傷を防ぐため、チューブの先端部に潤滑剤(水溶性潤滑剤やリドカインゼリー)を塗るのが基本である。鼻孔に局所麻酔薬を塗っても、チューブが通過する深部の鼻腔粘膜や咽頭までは十分に麻酔されず、手技として必須の準備ではない。さらに咽頭まで麻酔が効くと、チューブを食道へ導くのに利用する嚥下反射や、気管への誤挿入を知らせる咳反射が弱まり、かえって誤挿入・誤嚥の危険を高めうる。リドカインにはアレルギーや中毒のリスクもあり、ルーチンの前処置として挙げるのは適切でない。
- ×b. 挿入時に患者の頸部を後屈させる。
誤りである。頸部を後屈させると咽頭から喉頭への経路がまっすぐになり、チューブが気管に入りやすくなる。この姿勢は気管挿管で声門を見やすくする(喉頭展開)ときの体位であり、胃管挿入の目的とは逆である。胃管挿入時は頸部を前屈させ(顎を引く)、可能であれば嚥下を促すことで、喉頭蓋が気管の入口を覆い、チューブが食道入口部へ向かいやすくなる。仰臥位でも枕などで頭部を挙上して前屈位をとるとよい。
- ×c. 標準的な成人では鼻孔から35cmの深さまで挿入する。
誤りである。成人では切歯(前歯)から食道胃接合部(噴門)までが約40cm あり、鼻孔からではさらに長くなる。35cm ではチューブ先端は食道内にとどまり、注入した栄養剤が逆流して誤嚥を起こす危険がある。成人で先端を胃内に置くには、鼻孔からおおむね45〜55cm 程度挿入する必要がある。個々の患者では、鼻尖から耳朶(耳たぶ)、耳朶から剣状突起までの距離を合計した長さ(NEX 法)を目安にし、必要に応じて数cm 追加する。
- ×d. 挿入後生理食塩液を注入し流入音を確認する。
誤りである。位置確認がされていない段階で液体を注入すると、先端が気管内にあった場合にそのまま肺へ流れ込み、誤嚥性肺炎や窒息を起こしうる。また、液体を注入しても聴診で特徴的な音はほとんど生じず、確認方法として成り立たない。ベッドサイドで行われる方法は、シリンジで空気(10〜20mL 程度)を送り込んで心窩部で気泡音を聴く方法と、胃内容物を吸引して pH を測る方法(pH 5.5以下なら胃内の可能性が高い)である。ただし気泡音は先端が食道や気管・気管支にあっても似た音が聞こえることがあり、単独では信頼性が低い。
- ○e. チューブ先端位置をエックス線写真で確認する。
適切であり、これが正解である。胸腹部エックス線写真で、チューブが気管・気管支に沿わずに食道の走行どおり正中を下行し、横隔膜を越えて先端が左上腹部の胃内に位置していることを確認する。これは先端位置を確認する方法の中で最も確実とされ、特に初回挿入時や、意識障害・嚥下障害があり誤挿入のリスクが高い患者では、栄養剤の注入開始前に行うことが推奨される。ただし読影を誤ると意味がないため、チューブ全長の走行を確認し、気泡音や吸引液の pH 測定など他の方法と組み合わせて総合的に判断する。
経鼻経管栄養の位置づけ
消化管の機能は保たれているが、嚥下障害や意識障害で経口摂取が不十分な患者に対し、経腸栄養(消化管を使う栄養法)を行う手段の一つである。比較的短期間(目安として4週間程度まで)の使用に適し、長期にわたる場合は胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)などを検討する。経腸栄養は静脈栄養と比べて腸管粘膜の萎縮を防ぎ、感染症が少なく、生理的であるという利点がある。
挿入手順の概要
1. 患者に説明し、可能なら座位〜半座位(ファーラー位)、仰臥位なら頭部を挙上する。 2. 挿入長を NEX 法(鼻尖→耳朶→剣状突起)で測ってチューブに印をつける。 3. チューブ先端に潤滑剤を塗り、鼻腔の底に沿って顔面に対しほぼ垂直(後方)に進める。 4. 咽頭に達したら頸部を前屈させ、嚥下を促しながら食道へ進める。 5. 激しい咳込み、呼吸困難、SpO2 低下、発声の変化があれば気管への誤挿入を疑い、すぐ抜去する。 6. 予定の長さまで挿入したら先端位置を確認し、鼻翼や頬に固定する。
先端位置の確認方法と注意点
・気泡音の聴取:空気を注入し心窩部で聴診する。簡便だが食道・気管内でも類似の音が聞こえることがあり、単独では不確実。 ・吸引物の pH 測定:pH 5.5以下なら胃内の可能性が高い。プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬内服中は pH が上がり判定しにくい。 ・エックス線撮影:最も確実。初回挿入時や確認が困難な場合に行う。 確認は複数の方法を組み合わせ、栄養剤注入の前には毎回、固定位置(印)のずれがないかも確認する。
主な合併症
気管内誤挿入・誤嚥性肺炎、鼻出血、鼻翼の圧迫潰瘍、副鼻腔炎、食道・胃粘膜損傷、自己抜去など。
POINT
・経鼻胃管で最も重要なのは気管への誤挿入を防ぐことであり、先端位置はエックス線写真で確認するのが最も確実である。 ・挿入時は頸部を前屈させる(後屈は気管挿管の体位で、気管に入りやすくなる)。 ・成人の挿入長は鼻孔から約45〜55cm(NEX 法で個別に計測)。35cm では食道内にとどまる。 ・位置確認前に液体を注入してはならない。気泡音は単独では信頼性が低く、pH 測定(5.5以下)などと組み合わせる。
