胃が壊れると血が薄くなる―悪性貧血の「本態」は萎縮性胃炎にあり
第115回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
悪性貧血でみられるのはどれか。
- a.胆石
- b.脾腫
- c.異食症
- d.嚥下障害
- e.萎縮性胃炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
悪性貧血は、抗壁細胞抗体や抗内因子抗体による自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)を本態とし、内因子欠乏により回腸末端でのビタミンB12吸収が障害されて巨赤芽球性貧血をきたす疾患です。萎縮性胃炎は悪性貧血の原因そのものであり、無酸症と高ガストリン血症を伴い、胃癌や胃神経内分泌腫瘍の合併に注意が必要です。胆石や脾腫は溶血性貧血、異食症や嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)は鉄欠乏性貧血に特徴的な所見として区別します。Hunter舌炎、若年性白髪、亜急性連合性脊髄変性症も重要な所見で、治療はビタミンB12の筋注による生涯補充です。貧血の種類ごとに病態と随伴所見を結びつけて整理することが、鑑別診断の力を高めます。
解答・解説
正解はeです
悪性貧血の病態と、それに伴う所見を問う一般問題である。 悪性貧血は、胃の壁細胞や内因子に対する自己抗体が生じる自己免疫疾患である。壁細胞が破壊されると胃底腺が萎縮し(自己免疫性萎縮性胃炎、A型胃炎)、胃酸と内因子の分泌がなくなる。ビタミンB12は胃で内因子と結合し、その複合体が回腸末端の受容体から吸収されるため、内因子が欠乏するとビタミンB12を吸収できなくなる。ビタミンB12はDNA合成に必要なので、欠乏すると細胞の核の成熟が遅れ、骨髄に巨赤芽球が出現する巨赤芽球性貧血となる。 したがって、萎縮性胃炎は悪性貧血の「結果」ではなく「原因そのもの」である。他の選択肢は、溶血性貧血(胆石、脾腫)や鉄欠乏性貧血(異食症、嚥下障害)に特徴的な所見であり、貧血の種類ごとの随伴所見を整理しておけば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 胆石
悪性貧血に特徴的な所見ではない。胆石(ビリルビンカルシウム石などの色素石)は、遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性貧血でよくみられる。赤血球が長期にわたって大量に壊れると、ヘモグロビンの分解産物であるビリルビンが過剰に生成され、胆汁中に排泄されて結石を作りやすくなるためである。悪性貧血でも骨髄内で未熟な赤芽球が壊れる無効造血によって間接ビリルビンやLDHが上昇するが、胆石が高頻度にみられる疾患とはされていない。
- ×b. 脾腫
悪性貧血の特徴的所見ではない。脾腫は、脾臓で赤血球が壊される溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)、リンパ腫、門脈圧亢進症などでみられる。著明な脾腫(巨脾)は、慢性骨髄性白血病や原発性骨髄線維症などの骨髄増殖性腫瘍、慢性リンパ性白血病で認められる。悪性貧血では軽度の脾腫をみることはあっても、診断の手がかりとなるような所見ではない。
- ×c. 異食症
鉄欠乏性貧血の所見である。異食症は、栄養にならないものを無性に食べたくなる症状で、鉄欠乏では特に氷をかじりたくなる氷食症が多い。土や粘土などを食べることもある。機序ははっきりしないが、鉄補充により速やかに改善する。悪性貧血では通常みられない。
- ×d. 嚥下障害
鉄欠乏性貧血の所見である。鉄欠乏が長く続くと、下咽頭から食道入口部に膜様の狭窄(食道web)ができて嚥下障害を起こすことがあり、舌炎、口角炎、匙状爪などを伴う。これをPlummer-Vinson症候群という。悪性貧血でも舌の乳頭が萎縮して赤く平らになり痛みを伴うHunter舌炎がみられるが、嚥下障害は特徴的な症状ではない。
- ○e. 萎縮性胃炎
悪性貧血でみられる所見であり、正解である。抗壁細胞抗体や抗内因子抗体によって胃体部・胃底部の粘膜が障害される自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)が悪性貧血の本態である。胃底腺の萎縮によって胃酸が出なくなり(無酸症)、内因子も欠乏してビタミンB12の吸収障害が起こる。胃酸が減ると、その刺激で胃前庭部のG細胞からガストリンが過剰に分泌され、高ガストリン血症となる。萎縮性胃炎を背景に胃癌や胃神経内分泌腫瘍(カルチノイド)を合併しやすいため、定期的な上部消化管内視鏡検査が勧められる。
悪性貧血の概要
ビタミンB12欠乏性巨赤芽球性貧血の一型で、自己免疫性萎縮性胃炎による内因子欠乏が原因である。中高年に多く、橋本病などの他の自己免疫疾患を合併しやすい。
主な臨床所見
・貧血症状(動悸、息切れ、倦怠感) ・Hunter舌炎(舌乳頭の萎縮による平滑で赤い舌、疼痛) ・若年性白髪 ・軽度の黄疸(無効造血による間接ビリルビン上昇) ・神経症状:亜急性連合性脊髄変性症。脊髄の後索と側索が障害され、両下肢のしびれ、振動覚・位置覚の低下、Romberg徴候陽性、Babinski徴候陽性などを呈する。末梢神経障害や認知機能低下も起こりうる。貧血がなくても神経症状が先行することがある。
主な検査所見
・大球性貧血(MCV高値)、汎血球減少を伴うことがある ・好中球の核の過分葉 ・骨髄で巨赤芽球の増加 ・LDH著明高値、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下(無効造血による) ・血清ビタミンB12低値 ・抗内因子抗体(特異度が高い)、抗壁細胞抗体(感度が高い)陽性 ・高ガストリン血症、無酸症
治療
経口では吸収できないため、ビタミンB12(メコバラミンやヒドロキソコバラミン)を筋注で補充し、生涯続ける。治療開始後に網赤血球が急増する。
貧血の種類と随伴所見の整理
・鉄欠乏性貧血:匙状爪、異食症(氷食症)、舌炎・口角炎、Plummer-Vinson症候群(嚥下障害) ・溶血性貧血:黄疸、脾腫、胆石(色素石) ・悪性貧血:萎縮性胃炎、Hunter舌炎、白髪、亜急性連合性脊髄変性症
POINT
・悪性貧血の本態は抗壁細胞抗体・抗内因子抗体による自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)である。 ・内因子欠乏 → 回腸末端でのビタミンB12吸収障害 → 巨赤芽球性貧血。 ・無酸症と高ガストリン血症を伴い、胃癌・胃カルチノイドのリスクが高い。 ・Hunter舌炎、白髪、亜急性連合性脊髄変性症も重要な所見。 ・異食症・嚥下障害は鉄欠乏性貧血、胆石・脾腫は溶血性貧血の所見。
