1日300kcalの引き算―「体脂肪1kg=7,000kcal」で組み立てる減量の食事指導
第115回医師国家試験 F問題 第73問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,72~74の問いに答えよ。 42歳の男性。職場の健康診断で異常を指摘されて来院した。 現病歴:20歳代の頃は体重68kg程度であったが,32歳での結婚を機に徐々に増加し,特にこの3年で10kg増加した。現在の体重は過去最大である。 既往歴:特記すべきことはない。 生活歴:喫煙歴はない。飲酒はビール500mL/日。仕事は事務作業で通勤以外の運動習慣はない。 家族歴:父親が糖尿病,高血圧症,脳梗塞。 現症:意識は清明。身長173cm,体重82kg,腹囲98cm。脈拍68/分。血圧146/92mmHg。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知せず,皮膚線条は認めない。四肢に浮腫を認めない。皮膚の菲薄化を認めない。 検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-),ケトン体(-)。血液所見:赤血球465万,Hb 14.6g/dL,Ht 46%,白血球6,800,血小板28万。血液生化学所見:AST 38U/L,ALT 78U/L,γ-GT 52U/L(基準8~50),尿素窒素19mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,尿酸6.8mg/dL,空腹時血糖116mg/dL,HbA1c 6.2%(基準4.6~6.2),総コレステロール264mg/dL,トリグリセリド212mg/dL,HDLコレステロール34mg/dL,Na 141mEq/L,K 3.5mEq/L,Cl 98mEq/L。
この患者に対して生活習慣の改善の一環として食事指導を行うことにした。 正しい内容はどれか。 ただし,この患者の消費エネルギーは約2,400kcal/日であると仮定し,今後,3か月で約3~4kgの減量を目指すこととする。
- a.総エネルギー量を2,100kcal/日とする。
- b.炭水化物を総エネルギー量の30%とする。
- c.蛋白質を200g/日とする。
- d.脂質を150g/日とする。
- e.食塩を10g/日とする。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
肥満・メタボリックシンドロームの食事療法では、体脂肪1kg≒7,000kcalをもとに必要なエネルギー不足量を逆算します。3か月で3~4kgの減量には1日約230~310kcalの不足が必要で、消費2,400kcal/日なら摂取2,100kcal/日が妥当です。三大栄養素はエネルギー比で炭水化物50~65%、蛋白質13~20%、脂質20~30%を目安とし、炭水化物・蛋白質1g=4kcal、脂質1g=9kcalで換算すると、炭水化物30%は不足、蛋白質200gや脂質150gは明らかな過剰と判断できます。高血圧がある場合の食塩は6g/日未満が目標で、節酒や週150分以上の有酸素運動も組み合わせます。極端な制限ではなく、根拠のある数字で緩やかかつ継続可能な目標を立てる考え方は、生活習慣病の診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
患者の背景
42歳男性。BMI 27.4(82÷1.73の2乗)の肥満で、腹囲98cm、血圧146/92mmHg、トリグリセリド212mg/dL・HDLコレステロール34mg/dL、空腹時血糖116mg/dLである。高血圧症と脂質異常症があり、メタボリックシンドロームの基準を満たす。皮膚線条や皮膚の菲薄化がなく二次性肥満は考えにくいため、治療の中心は食事療法と運動療法による内臓脂肪の減量である。腹囲やBMIが基準を超える肥満者では、現体重の3%程度の減量でも血圧・脂質・血糖の改善が期待できる。本例の3~4kgはおよそ4~5%にあたり、現実的な目標である。
エネルギー量の考え方
体脂肪1kgを減らすには約7,000kcal(脂肪組織には水分も含まれるため、純粋な脂肪1g=9kcalより小さい値になる)のエネルギー不足が必要とされる。 ・3か月(約90日)で3kg減量:3×7,000=21,000kcal、21,000÷90≒233kcal/日 ・3か月で4kg減量:4×7,000=28,000kcal、28,000÷90≒311kcal/日 したがって、1日あたり約230~310kcalを消費量より少なくすればよい。消費エネルギーは約2,400kcal/日と仮定されているので、摂取エネルギーの目安は2,400-(230~310)≒2,090~2,170kcal/日となる。2,100kcal/日(不足分300kcal/日)はこの範囲に入る。
栄養素配分の考え方
減量中でも、三大栄養素のバランスは健康な成人とほぼ同じにする。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、エネルギー比率の目標量を炭水化物50~65%、蛋白質13~20%(30~49歳)、脂質20~30%としている。各選択肢の数値をエネルギー比率やグラム数に換算し、この範囲と比べて判断する。換算には、炭水化物・蛋白質は1gあたり4kcal、脂質は1gあたり9kcalを用いる。食塩は高血圧があるため、減塩目標(6g/日未満)と比べる。
選択肢考察
- ○a. 総エネルギー量を2,100kcal/日とする。
3か月で3~4kg減らすには、体脂肪1kg≒7,000kcalとして合計21,000~28,000kcal、1日あたり約230~310kcalのエネルギー不足が必要である。消費エネルギー2,400kcal/日から300kcalを差し引いた2,100kcal/日は、この目標にちょうど合う。極端な制限(例えば1日1,000kcal以上の不足)は筋肉量の減少やリバウンドを招きやすいうえ、長く続けにくい。本例のように緩やかで継続可能な設定が望ましい。
- ×b. 炭水化物を総エネルギー量の30%とする。
炭水化物の目標量は総エネルギーの50~65%であり、30%は明らかに少ない。炭水化物を極端に減らすと、その分のエネルギーを脂質や蛋白質でまかなうことになる。すると脂質の過剰摂取による脂質異常症の悪化、ケトン体の産生、長期継続の難しさなどの問題が生じる。糖質制限食の長期的な安全性と有効性は十分に確立しておらず、標準的な食事指導では推奨されない。
- ×c. 蛋白質を200g/日とする。
蛋白質の推奨量は30~49歳男性で65g/日である。目標量はエネルギー比13~20%で、2,100kcalなら約68~105g/日にあたる。200g/日は800kcal、総エネルギー2,100kcalの約38%に相当し、明らかに過剰である。蛋白質の過剰摂取は腎臓への負担(糸球体過剰濾過)につながる。また、動物性食品から摂ると飽和脂肪酸も増えるため、脂質異常症の面でも好ましくない。
- ×d. 脂質を150g/日とする。
脂質は1gあたり9kcalなので、150g/日は1,350kcalとなり、総エネルギー2,100kcalの約64%を占める。脂質の目標量はエネルギー比20~30%で、2,100kcalなら約47~70g/日(420~630kcal)である。150g/日は目標の2倍以上で明らかに過剰である。本例は高トリグリセリド血症・高LDLコレステロール血症を伴うため、脂質は25%程度以下に抑える。あわせて飽和脂肪酸を控え、魚や植物由来の不飽和脂肪酸を選ぶよう指導する。
- ×e. 食塩を10g/日とする。
本例は血圧146/92mmHgの高血圧症があり、日本高血圧学会のガイドラインでは食塩摂取量を6g/日未満とするよう推奨している。高血圧のない成人でも、日本人の食事摂取基準(2020年版)の目標量は男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満である。10g/日は日本人の平均的な摂取量に近いものの、減塩目標としては多すぎる。
肥満・メタボリックシンドロームの食事療法の要点
・エネルギー制限:消費量よりやや少なく設定し、体重・腹囲の推移を見ながら調整する。まず3~6か月で現体重の3%以上(肥満度が高い場合は5~10%)の減量を目指すのが一般的である。 ・栄養素バランス:炭水化物50~65%、蛋白質13~20%、脂質20~30%(エネルギー比)。脂質異常症があれば飽和脂肪酸・コレステロールを控え、食物繊維を増やす。 ・減塩:高血圧があれば6g/日未満。野菜・果物(カリウム)を積極的に摂る。ただし腎機能障害がある場合はカリウム摂取に注意する。 ・飲酒:エタノール換算で男性20~30g/日以下(ビール中瓶1本≒500mLで約20g)にとどめ、肝機能異常や高トリグリセリド血症があればさらに減らすか休肝日を設ける。アルコール自体もエネルギー(1gあたり約7kcal)をもつ。
エネルギー計算の基本
・炭水化物1g≒4kcal、蛋白質1g≒4kcal、脂質1g≒9kcal、アルコール1g≒7kcal。 ・体脂肪1kg≒7,000kcal(文献により7,000~7,200kcal)。 ・必要な1日のエネルギー不足量=目標減量(kg)×7,000÷期間(日)。
運動療法との組み合わせ
食事療法だけでなく、速歩などの中等度の有酸素運動を1日30分以上、できれば毎日(週150分以上)行う。こうすることで内臓脂肪の減少、インスリン抵抗性の改善、血圧低下がより得られる。
POINT
・体脂肪1kg≒7,000kcal。3か月で3~4kg減量するには1日約230~310kcalの不足が必要であり、2,400-300=2,100kcal/日が妥当である。 ・エネルギー比率の目標:炭水化物50~65%、蛋白質13~20%、脂質20~30%。 ・脂質1g=9kcal、炭水化物・蛋白質1g=4kcalで換算して、各選択肢が過剰か不足かを判断する。 ・高血圧患者の食塩は6g/日未満。
