バーベキューの翌日に血便―食肉が運ぶ3つの細菌を見抜け
第114回医師国家試験 D問題 第74問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。発熱と血便を主訴に祖父に連れられて来院した。2日前から発熱と頻回の下痢が出現し,本日,便に血が混じっていたため受診した。3日前に家族とのバーベキューで,牛肉,豚肉,鶏肉を食べたという。意識は清明。身長110cm,体重18kg。体温39.2℃。脈拍132/分,整。血圧100/66mmHg。呼吸数24/分。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。腹部全体に軽度の自発痛と圧痛とを認める。 想定される原因微生物はどれか。3つ選べ。
- a.Escherichia coli
- b.Helicobacter pylori
- c.Campylobacter jejuni
- d.Pseudomonas aeruginosa
- e.Salmonella spp.〈サルモネラ属菌〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性の発熱・下痢に血便を伴う場合、ウイルス性腸炎では血便はまれであり、大腸粘膜を傷害する細菌性腸炎を第一に考えます。食肉を感染源とする代表的な細菌は、鶏肉のカンピロバクター(潜伏期間2〜5日、Guillain-Barré症候群の合併)、鶏卵・鶏肉のサルモネラ(12〜48時間、高熱、小児で菌血症)、牛肉の腸管出血性大腸菌(3〜5日程度、発熱は軽度が多く、HUSの合併)です。一方、ピロリ菌は慢性胃炎や胃癌の原因、緑膿菌は日和見感染・院内感染の原因であり、食中毒性腸炎としては想定しません。治療は脱水補正が中心で止痢薬は避け、抗菌薬は症例を選んで用い、腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症として直ちに届け出ます。摂食歴と症状から原因菌を推定する考え方は、食中毒の初期対応や公衆衛生上の対応の基盤になります。
解答・解説
正解はa, c, eです
所見の整理
・5歳の幼児に、2日前から39℃台の発熱と頻回の下痢が急性に出現し、本日血便となった。 ・発症の約1日前(受診の3日前)にバーベキューで牛肉・豚肉・鶏肉を食べている。屋外での加熱調理は焼きむらが生じやすく、生焼けの肉や、生肉に触れたトングや箸を介した二次汚染が起こりやすい。 ・意識清明で、血圧は保たれ、腹部は平坦・軟で腹膜刺激症状はない。腹部全体に軽い自発痛・圧痛がある。頻脈(132/分)は発熱と脱水を反映していると考えられる。
診断へのプロセス
1. 急性発症の発熱・下痢・血便 → 大腸粘膜に組織傷害を起こす感染性腸炎を第一に考える。感染性腸炎のうちウイルス性(ノロウイルス、ロタウイルスなど)は水様便が主体で血便はまれであり、血便を伴う場合は細菌性(侵襲性または毒素による粘膜傷害)を想定する。 2. 食肉の摂取歴 → 食肉を感染源とする代表的な細菌は、カンピロバクター(特に鶏肉)、サルモネラ(鶏肉・鶏卵など)、腸管出血性大腸菌(特に牛肉)である。本例は牛・豚・鶏のいずれも食べており、これらすべてが候補となる。 3. 鑑別 → 潰瘍性大腸炎も発熱・血便をきたしうるが、食事を契機とした急性発症と高熱は感染性腸炎に合致する。腹膜刺激症状がなく、虫垂炎の穿孔や腸重積(間欠的啼泣、イチゴゼリー状粘血便、腹部腫瘤)を積極的に疑う所見もない。
設問の考え方
「想定される原因微生物」は、食肉を介した食中毒として血便性腸炎を起こしうる細菌を選ぶ問題である。潜伏期間は菌ごとに幅があり、本例の経過(摂食から約1日で発症)はサルモネラやカンピロバクターに合致しやすいが、潜伏期間だけで菌種を確定することはできない。確定には便培養(腸管出血性大腸菌が疑われる場合はベロ毒素〈志賀毒素〉の検出も)を行う。
選択肢考察
- ○a. Escherichia coli
大腸菌の多くは腸内常在菌だが、下痢を起こす病原性大腸菌(下痢原性大腸菌)が存在する。なかでも腸管出血性大腸菌(EHEC、O157など。ベロ毒素〈志賀毒素〉を産生)は、加熱不十分な牛肉(ひき肉、ユッケ、レバーなど)や汚染された生野菜から感染し、強い腹痛と血便をきたす。潜伏期間は3〜5日程度が多い。EHECでは発熱は軽度にとどまることが多いが、食肉を介した血便性腸炎の原因として必ず想定すべき菌である。小児では下痢発症後1〜2週以内に溶血性尿毒症症候群(HUS:溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害)を合併しうるため、経過観察が重要である。
- ×b. Helicobacter pylori
胃粘膜に定着するグラム陰性らせん菌で、主に乳幼児期(おおむね5歳まで)に経口感染し、慢性胃炎を起こす。感染自体は多くが無症状で、長期的に胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、免疫性血小板減少症などと関連する。食肉を介して急性の発熱・血便性腸炎を起こす菌ではない。除菌はプロトンポンプ阻害薬(またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)、アモキシシリン、クラリスロマイシン(二次除菌ではメトロニダゾール)の3剤併用で行う。
- ○c. Campylobacter jejuni
グラム陰性らせん菌で、日本の細菌性食中毒で発生件数が最も多い原因菌の一つである。主な感染源は加熱不十分な鶏肉(鶏刺し、たたき、焼き鳥の生焼けなど)や、生肉からの二次汚染である。潜伏期間は2〜5日程度(最大7日ほど)とやや長い。発熱、腹痛、下痢で発症し、粘血便を伴うことも多い。発症の1〜3週後にGuillain-Barré症候群を合併することがある点が重要である。腸炎を起こすカンピロバクターの大半がC. jejuniである。
- ×d. Pseudomonas aeruginosa
緑膿菌は水回りなど環境中に広く存在するグラム陰性桿菌で、健常者にはほとんど病原性を示さない日和見感染菌である。免疫不全者や入院患者で肺炎、尿路感染症、創部感染、カテーテル関連血流感染などを起こし、多剤耐性化しやすく院内感染の原因として重要である。腸炎の報告はあるものの、健康な小児が食肉を介して食中毒性の血便をきたす原因菌としては想定しない。
- ○e. Salmonella spp.〈サルモネラ属菌〉
腸炎の原因となる非チフス性サルモネラは、鶏肉や鶏卵(生卵、加熱不十分な卵料理)、食肉全般が主な感染源である。そのほかペット(ミドリガメなどの爬虫類、犬猫)やスッポン・ウナギからの感染も知られる。潜伏期間は12〜48時間程度と短く、本例の経過(摂食後約1日で発症)に合致する。38℃以上の高熱、腹痛、下痢(ときに血便)を呈する。小児や高齢者では菌血症をきたすことがある。
血便をきたす主な感染性腸炎
・カンピロバクター:鶏肉。潜伏期間2〜5日。Guillain-Barré症候群の合併。 ・サルモネラ(非チフス性):鶏卵・鶏肉。潜伏期間12〜48時間。高熱。小児・高齢者・免疫不全者で菌血症。 ・腸管出血性大腸菌(EHEC):牛肉、生野菜。潜伏期間3〜5日程度。発熱は軽度で、激しい腹痛と鮮血便。HUS・脳症の合併。感染症法の3類感染症(全数把握)で、診断したら直ちに届け出る。 ・赤痢菌:少量の菌で感染。主に輸入感染症。3類感染症。 ・腸炎ビブリオ:生の魚介類。潜伏期間は半日程度。強い腹痛、ときに血便。 ・エルシニア:豚肉。回盲部炎で虫垂炎に類似した右下腹部痛。 ・赤痢アメーバ(原虫):イチゴゼリー状の粘血便、肝膿瘍。
細菌性食中毒の分類
・毒素型(食品内で産生された毒素を摂取):黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型)、ボツリヌス菌。潜伏期間が短い(黄色ブドウ球菌は1〜6時間)。発熱は乏しい。 ・感染型(摂取した菌が腸管で増殖):サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオなど。発熱を伴いやすい。 ・生体内毒素型(腸管内で菌が毒素を産生):EHEC、ウェルシュ菌など。
治療の基本
細菌性腸炎の多くは自然軽快するため、脱水の補正(経口補水療法、必要なら輸液)が中心である。強力な止痢薬(腸管運動抑制薬)は菌や毒素の排出を遅らせるため避ける。抗菌薬は重症例や菌血症のリスクが高い場合に考慮し、カンピロバクターにはマクロライド系が用いられる。サルモネラ腸炎への安易な抗菌薬投与は排菌期間を延長させることがあり、EHECへの抗菌薬の是非には議論がある。
POINT
・急性の発熱・下痢に血便を伴えば細菌性腸炎を考える(ウイルス性腸炎では血便はまれ)。 ・食肉が感染源の代表菌:鶏肉→カンピロバクター、鶏卵・鶏肉→サルモネラ、牛肉→腸管出血性大腸菌。 ・潜伏期間の目安:サルモネラ12〜48時間、カンピロバクター2〜5日、EHEC 3〜5日程度。 ・合併症:EHEC→HUS、カンピロバクター→Guillain-Barré症候群。 ・EHEC感染症は3類感染症で、診断後直ちに届け出る。 ・H. pyloriは慢性胃炎・胃潰瘍・胃癌、緑膿菌は日和見感染・院内感染の原因であり、食中毒性腸炎の原因としては想定しない。
