StudyMed医師国家試験

3mの転落でも侮れない―胸部外傷CTは「外から内へ」系統的に読め

第114回医師国家試験 D問題 第73問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第73問

83歳の男性。作業中に3mの高さから転落し,背部痛と呼吸困難のため救急車で搬入された。胸腔ドレナージ後の胸部造影CT(A)~(C)を別に示す。  画像所見として認められるのはどれか。3つ選べ。

第114回 D問題 第73問の問題画像
  1. a.気胸
  2. b.肺挫傷
  3. c.気管断裂
  4. d.縦隔気腫
  5. e.肋骨骨折

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高所からの転落で搬入された高齢者の胸部造影CTから、実際に写っている所見を拾い上げる問題だ。ポイントは、胸壁、胸膜腔、肺実質、縦隔・気道の順に一つずつ確認していくこと。目立つ所見に目を奪われて、ほかの所見を見落としたり、写っていない所見を「ありそう」で選んだりしないのが大事なんだ。
医学生医学生
3mって、外傷の重症度としてはそこまで高くない印象があります。JATECの講義では6m以上の転落が高エネルギー外傷の目安と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ただ、高齢者は骨が脆く、肺や胸郭の予備能も低いから、比較的低い高さからの転落でも重い胸部外傷になりやすい。高さだけでなく年齢も重症度を左右すると考えておこう。それに、すでに胸腔ドレナージが入っていることにも意味がある。
医学生医学生
搬入時点で気胸か血胸があって、primary surveyの段階で処置したということですね。
ドクタードクター
その通り。では画像を見ていこう。まず胸膜腔だ。ドレナージ後のCTでも、左側優位に胸壁と肺の間に肺紋理のない空気の層が残っていて、肺が胸壁から離れている部分がある。
医学生医学生
ドレーンが入っているのに、まだ気胸が残ることがあるんですか。
ドクタードクター
珍しくないよ。ドレーンの位置や肺からのエアリークの程度によっては、空気が完全には抜けきらない。肋骨骨折の断端が臓側胸膜と肺を傷つければ、空気が漏れ続けることもある。だから気胸は画像所見として認められる。次は肺実質だ。両側肺の背側を中心に、区域や葉に一致しない境界不明瞭なすりガラス影から浸潤影が広がっていて、左でより広範だね。
医学生医学生
背側の浸潤影というと、臥位での誤嚥性肺炎も思い浮かびますが、どう区別するんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。外傷の文脈で、受傷直後から非区域性に出現する陰影なら肺挫傷をまず考える。肺挫傷は鈍的外力で肺胞や毛細血管が破綻して、肺胞内や間質に出血・浮腫が生じた状態だ。受傷後24〜48時間でかえって増悪することがあるのも特徴で、経過も鑑別の手がかりになる。
医学生医学生
打撲で皮下出血が後から広がるのと似たイメージですね。
ドクタードクター
イメージとしてはそれに近いね。そして胸壁。骨条件で見ると、肋骨の皮質の連続性が途絶えている部位が複数ある。肋骨骨折だ。背部痛の原因として矛盾しないし、骨折端が肺を傷つけて気胸や肺挫傷の原因にもなりうる。
医学生医学生
これで気胸、肺挫傷、肋骨骨折の3つですね。でも転落外傷なら、縦隔気腫や気管断裂も合併していそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴。この問題は「起こりうるもの」ではなく「画像で認められるもの」を問うている。縦隔気腫は縦隔の脂肪組織内に空気が入り込んだ状態で、気管や食道、大血管の周りに黒い線状・斑状の透亮像として見える。肺野条件のように幅の広いウインドウで探すと見つけやすいけれど、今回の縦隔にはそうした異常な空気は見当たらない。
医学生医学生
気管断裂のほうは、どんな所見があれば疑うんでしょうか。
ドクタードクター
気管壁の不連続や変形、高度の縦隔気腫・皮下気腫、それにドレナージ後も大量のエアリークが続いて肺が再膨張しない、といった所見だね。主気管支が断裂すると虚脱肺が肺門から下方へ落ち込むfallen lung signも知られている。今回は気管・主気管支の壁は平滑で連続していて、周囲に空気の漏れもないから否定的だ。
医学生医学生
救急科の実習で、指導医の先生が読影のときに毎回同じ順番で見ていたのを思い出しました。順番を決めておけば見落としも、思い込みも減らせるんですね。
ドクタードクター
まさにその習慣が大事なんだ。最後に発展知識を整理しよう。肋骨骨折は鈍的胸部外傷で最も多い損傷で、第1・2肋骨骨折は強い外力を意味するから大血管損傷に、下位肋骨の骨折では肝・脾・腎損傷に注意する。連続する3本以上の肋骨がそれぞれ2か所以上で折れるとフレイルチェストとなり、吸気時に胸壁が陥凹する奇異呼吸を示す。
医学生医学生
フレイルチェストでは、胸壁の動きそのものより、下にある肺挫傷が呼吸不全の主な原因になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通り。肺挫傷が広範ならARDSに進展することもあるから、過剰輸液を避けて呼吸状態を慎重に追う。高齢者では骨折本数が多いほど肺炎や死亡のリスクが上がるので、十分な鎮痛で痰を出せる状態を保つことも治療の一部だ。そしてもう一つ、外傷では緊張性気胸を画像で診断しようとしないこと。呼吸音の減弱、頸静脈怒張、気管偏位、低血圧があれば、CTを待たずに脱気・ドレナージを行う。CTはあくまで状態が安定してからのsecondary surveyで全体像を把握するための検査なんだ。
医学生医学生
まず命を守る処置をして、落ち着いてからCTで外から内へ系統的に確認する、という流れですね。
ドクタードクター
そう、それが外傷診療の基本の型だよ。

まとめ

高齢者は骨や呼吸の予備能が低く、3m程度の転落でも多発肋骨骨折や肺挫傷などの重い胸部外傷をきたしえます。胸部外傷のCTは胸壁(肋骨骨折)、胸膜腔(気胸・血胸)、肺実質(肺挫傷)、縦隔・気道(縦隔気腫・気管損傷)の順に系統的に読み、本例では残存する気胸、両側背側の非区域性陰影としての肺挫傷、複数の肋骨骨折を認め、縦隔気腫や気管断裂の所見はありません。肺挫傷は受傷後24〜48時間で増悪しうること、ドレナージ後も続く大量のエアリークや肺の再膨張不良は気管・気管支損傷を疑う手がかりになることも押さえておきましょう。また緊張性気胸は臨床所見で診断して画像を待たずに処置し、CTは安定後のsecondary surveyで用いるというJATECの流れが重要です。「起こりうる損傷」と「実際に写っている所見」を区別して読む姿勢は、外傷診療全般の読影の基本になります。

解答・解説

正解はa, b, eです

所見の整理

・83歳の高齢男性が3mの高さから転落している。転落による外傷では、高さ(一般に6m以上)だけでなく年齢も重症度に影響し、高齢者は骨が脆く、比較的低い高さからの転落でも重い胸部外傷をきたしやすい。 ・主訴は背部痛と呼吸困難であり、胸郭(肋骨・椎体)の損傷と、肺・胸腔内の損傷による換気障害が疑われる。 ・すでに胸腔ドレナージが行われていることから、搬入時に気胸または血胸が存在し、呼吸・循環を安定させる処置が優先されたと読み取れる。

画像の読み方

造影CTでは、外傷初期診療で系統的に確認すべき項目(胸壁・胸膜腔・肺実質・気道・縦隔・大血管)を順にチェックする。 ・胸膜腔:ドレナージ後でも胸腔内に空気が残り、肺が胸壁から離れて虚脱している部分がある(左側優位)。→ 気胸 ・肺実質:両側肺の背側を中心に、区域や葉に一致しない境界不明瞭なすりガラス影〜浸潤影がみられ、左側でより広範である。→ 肺挫傷 ・胸壁:骨条件に相当するスライスで肋骨の皮質の連続性が途絶しており、複数の部位に骨折がある。→ 肋骨骨折 ・縦隔・気道:縦隔の脂肪組織内に異常な空気(黒い線状・斑状の透亮像)は認めず、気管・主気管支の壁は平滑で連続している。→ 縦隔気腫・気管断裂は否定的

診断

転落(鈍的外傷)による胸部外傷であり、胸壁損傷(多発肋骨骨折)と肺実質・胸膜腔の損傷(気胸、両側肺挫傷)をきたしている。設問は画像で確認できる所見を3つ選ばせるもので、各所見を胸壁→胸膜腔→肺→縦隔の順に漏れなく確認する読影の姿勢が問われている。

選択肢考察

  1. ○a.  気胸

    画像(A)で、胸壁と肺との間に肺紋理のない空気層があり、肺が虚脱している。胸腔ドレナージ後であっても空気が完全に排出されず残存気胸を認めることはまれではない。肋骨骨折の断端が臓側胸膜と肺を損傷すると、肺から胸腔へ空気が漏れて外傷性気胸となる。画像所見として認められる。

  2. ○b.  肺挫傷

    両側肺の背側(荷重部)を中心に、肺区域に沿わない境界不明瞭なすりガラス影〜浸潤影がみられ、損傷は左でより強い。肺挫傷は、鈍的外力で肺胞・毛細血管が破綻し、肺胞内や間質に出血・浮腫が生じた状態である。受傷直後から出現し、24〜48時間で増悪することがある点が誤嚥性肺炎などとの鑑別に役立つ。画像所見として認められる。

  3. ×c.  気管断裂

    気管・気管支損傷では、気管壁の不連続や変形、高度の縦隔気腫・皮下気腫、ドレナージ後も持続する大量のエアリークや肺が拡張しない所見(気管支断裂で肺が下方へ落ち込む fallen lung sign)などがみられる。本例のCTでは気管・気管支の辺縁は平滑で連続しており、周囲に空気の漏出もないため、気管断裂を疑う所見はない。

  4. ×d.  縦隔気腫

    縦隔気腫は縦隔の脂肪組織内に空気が入り込んだ状態で、CTでは気管・食道・大血管の周囲に黒い透亮像として描出される。気道損傷や食道損傷の間接所見として重要であり、肺野条件(ウインドウ幅を広くした表示)で見つけやすい。本例では縦隔内に異常な空気像はみられない。

  5. ○e.  肋骨骨折

    画像(B)、(C)で、肋骨の皮質の連続性が途絶しており、複数箇所に骨折を認める。背部痛の原因として矛盾せず、骨折端が肺を傷つけて気胸・肺挫傷の原因にもなりうる。画像所見として認められる。なお、連続する複数の肋骨がそれぞれ2か所以上で折れると胸壁の一部が奇異性運動を示すフレイルチェストとなるため、骨折の本数と部位の確認が重要である。

鈍的胸部外傷の主な損傷と特徴

・肋骨骨折:最も頻度が高い。第1・2肋骨骨折は強い外力を意味し、大血管損傷の合併に注意する。下位肋骨(第9〜12)骨折では肝・脾・腎損傷を疑う。高齢者では肋骨骨折の本数が増えるほど肺炎や死亡のリスクが高まり、十分な鎮痛と呼吸管理が重要となる。 ・フレイルチェスト:連続する3本以上の肋骨がそれぞれ2か所以上で骨折し、吸気時に胸壁が陥凹する(奇異呼吸)。下にある肺挫傷が呼吸不全の主因となることが多い。 ・気胸:外傷では緊張性気胸(一方向弁機序で胸腔内圧が上昇し、静脈還流障害からショックに至る)を見逃さないことが最重要である。緊張性気胸は臨床所見(患側呼吸音減弱、頸静脈怒張、気管偏位、低血圧)で診断し、画像を待たずに胸腔穿刺・ドレナージを行う。 ・血胸:胸腔ドレナージで初回1,000〜1,500 mL以上の血液が排出される場合や、200 mL/時以上の出血が持続する場合は開胸止血を考慮する。 ・肺挫傷:CTで非区域性の浸潤影。数日で改善するのが一般的だが、広範囲であれば低酸素血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展しうる。過剰輸液を避けることが管理のポイントである。 ・気管・気管支損傷:多くは気管分岐部から約2.5 cm以内に生じる。ドレナージ後も持続する大量のエアリーク、肺の再膨張不良、高度の縦隔・皮下気腫が手がかりとなり、気管支鏡で確定する。

外傷初期診療(JATEC)での位置づけ

Primary survey(ABCDE)で致死的胸部外傷(気道閉塞、緊張性気胸、開放性気胸、フレイルチェスト、大量血胸、心タンポナーデ)を検索・処置し、状態が安定してからsecondary surveyとして造影CTなどで損傷の全体像を把握する。

POINT

・高齢者は比較的低い高さからの転落でも多発肋骨骨折・肺挫傷などの重い胸部外傷をきたしうる。 ・胸部外傷のCTは「胸壁(肋骨)→胸膜腔(気胸・血胸)→肺実質(肺挫傷)→縦隔・気道(縦隔気腫・気管損傷)・大血管」の順に系統的に読む。 ・肺挫傷は非区域性の浸潤影・すりガラス影で、受傷後24〜48時間で増悪しうる。 ・縦隔気腫は気道・食道損傷の間接所見であり、肺野条件で探す。 ・ドレナージ後も持続する大量エアリークや肺の再膨張不良は気管・気管支損傷を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。