厚くなるのか、薄くなるのか―心室中隔が語る心サルコイドーシスと肥大型心筋症の分かれ道
第116回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
心不全で来院した患者において心サルコイドーシスの所見に合致しないのはどれか。
- a.房室ブロック
- b.持続性心室頻拍
- c.左室駆出率の低下
- d.心室中隔の非対称性肥大
- e.FDG-PETでの心筋への異常集積
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
心サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が心筋に生じる病態で、心室中隔基部に好発するため刺激伝導系が障害されて房室ブロックを起こしやすく、炎症後の線維化で中隔基部が菲薄化します。斑状の瘢痕と正常心筋の混在はリエントリーによる持続性心室頻拍や心室細動を招き、病変が広がると左室駆出率が低下して拡張型心筋症に似た病像となり、FDG-PETの心筋集積やガドリニウム造影MRIの遅延造影が診断を支えます。一方、心室中隔の非対称性肥大は肥大型心筋症の特徴であり、「中隔基部の菲薄化」と対比して押さえることが重要です。治療はステロイドを中心に、ペースメーカー、ICD、心不全治療を組み合わせます。原因不明の房室ブロックや拡張型心筋症様の心不全をみたときに本症を想起できることは、突然死の予防に直結する臨床的に大切な視点です。
解答・解説
正解はdです
サルコイドーシスは、原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が全身の臓器(肺門リンパ節・肺、眼、皮膚、心臓、神経など)に形成される疾患である。心臓に病変が及ぶと(心サルコイドーシス)、肉芽腫による炎症とその後の線維化によって、刺激伝導系の障害、心室性不整脈、心収縮力の低下が生じる。心病変はサルコイドーシスの生命予後を左右する最も重要な因子であり、日本人では心病変の頻度が高いとされる。 心サルコイドーシスの所見は、病変の性質から次のように整理できる。 【1. 好発部位が心室中隔基部】ここには房室結節からヒス束・脚へ続く刺激伝導系が走行するため、房室ブロックを起こしやすい。また、炎症後の線維化により中隔基部が薄くなる(菲薄化)。 【2. 斑状の炎症・線維化】正常心筋と瘢痕が入り混じることでリエントリー回路が形成され、心室頻拍・心室細動が起こる。 【3. 心筋障害の進行】冠動脈の支配領域と一致しない局所壁運動異常から始まり、病変が広がると左室駆出率(LVEF)が低下し、拡張型心筋症に似た病像となる。 【4. 画像での活動性炎症・線維化の検出】FDG-PETや67Gaシンチグラフィで炎症部位への集積、ガドリニウム造影MRIで遅延造影(線維化・炎症を反映)がみられる。 日本の心サルコイドーシス診断基準の主徴候は、(1)高度房室ブロック(完全房室ブロックを含む)または致死性心室性不整脈(持続性心室頻拍、心室細動など)、(2)心室中隔基部の菲薄化または心室壁の形態異常、(3)左室収縮不全または局所的心室壁運動異常、(4)67Gaシンチグラフィまたは18F-FDG PETでの心臓への異常集積、(5)ガドリニウム造影MRIでの心筋の遅延造影、の5項目である。設問の選択肢のうち、この特徴から外れるのは、肥大型心筋症に典型的な「心室中隔の非対称性肥大」である。
選択肢考察
- ×a. 房室ブロック
合致する。心サルコイドーシスの病変は心室中隔基部に好発し、そこを走る房室結節・ヒス束・脚が肉芽腫や線維化で障害されるため、房室ブロックを生じやすい。高度房室ブロック・完全房室ブロックは心サルコイドーシスの初発所見として最も多く、診断基準の主徴候にも含まれる。比較的若い〜中年の成人に原因不明の高度房室ブロックをみたら、心サルコイドーシスを鑑別に挙げる必要がある。
- ×b. 持続性心室頻拍
合致する。心筋内に炎症巣・瘢痕と正常心筋が混在すると、その境界部に興奮のリエントリー回路が形成され、持続性心室頻拍や心室細動が生じる。心サルコイドーシスでは致死性心室性不整脈が突然死の原因となり、診断基準の主徴候に含まれる。植込み型除細動器(ICD)の適応となることも多い。
- ×c. 左室駆出率の低下
合致する。炎症と線維化が心筋に広がると左室の収縮能が低下し、LVEFが低下する(診断基準の主徴候の一つ:左室収縮不全または局所的心室壁運動異常)。初期には冠動脈の支配領域に一致しない局所的な壁運動異常として現れ、病変がびまん性になると拡張型心筋症との区別が難しくなる。このため、拡張型心筋症様の病態をみたら心サルコイドーシスの除外が重要である。
- ○d. 心室中隔の非対称性肥大
合致しないため、これが正解である。心室中隔の非対称性肥大(ASH: asymmetric septal hypertrophy、心室中隔厚/左室後壁厚が1.3以上が目安)は肥大型心筋症に特徴的な所見である。心サルコイドーシスではむしろ逆に、心室中隔基部が炎症後の線維化によって薄くなる「菲薄化」が特徴的で、診断における特異度が高い。なお、活動期に炎症・浮腫で心室壁が局所的に厚くみえることはあるが、肥大型心筋症のような中隔優位の非対称性肥大を呈するものではない。
- ×e. FDG-PETでの心筋への異常集積
合致する。FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)はブドウ糖類似物質で、糖代謝の亢進したマクロファージやリンパ球などの活動性炎症細胞に取り込まれる。心サルコイドーシスでは肉芽腫性炎症の部位に一致して心筋へのFDG集積がみられ、診断基準の主徴候となっている。正常心筋の生理的なFDG取り込みを抑えるため、検査前に長時間の絶食や低炭水化物食などの前処置を行う。FDG-PETは炎症の活動性評価やステロイド治療の効果判定にも用いられる。
心サルコイドーシスの診断
日本の診断指針(日本循環器学会のガイドライン)では、他臓器で組織学的にサルコイドーシスと診断され、心臓に上記の主徴候を一定数以上認める場合などに心サルコイドーシスと臨床診断する。心筋生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が証明されれば組織診断群となるが、病変が斑状に分布するため生検の陽性率は低い。また、心臓限局性サルコイドーシス(他臓器に病変がないもの)の概念も示されている。 副徴候には、心電図での心室性不整脈(非持続性心室頻拍、多源性・頻発する心室期外収縮)、脚ブロック、軸偏位、異常Q波、心筋血流シンチグラフィでの灌流異常、心内膜心筋生検での単核細胞浸潤や線維化などが含まれる。
その他の検査所見
血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)、リゾチーム、可溶性IL-2受容体の上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症(肉芽腫での活性型ビタミンD産生による)、胸部画像での両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、ツベルクリン反応陰転化などがサルコイドーシス全体の手がかりとなる。
治療
活動性の心病変には副腎皮質ステロイドが中心となる。房室ブロックにはペースメーカー、致死性心室性不整脈には植込み型除細動器(ICD)、心不全には標準的な心不全治療を行う。
肥大型心筋症との対比
肥大型心筋症:心室中隔の非対称性肥大、僧帽弁収縮期前方運動(SAM)、左室流出路狭窄、収縮能は保たれることが多い。 心サルコイドーシス:心室中隔基部の菲薄化、房室ブロック、心室頻拍、収縮能低下、FDG-PET集積、遅延造影。
POINT
・心サルコイドーシスの病変は心室中隔基部に好発し、房室ブロックと中隔基部の菲薄化をきたす。 ・診断基準の主徴候:高度房室ブロック/致死性心室性不整脈、中隔基部の菲薄化・壁の形態異常、左室収縮不全・局所壁運動異常、Ga・FDG-PETの異常集積、造影MRIの遅延造影。 ・心室中隔の非対称性肥大は肥大型心筋症の所見であり、心サルコイドーシスの「菲薄化」と対比して覚える。 ・中年以降の原因不明の房室ブロックや拡張型心筋症様病態では心サルコイドーシスを疑う。
