1時間値だけの「1点陽性」―妊娠糖尿病はまず食事から整える
第115回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
37歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠26週。血糖値の異常を指摘され紹介受診した。妊娠初期から妊婦健康診査を受けていた。妊娠24週時に施行された50gブドウ糖負荷試験で血糖値156mg/dLであったため精査のため紹介となった。既往歴に特記すべきものはない。身長156cm,体重75kg(非妊時69kg)。体温37.0℃。脈拍76/分,整。血圧122/76mmHg。呼吸数18/分。尿蛋白(-),尿糖(±)。来院後に施行した75g経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉は,空腹時血糖値90mg/dL,1時間値192mg/dL,2時間値138mg/dLであった。 今後の管理としてまず行うのはどれか。
- a.運動療法
- b.経過観察
- c.食事療法
- d.インスリン投与
- e.経口血糖降下薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠中期の50gブドウ糖負荷試験で陽性となった妊婦には75g OGTTを行い、空腹時92mg/dL以上・1時間値180mg/dL以上・2時間値153mg/dL以上のうち1点でも満たせば妊娠糖尿病と診断します。妊娠糖尿病は巨大児や肩甲難産、新生児低血糖、妊娠高血圧症候群などを増やすため経過観察は不適切で、治療はまず食事療法(非妊時BMIに応じたエネルギー設定と分割食)と血糖自己測定から始めます。食事療法で目標血糖に届かない場合はインスリンを導入し、胎盤を通過する経口血糖降下薬は原則用いません。運動は補助的な位置づけです。分娩後も2型糖尿病の発症リスクが高いため産後のOGTTによる再評価が必要であり、診断から産後フォローまでの流れを押さえることが母児の長期的な健康を守る臨床判断につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・37歳の初妊婦、妊娠26週。妊娠前に糖尿病の指摘はなく、既往歴に特記事項はない。 ・妊娠24週の50gブドウ糖負荷試験(GCT:glucose challenge test、負荷1時間後の血糖を測るスクリーニング検査)で156mg/dL。陽性基準は140mg/dL以上であり、スクリーニング陽性である。 ・非妊時体重69kg、身長156cmから非妊時BMI=69÷(1.56×1.56)≒28.4で、肥満(BMI 25以上)に該当する。高年齢と肥満はいずれも妊娠糖尿病の危険因子である。 ・血圧122/76mmHg、尿蛋白(-)で、妊娠高血圧症候群を示唆する所見はない。 ・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT):空腹時90mg/dL、1時間値192mg/dL、2時間値138mg/dL。
診断
妊娠中の75g OGTTでは、空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たせば妊娠糖尿病(GDM:gestational diabetes mellitus)と診断する。本例は1時間値のみが基準を超えており(空腹時と2時間値は基準未満)、GDMと診断される。なお、空腹時126mg/dL以上やHbA1c 6.5%以上など、通常の糖尿病の診断基準を満たす所見はないため、「妊娠中の明らかな糖尿病」には当たらない。
管理の考え方
GDMを放置すると、母体では妊娠高血圧症候群・羊水過多、児では巨大児・肩甲難産・新生児低血糖・呼吸障害などのリスクが高まる。一方で治療介入によりこれらの合併症は減らせることが示されている。治療の第一段階は、母体と胎児の成長に必要なエネルギーを確保しつつ食後高血糖を抑える食事療法であり、同時に血糖自己測定(SMBG)で血糖推移を把握する。食事療法で目標血糖に達しない場合に初めてインスリンを導入する、という段階的な流れを理解しておけば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 運動療法
運動は耐糖能を改善し、妊娠経過に問題がなければ補助的に勧められる。しかし妊娠中は切迫早産や妊娠高血圧症候群などの産科的状況によって運動が制限されることがあり、十分な強度・量を確保しにくい。そのため血糖管理の中心にはなりにくく、最初に行う対応としては食事療法が優先される。
- ×b. 経過観察
GDMは巨大児、肩甲難産、新生児低血糖、妊娠高血圧症候群などの母児合併症を増やし、治療介入によってこれらが減少することが示されている。軽度の糖代謝異常であっても、診断がついた以上は無治療で様子をみるのは不適切である。
- ○c. 食事療法
GDMと診断されたら、まず食事療法を開始し、あわせて血糖自己測定で効果を確認する。妊娠中は胎児発育に必要なエネルギーを確保する必要があるため、極端なエネルギー制限は行わず、非妊時BMIに応じた適正なエネルギー量を設定し、食後高血糖や空腹時のケトーシスを避ける目的で1日の食事を4〜6回に分ける分割食が用いられる。GDMの多くは食事療法のみで目標血糖を達成できる。
- ×d. インスリン投与
インスリンは胎盤をほとんど通過せず、妊娠中の薬物療法の第一選択である。ただし導入は、食事療法を行っても目標血糖(目安として食前100mg/dL未満、食後2時間120mg/dL未満)を達成できない場合であり、診断直後に最初から行う対応ではない。
- ×e. 経口血糖降下薬投与
経口血糖降下薬は胎盤を通過し、胎児への影響(スルホニル尿素薬による新生児低血糖など)が懸念される。わが国では妊婦への投与は禁忌あるいは推奨されない扱いとされ、妊娠中の薬物療法はインスリンが標準である。海外ではメトホルミンがGDMに使用される場合もあるが、国家試験上は妊婦への経口血糖降下薬は選ばない。
妊娠中の糖代謝異常の分類
1. 妊娠糖尿病(GDM):妊娠中に初めて発見・発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常。75g OGTTで空腹時≧92、1時間値≧180、2時間値≧153mg/dLのいずれか1点以上で診断する。 2. 妊娠中の明らかな糖尿病:妊娠中に診断されたが、空腹時血糖≧126mg/dL、HbA1c≧6.5%など通常の糖尿病の基準を満たすもの。 3. 糖尿病合併妊娠:妊娠前から糖尿病と診断されているもの。
スクリーニングの流れ
全妊婦を対象に2段階で行う。妊娠初期には随時血糖を測定し、妊娠中期(24〜28週)には50g GCT(140mg/dL以上を陽性とする)または随時血糖でスクリーニングする。陽性者には75g OGTTで確定診断を行う。妊娠中期に行うのは、胎盤由来ホルモン(ヒト胎盤ラクトゲンなど)によるインスリン抵抗性がこの時期から強まるためである。
GDMの診断基準の変遷
2010年に国際基準(IADPSG基準)に合わせて1点陽性で診断する現行基準となった。これにより国内のGDMの頻度は従来の約2%から8%程度へ増加すると推定され、軽症例が多く含まれるようになったが、その多くは食事療法(と可能な範囲での運動)で管理できる。
治療
・食事療法:非妊時BMIに応じたエネルギー量を設定し、分割食とする。 ・血糖自己測定(SMBG):血糖推移の把握と治療への意識付けに有用である。GDMでは、OGTTで1点陽性かつ非妊時BMI 25以上、または2点以上陽性などの条件で保険適用とされてきた。 ・目標血糖:明確なエビデンスは乏しいが、経験的に食前100mg/dL未満、食後2時間120mg/dL未満が用いられる。 ・薬物療法:目標未達ならインスリン。
分娩後
GDMの多くは分娩後に耐糖能が正常化するが、将来の2型糖尿病の発症リスクが高いため、産後6〜12週頃に75g OGTTで再評価し、その後も定期的な経過観察を行う。
POINT
・50g GCTは140mg/dL以上で陽性→75g OGTTで確定診断。 ・GDMの診断:空腹時≧92、1時間≧180、2時間≧153mg/dLのうち1点以上。 ・GDMの治療はまず食事療法(分割食)+血糖自己測定。 ・目標未達ならインスリン。経口血糖降下薬は妊娠中には用いない。 ・GDMは経過観察のみではなく治療対象である。
