L4/5ヘルニアが狙うのは「一つ下」―L5神経根症と馬尾症候群を見分ける
第115回医師国家試験 E問題 第35問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。職場で床に落ちた書類を拾おうと屈んだところ,腰痛と右下腿痛が出現したため受診した。既往歴に特記すべきことはない。身長165cm,体重58kg。体温36.7℃。脈拍80/分,整。腰椎エックス線写真で異常を認めず,腰部単純MRIで第4腰椎と第5腰椎間の右側に椎間板ヘルニアを認めた。 この患者で認められないのはどれか。
- a.疼痛性跛行
- b.会陰部の異常感覚
- c.右下腿外側の感覚鈍麻
- d.右母趾背屈筋力の低下
- e.右下肢伸展挙上テスト陽性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰椎の後外側椎間板ヘルニアは一つ下の番号の神経根を圧迫するため、L4/5ヘルニアではL5神経根が障害され、下腿外側〜足背の感覚障害、長母趾伸筋による母趾背屈の筋力低下、SLRテスト陽性、急性期の疼痛性跛行がみられます。一方、会陰部(サドル領域)の異常感覚は仙髄神経根を含む馬尾全体が圧迫される馬尾症候群の徴候であり、片側の単一神経根障害では通常認められません。馬尾症候群では膀胱直腸障害を伴うことが多く、緊急除圧手術の適応となるため、腰痛診療では排尿・排便の変化を必ず確認します。L3/4→L4(膝蓋腱反射低下・FNST陽性)、L5/S1→S1(アキレス腱反射低下)と高位ごとの所見を整理しておくと、神経学的診察からの病変部位推定と緊急度の判断に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・38歳男性。中腰で物を拾おうと前屈した際に、腰痛と右下腿痛が急に出現した。前屈・中腰は椎間板内圧を大きく上げる姿勢であり、椎間板ヘルニアの典型的な発症契機である。 ・腰椎エックス線写真で異常なし:骨折、すべり症、分離症、高度の変形などは否定的である(椎間板そのものはエックス線に写らない)。 ・MRIでL4/5椎間の右側(後外側)に椎間板ヘルニア。
障害される神経根の推定
腰椎では神経根が椎間孔を出る位置との関係から、通常の後外側ヘルニアは「一つ下の椎体番号の神経根」を圧迫する。L4/5ヘルニアならL5神経根が障害される。したがって本例は右L5神経根症と考えられ、症状は右側の片側性、L5支配領域に限局するはずである。
設問の考え方
「認められないもの」を選ぶ問題である。L5神経根障害で生じる所見(下腿外側〜足背の感覚障害、母趾背屈筋力低下、SLRテスト陽性、急性期の疼痛性跛行)は本例で認められうる。一方、会陰部の感覚異常は仙髄神経根(S2〜S4/S5)を含む馬尾全体が圧迫されたときの症状であり、片側の単一神経根障害である本例の所見としては合わない。
選択肢考察
- ×a. 疼痛性跛行
急性期の腰椎椎間板ヘルニアでは、神経根への刺激を避けるために体幹を前傾・患側へ傾け、患側の膝を軽く曲げて足を引きずるように歩く。痛みのために歩容が乱れるこの状態を疼痛性跛行といい、本例でも認められうる。休息で回復し再び歩ける間欠跛行(腰部脊柱管狭窄症に特徴的)とは区別して理解する。
- ○b. 会陰部の異常感覚
会陰部(サドル領域)の感覚はS2〜S5(主にS3〜S5)の仙髄神経根が担う。会陰部の異常感覚が生じるのは、巨大な正中ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などで馬尾全体が圧迫される馬尾症候群(多根性障害)であり、膀胱直腸障害を伴うことも多い。本例のL4/5右側ヘルニアは右L5の単一神経根障害であり、会陰部の異常感覚は通常認められない。なお、馬尾症候群を呈した場合は緊急手術の適応となる。
- ×c. 右下腿外側の感覚鈍麻
L5神経根の皮膚分節(デルマトーム)は下腿外側から足背・母趾にかけてである。右L5神経根障害により、右下腿外側の感覚鈍麻が認められうる。
- ×d. 右母趾背屈筋力の低下
母趾の背屈を担う長母趾伸筋は主にL5神経根の支配を受ける。L5神経根障害の代表的な運動所見であり、本例でも認められうる。
- ×e. 右下肢伸展挙上テスト陽性
下肢伸展挙上テスト(SLRテスト:straight leg raising test)は、仰臥位で膝を伸ばしたまま下肢を挙上し、坐骨神経(L4〜S3)を伸張して下肢痛が誘発されるかをみる検査である。L5やS1の神経根を障害する下位腰椎(L4/5、L5/S1)のヘルニアで陽性となりやすく、本例でも陽性となりうる。上位腰椎ヘルニア(L4神経根以上)では大腿神経伸展テスト(FNST)が陽性となる。
腰椎椎間板ヘルニアの高位診断(後外側ヘルニアの場合)
・L3/4ヘルニア→L4神経根:感覚障害は下腿内側、筋力低下は大腿四頭筋(膝伸展)・前脛骨筋、膝蓋腱反射低下、FNST陽性。 ・L4/5ヘルニア→L5神経根:感覚障害は下腿外側〜足背・母趾、筋力低下は長母趾伸筋(母趾背屈)、深部腱反射に特徴的な変化は乏しい、SLR陽性。 ・L5/S1ヘルニア→S1神経根:感覚障害は足部外側・足底、筋力低下は下腿三頭筋・長母趾屈筋(底屈)、アキレス腱反射低下、SLR陽性。 なお、椎間孔内・椎間孔外の外側ヘルニアでは、同じ高位の神経根(L4/5ならL4)が障害される点に注意する。
馬尾症候群
大きな正中ヘルニアなどで馬尾が圧迫されると、両下肢の多根性の症状、会陰部(サドル型)の感覚障害、膀胱直腸障害が出現する。神経機能の回復のため緊急の除圧手術が必要となる。
疾患の概要と治療
腰椎椎間板ヘルニアは20〜40歳代の男性に多く、L4/5とL5/S1に好発する。椎間板の線維輪が破綻し、髄核などが脱出して神経根を圧迫する。多くは保存療法(安静、非ステロイド性抗炎症薬、神経根ブロック・硬膜外ブロックなど)で軽快し、脱出したヘルニアは自然退縮することも多い。保存療法が無効な場合、進行する筋力低下がある場合、馬尾症候群を呈する場合に手術が考慮される。
跛行の区別
・疼痛性跛行:痛みを避けるための歩容異常。 ・間欠跛行:歩行で下肢症状が出現し、休息で改善する。神経性(腰部脊柱管狭窄症:前屈位で改善)と血管性(閉塞性動脈硬化症:立ち止まるだけで改善)がある。
POINT
・腰椎の後外側ヘルニアは一つ下の神経根を障害する(L4/5→L5)。 ・L5:下腿外側〜足背の感覚障害、母趾背屈(長母趾伸筋)筋力低下、SLR陽性。 ・会陰部の感覚障害・膀胱直腸障害は馬尾症候群(多根性障害)の徴候で、緊急手術を考える。 ・SLRテストは下位腰椎ヘルニア、FNSTは上位腰椎ヘルニアで陽性。
