誤嚥性肺炎はチームで治す―「誰が何をできるか」を法律から読み解く多職種連携
第115回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
84歳の男性。発熱と咳嗽を主訴に来院し,誤嚥性肺炎の診断で入院した。意識は清明。身長173cm,体重60kg。体温38.5℃。脈拍96/分,整。血圧120/80mmHg。呼吸数22/分。SpO2 96%(鼻カニューラ2 L/分酸素投与下)。入院時から多職種で誤嚥性肺炎治療のサポートを行うことになった。 この患者に関わる職種とその職務内容の組合せで誤っているのはどれか。
- a.看護師 ―― 抗菌薬の処方
- b.管理栄養士 ―― 食形態の評価
- c.言語聴覚士 ―― 嚥下訓練
- d.薬剤師 ―― 内服薬の剤型検討
- e.理学療法士 ―― 呼吸リハビリテーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
誤嚥性肺炎の診療では、抗菌薬治療に加えて嚥下評価・訓練、食形態の調整、栄養改善、口腔ケア、呼吸リハビリテーション、服薬方法の工夫などを多職種で担い、再発予防まで見据えることが重要です。管理栄養士は食形態と栄養管理、言語聴覚士は嚥下評価と嚥下訓練、薬剤師は飲みやすい剤形の検討と疑義照会、理学療法士は呼吸リハビリテーションと早期離床を担当します。一方、薬の種類や量を決めて処方箋を交付する「処方」は医師・歯科医師にのみ認められた行為であり、看護師や薬剤師は処方できず、特定行為研修修了看護師であっても医師の指示の枠内で動きます。業務独占と名称独占の違いも含め、各職種の法的な業務範囲を理解しておくことは、チーム医療を円滑に進め、医師としての責任を自覚するための基盤となります。
解答・解説
正解はaです
症例の整理
・84歳の高齢男性が、発熱と咳嗽で受診し、誤嚥性肺炎と診断されて入院した。 ・意識は清明。身長173cm・体重60kgでBMI(体格指数)は約20とやや細身である。 ・体温38.5℃、脈拍96/分、呼吸数22/分と頻呼吸があり、酸素2L/分の投与下でSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)96%を保っている。中等度の肺炎で、酸素投与を要する状態である。
考え方
誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌を含む唾液や食物が気道に入り込むことで起こる肺炎で、高齢者に多い。抗菌薬で肺炎を治療するだけでなく、嚥下機能の評価と訓練、誤嚥しにくい食事形態の工夫、栄養状態の改善、口腔ケア、呼吸機能や体力の維持、服薬方法の工夫など、再発予防まで含めた包括的な対応が必要になる。そのため医師・看護師・管理栄養士・言語聴覚士・薬剤師・理学療法士・歯科医師・歯科衛生士などがそれぞれの専門性を生かして関わる多職種連携(チーム医療)が重要である。 一方で、各職種には法律で定められた業務範囲がある。処方(どの薬をどれだけ使うかを決定し、処方箋を交付すること)は医師(および歯科医師)にのみ認められた行為である。本問は、こうした職種ごとの役割分担を正しく理解しているかを問うている。「誤っているのはどれか」という設問である点に注意する。
選択肢考察
- ○a. 看護師 ―― 抗菌薬の処方
誤った組合せであり、これが正解である。薬剤の処方、すなわち診断に基づいて薬の種類・量・投与方法を決め処方箋を交付することは、医師法・歯科医師法などに基づき医師(歯科医師)だけが行える行為であり、看護師は抗菌薬を処方できない。看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」であり、本例では医師の指示に基づく抗菌薬の点滴投与、バイタルサインや呼吸状態の観察、喀痰吸引、体位管理、口腔ケア、食事介助時の誤嚥予防などを担う。なお、特定行為研修を修了した看護師は医師の作成した手順書に従って一部の薬剤投与の調整などを行えるが、これも医師の指示の枠内での行為であり、処方権が与えられるわけではない。
- ×b. 管理栄養士 ―― 食形態の評価
正しい組合せである。管理栄養士は、傷病者の療養のための栄養指導や、個々の身体状況・栄養状態に応じた栄養管理を担う。誤嚥性肺炎の患者では、嚥下機能に合わせた食事の形態(きざみ食、ペースト食、とろみ付けの程度など)の評価・調整、必要エネルギー量・たんぱく質量の算出、低栄養の評価と改善策の立案などを行う。嚥下機能評価を行う言語聴覚士と連携して食形態を決めていくことが多い。
- ×c. 言語聴覚士 ―― 嚥下訓練
正しい組合せである。言語聴覚士(ST:speech-language-hearing therapist)は、言語聴覚士法に基づき、音声・言語・聴覚の機能に障害がある人への訓練や検査を行う職種であり、医師または歯科医師の指示のもとで嚥下訓練も行う。誤嚥性肺炎では、ベッドサイドでの嚥下機能の評価(反復唾液嚥下テスト、改訂水飲みテストなど)、嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査への参加、口腔・咽頭の筋肉を鍛える間接訓練や、実際に食物を用いる直接訓練を担当する。
- ×d. 薬剤師 ―― 内服薬の剤型検討
正しい組合せである。薬剤師は処方箋に基づく調剤や服薬指導を行い、処方内容に疑問があれば医師に問い合わせる(疑義照会)義務を負う。嚥下機能が低下した患者では、錠剤やカプセルが飲みにくく、誤嚥や服薬不良の原因になる。そこで散剤・液剤・口腔内崩壊錠・貼付剤などへの剤形変更や、粉砕・簡易懸濁法の可否、とろみ剤との併用方法などを検討し、医師に提案する。剤形を変更する場合の最終的な処方は医師が行う。
- ×e. 理学療法士 ―― 呼吸リハビリテーション
正しい組合せである。理学療法士(PT:physical therapist)は、医師の指示のもとで運動療法や物理療法を行い、基本的な動作能力の回復を図る職種である。誤嚥性肺炎では、排痰を促す体位ドレナージや呼吸介助、呼吸訓練などの呼吸リハビリテーションを行うほか、高齢者が安静臥床によって筋力・体力を失う廃用症候群を防ぐため、早期離床や歩行訓練などを担う。また、食事時の座位姿勢の調整も誤嚥予防に役立つ。
誤嚥性肺炎における多職種の関わり(例)
・医師:診断、抗菌薬などの処方、治療方針の決定、各職種への指示。 ・看護師:観察、医師の指示による投薬・処置、喀痰吸引、口腔ケア、食事介助、体位管理。 ・管理栄養士:栄養評価、必要栄養量の算定、食形態の調整。 ・言語聴覚士:嚥下機能評価、嚥下訓練。 ・理学療法士:呼吸リハビリテーション、早期離床、廃用症候群の予防。 ・作業療法士:食事動作や日常生活動作(ADL)の訓練。 ・薬剤師:服薬しやすい剤形の検討、相互作用や嚥下機能に影響する薬剤(鎮静薬など)の確認。 ・歯科医師・歯科衛生士:専門的口腔ケア、義歯の調整。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効とされる。
業務独占と名称独占
・業務独占資格:資格をもつ者以外がその業務を行うことが禁止されているもの。医師、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師など。 ・名称独占資格:資格をもたない者がその名称を名乗ることが禁止されているもの。管理栄養士・栄養士、保健師、社会福祉士、介護福祉士などがこれにあたる。 ・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は名称独占資格であり、その業務は「診療の補助」として、医師(言語聴覚士の嚥下訓練などは医師または歯科医師)の指示のもとで行う。
処方について
処方箋を交付できるのは医師・歯科医師(動物に対しては獣医師)に限られる。看護師や薬剤師が独自に処方を行うことはできない。
POINT
・薬剤の処方は医師(歯科医師)のみが行える。看護師・薬剤師は処方できない。 ・誤嚥性肺炎では、管理栄養士が食形態・栄養を、言語聴覚士が嚥下評価・訓練を、薬剤師が飲みやすい剤形を、理学療法士が呼吸リハビリテーションと離床を担う。 ・多職種連携では、各職種の法的な業務範囲を理解しておくことが重要である。
