StudyMed医師国家試験

厚くなるのか、薄くなるのか―心室中隔が語る心サルコイドーシスと肥大型心筋症の分かれ道

第116回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第8問

心不全で来院した患者において心サルコイドーシスの所見に合致しないのはどれか。

  1. a.房室ブロック
  2. b.持続性心室頻拍
  3. c.左室駆出率の低下
  4. d.心室中隔の非対称性肥大
  5. e.FDG-PETでの心筋への異常集積

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心不全で受診した患者で心サルコイドーシスに合致しない所見を選ぶ問題だ。ポイントは、肉芽腫がどこにでき、炎症のあとに心筋がどう変化するかをイメージすること。そうすれば、どんな心電図異常や画像所見が出るかが自然に導けるよ。まずサルコイドーシスとはどんな病気だったかな。
医学生医学生
原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が全身にできる病気です。病理実習で、乾酪壊死がない点で結核と区別すると習いました。
ドクタードクター
その通り。肺門リンパ節や肺、眼、皮膚が有名だけど、心臓に及ぶと生命予後を左右する最も重要な病変になる。日本人では心病変の頻度が高いとされているんだ。では、心臓のどこに病変ができやすいと思う?
医学生医学生
心臓全体にまんべんなく、というわけではないんですか。
ドクタードクター
斑状に分布するのが特徴だけど、好発部位は心室中隔の基部だ。ここには房室結節からヒス束、脚へと続く刺激伝導系が走っている。そこが肉芽腫や線維化で障害されるとどうなるかな。
医学生医学生
伝導が途切れるので、房室ブロックが起こるということですね。
ドクタードクター
正解。高度房室ブロックや完全房室ブロックは心サルコイドーシスの初発所見として最も多く、診断基準の主徴候にも含まれる。比較的若い〜中年の成人に原因のはっきりしない高度房室ブロックをみたら、心サルコイドーシスを鑑別に挙げることが大切だ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、ペースメーカー植込み前に胸部CTで両側肺門リンパ節腫脹を確認していた患者さんがいました。あれはこの鑑別だったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしたね。次は持続性心室頻拍。なぜ起こるか説明できるかな。
医学生医学生
炎症の跡が瘢痕になって、そこが不整脈の原因になる……でしょうか。
ドクタードクター
だいたい合っている。正確には、斑状の炎症巣や瘢痕と正常心筋が混在すると、その境界で興奮が旋回するリエントリー回路ができる。それで持続性心室頻拍や心室細動が起こり、突然死の原因になる。だから植込み型除細動器の適応になることも多いんだ。
医学生医学生
左室駆出率の低下も、炎症と線維化で心筋が壊れていくからですね。
ドクタードクター
そう。初期は冠動脈の支配領域に一致しない局所的な壁運動異常として現れ、広がるとLVEFが低下して拡張型心筋症に似た病像になる。だから拡張型心筋症のように見える患者では、心サルコイドーシスを除外することが重要だ。
医学生医学生
FDG-PETは癌の検査というイメージでした。心臓にも使うんですか。
ドクタードクター
FDGはブドウ糖の類似物質で、糖代謝が亢進した細胞に取り込まれる。活動性炎症のマクロファージやリンパ球もそうだから、肉芽腫性炎症の部位に一致して心筋に集積するんだ。ただ正常心筋もブドウ糖を使うので、検査前に長時間の絶食や低炭水化物食で生理的な取り込みを抑える。炎症の活動性評価やステロイドの効果判定にも使われる。
医学生医学生
そうすると、残る心室中隔の非対称性肥大が合致しない所見ですね。でも炎症で腫れるなら、中隔が厚くなることもありそうに思えます。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。活動期に炎症や浮腫で局所的に壁が厚く見えることはある。でも、中隔優位の非対称性肥大は肥大型心筋症に特徴的な所見だ。心サルコイドーシスではむしろ逆で、中隔基部が炎症後の線維化によって薄くなる菲薄化が特徴で、診断の特異度も高い。だから正解はこれになる。
医学生医学生
肥大型心筋症は中隔が厚くなって、心サルコイドーシスは中隔基部が薄くなる、と対比で覚えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。肥大型心筋症では僧帽弁の収縮期前方運動や左室流出路狭窄を伴い、収縮能は保たれることが多い。心サルコイドーシスは房室ブロック、心室頻拍、収縮能低下、FDG-PET集積、ガドリニウム造影MRIの遅延造影がそろう。並べると性格がまったく違うよね。
医学生医学生
確定診断には心筋生検が必要なんでしょうか。
ドクタードクター
心筋生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が証明されれば組織診断になるけれど、病変が斑状なので陽性率は低い。そのため他臓器での組織診断と心臓の主徴候を組み合わせた臨床診断が重視されていて、心臓限局性サルコイドーシスという概念もある。血清ACEや可溶性IL-2受容体の上昇、高カルシウム血症なども全身の手がかりになるね。治療は活動性の心病変には副腎皮質ステロイドが中心で、房室ブロックにはペースメーカー、致死性不整脈にはICD、心不全には標準治療を組み合わせる。
医学生医学生
伝導障害、不整脈、収縮低下、画像での炎症、それぞれに対応する治療があるんですね。
ドクタードクター
そう。病変の場所と性質から所見を導けるようにしておけば、選択肢を覚えていなくても判断できるはずだよ。

まとめ

心サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が心筋に生じる病態で、心室中隔基部に好発するため刺激伝導系が障害されて房室ブロックを起こしやすく、炎症後の線維化で中隔基部が菲薄化します。斑状の瘢痕と正常心筋の混在はリエントリーによる持続性心室頻拍や心室細動を招き、病変が広がると左室駆出率が低下して拡張型心筋症に似た病像となり、FDG-PETの心筋集積やガドリニウム造影MRIの遅延造影が診断を支えます。一方、心室中隔の非対称性肥大は肥大型心筋症の特徴であり、「中隔基部の菲薄化」と対比して押さえることが重要です。治療はステロイドを中心に、ペースメーカー、ICD、心不全治療を組み合わせます。原因不明の房室ブロックや拡張型心筋症様の心不全をみたときに本症を想起できることは、突然死の予防に直結する臨床的に大切な視点です。

解答・解説

正解はdです

サルコイドーシスは、原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が全身の臓器(肺門リンパ節・肺、眼、皮膚、心臓、神経など)に形成される疾患である。心臓に病変が及ぶと(心サルコイドーシス)、肉芽腫による炎症とその後の線維化によって、刺激伝導系の障害、心室性不整脈、心収縮力の低下が生じる。心病変はサルコイドーシスの生命予後を左右する最も重要な因子であり、日本人では心病変の頻度が高いとされる。 心サルコイドーシスの所見は、病変の性質から次のように整理できる。 【1. 好発部位が心室中隔基部】ここには房室結節からヒス束・脚へ続く刺激伝導系が走行するため、房室ブロックを起こしやすい。また、炎症後の線維化により中隔基部が薄くなる(菲薄化)。 【2. 斑状の炎症・線維化】正常心筋と瘢痕が入り混じることでリエントリー回路が形成され、心室頻拍・心室細動が起こる。 【3. 心筋障害の進行】冠動脈の支配領域と一致しない局所壁運動異常から始まり、病変が広がると左室駆出率(LVEF)が低下し、拡張型心筋症に似た病像となる。 【4. 画像での活動性炎症・線維化の検出】FDG-PETや67Gaシンチグラフィで炎症部位への集積、ガドリニウム造影MRIで遅延造影(線維化・炎症を反映)がみられる。 日本の心サルコイドーシス診断基準の主徴候は、(1)高度房室ブロック(完全房室ブロックを含む)または致死性心室性不整脈(持続性心室頻拍、心室細動など)、(2)心室中隔基部の菲薄化または心室壁の形態異常、(3)左室収縮不全または局所的心室壁運動異常、(4)67Gaシンチグラフィまたは18F-FDG PETでの心臓への異常集積、(5)ガドリニウム造影MRIでの心筋の遅延造影、の5項目である。設問の選択肢のうち、この特徴から外れるのは、肥大型心筋症に典型的な「心室中隔の非対称性肥大」である。

選択肢考察

  1. ×a.  房室ブロック

    合致する。心サルコイドーシスの病変は心室中隔基部に好発し、そこを走る房室結節・ヒス束・脚が肉芽腫や線維化で障害されるため、房室ブロックを生じやすい。高度房室ブロック・完全房室ブロックは心サルコイドーシスの初発所見として最も多く、診断基準の主徴候にも含まれる。比較的若い〜中年の成人に原因不明の高度房室ブロックをみたら、心サルコイドーシスを鑑別に挙げる必要がある。

  2. ×b.  持続性心室頻拍

    合致する。心筋内に炎症巣・瘢痕と正常心筋が混在すると、その境界部に興奮のリエントリー回路が形成され、持続性心室頻拍や心室細動が生じる。心サルコイドーシスでは致死性心室性不整脈が突然死の原因となり、診断基準の主徴候に含まれる。植込み型除細動器(ICD)の適応となることも多い。

  3. ×c.  左室駆出率の低下

    合致する。炎症と線維化が心筋に広がると左室の収縮能が低下し、LVEFが低下する(診断基準の主徴候の一つ:左室収縮不全または局所的心室壁運動異常)。初期には冠動脈の支配領域に一致しない局所的な壁運動異常として現れ、病変がびまん性になると拡張型心筋症との区別が難しくなる。このため、拡張型心筋症様の病態をみたら心サルコイドーシスの除外が重要である。

  4. ○d.  心室中隔の非対称性肥大

    合致しないため、これが正解である。心室中隔の非対称性肥大(ASH: asymmetric septal hypertrophy、心室中隔厚/左室後壁厚が1.3以上が目安)は肥大型心筋症に特徴的な所見である。心サルコイドーシスではむしろ逆に、心室中隔基部が炎症後の線維化によって薄くなる「菲薄化」が特徴的で、診断における特異度が高い。なお、活動期に炎症・浮腫で心室壁が局所的に厚くみえることはあるが、肥大型心筋症のような中隔優位の非対称性肥大を呈するものではない。

  5. ×e.  FDG-PETでの心筋への異常集積

    合致する。FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)はブドウ糖類似物質で、糖代謝の亢進したマクロファージやリンパ球などの活動性炎症細胞に取り込まれる。心サルコイドーシスでは肉芽腫性炎症の部位に一致して心筋へのFDG集積がみられ、診断基準の主徴候となっている。正常心筋の生理的なFDG取り込みを抑えるため、検査前に長時間の絶食や低炭水化物食などの前処置を行う。FDG-PETは炎症の活動性評価やステロイド治療の効果判定にも用いられる。

心サルコイドーシスの診断

日本の診断指針(日本循環器学会のガイドライン)では、他臓器で組織学的にサルコイドーシスと診断され、心臓に上記の主徴候を一定数以上認める場合などに心サルコイドーシスと臨床診断する。心筋生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が証明されれば組織診断群となるが、病変が斑状に分布するため生検の陽性率は低い。また、心臓限局性サルコイドーシス(他臓器に病変がないもの)の概念も示されている。 副徴候には、心電図での心室性不整脈(非持続性心室頻拍、多源性・頻発する心室期外収縮)、脚ブロック、軸偏位、異常Q波、心筋血流シンチグラフィでの灌流異常、心内膜心筋生検での単核細胞浸潤や線維化などが含まれる。

その他の検査所見

血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)、リゾチーム、可溶性IL-2受容体の上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症(肉芽腫での活性型ビタミンD産生による)、胸部画像での両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、ツベルクリン反応陰転化などがサルコイドーシス全体の手がかりとなる。

治療

活動性の心病変には副腎皮質ステロイドが中心となる。房室ブロックにはペースメーカー、致死性心室性不整脈には植込み型除細動器(ICD)、心不全には標準的な心不全治療を行う。

肥大型心筋症との対比

肥大型心筋症:心室中隔の非対称性肥大、僧帽弁収縮期前方運動(SAM)、左室流出路狭窄、収縮能は保たれることが多い。 心サルコイドーシス:心室中隔基部の菲薄化、房室ブロック、心室頻拍、収縮能低下、FDG-PET集積、遅延造影。

POINT

・心サルコイドーシスの病変は心室中隔基部に好発し、房室ブロックと中隔基部の菲薄化をきたす。 ・診断基準の主徴候:高度房室ブロック/致死性心室性不整脈、中隔基部の菲薄化・壁の形態異常、左室収縮不全・局所壁運動異常、Ga・FDG-PETの異常集積、造影MRIの遅延造影。 ・心室中隔の非対称性肥大は肥大型心筋症の所見であり、心サルコイドーシスの「菲薄化」と対比して覚える。 ・中年以降の原因不明の房室ブロックや拡張型心筋症様病態では心サルコイドーシスを疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。