StudyMed医師国家試験

HPVは子宮頸部だけじゃない―「どの癌に」「上げるか下げるか」で解くリスクファクター

第115回医師国家試験 F問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第16問

悪性腫瘍とリスクファクターの組合せで正しいのはどれか。

  1. a.乳癌 ―― 多産
  2. b.肺癌 ―― β-ナフチルアミン
  3. c.結腸癌 ―― 炭水化物
  4. d.子宮頸癌 ―― EBウイルス
  5. e.中咽頭癌 ―― ヒトパピローマウイルス〈HPV〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、悪性腫瘍とその危険因子の対応を問う問題だ。危険因子は、感染因子、化学物質、生活習慣、ホルモンや生殖にかかわる因子の4つに分けて整理すると覚えやすい。そして各組合せで「その因子は本当にその癌のものか」「危険を上げるのか下げるのか」の2点を確認していこう。
医学生医学生
どれも聞いたことのある因子ばかりで、一見全部正しそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題のひっかけなんだ。因子そのものは実在の発がん要因でも、対応する癌がずれていたり、向きが逆だったりする。まず乳癌と多産から考えてみよう。
医学生医学生
乳癌はエストロゲンが関係するので、妊娠を何度もするとホルモンが多くて危険が上がる、という理解でいいでしょうか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。乳癌はエストロゲンに長くさらされるほど起こりやすい。妊娠・授乳の期間は月経周期が止まるから、生涯でみるとエストロゲンにさらされる期間はむしろ短くなる。だから多産は危険を下げる防御因子なんだ。危険因子は未産、高齢初産、初経が早いこと、閉経が遅いこと、閉経後の肥満、飲酒などだよ。
医学生医学生
逆向きなんですね。次の肺癌とβ-ナフチルアミンは、職業がんとして公衆衛生の講義で出てきた気がします。
ドクタードクター
職業がんなのは正しい。ただ、β-ナフチルアミンは芳香族アミンで、尿中に排泄される途中で膀胱の粘膜に作用して膀胱癌を起こす。染料工業などで職業がんの原因となり、日本では製造・使用が禁止されている。たばこの煙にも含まれていて、喫煙が膀胱癌の危険因子になる理由の一つでもあるんだ。
医学生医学生
では肺癌の職業性因子は何でしたか。
ドクタードクター
代表は石綿、クロム化合物、ヒ素、ビス(クロロメチル)エーテル、ラドンなど。石綿は中皮腫の原因としても重要だね。次は結腸癌と炭水化物だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、大腸癌は食の欧米化で増えたと聞きました。炭水化物というより肉や脂肪のイメージです。
ドクタードクター
その感覚で合っている。炭水化物そのものを結腸癌の危険因子とする確かな根拠はない。確実に危険を上げるとされるのは赤肉や加工肉、飲酒、肥満、喫煙などで、身体活動は危険を下げ、食物繊維の多い食事も危険を下げる可能性があるとされている。炎症性腸疾患や家族性大腸腺腫症といった背景も大事だね。
医学生医学生
子宮頸癌とEBウイルスは、明らかにHPVとの取り違えですよね。
ドクタードクター
そうだね。子宮頸癌のほとんどは、16型・18型などの高リスク型HPVが持続感染することで起こる。EBウイルスが関係するのは上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、一部の胃癌などだ。
医学生医学生
ということは、中咽頭癌とHPVが正解ですね。でも咽頭癌は喫煙と飲酒のイメージが強くて、HPVは意外でした。
ドクタードクター
その通り、これが正しい組合せだ。中咽頭癌は扁桃や舌根などにできる癌で、従来の喫煙・飲酒に加えて、主に16型のHPV感染が重要な原因だとわかっている。HPV関連のものは喫煙・飲酒歴のない比較的若い人にも起こり、近年増えているんだ。
医学生医学生
上咽頭はEBウイルス、中咽頭はHPV、と部位で分けて覚えるとよさそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。臨床的にも大事な点があって、HPV関連の中咽頭癌は放射線治療や化学療法がよく効き、予後が良いことが多い。そのためTNM分類第8版では、HPV感染の目印となるp16が陽性かどうかで病期分類を分けて扱っている。耳鼻咽喉科で中咽頭癌の生検をしたら、p16の免疫染色を確認するのが基本だよ。
医学生医学生
HPVワクチンは子宮頸癌の予防として習いましたが、ほかの癌にも関係するんですか。
ドクタードクター
HPVは子宮頸癌のほか、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌、外陰癌、腟癌などの原因にもなる。感染因子の視点で整理すると、HBV・HCVと肝細胞癌、HTLV-1と成人T細胞白血病・リンパ腫、HHV-8とKaposi肉腫、ピロリ菌と胃癌・胃MALTリンパ腫、ビルハルツ住血吸虫と膀胱癌、肝吸虫と胆管癌、といった具合だ。感染が原因の癌は、ワクチンや除菌、感染対策で予防できるものがあるのが大きな特徴なんだ。

まとめ

悪性腫瘍の危険因子は、感染因子・化学物質・生活習慣・ホルモンや生殖関連因子に分けて整理し、「どの癌に対応するか」と「危険を上げるか下げるか」を確認するのがコツです。HPVは子宮頸癌に加えて中咽頭癌の重要な原因であり、HPV(p16)陽性の中咽頭癌は治療反応性がよく予後良好なことが多いため、TNM分類第8版では区別して扱われます。一方、EBウイルスは上咽頭癌やBurkittリンパ腫、β-ナフチルアミンは膀胱癌の原因であり、多産は乳癌の防御因子、大腸癌の確立した危険因子は赤肉・加工肉・飲酒・肥満などで炭水化物ではありません。感染因子による癌はワクチンや除菌などで予防可能なものが多く、危険因子の正確な理解は予防医学やがん検診の実践に直結します。

解答・解説

正解はeです

テーマ

代表的な悪性腫瘍と、その発生にかかわる危険因子(リスクファクター)の対応を問う問題である。危険因子は大きく、(1) 感染因子(ウイルス・細菌・寄生虫)、(2) 化学物質(喫煙、職業性曝露など)、(3) 生活習慣(食事、飲酒、肥満、運動不足)、(4) ホルモンや生殖に関する因子(出産歴、初経・閉経年齢など)に分けて整理すると覚えやすい。

考え方

各選択肢について、「その因子はどの癌の危険因子か」「その因子は危険を上げるのか下げるのか」の二点を確認する。本問では、因子自体は実在の発がん要因でも、対応する癌が違う(β-ナフチルアミン→膀胱癌、EBウイルス→上咽頭癌など)ものや、危険の向きが逆(多産は乳癌の危険を下げる)ものが誤りの選択肢として並んでいる。ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸癌だけでなく中咽頭癌の原因にもなることが確立しており、この組合せが正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  乳癌 ―― 多産

    乳癌は、女性ホルモンであるエストロゲンに長くさらされるほど発生しやすくなる。妊娠・授乳の期間は月経周期が止まり、エストロゲンにさらされる期間が全体として短くなるため、多産は乳癌の危険を下げる因子(防御因子)である。逆に、出産経験がないこと(未産)、初めての出産が遅いこと(高齢初産)、初経が早いこと、閉経が遅いこと、閉経後の肥満、飲酒、閉経後のホルモン補充療法などが危険因子となる。

  2. ×b.  肺癌 ―― β-ナフチルアミン

    β-ナフチルアミンは芳香族アミンの一種で、尿として排泄される途中で膀胱の粘膜に作用し、膀胱癌(尿路上皮癌)を起こす。かつて染料工業やゴム工業(抗酸化剤)で使われ、職業がんの原因となったため、日本では1972年から製造・使用が禁止されている。たばこの煙にも含まれ、喫煙が膀胱癌の危険因子となる理由の一つでもある。肺癌の職業性危険因子としては、石綿(アスベスト)、クロム化合物、ヒ素、ビス(クロロメチル)エーテル、ラドンなどが代表的である。

  3. ×c.  結腸癌 ―― 炭水化物

    炭水化物の摂取そのものを結腸癌の危険因子とする確かな根拠はない。結腸癌(大腸癌)の危険を確実に上げるとされるのは、赤肉(牛・豚・羊などの肉)や加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン)の摂取、飲酒、肥満、喫煙などである。一方、身体活動は危険を下げ、食物繊維の多い食事も危険を下げる可能性があるとされる。なお、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や、家族性大腸腺腫症などの遺伝性疾患も大腸癌の危険因子である。

  4. ×d.  子宮頸癌 ―― EBウイルス

    子宮頸癌のほとんどは、性交渉でうつるヒトパピローマウイルス(HPV)、特に16型・18型などの高リスク型が長く感染し続けることで起こる。EBウイルス(Epstein-Barr virus:エプスタイン・バーウイルス)は、上咽頭癌、Burkitt(バーキット)リンパ腫、Hodgkin(ホジキン)リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、一部の胃癌などに関係するウイルスであり、子宮頸癌の原因ではない。

  5. ○e.  中咽頭癌 ―― ヒトパピローマウイルス〈HPV〉

    中咽頭癌(扁桃や舌根などにできる癌)は、従来の喫煙・飲酒に加えて、HPV(主に16型)の感染が重要な原因であることがわかっている。HPVが関係する中咽頭癌は、喫煙・飲酒歴のない比較的若い人にも起こり、近年増えている。喫煙・飲酒による癌に比べて放射線治療や化学療法がよく効き、予後が良いことが多いため、病期分類(TNM分類第8版)でもHPV(p16:HPV感染の目印となるたんぱく質)陽性かどうかで分けて扱われる。HPVは子宮頸癌のほか、肛門癌、陰茎癌、外陰癌、腟癌などの原因にもなる。

がんの発生にかかわる主な感染因子

・ヒトパピローマウイルス(HPV):子宮頸癌、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌、外陰癌、腟癌。HPVワクチンで予防できる。 ・EBウイルス:上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、一部の胃癌。 ・B型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV):肝細胞癌。 ・ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1):成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)。 ・ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8):Kaposi(カポジ)肉腫、原発性体腔液リンパ腫。 ・ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori):胃癌、胃MALTリンパ腫。 ・日本住血吸虫:大腸癌・肝癌との関連。ビルハルツ住血吸虫:膀胱癌。肝吸虫:胆管癌。

代表的な職業がんと原因物質

・膀胱癌:β-ナフチルアミン、ベンジジン、4-アミノジフェニル(芳香族アミン)。 ・肺癌:石綿(アスベスト)、クロム、ヒ素、ビス(クロロメチル)エーテル、コールタール。 ・中皮腫:石綿。 ・肝血管肉腫:塩化ビニル。 ・白血病:ベンゼン、電離放射線。 ・胆管癌:1,2-ジクロロプロパン(印刷業)。 ・鼻腔・副鼻腔癌:ニッケル。

生活習慣・ホルモン関連

・乳癌:未産、高齢初産、授乳経験なし、初経が早い、閉経が遅い、閉経後の肥満、飲酒。 ・大腸癌:赤肉・加工肉、飲酒、肥満、喫煙。運動は防御的。 ・子宮体癌:エストロゲン過剰(未産、肥満、エストロゲン単独のホルモン補充療法)。

POINT

・HPV→子宮頸癌・中咽頭癌・肛門癌など。中咽頭癌はHPV陽性(p16陽性)なら予後が良いことが多い。 ・EBウイルス→上咽頭癌・Burkittリンパ腫など(子宮頸癌ではない)。 ・β-ナフチルアミン→膀胱癌(肺癌ではない)。 ・多産は乳癌の危険を下げる。未産・高齢初産が危険因子。 ・大腸癌の危険因子は赤肉・加工肉・飲酒・肥満であり、炭水化物ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。