脱出先は体の外か、内か―食道裂孔ヘルニアが「内ヘルニア」である理由
第115回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
内ヘルニアはどれか。
- a.鼠径ヘルニア
- b.大腿ヘルニア
- c.閉鎖孔ヘルニア
- d.食道裂孔ヘルニア
- e.腹壁瘢痕ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ヘルニアは、臓器が脱出した先が腹腔の外(皮下など体表側)なら外ヘルニア、腹腔内の別の区画や胸腔など体腔の内部なら内ヘルニアと分類します。食道裂孔ヘルニアは、胃などが横隔膜の食道裂孔を通って胸腔(縦隔)内へ脱出するため内ヘルニアに分類され、滑脱型が最も多く胃食道逆流症の原因となります。鼠径・大腿・閉鎖孔・腹壁瘢痕ヘルニアは、ヘルニア門の深さや名称にかかわらずいずれも外ヘルニアです。ほかの内ヘルニアとして傍十二指腸ヘルニア、Winslow孔ヘルニア、Bochdalek孔・Morgagni孔ヘルニアなども押さえておきましょう。また、大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に多く嵌頓しやすいため、原因不明の腸閉塞では積極的にCTで検索する姿勢が臨床で重要です。
解答・解説
正解はdです
本問は、ヘルニアを「内ヘルニア」と「外ヘルニア」に分類できるかを問う問題である。
ヘルニアの定義と分類
ヘルニアとは、臓器や組織が本来あるべき腔から、生理的または病的にできた間隙(ヘルニア門)を通って別の部位へ脱出した状態をいう。脱出先によって次の2つに大別される。 ・外ヘルニア: 腹壁の欠損部などを通って腹腔の外(皮下など体表側)へ脱出するもの。体表から膨隆として触れることが多い。 ・内ヘルニア: 腹腔内の陥凹や間隙、あるいは横隔膜の裂孔を通って、体腔の内部(腹腔内の別の区画や胸腔)へ脱出するもの。体表からは膨隆がみえないため、画像検査で診断されることが多い。
正解を導く考え方
鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアは、いずれも腹壁や骨盤壁の間隙から腹腔の外側へ脱出する外ヘルニアである。これに対し食道裂孔ヘルニアは、胃などの腹腔内臓器が横隔膜の食道裂孔を通って胸腔内(縦隔)へ脱出するもので、体の外には出ていないため内ヘルニアに分類される。「脱出した先が体の外側か、体腔の内部か」で判断するのがコツである。
選択肢考察
- ×a. 鼠径ヘルニア
外ヘルニアである。鼠径靱帯より頭側で鼠径部に脱出するヘルニアで、ヘルニア門と下腹壁動静脈との位置関係により2つに分けられる。外鼠径ヘルニア(間接ヘルニア)は下腹壁動静脈の外側にある内鼠径輪から鼠径管を通って脱出し、小児や若年男性にも多く、最も頻度が高い。内鼠径ヘルニア(直接ヘルニア)は下腹壁動静脈の内側のHesselbach三角の腹壁脆弱部から直接脱出し、中高年男性に多い。
- ×b. 大腿ヘルニア
外ヘルニアである。鼠径靱帯の尾側(下方)で、大腿静脈の内側にある大腿輪から大腿管を通って大腿部の皮下に脱出する。中高年の女性、特に経産婦に多い。ヘルニア門が狭く硬いため、嵌頓(脱出した内容が戻らなくなり血流障害をきたす状態)を起こしやすいのが特徴で、緊急手術となることが多い。
- ×c. 閉鎖孔ヘルニア
外ヘルニアである。骨盤の閉鎖孔を覆う閉鎖膜の上縁にある閉鎖管をヘルニア門として、腸管などが大腿内側の恥骨筋と外閉鎖筋の間へ脱出する。やせた高齢の経産婦に多い。脱出部が深いため体表から膨隆を触れにくく、腸閉塞として発症してCTで診断されることが多い。閉鎖神経が圧迫されて大腿内側から膝にかけて痛みやしびれが放散するHowship-Romberg徴候が特徴的である。
- ○d. 食道裂孔ヘルニア
内ヘルニアである。胃などの腹腔内臓器が、食道が貫通する横隔膜の食道裂孔を通って胸腔(縦隔)内へ脱出したもので、脱出先が体腔の内部であるため内ヘルニアに分類される。食道胃接合部が横隔膜より上へ移動する滑脱型が最も多く、胃食道逆流症(GERD)の原因となる。食道胃接合部は横隔膜下の正常位置にとどまり、胃の一部(主に穹窿部)が食道の横から胸腔内へ脱出するものを傍食道型といい、こちらは逆流症状は少ない一方で、嵌頓や捻転を起こしうる。
- ×e. 腹壁瘢痕ヘルニア
外ヘルニアである。開腹手術の創部(筋膜の縫合部)が離開し、そこをヘルニア門として腹腔内臓器が皮下へ脱出する。肥満、創感染、ステロイド使用、低栄養などが危険因子である。ヘルニア門が広いことが多いため、嵌頓を起こす頻度は比較的低い。
主な外ヘルニア
・鼠径部ヘルニア: 外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア ・閉鎖孔ヘルニア ・臍ヘルニア、白線ヘルニア ・腹壁瘢痕ヘルニア ・腰ヘルニア(上腰三角・下腰三角)
主な内ヘルニア
腹腔内の陥凹・間隙に入り込むもの ・傍十二指腸ヘルニア(左側に多い。内ヘルニアの中で頻度が高い) ・網嚢孔(Winslow孔)ヘルニア ・腸間膜裂孔ヘルニア ・術後の間隙に生じるヘルニア(例: Roux-en-Y再建後のPetersenヘルニア) 横隔膜の裂孔・欠損部を通るもの(横隔膜ヘルニア) ・食道裂孔ヘルニア(後天性で、高齢者に多い) ・Bochdalek孔ヘルニア(胸腹裂孔ヘルニア。横隔膜後外側の先天的欠損で、左側に多い。新生児期に呼吸障害で発症しやすく、肺低形成を伴う) ・Morgagni孔ヘルニア(胸骨後ヘルニア。横隔膜前方の欠損で、右側に多い)
食道裂孔ヘルニアの分類
I型(滑脱型): 食道胃接合部が胸腔内へ移動する。最多。 II型(傍食道型): 食道胃接合部は正常位置で、胃の一部が食道の横から脱出する。 III型(混合型): I型とII型の合併。 IV型: 胃以外の臓器(結腸、脾臓など)も脱出する。
嵌頓のしやすさ
ヘルニア門が狭く硬い大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは嵌頓を起こしやすく、高齢女性の原因不明の腸閉塞ではこれらを念頭に置いて診察・CTを行う。一方、ヘルニア門の広い腹壁瘢痕ヘルニアは嵌頓しにくい。
POINT
・脱出先が腹腔の外(皮下など)なら外ヘルニア、体腔内の別の区画や胸腔なら内ヘルニアである。 ・食道裂孔ヘルニアは横隔膜の食道裂孔から胸腔内へ脱出する内ヘルニアで、滑脱型が最も多い。 ・鼠径、大腿、閉鎖孔、腹壁瘢痕ヘルニアはいずれも外ヘルニアである。 ・ほかの内ヘルニアとして傍十二指腸ヘルニア、Winslow孔ヘルニア、Bochdalek孔ヘルニア、Morgagni孔ヘルニアを押さえる。 ・大腿・閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に多く嵌頓しやすい。閉鎖孔ヘルニアではHowship-Romberg徴候がみられる。
