StudyMed医師国家試験

胸骨のすぐ裏に潜む影―造影CTで「どの部屋か」を見抜く心腔の解剖学

第115回医師国家試験 F問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第17問

縦隔条件の胸部造影CTを下に示す。  異常所見を示す心臓の部位はどこか。

第115回 F問題 第17問の問題画像
  1. a.右房
  2. b.左房
  3. c.肺動脈
  4. d.右心室
  5. e.左心室

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸部造影CTの読影問題だ。病名を当てるのではなく、心臓のどの部屋に異常があるのかを解剖から読み取ることが求められている。着眼点は「造影剤で白く染まるはずの心腔内に、染まらない部分がないか」と「その部分が心臓のどこに位置するか」の2つだよ。
医学生医学生
CTの心臓って、部屋の区別がいつも曖昧になってしまうんです。CBTの勉強でも胸部X線の弓の名前ばかり覚えていました。
ドクタードクター
多くの人がそこでつまずくね。まず大前提として、CTの横断像は患者の足側から見上げた向きで表示する約束になっている。だから画面の左が患者の右、画面の上が体の前、下が背中だ。
医学生医学生
画面の左が患者の右……解剖実習のご遺体を頭側から見ていた感覚とは逆なので、混乱しやすいですね。
ドクタードクター
その通り。次に、造影CTでは造影剤を含んだ血液が白く写るから、正常なら心腔や大血管の中は均一に白い。そこに周りより暗い、つまり染まらない塊があれば、血栓や腫瘍などの異常な構造物を疑うんだ。今回の画像では、心臓の中ほどから下の高さのスライスで、胸骨のすぐ後ろにある心腔に、内部が不均一で辺縁の不整な低吸収の塊が見えている。
医学生医学生
胸骨の後ろ、ということは一番前にある部屋ですね。でも、心臓の左側の部屋だと思って左心室と答えそうになりました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。心臓は胸の中で左に回転したような向きで収まっていて、右心室は右側ではなく最も前方、胸骨の真後ろに位置する。各部屋の位置を整理すると、最も前が右心室、最も後ろで脊椎や下行大動脈の前にあるのが左房、患者の右側に張り出すのが右房、患者の左側に張り出して厚い筋肉の壁に囲まれているのが左心室だ。
医学生医学生
左心室の壁は血液より少し暗い帯として見えるんですね。その壁が心室中隔につながっていて……。
ドクタードクター
そう。今回の欠損は胸骨の直後にあって、心室中隔を挟んで左心室の反対側にある。だから右心室内の異常と判断できる。左心室そのものは厚い心筋の壁に囲まれていて、内腔は均一に造影されているから異常はないよ。
医学生医学生
左房はどうですか。心臓腫瘍といえば左房の粘液腫、と講義で何度も聞きました。
ドクタードクター
いい知識だね。粘液腫の多くは左房の心房中隔、卵円窩付近から生じる。でも今回の画像では、最も背側にある左房の内部は均一に造影されていて、異常な影はない。「好発部位だから」で答えを選ばず、画像で確かめることが大切なんだ。同じく右側に張り出す右房も均一に染まっている。
医学生医学生
肺動脈は、肺塞栓症のときに造影欠損が出る場所ですよね。
ドクタードクター
その通り。肺動脈幹は右心室から出て前方から後ろへ向かい、左右に分かれる。頭側のスライスで肺動脈幹と分岐が見えているけれど、内部は均一に白く、肺塞栓を思わせる欠損はない。
医学生医学生
つまり「欠損を見つける」「位置関係から部屋を決める」「他の部屋は均一に染まっていることを確認する」という順番ですね。
ドクタードクター
完璧な整理だね。最後に発展知識も押さえよう。心腔内の造影欠損の鑑別は、まず腫瘍と血栓だ。心臓原発腫瘍はまれで、転移性のほうが多い。原発性では成人なら粘液腫、小児なら結節性硬化症に関連する横紋筋腫が多く、悪性では血管肉腫などの肉腫がある。血栓は心房細動での左心耳、心筋梗塞後に壁運動が落ちた左心室心尖部にできやすい。
医学生医学生
右心系の腫瘤が剝がれて飛んだら、肺塞栓を起こすことになりますね。
ドクタードクター
その通り。左心系なら脳梗塞などの全身塞栓、右心系なら肺塞栓だ。さらに臨床では、造影剤と染まっていない血液が混ざって見かけ上の欠損に見えるアーチファクトにも注意が要る。CTだけで病名は確定できないので、心エコーやMRIで性状を評価し、腫瘍なら外科的切除を検討する流れになるよ。
医学生医学生
胸部X線で右心室は正面像の輪郭をつくらず、側面像で胸骨の後ろに見える、というのもCTの位置関係とつながりますね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。X線の右第2弓が右房、左第4弓が左心室という対応も、CTの立体的な配置を理解すれば自然に覚えられる。断面ごとに部屋を言える力は、救急外来でのCT読影でも必ず役に立つよ。

まとめ

造影CTでは心腔内の血液が均一に白く染まるのが正常で、染まらない塊状の部分(造影欠損)があれば腫瘍や血栓を疑います。CT横断像は足側から見た像で画面の左が患者の右となり、最も前の胸骨直後に右心室、最も後ろに左房、右側に右房、左側に厚い壁をもつ左心室が位置します。本問の欠損は胸骨の直後で心室中隔を挟んで左心室の反対側にあり、右心室内の異常と判断できます。心臓原発腫瘍では粘液腫が最も多く左房に好発しますが、好発部位にとらわれず画像上の位置関係から判断することが重要で、右心系の腫瘤は肺塞栓、左心系は全身塞栓の原因になりえます。心腔の立体的な配置を理解しておくことは、胸部X線のシルエットの解釈や救急でのCT読影の基礎となります。

解答・解説

正解はdです

画像の読み方の基本

CTの横断像(体を輪切りにした画像)は、患者の足側から見上げた向きで表示する約束になっている。そのため、画面の左側が患者の右側、画面の上側が体の前(胸骨側)、下側が背中(脊椎側)となる。造影CTでは造影剤を含んだ血液が白く写るため、心臓の各部屋(心腔)や大血管の中は均一に白く見えるのが正常である。心腔の中に白く染まらない部分(造影欠損)があれば、血栓や腫瘍などの異常な構造物を疑う。

本問の画像

上段の3枚は頭側のスライスで、上行大動脈・下行大動脈、肺動脈幹とその左右への分岐、左房などが見えている。下段の3枚は心臓の中ほどから下の高さのスライスで、4つの心腔が見えている。 下段中央と下段右のスライスで、胸骨のすぐ後ろにある心腔の中に、周りの血液より暗く写る塊状の部分がある。内部は不均一で、辺縁も不整である。正常な心腔内にはこのような構造はなく、異常所見である。

部位の決め方

各心腔の位置関係を押さえれば、どの部屋の異常か判断できる。 ・胸骨の真後ろ、最も前に位置する心腔は右心室である。 ・最も後ろ(脊椎・下行大動脈の前)に位置するのは左房である。 ・患者の右側(画面の左側)に張り出すのは右房である。 ・患者の左側(画面の右側)に張り出し、厚い筋肉の壁に囲まれているのが左心室である。左心室の壁は心室中隔とつながっており、血液より少し暗い帯として見える。 本問の造影欠損は胸骨の直後にあり、心室中隔を挟んで左心室の反対側に位置するので、右心室の中にあると判断できる。 画像だけで病気の種類を確定することはできないが、心腔内の腫瘤であり、心臓腫瘍(粘液腫など)や血栓が鑑別に挙がる。本問ではまず、異常がどの心腔にあるかを解剖から正しく読み取ることが求められている。

選択肢考察

  1. ×a.  右房

    右房は心臓の右側(画面の左側)に張り出す部屋で、胸部X線写真の右第2弓に当たる。上段右から下段の各スライスで見えているが、内部は均一に造影されており、異常な影はない。

  2. ×b.  左房

    左房は心臓の中で最も背側にあり、食道や下行大動脈のすぐ前に位置する。上段右や下段左のスライスで見えているが、内部は均一に造影されており、異常な影はない。左房は心臓腫瘍で最も多い粘液腫ができやすい部位だが、本問の異常はここにはない。

  3. ×c.  肺動脈

    肺動脈幹は右心室から出て、心臓の前方から後ろへ向かい、左右の肺動脈に分かれる。上段左・中央のスライスで、肺動脈幹とその左右への分岐が見えている。内部は均一に造影されており、肺塞栓症のような造影欠損はない。

  4. ○d.  右心室

    右心室は胸骨のすぐ後ろに接する、最も前方の心腔である。下段中央・下段右のスライスで、この心腔の中に造影されない塊状の部分があり、内部は不均一で辺縁は不整である。心室中隔を挟んで左心室の反対側にあることからも、右心室内であると確認できる。心腔内の腫瘤であり、心臓腫瘍や血栓が考えられる。

  5. ×e.  左心室

    左心室は心臓の左側(画面の右側)に張り出す部屋で、胸部X線写真の左第4弓に当たる。下段のスライスで、血液よりやや暗く写る厚い心筋の壁に囲まれて見えている。心室中隔を含むこの壁は逆U字状に認められる。内部は均一に造影されており、異常な影はない。

胸部CTでの心臓・大血管の位置関係

・最も前(胸骨の後ろ):右心室、右室流出路、肺動脈幹 ・右側:右房(上大静脈・下大静脈が流入する) ・左側:左心室(厚い壁を持つ) ・最も後ろ:左房(4本の肺静脈が流入し、食道・下行大動脈と接する) 胸部X線写真の輪郭(シルエット)との対応は、右第1弓が上大静脈、右第2弓が右房、左第1弓が大動脈弓、左第2弓が肺動脈、左第3弓が左心耳、左第4弓が左心室である。右心室は正面像では輪郭をつくらず、側面像で胸骨の後ろに見える。

心臓腫瘍

心臓原発の腫瘍はまれで、転移性の腫瘍のほうが多い。原発性腫瘍の多くは良性で、成人では粘液腫が最も多い。粘液腫の約75%は左房、多くは心房中隔の卵円窩付近から発生し、右房がこれに次ぐ。心室に発生することは少ない。症状は、(1) 腫瘍が血流をふさぐことによる症状(僧帽弁狭窄に似た症状、失神など)、(2) 腫瘍の一部がはがれて飛ぶことによる塞栓症(左房なら脳梗塞など、右側なら肺塞栓)、(3) 発熱・体重減少・炎症反応の上昇などの全身症状、に分けられる。診断には心エコー検査が中心となり、CTやMRIも用いる。治療は外科的切除である。小児では横紋筋腫(結節性硬化症と関連)が多い。悪性の原発性腫瘍では血管肉腫などの肉腫が多い。

心腔内の造影欠損の鑑別

・腫瘍:粘液腫、転移性腫瘍、肉腫など。 ・血栓:左心耳(心房細動)、左心室の心尖部(心筋梗塞後の壁運動低下部)などにできやすい。 ・造影剤と造影されていない血液が混ざり合うことによる見かけ上の欠損(アーチファクト)に注意する。

POINT

・CT横断像は足側から見た像で、画面の左が患者の右。 ・胸骨のすぐ後ろの心腔は右心室、最も背側は左房、右側に張り出すのは右房、厚い壁を持ち左側にあるのは左心室。 ・造影CTで心腔内に造影されない部分があれば、腫瘍や血栓を考える。 ・心臓原発腫瘍で最も多いのは粘液腫で、好発部位は左房。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。