胸骨のすぐ裏に潜む影―造影CTで「どの部屋か」を見抜く心腔の解剖学
第115回医師国家試験 F問題 第17問
国試問題にチャレンジ
縦隔条件の胸部造影CTを下に示す。 異常所見を示す心臓の部位はどこか。

- a.右房
- b.左房
- c.肺動脈
- d.右心室
- e.左心室
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
造影CTでは心腔内の血液が均一に白く染まるのが正常で、染まらない塊状の部分(造影欠損)があれば腫瘍や血栓を疑います。CT横断像は足側から見た像で画面の左が患者の右となり、最も前の胸骨直後に右心室、最も後ろに左房、右側に右房、左側に厚い壁をもつ左心室が位置します。本問の欠損は胸骨の直後で心室中隔を挟んで左心室の反対側にあり、右心室内の異常と判断できます。心臓原発腫瘍では粘液腫が最も多く左房に好発しますが、好発部位にとらわれず画像上の位置関係から判断することが重要で、右心系の腫瘤は肺塞栓、左心系は全身塞栓の原因になりえます。心腔の立体的な配置を理解しておくことは、胸部X線のシルエットの解釈や救急でのCT読影の基礎となります。
解答・解説
正解はdです
画像の読み方の基本
CTの横断像(体を輪切りにした画像)は、患者の足側から見上げた向きで表示する約束になっている。そのため、画面の左側が患者の右側、画面の上側が体の前(胸骨側)、下側が背中(脊椎側)となる。造影CTでは造影剤を含んだ血液が白く写るため、心臓の各部屋(心腔)や大血管の中は均一に白く見えるのが正常である。心腔の中に白く染まらない部分(造影欠損)があれば、血栓や腫瘍などの異常な構造物を疑う。
本問の画像
上段の3枚は頭側のスライスで、上行大動脈・下行大動脈、肺動脈幹とその左右への分岐、左房などが見えている。下段の3枚は心臓の中ほどから下の高さのスライスで、4つの心腔が見えている。 下段中央と下段右のスライスで、胸骨のすぐ後ろにある心腔の中に、周りの血液より暗く写る塊状の部分がある。内部は不均一で、辺縁も不整である。正常な心腔内にはこのような構造はなく、異常所見である。
部位の決め方
各心腔の位置関係を押さえれば、どの部屋の異常か判断できる。 ・胸骨の真後ろ、最も前に位置する心腔は右心室である。 ・最も後ろ(脊椎・下行大動脈の前)に位置するのは左房である。 ・患者の右側(画面の左側)に張り出すのは右房である。 ・患者の左側(画面の右側)に張り出し、厚い筋肉の壁に囲まれているのが左心室である。左心室の壁は心室中隔とつながっており、血液より少し暗い帯として見える。 本問の造影欠損は胸骨の直後にあり、心室中隔を挟んで左心室の反対側に位置するので、右心室の中にあると判断できる。 画像だけで病気の種類を確定することはできないが、心腔内の腫瘤であり、心臓腫瘍(粘液腫など)や血栓が鑑別に挙がる。本問ではまず、異常がどの心腔にあるかを解剖から正しく読み取ることが求められている。
選択肢考察
- ×a. 右房
右房は心臓の右側(画面の左側)に張り出す部屋で、胸部X線写真の右第2弓に当たる。上段右から下段の各スライスで見えているが、内部は均一に造影されており、異常な影はない。
- ×b. 左房
左房は心臓の中で最も背側にあり、食道や下行大動脈のすぐ前に位置する。上段右や下段左のスライスで見えているが、内部は均一に造影されており、異常な影はない。左房は心臓腫瘍で最も多い粘液腫ができやすい部位だが、本問の異常はここにはない。
- ×c. 肺動脈
肺動脈幹は右心室から出て、心臓の前方から後ろへ向かい、左右の肺動脈に分かれる。上段左・中央のスライスで、肺動脈幹とその左右への分岐が見えている。内部は均一に造影されており、肺塞栓症のような造影欠損はない。
- ○d. 右心室
右心室は胸骨のすぐ後ろに接する、最も前方の心腔である。下段中央・下段右のスライスで、この心腔の中に造影されない塊状の部分があり、内部は不均一で辺縁は不整である。心室中隔を挟んで左心室の反対側にあることからも、右心室内であると確認できる。心腔内の腫瘤であり、心臓腫瘍や血栓が考えられる。
- ×e. 左心室
左心室は心臓の左側(画面の右側)に張り出す部屋で、胸部X線写真の左第4弓に当たる。下段のスライスで、血液よりやや暗く写る厚い心筋の壁に囲まれて見えている。心室中隔を含むこの壁は逆U字状に認められる。内部は均一に造影されており、異常な影はない。
胸部CTでの心臓・大血管の位置関係
・最も前(胸骨の後ろ):右心室、右室流出路、肺動脈幹 ・右側:右房(上大静脈・下大静脈が流入する) ・左側:左心室(厚い壁を持つ) ・最も後ろ:左房(4本の肺静脈が流入し、食道・下行大動脈と接する) 胸部X線写真の輪郭(シルエット)との対応は、右第1弓が上大静脈、右第2弓が右房、左第1弓が大動脈弓、左第2弓が肺動脈、左第3弓が左心耳、左第4弓が左心室である。右心室は正面像では輪郭をつくらず、側面像で胸骨の後ろに見える。
心臓腫瘍
心臓原発の腫瘍はまれで、転移性の腫瘍のほうが多い。原発性腫瘍の多くは良性で、成人では粘液腫が最も多い。粘液腫の約75%は左房、多くは心房中隔の卵円窩付近から発生し、右房がこれに次ぐ。心室に発生することは少ない。症状は、(1) 腫瘍が血流をふさぐことによる症状(僧帽弁狭窄に似た症状、失神など)、(2) 腫瘍の一部がはがれて飛ぶことによる塞栓症(左房なら脳梗塞など、右側なら肺塞栓)、(3) 発熱・体重減少・炎症反応の上昇などの全身症状、に分けられる。診断には心エコー検査が中心となり、CTやMRIも用いる。治療は外科的切除である。小児では横紋筋腫(結節性硬化症と関連)が多い。悪性の原発性腫瘍では血管肉腫などの肉腫が多い。
心腔内の造影欠損の鑑別
・腫瘍:粘液腫、転移性腫瘍、肉腫など。 ・血栓:左心耳(心房細動)、左心室の心尖部(心筋梗塞後の壁運動低下部)などにできやすい。 ・造影剤と造影されていない血液が混ざり合うことによる見かけ上の欠損(アーチファクト)に注意する。
POINT
・CT横断像は足側から見た像で、画面の左が患者の右。 ・胸骨のすぐ後ろの心腔は右心室、最も背側は左房、右側に張り出すのは右房、厚い壁を持ち左側にあるのは左心室。 ・造影CTで心腔内に造影されない部分があれば、腫瘍や血栓を考える。 ・心臓原発腫瘍で最も多いのは粘液腫で、好発部位は左房。
