StudyMed医師国家試験

宿泊行事で広がった腹痛と下痢―「どこから来て、どう入るか」で見抜く汚染源と病原体

第115回医師国家試験 F問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第38問

 10歳の男児。腹痛と下痢を主訴に母親に連れられて来院した。母親に確認したところ,4日前に郊外の宿泊施設で行事に参加した多数の児童と保護者に腹痛,嘔吐,下痢等の消化器症状があることが分かった。  この症状の原因となったと考えられる汚染源と病原体の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.海水 ―― レジオネラ
  2. b.食材 ―― ノロウイルス
  3. c.井戸水 ―― エルシニア
  4. d.水道水 ―― クリプトスポリジウム
  5. e.プールの水 ―― 病原性大腸菌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、同じ宿泊行事に参加した多くの人に消化器症状が出た集団発生の問題だ。個々の病原体を特定するのではなく、「汚染源と病原体の組合せとして誤っているもの」を選ぶ点に注意しよう。まず、この状況からどんな病態を考えるかな。
医学生医学生
同じ場所で同じものを食べたり飲んだりした集団なので、食中毒か水を介した感染の集団発生だと思います。
ドクタードクター
その通り。共通の曝露がある集団で胃腸炎が多発したら、食中毒や水系感染のアウトブレイクを考える。発症まで数日かかっていそうなことから、30分〜数時間で発症する黄色ブドウ球菌のような毒素型よりは、潜伏期が1〜数日の細菌やウイルス、原虫が候補になる。ただ、潜伏期の短い病原体も完全には否定できない。では、組合せを判断するときの視点は何だと思う?
医学生医学生
その病原体が実際にその水や食べ物から入ってくるかどうか、でしょうか。
ドクタードクター
いいね。もうひとつ大事なのが「経口感染で胃腸炎を起こす病原体かどうか」だ。この2点で見ていこう。まずノロウイルスと食材の組合せは?
医学生医学生
ノロウイルスは冬のカキが有名ですよね。小児科の実習でも、保育園で嘔吐下痢が流行していると聞きました。
ドクタードクター
そう、日本の食中毒で患者数が最も多い病原体だ。ウイルスを蓄積した二枚貝の生食や加熱不十分な摂取のほか、感染した調理従事者の手指を介して汚染された食品からも感染する。潜伏期は24〜48時間程度で、ごく少量でも感染が成立し、吐物や便からヒトからヒトへ二次感染も起こすから、宿泊行事や施設での集団発生では真っ先に考えたい。これは正しい組合せだね。
医学生医学生
エルシニアと井戸水は少しピンと来ません。豚肉のイメージが強いです。
ドクタードクター
豚肉は代表的な感染源だね。エルシニアはブタなどの家畜や野生動物が保菌する人獣共通感染症の原因菌で、動物の糞便に汚染された井戸水や沢水のような未消毒の水からも経口感染する。郊外の施設なら井戸水を使っていることもありうる。4℃前後の低温でも増殖でき、回腸末端炎や腸間膜リンパ節炎で虫垂炎に似た右下腹部痛を起こすことがあるのも特徴だ。
医学生医学生
微生物学の講義で、低温で増える菌としてリステリアと一緒に覚えました。クリプトスポリジウムと水道水はどうですか。消毒された水なら安全な気がします。
ドクタードクター
そこがこの原虫の怖いところなんだ。クリプトスポリジウムのオーシストは塩素消毒に強い抵抗性を持つから、ろ過などの浄水処理が不十分だと水道水を介して大規模な集団感染を起こす。日本でも1996年に埼玉県越生町で町営水道による大規模な集団発生があった。プールの水を介した感染も知られている。水様性下痢が主で、免疫正常者は自然に軽快することが多いけれど、AIDSなど細胞性免疫が低下した患者では重症化・遷延化する。
医学生医学生
プールの水と病原性大腸菌も、塩素が入っているのに大丈夫なのかと思いました。
ドクタードクター
塩素濃度の管理が不十分だと感染は起こりうるんだ。とくに腸管出血性大腸菌は100個程度のごく少数の菌で感染が成立するから、汚染されたプールや水遊び場の水を誤って飲み込むことでも集団感染が起こる。潜伏期は3〜8日程度で、水様性下痢から血便に進み、溶血性尿毒症症候群を合併することがあるので要注意だ。これも正しい組合せだね。
医学生医学生
となると、残る海水とレジオネラが誤りですね。レジオネラは肺炎の原因菌だったと思います。
ドクタードクター
正解。レジオネラは汚染された水から生じるエアロゾル、つまり細かい水しぶきを吸い込んで感染し、重症肺炎やポンティアック熱を起こす。肺炎に下痢を伴うことはあっても、汚染水を飲んで胃腸炎の集団発生を起こす病原体ではない。それに本来の生息場所は土壌や河川・湖沼などの淡水環境や、循環式浴槽、冷却塔、給湯設備、加湿器といった人工の水環境で、海水との組合せも典型的ではないんだ。
医学生医学生
温泉施設の循環式浴槽でのレジオネラ集団感染のニュースを聞いたことがあります。海水だと、むしろ腸炎ビブリオですね。
ドクタードクター
その通り。海水と結びつけるべきなのは、海産魚介類から感染する好塩菌の腸炎ビブリオや、肝硬変患者で重症の創傷感染や敗血症を起こすVibrio vulnificusなどのビブリオ属だ。病原体ごとに「すみか」と「侵入経路」をセットで覚えると混乱しにくいよ。
医学生医学生
レジオネラは細胞内寄生菌なので、治療にβ-ラクタム系が効かないというのも一緒に覚えておきます。
ドクタードクター
いいね。ニューキノロン系やマクロライド系を使い、診断には尿中抗原検査がよく用いられる。最後に臨床での注意点だ。こうした集団の胃腸炎を診たら、食品衛生法に基づいて、食中毒の疑いの段階でも直ちに保健所長へ届け出る必要がある。保健所が喫食調査や施設・水・食材の検査を行い、感染拡大を防ぐんだ。腸管出血性大腸菌感染症は感染症法の三類感染症で直ちに届出、クリプトスポリジウム症やレジオネラ症も全数把握の対象になる。
医学生医学生
目の前の患者さんの治療だけでなく、届出で原因究明と拡大防止につなげるのも医師の役割なんですね。
ドクタードクター
その通り。便培養やウイルス抗原・遺伝子検査、虫卵・原虫検査で原因を探りつつ、脱水の評価と補液をしっかり行うこと。とくに小児では脱水が進みやすいし、腸管出血性大腸菌が疑われる場合はHUSの徴候にも注意を払おう。

まとめ

同じ行事や施設の参加者に消化器症状が多発した場合は、食中毒や水系感染による集団発生を疑い、食品衛生法に基づき直ちに保健所へ届け出ます。ノロウイルスは二枚貝や汚染食品、ヒトからヒトへの感染で広がり、エルシニアは豚肉や動物の糞便で汚染された井戸水、クリプトスポリジウムは塩素耐性のオーシストにより水道水やプール、腸管出血性大腸菌は少数菌で感染するためプールの水でも集団感染を起こしえます。一方、レジオネラは循環式浴槽や冷却塔などのエアロゾル吸入で肺炎を起こす菌であり、経口感染による胃腸炎の集団発生の原因とはならず、海水との組合せも典型的ではありません(海水と関連が深いのはビブリオ属です)。病原体ごとに生息環境と感染経路、主な病型をセットで整理しておくことが、集団発生時の原因推定と公衆衛生的対応の基盤になります。

解答・解説

正解はaです

状況の整理

・10歳男児が腹痛と下痢で受診した ・4日前に郊外の宿泊施設での行事に参加しており、同じ行事に参加した多数の児童と保護者にも腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状が出ている ・同じ場所・同じ時期に、共通の飲食物や水に曝露した集団から消化器症状の患者が多発しているので、食中毒あるいは水系感染による集団発生(アウトブレイク)を考える ・本児の発症までの期間は数日程度であり、潜伏期が1日以内の毒素型食中毒(黄色ブドウ球菌、セレウス菌嘔吐型など)よりも、潜伏期が1〜数日の感染型の細菌、ウイルス、原虫が候補となる。ただし多数がすでに発症していることから、潜伏期が短く感染力の強い病原体も否定はできない

設問の考え方

本問では個々の病原体を特定するのではなく、「集団で消化器症状を起こしうる汚染源と病原体の組合せとして誤っているもの」を選ぶ。判断のポイントは次の2点である。 1.その病原体は経口感染して消化器症状(胃腸炎)を主に起こすか 2.その汚染源(食材、井戸水、水道水、プールの水など)が実際にその病原体の感染経路となりうるか ノロウイルス、エルシニア、クリプトスポリジウム、病原性大腸菌はいずれも経口感染で胃腸炎を起こし、食品や水を介した集団発生の報告がある。これに対しレジオネラは、汚染された水から発生するエアロゾル(細かい水しぶき)を吸入して肺炎などの呼吸器感染症を起こす菌であり、汚染水を飲んで胃腸炎の集団発生を起こす病原体ではない。また本来の生息場所は河川・湖沼・土壌などの淡水環境や、循環式浴槽・冷却塔といった人工の水環境であり、「海水」との組合せも典型的ではない。したがって誤っている組合せは「海水―レジオネラ」である。

選択肢考察

  1. ○a.  海水 ―― レジオネラ

    誤っている組合せであり、これが正解となる。レジオネラ(Legionella pneumophilaなど)は土壌や淡水に生息し、20〜45℃程度の温水環境やアメーバの体内で増殖する。循環式浴槽(温泉・公衆浴場)、冷却塔、給湯設備、加湿器などで増え、そこから生じたエアロゾルを吸い込むことで感染する。主な病型は重症肺炎(レジオネラ肺炎、在郷軍人病)と、発熱を主とする軽症のポンティアック熱であり、潜伏期は肺炎型で2〜10日程度である。肺炎に下痢などの消化器症状を伴うことはあるが、本症例のように経口感染による胃腸炎の集団発生を起こす病原体ではなく、海水が主な感染源となるわけでもない。

  2. ×b.  食材 ―― ノロウイルス

    正しい組合せである。ノロウイルスは日本の食中毒で患者数が最も多い病原体で、ウイルスを蓄積した二枚貝(カキなど)の生食や加熱不十分な摂取、感染した調理従事者の手指を介して汚染された食品の摂取で感染する。潜伏期は24〜48時間程度で、嘔吐、下痢、腹痛、微熱を生じ、通常1〜2日で軽快する。少量のウイルスで感染が成立するほど感染力が強く、吐物や便を介したヒトからヒトへの二次感染も起こすため、宿泊行事や施設での集団発生の原因として重要である。アルコールが効きにくく、消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いる。

  3. ×c.  井戸水 ―― エルシニア

    正しい組合せである。エルシニア(Yersinia enterocolitica、Y. pseudotuberculosis)はブタなどの家畜や野生動物が保菌する人獣共通感染症の原因菌で、動物の糞便で汚染された井戸水・沢水などの未消毒の水や、加熱不十分な豚肉などから経口感染する。4℃前後の低温でも増殖できるのが特徴である。潜伏期は数日程度で、発熱、腹痛、下痢を起こし、回腸末端炎や腸間膜リンパ節炎により虫垂炎に似た右下腹部痛を呈することがある。結節性紅斑や反応性関節炎を伴うこともある。日本では学校や施設での集団発生の報告もある。

  4. ×d.  水道水 ―― クリプトスポリジウム

    正しい組合せである。クリプトスポリジウムは腸管に寄生する原虫で、そのオーシスト(嚢胞体)は塩素消毒に強い抵抗性を示す。このため浄水処理(ろ過)が不十分だと水道水を介して大規模な集団感染を起こすことがあり、日本でも1996年に埼玉県越生町で町営水道を原因とする大規模な集団発生が起きている。プールの水などを介した感染も知られる。潜伏期は数日〜1週間程度で、水様性下痢、腹痛を生じる。免疫正常者では通常自然に軽快するが、AIDS(後天性免疫不全症候群)など細胞性免疫が低下した患者では重症・遷延化する。

  5. ×e.  プールの水 ―― 病原性大腸菌

    正しい組合せである。病原性大腸菌(下痢原性大腸菌)には、腸管出血性大腸菌(EHEC、O157など)、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管侵入性大腸菌(EIEC)、腸管凝集付着性大腸菌(EAEC)などがある。とくに腸管出血性大腸菌は100個程度のごく少数の菌で感染が成立するため、汚染された食品だけでなく、塩素濃度の管理が不十分なプールや水遊び場の水を誤って飲み込むことでも集団感染が起こりうる。腸管出血性大腸菌の潜伏期は3〜8日程度で、水様性下痢から血便に進み、溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併することがある。

集団の消化器症状をみたときの対応

・共通の曝露(食事、飲料水、施設)のある集団で胃腸炎が多発した場合、食中毒や水系感染を疑う ・食品衛生法により、食中毒(疑いを含む)患者を診断した医師は直ちに(24時間以内に)最寄りの保健所長に届け出なければならない。保健所は喫食調査や施設・水・食材の検査を行い、感染拡大を防ぐ ・腸管出血性大腸菌感染症、細菌性赤痢、コレラ、腸チフス・パラチフスは感染症法の三類感染症で、診断した医師は直ちに届け出る。クリプトスポリジウム症は五類感染症(全数把握、7日以内に届出)である ・原因検索のため、便培養、便中ウイルス抗原・遺伝子検査、便の虫卵・原虫検査などを行う

主な病原体と感染源・潜伏期のおおまかな目安

・黄色ブドウ球菌(毒素型):手指の化膿巣から汚染された弁当・おにぎりなど。30分〜6時間程度 ・セレウス菌嘔吐型(毒素型):チャーハンなどの米飯類。30分〜6時間程度 ・ノロウイルス:二枚貝、感染者の手指から汚染された食品、ヒト-ヒト感染。24〜48時間程度 ・腸炎ビブリオ:海産魚介類(海水中に生息する好塩菌)。12時間前後 ・サルモネラ:鶏卵、食肉。半日〜2日程度 ・カンピロバクター:加熱不十分な鶏肉。2〜7日程度。Guillain-Barré症候群の先行感染として重要 ・腸管出血性大腸菌:牛肉(加熱不十分)、汚染された野菜・水。3〜8日程度 ・エルシニア:豚肉、動物の糞便で汚染された井戸水・沢水。数日程度 ・クリプトスポリジウム:塩素消毒の効かないオーシストに汚染された水道水・プール水。数日〜1週間程度

レジオネラ症の要点

・感染経路:汚染水のエアロゾルの吸入(ヒト-ヒト感染はない)。循環式浴槽、冷却塔、加湿器、給湯設備が代表的な感染源 ・病型:レジオネラ肺炎(高熱、意識障害、低ナトリウム血症、肝機能障害、消化器症状を伴うことがある)とポンティアック熱 ・診断:尿中抗原検査(主に血清群1を検出)、喀痰培養(BCYEα培地)、遺伝子検査 ・治療:細胞内寄生菌のためβ-ラクタム系抗菌薬は無効で、ニューキノロン系やマクロライド系を用いる ・感染症法の四類感染症(全数把握、診断後7日以内に届出)

「海水」と関連の深い病原体

海水を好むのは腸炎ビブリオやVibrio vulnificus(肝硬変患者などで重症の創傷感染・敗血症を起こす)などのビブリオ属である。海水と結びつけるべき病原体を区別しておくとよい。

POINT

・同一行事・施設の参加者に消化器症状が多発 → 食中毒・水系感染の集団発生を疑い、保健所へ直ちに届け出る ・レジオネラはエアロゾル吸入による肺炎の原因菌(循環式浴槽・冷却塔・加湿器)で、経口感染による胃腸炎の集団発生は起こさない ・クリプトスポリジウムは塩素耐性のオーシストにより水道水・プールで集団感染を起こす ・エルシニアは井戸水・豚肉から感染し、低温で増殖、虫垂炎様症状を起こす ・ノロウイルスは二枚貝・汚染食品・ヒト-ヒト感染。感染力が強く、消毒は次亜塩素酸ナトリウム ・腸管出血性大腸菌は少数菌で感染し、プールの水でも集団感染しうる。HUSに注意

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。