「全額公費」はなぜ少ない?―国民皆保険と社会防衛から読み解く公費負担医療
第115回医師国家試験 C問題 第6問
国試問題にチャレンジ
医療費が全額公費負担となるのはどれか。
- a.結核の一般医療
- b.指定感染症による入院
- c.精神障害者の措置入院
- d.小児慢性特定疾病の外来治療
- e.予防接種による健康被害の救済措置
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
公費負担医療は、全額公費負担、保険優先で自己負担分を公費が負担する型、保険優先で自己負担の一部が残る型の3つに大別できます。国民皆保険の日本では医療保険の適用が原則のため、全額公費負担は、指定感染症への行政的措置としての入院のように、社会防衛を目的とし、かつ医療保険がまだなじまない場面に限られます。措置入院、1類・2類感染症の入院、予防接種健康被害救済の医療費は保険優先で自己負担分を公費が負担し、結核の一般医療(患者負担5%)や小児慢性特定疾病・難病の医療費助成では一定の自己負担が残ります。ただし指定感染症でも保険適用が確立すれば保険優先に移行するなど、扱いは時期によって変わり得ます。費用負担の理屈を理解しておくことは、患者さんの治療継続を支え、申請書類を適切に作成するうえで医師にとっても欠かせない知識です。
解答・解説
正解はbです
公費負担医療とは、国や地方自治体が税金を財源として医療費を負担するしくみである。費用の負担のしかたは、大きく次の3つの型に分けて整理できる。 ①全額公費負担:医療保険を使わず、医療費の全額を公費でまかなう。 ②保険優先+自己負担分を公費:まず医療保険で7割などを給付し、残りの自己負担分を公費で負担する。 ③保険優先+自己負担分の一部を公費:保険給付の残りのうち一部を公費で負担し、患者にも一定の自己負担が残る。 日本では国民皆保険制度のもとで医療保険の適用が原則であり、多くの公費負担医療は②か③の型である。全額公費負担になるのは、医療保険でまかなうことがなじまない場合に限られる。代表的なのは、国が社会防衛(感染の拡大を防ぎ社会全体を守ること)のために強制的な措置をとる場面で、しかも検査や治療に医療保険がまだ適用されていない場合である。 指定感染症は、すでに知られている感染症のうち、感染症法上の1〜3類感染症や新型インフルエンザ等感染症に分類されていないものの、それらに準じた対応をとらなければ国民の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがあるとして、政令で一時的に指定されるものである。指定された直後は、検査法や治療法に保険が適用されていないことも多い。そのため、行政が勧告・措置として行う入院の費用は、公費で全額を負担する扱いとなる。この点を問うのが本問であり、選択肢の中で全額公費負担に当たるのは指定感染症による入院である。
選択肢考察
- ×a. 結核の一般医療
結核の一般医療とは、感染症法第37条の2に基づく通院医療(化学療法など)のことである。まず医療保険を適用し、そのうえで医療費の95%に達するまでを公費が負担する。そのため、患者の自己負担は医療費の5%となる。全額公費負担ではない。なお、排菌のある結核患者への入院勧告による入院(同法第37条)も保険優先で、自己負担分に公費が充てられる(所得に応じて一部負担を求められることがある)。
- ○b. 指定感染症による入院
指定感染症は、既知の感染症について、1〜3類感染症などに準じた対応が必要なときに政令で暫定的に指定するものである。指定直後は検査・治療が医療保険の対象として確立していないことが多い。そのため、社会防衛のために行政が行う入院や検査の費用は全額を公費で負担する。たとえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年1月に指定感染症とされ、当初のPCR検査は行政検査として公費で実施された。ただし、検査や治療に保険が適用されるようになった後は保険優先となり、自己負担分を公費で負担する扱いに移行している。厳密には、どの時期でも常に全額公費負担というわけではない点に留意する。
- ×c. 精神障害者の措置入院
措置入院とは、自身を傷つけたり他人に害を及ぼしたりするおそれ(自傷他害のおそれ)のある精神障害者を、都道府県知事の権限で入院させる制度である(精神保健福祉法第29条)。その医療費は、まず医療保険を適用し、残りの自己負担分を公費で負担する(同法第30条の2)。なお、患者本人に一定以上の所得がある場合は、費用の一部を徴収されることがある。実務では、入院時に保険証を確認できないことが多いため、いったん全額を公費で支払い、後で保険者に請求(求償)する扱いがとられる。しかし、制度上は保険優先であり、全額公費負担には当たらない。
- ×d. 小児慢性特定疾病の外来治療
小児慢性特定疾病医療費助成(児童福祉法に基づく)では、医療保険を優先して適用する。患者の自己負担割合は原則2割(通常の3割から軽減)で、さらに世帯の所得や疾病の重症度に応じて月ごとの自己負担上限額が定められている。上限を超えた部分を公費で負担するしくみであり、生活保護世帯などを除けば、自己負担が生じる。全額公費負担ではない。
- ×e. 予防接種による健康被害の救済措置
予防接種法に基づく健康被害救済制度では、医療費・医療手当・障害年金・死亡一時金などが給付される。このうち医療費については、医療保険を適用した後の自己負担分が給付の対象となる。保険給付分まで公費でまかなうわけではないため、全額公費負担には当たらない。
公費負担医療の主な例と負担のしかた
全額公費負担の例:指定感染症・新感染症への行政的措置としての入院など、医療保険の適用がなじまないもの。また、戦傷病者特別援護法による療養の給付、原爆被爆者の認定疾病医療なども、国が全額を負担する。 保険優先+自己負担分を公費とする例:感染症法による1類・2類感染症(結核を含む)、新型インフルエンザ等感染症の入院、精神保健福祉法による措置入院、予防接種健康被害救済の医療費など。ただし所得に応じて一部負担が生じる場合がある。 保険優先+自己負担の一部を公費とする例:結核の一般医療(患者負担5%)、難病医療費助成、小児慢性特定疾病医療費助成(原則2割負担で月額上限あり)、自立支援医療(原則1割負担で月額上限あり)など。
感染症法における指定感染症と新感染症
指定感染症:既知の感染症で、1〜3類感染症や新型インフルエンザ等感染症に準じた措置が必要なものを、政令で一時的に指定する。指定には期間の定めがあり、2021年の法改正で原則1年以内(1回に限り1年延長可)とされた。 新感染症:人から人へ感染する未知の疾病で、病状が重く、まん延により重大な影響を与えるおそれがあるもの。1類感染症に準じた対応がとられる。
COVID-19の扱いの変遷
2020年1月に指定感染症に指定された。2021年2月の法改正で新型インフルエンザ等感染症に位置づけが変わり、2023年5月からは5類感染症に移行した。
POINT
・全額公費負担となるのは、医療保険の適用がなじまない社会防衛的な措置(指定感染症・新感染症への対応など) ・措置入院や1類・2類感染症の入院は、保険優先で自己負担分を公費が負担する ・結核の一般医療は保険優先で、患者負担は5% ・小児慢性特定疾病の医療費助成は原則2割負担で、所得に応じた月額上限がある ・予防接種健康被害救済の医療費は、保険適用後の自己負担分が対象
