声を失っても意思は残る―胃瘻造設で最優先すべきは「本人の文書」
第115回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。意識障害を主訴に来院した。その後に脳梗塞の診断で治療が行われたが,後遺症のため全く意思疎通ができず,嚥下機能が廃絶し,経口摂取ができず,改善は見込めない。家族に確認すると胃瘻造設についての患者自身による意思表示の文書が見つかった。 この患者における胃瘻造設の方針を検討する上で最も優先されるのはどれか。
- a.要介護度
- b.医師の判断
- c.家族の希望
- d.本人の意思
- e.受け入れ施設の状況
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
胃瘻造設のように生命や生活の質を左右する医療行為では、医療倫理の自律尊重の原則に基づき、本人の意思が最も優先されます。本人が現在意思表示できなくても、事前に書面で示した意思(事前指示・リビングウィル)があれば、それを本人の意思として尊重します。医師の判断は医学的適応の評価として欠かせませんが、実施するかどうかを決めるのは本人であり、家族の役割は自身の希望を述べることではなく本人の意思を推定することです。要介護度や受け入れ施設の状況は療養環境を整えるうえでの考慮要素にとどまります。厚生労働省のガイドラインやACP(人生会議)の考え方とあわせて理解しておくことは、終末期医療の現場で患者さんの尊厳を守る判断の土台になります。
解答・解説
正解はdです
症例の整理
70歳の男性が意識障害で搬送され、脳梗塞と診断されて治療を受けた。しかし後遺症が重く、現在は意思疎通がまったくとれない。嚥下機能は失われて経口摂取ができず、回復の見込みもない。つまり、生命を維持するには経管栄養などの人工的な栄養補給が必要な状態であり、医学的には胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術でつくる胃と腹壁を結ぶ栄養用の瘻孔)が選択肢となる。
問われていること
胃瘻造設は、生命予後や生活の質を大きく左右する医療行為であり、行うかどうかは医学的適応だけでは決まらない。医療倫理の基本である自己決定(自律尊重)の原則にもとづき、本人の意思が最優先される。本例のように本人が現在は意思を表明できなくても、事前に書面で意思を示していれば(事前指示、アドバンス・ディレクティブ)、それが本人の意思として尊重される。
考え方の流れ
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、まず本人の意思を確認できるかどうかで手続きを分ける。本人が意思表示できない場合でも、文書などによって本人の意思が分かる、または家族等が推定できるなら、その意思を尊重する。家族の希望や医師の判断、介護や施設の事情はいずれも考慮すべき要素ではあるが、本人の意思より上位に置かれるものではない。したがって本例では、見つかった文書に示された本人の意思が最も優先される。
選択肢考察
- ×a. 要介護度
要介護度は介護保険で必要な介護の量を示す区分で、胃瘻を含む医療処置の有無も認定調査の項目に入る。介護負担の見通しを立てるうえで参考にはなるが、胃瘻を造設するかどうかという本人の生命・身体に関わる決定で、本人の意思より優先されることはない。
- ×b. 医師の判断
胃瘻が医学的に適応となるか(栄養経路として妥当か、手技が安全に行えるか)を判断するのは医師の役割であり、必要な前提である。本例は経口摂取が不能で改善も見込めないため、医学的適応はあると考えられる。しかし、適応のある治療を実際に行うかどうかは本人の意思で決まる。医師が一方的に方針を決めるのはパターナリズムであり、現在の医療倫理では最優先とはされない。
- ×c. 家族の希望
家族は本人の意思を推定し、方針決定の話し合いに加わる重要な存在である。ただし、家族の役割はあくまで本人の意思を代弁・推定することであり、家族自身の希望が本人の意思に優先するわけではない。本例では本人の意思を示す文書があるため、家族の希望がそれと異なっても文書の内容が尊重される。本人の意思が分からない場合でも、家族の希望そのものではなく、家族が推定する本人の意思を尊重するのが原則である。
- ○d. 本人の意思
自己決定(自律尊重)の原則により、医療行為を受けるかどうかは本人が決める。本例の患者は現在意思疎通ができないが、胃瘻造設について自ら書面で意思を残しており、これは事前指示として本人の意思を示すものである。したがって、その内容が方針決定で最も優先される。実際の運用では、文書の作成時期や作成時の状況、その後に考えが変わった可能性がないかを家族と確認し、医療・ケアチームで話し合ったうえで方針を決める。
- ×e. 受け入れ施設の状況
胃瘻がある患者を受け入れられる施設は限られることがあり、退院先の調整では現実的に考慮が必要になる。しかしこれは療養環境をどう整えるかという問題であり、施設側の事情で本人の意思に反する医療行為を選ぶことは許されない。最優先にはならない。
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセス(厚生労働省ガイドラインの要点)
(1) 本人の意思が確認できる場合 ・本人と医療・ケアチームが十分に話し合い、本人の意思決定を基本として方針を決める。 ・時間の経過や病状の変化で意思は変わりうるため、話し合いは繰り返し行う。 ・本人が意思を伝えられなくなる場合に備え、家族等も話し合いに加わることが望ましい。 (2) 本人の意思が確認できない場合 ・家族等が本人の意思を推定できるなら、その推定意思を尊重し、本人にとって最善の方針をとる。 ・家族等が本人の意思を推定できないなら、本人にとって何が最善かを家族等と医療・ケアチームが十分に話し合って決める。 ・家族等がいない場合や、家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、医療・ケアチームが本人にとっての最善の方針をとる。 (3) 方針の決定が困難な場合や合意に至らない場合は、複数の専門家からなる話し合いの場(倫理委員会など)を設けて助言を得る。 話し合った内容はそのつど文書にまとめておく。
関連用語
・アドバンス・ディレクティブ(事前指示):意思決定能力を失った場合に備え、受けたい(受けたくない)医療を前もって示しておくこと。書面化したものはリビングウィルとも呼ばれる。 ・ACP(アドバンス・ケア・プランニング、愛称「人生会議」):本人が家族等や医療・ケアチームと、将来の医療・ケアについて前もって繰り返し話し合い、共有するプロセス。 ・医療倫理の4原則:自律尊重、善行、無危害、公正。本問は自律尊重の原則が中心となる。
胃瘻について
嚥下障害などで経口摂取ができない状態が長期(目安としておおむね4週間以上)続くと見込まれる場合、経鼻胃管より胃瘻のほうが患者の負担が少ないとされ、栄養経路の選択肢となる。一方で、回復の見込みのない状態での人工的な栄養補給は延命処置としての側面もあり、行わない・中止するという選択も本人の意思に沿って検討される。
POINT
・医療方針の決定では、本人の意思が最優先される(自律尊重)。 ・本人が現在意思表示できなくても、事前に文書で示した意思(事前指示)があれば、それを本人の意思として尊重する。 ・本人の意思が確認できないときは、家族等が推定する本人の意思を尊重する。家族自身の希望を優先するのではない。 ・医師の判断は医学的適応の評価として必要だが、実施するかどうかを決めるのは本人である。 ・要介護度や受け入れ施設の事情は考慮要素にとどまる。
