StudyMed医師国家試験

正面像では見えない「奥行き」―CTで読み解く肺結節の住所

第115回医師国家試験 C問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第42問

59歳の男性。肺がん検診で胸部異常陰影を指摘され来院した。胸部エックス線写真(A)及び胸部単純CT(B)を下に示す。  病変の発生部位として正しいのはどれか。

第115回 C問題 第42問の問題画像
  1. a.右上葉
  2. b.右中葉
  3. c.右下葉
  4. d.右胸膜
  5. e.後縦隔

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺がん検診で見つかった結節が「どこから発生したか」を決める問題だ。診断名ではなく位置を問うているのがポイント。胸部エックス線の正面像とCTをどう組み合わせて、肺葉や胸膜・縦隔を区別するかを一緒に考えよう。
医学生医学生
エックス線では右の中〜下肺野に影があるので、高さだけで考えると中葉かなと思いました。
ドクタードクター
多くの人がそこでつまずくんだ。正面像は前後方向の情報が一枚に重なって写るから、右の中〜下肺野の陰影は、前方の中葉にあっても後方の下葉にあっても同じような場所に見えてしまう。奥行きを決めるには側面像かCTが必要なんだよ。
医学生医学生
解剖実習で肺を取り出したとき、斜裂がかなり上の背側から前下方へ走っていて驚いた記憶があります。
ドクタードクター
まさにその解剖が鍵だ。右肺では大葉間裂、つまり斜裂が背側の下葉と腹側の上葉・中葉を分けている。斜裂は背側の高い位置から前下方へ斜めに走るから、心臓が写るくらいの低い断面では、斜裂より前の心臓に接する部分が中葉、後ろの大部分が下葉になる。
医学生医学生
今回のCTは心臓が写る高さで、結節は右肺の一番背側、椎体のやや外側にありますね。
ドクタードクター
その通り。肺底区の気管支の断面よりもさらに後方にあるから、右下葉、位置からは後肺底区付近の病変と考えられる。正面像の右中〜下肺野の陰影とも矛盾しない。だから正解は右下葉だ。
医学生医学生
右上葉は、この高さだとそもそも肺実質がないということですか。
ドクタードクター
そう。上葉は肺尖から上〜中肺野を占めていて、心臓の高さの背側には上葉の肺実質は存在しない。中葉も斜裂より前方の心右縁に接する領域だから、中葉の病変ならCTでは前のほうに見えるはずだね。
医学生医学生
胸膜に近いところにあるので、胸膜由来の腫瘍との区別が気になりました。
ドクタードクター
良い疑問だ。ここで「肺内病変か、肺外病変か」を見分ける目を持っておきたい。今回の結節は周囲を肺実質に囲まれていて、辺縁は不整で棘状の突起、いわゆるスピキュラを伴っている。胸膜から出る孤立性線維性腫瘍のようなものは、胸壁に広く接して鈍角になだらかに立ち上がり、辺縁は平滑なことが多い。中皮腫なら胸膜のびまん性肥厚や多発結節が目立つ。
医学生医学生
後縦隔も、神経原性腫瘍の好発部位としてCBTで覚えました。
ドクタードクター
後縦隔は椎体の前面から両脇の傍椎体部の領域だね。縦隔腫瘍なら縦隔の輪郭に連続して、肺とはなだらかな境界をつくることが多い。今回は椎体から離れた肺野の中にあるから縦隔病変ではないと判断できる。
医学生医学生
つまり、まずCTで肺の中か外かを見て、肺内なら斜裂との位置関係で葉を決める、という流れですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。もう一つ、辺縁不整とスピキュラは原発性肺癌、特に腺癌を強く疑う所見だよ。胸膜陥入像や血管・気管支の収束像、分葉状の形態もあわせて覚えておこう。
医学生医学生
正面像だけで位置を推定するコツはありますか。
ドクタードクター
シルエットサインが役に立つ。X線吸収が同じくらいの構造どうしが接すると境界線が消える現象で、右第2弓、つまり右心房の縁が消えれば中葉、横隔膜の縁が消えれば下葉の前肺底区が疑われる。逆に心右縁がくっきり保たれていれば、病変は後方にある可能性を考えられる。
医学生医学生
背側の区域というと、S2、S6、S10でしたね。呼吸器内科の実習で、寝たきりの方の誤嚥性肺炎がそこに多いと教わりました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。仰臥位では背側区域に誤嚥物が流れ込みやすい。肺の区域解剖は、腫瘍の位置診断、肺炎の分布の解釈、さらには区域切除などの外科治療にも直結する知識だから、CTを見るたびに意識してほしい。

まとめ

胸部エックス線の正面像は前後方向の情報が重なるため、右の中〜下肺野の陰影が中葉か下葉かは判別できず、CTや側面像で奥行きを確認する必要があります。右肺では斜裂が背側の下葉と腹側の上葉・中葉を分け、心臓が写る低い断面では斜裂より後方の大部分が下葉にあたるため、背側で肺底区気管支より後方にある本例の結節は右下葉の病変です。周囲を肺実質に囲まれスピキュラを伴う点は肺内病変、特に原発性肺癌を示唆し、胸壁となだらかに接する胸膜病変や縦隔の輪郭に連続する縦隔病変とは区別されます。シルエットサインや背側区域(S2・S6・S10)の知識もあわせ、区域解剖に基づく位置診断は肺腫瘍・肺炎の評価や外科治療の計画に欠かせない基本技能です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・59歳の男性。症状はなく、肺がん検診の胸部エックス線写真で異常陰影を指摘された。 ・胸部エックス線写真(A):右の中〜下肺野(肺門の外下方)に、境界がやや不明瞭で辺縁不整の結節〜腫瘤影がある。 ・胸部単純CT(B):心臓が写る高さ(肺底部に近い下部胸郭)の断面で、右肺の背側、椎体のやや外側の胸膜近くに、辺縁が不整で棘状の突起(スピキュラ)を伴う充実性結節がある。病変は肺の内部にあり、周囲は肺実質に囲まれている。

診断の考え方

無症状の中高年男性で、辺縁不整・スピキュラを伴う結節であることから、原発性肺癌(特に腺癌)がまず疑われる。本問で問われているのは診断名ではなく、病変がどこから発生したかである。

発生部位の決め方

1. 胸部エックス線写真の正面像だけでは、病変の前後方向の位置が分からない。右の中〜下肺野の陰影は、前方の中葉にあっても、後方の下葉にあっても同じような場所に写る。そこでCTで前後関係を確認する。 2. 右肺では、大葉間裂(斜裂)が背側の下葉と腹側の上葉・中葉とを分けている。心臓が写る高さの断面では、斜裂より腹側(心臓に接する前方)が中葉、斜裂より背側が下葉である。 3. CT(B)の病変は、右肺の最も背側、肺底区の気管支(B9・B10)の断面よりさらに後方にある。したがって右下葉の病変であり、位置からは後肺底区(S10)付近と考えられる。 4. 病変は肺実質に囲まれた肺内の結節であり、胸膜から発生した腫瘍や縦隔腫瘍とは形態が異なる。 以上より、発生部位は右下葉である。

選択肢考察

  1. ×a.  右上葉

    胸部エックス線写真で陰影は右の中〜下肺野にあり、CTでも心臓が写る下部胸郭の断面で、しかも背側に病変がみられる。右上葉はおもに肺尖から上〜中肺野の領域を占め、この高さ・この背側の位置には上葉の肺実質は存在しない。上葉の病変とは考えられない。

  2. ×b.  右中葉

    胸部エックス線写真の正面像だけでは、右の中〜下肺野の陰影が中葉のものか下葉のものかは区別できない。中葉は斜裂より腹側、心臓の右縁に接する前方の領域にあるので、中葉の病変ならCTでは前方にみえるはずである。本例の病変はCTで右肺の最も背側、肺底区の気管支(B9・B10)より後方にあるので、中葉ではない。

  3. ○c.  右下葉

    CTで病変は右肺の背側、斜裂より後方にあり、肺底区の気管支(B9・B10)の断面よりもさらに後方に位置している。この領域は右下葉の肺底区に当たり、位置からは後肺底区(S10)付近の病変と考えられる。胸部エックス線写真で右の中〜下肺野にみえる陰影とも矛盾しない。辺縁不整でスピキュラを伴うことから、右下葉に発生した原発性肺癌が強く疑われる。

  4. ×d.  右胸膜

    病変は胸壁側の胸膜に近いものの、周囲を肺実質に囲まれた肺内の結節であり、辺縁は不整でスピキュラを伴っている。胸膜から発生した腫瘍(孤立性線維性腫瘍など)は、胸壁に広く接してなだらかに立ち上がり(胸壁との角度が鈍角)、辺縁は平滑なことが多い。悪性胸膜中皮腫では胸膜がびまん性に厚くなったり、多数の結節がみられたりする。本例はいずれにも当てはまらない。

  5. ×e.  後縦隔

    後縦隔は心臓の後ろ、椎体の前面からその両脇(傍椎体部)にかけての領域で、神経原性腫瘍などが発生する部位である。本例の病変は椎体から離れた肺野の中にあり、周囲を肺実質に囲まれているため、縦隔の病変ではない。縦隔腫瘍であれば縦隔の輪郭に連なり、肺とのあいだはなだらかな境界を示すことが多い。

肺葉と肺区域

・右肺は上葉・中葉・下葉の3葉、左肺は上葉・下葉の2葉からなる。左上葉のうち舌区(S4・S5)が右の中葉に相当する。 ・右上葉:S1(肺尖区)、S2(後上葉区)、S3(前上葉区) ・右中葉:S4(外側中葉区)、S5(内側中葉区) ・右下葉:S6(上-下葉区)、S7(内側肺底区)、S8(前肺底区)、S9(外側肺底区)、S10(後肺底区) ・左肺:上葉はS1+2、S3、S4、S5、下葉はS6、S8、S9、S10(左ではS7は独立しないことが多い)。 ・背側に位置する区域はS2、S6、S10である。仰臥位で長く過ごす人の誤嚥性肺炎はこれらの区域に生じやすい。

葉間裂

・大葉間裂(斜裂):左右にあり、下葉とそれより前方の葉(右は上葉・中葉、左は上葉)とを分ける。背側の高い位置から前下方へ斜めに走るため、下部胸郭の断面では下葉が背側の大部分を占める。 ・小葉間裂(水平裂):右肺だけにあり、上葉と中葉とを分ける。

胸部エックス線写真での位置診断

・正面像は前後方向の情報がつぶれて重なって写るため、葉の判定には側面像やCTが必要である。 ・シルエットサイン:X線の吸収が同じくらいの構造どうしが接すると、その境界線が消える現象である。右第2弓(右心房)の辺縁が消えれば中葉(S5)、横隔膜の辺縁が消えれば下葉の前肺底区(S8)など、境界に接する病変の位置を推定できる。前方の右心縁が保たれ、横隔膜との境界がみえる病変は、後方(下葉)にあると推測できる。

肺内病変・胸膜病変・縦隔病変の見分け方

・肺内病変:周囲が肺実質に囲まれ、胸膜と接するときは胸壁との角度が鋭角になりやすい。肺癌ではスピキュラ、胸膜陥入像、ノッチ(切れ込み)などを伴う。 ・胸膜・胸壁病変:胸壁に広く接し、胸壁との角度が鈍角で、なだらかに立ち上がる(extrapleural sign)。 ・縦隔病変:縦隔の輪郭に連続し、肺側の辺縁は平滑なことが多い。後縦隔では神経原性腫瘍が多い。

肺癌を疑う結節の所見

・辺縁不整、スピキュラ、胸膜陥入像、血管・気管支の収束像、分葉状の形態など。 ・すりガラス影を含む結節(部分充実性結節)は腺癌であることが多い。

POINT

・胸部エックス線写真の正面像だけでは、病変が中葉にあるか下葉にあるかは区別できない。前後の位置はCTや側面像で決める。 ・下部胸郭のCT断面では、斜裂より腹側が中葉、背側が下葉である。 ・背側に位置する肺区域はS2、S6、S10である。 ・肺内病変は肺実質に囲まれ、胸膜病変は胸壁となだらかに接し(鈍角)、縦隔病変は縦隔の輪郭に連続する。 ・辺縁不整・スピキュラを伴う結節は原発性肺癌を疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。