StudyMed医師国家試験

胃が壊れると血が薄くなる―悪性貧血の「本態」は萎縮性胃炎にあり

第115回医師国家試験 C問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第17問

 悪性貧血でみられるのはどれか。

  1. a.胆石
  2. b.脾腫
  3. c.異食症
  4. d.嚥下障害
  5. e.萎縮性胃炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は悪性貧血でみられる所見を選ぶ問題だ。選択肢には、いろいろな貧血の随伴所見が並んでいる。悪性貧血がどこで、どうして起こる病気なのかを押さえれば、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
悪性貧血はビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血、と覚えています。
ドクタードクター
そうだね。ではなぜB12が欠乏するのか。食事にはちゃんと含まれているのに、だ。
医学生医学生
内因子が足りなくなって、回腸末端で吸収できなくなるからでしょうか。
ドクタードクター
正解。じゃあ、その内因子はどこから出ている?
医学生医学生
胃の壁細胞です。生理学の講義で、胃酸と内因子の両方を出すと習いました。
ドクタードクター
その通り。悪性貧血は、壁細胞や内因子に対する自己抗体ができる自己免疫疾患なんだ。壁細胞が壊されて胃底腺が萎縮する、いわゆる自己免疫性萎縮性胃炎、A型胃炎が起こる。その結果、胃酸も内因子も出なくなって、B12が吸収できなくなる。
医学生医学生
ということは、萎縮性胃炎は悪性貧血に「みられる」というより、原因そのものなんですね。
ドクタードクター
まさにそこが本質だ。萎縮性胃炎が正解になる。ほかの選択肢も、どの貧血の所見かを整理しておこう。まず胆石と脾腫はどうかな。
医学生医学生
溶血性貧血っぽいです。でも悪性貧血でも間接ビリルビンやLDHが上がると聞いたので、少し迷いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。悪性貧血では骨髄内で未熟な赤芽球が壊れる無効造血が起こるから、LDH著明高値や間接ビリルビン上昇がみられる。ただ、胆石が高頻度に出るのは遺伝性球状赤血球症のような慢性の溶血で、ビリルビンが長期にたくさん作られて色素石ができる場合だ。脾腫も溶血性貧血や骨髄増殖性腫瘍で目立つ所見で、悪性貧血で軽度にみられることはあっても診断の手がかりにはならない。
医学生医学生
異食症と嚥下障害は鉄欠乏性貧血ですよね。CBTの問題で氷食症が出てきました。
ドクタードクター
その通り。異食症は特に氷をかじりたくなる氷食症が多く、鉄補充で速やかに良くなる。嚥下障害は、鉄欠乏が長引いて下咽頭から食道入口部に膜様狭窄ができるPlummer-Vinson症候群によるものだ。舌炎や匙状爪も一緒に出やすい。
医学生医学生
悪性貧血でも舌炎がありましたよね。混同しそうです。
ドクタードクター
悪性貧血の舌炎はHunter舌炎と呼ばれて、舌乳頭が萎縮して赤く平らになり、痛みを伴う。舌の所見は両方に出るけど、嚥下障害まで来るのは鉄欠乏の方、と区別しておこう。
医学生医学生
胃酸が出なくなると、ほかにどんな変化が起こりますか。
ドクタードクター
胃酸による抑制がなくなるから、前庭部のG細胞からガストリンが過剰に出て高ガストリン血症になる。そのため胃神経内分泌腫瘍、いわゆるカルチノイドや胃癌の合併が増えるので、定期的な内視鏡検査が勧められるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、内視鏡で胃体部が萎縮しているのに前庭部はきれい、という逆萎縮の症例を見ました。
ドクタードクター
それはA型胃炎の典型的な像だね。ピロリ菌による萎縮は前庭部から始まることが多いから、分布の違いが手がかりになる。そして臨床で最も注意したいのが神経症状だ。B12欠乏では脊髄の後索と側索が障害される亜急性連合性脊髄変性症が起こり、振動覚や位置覚の低下、Romberg徴候陽性などを呈する。貧血より神経症状が先に出ることもある。
医学生医学生
治療はB12の補充ですが、内因子がないなら飲んでも吸収されないですよね。
ドクタードクター
そう、だから基本は筋注で、生涯続ける。治療を始めると網赤血球が急増するのも特徴だ。神経障害は遅れると不可逆になりうるから、早期の診断と治療が大切だよ。

まとめ

悪性貧血は、抗壁細胞抗体や抗内因子抗体による自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)を本態とし、内因子欠乏により回腸末端でのビタミンB12吸収が障害されて巨赤芽球性貧血をきたす疾患です。萎縮性胃炎は悪性貧血の原因そのものであり、無酸症と高ガストリン血症を伴い、胃癌や胃神経内分泌腫瘍の合併に注意が必要です。胆石や脾腫は溶血性貧血、異食症や嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)は鉄欠乏性貧血に特徴的な所見として区別します。Hunter舌炎、若年性白髪、亜急性連合性脊髄変性症も重要な所見で、治療はビタミンB12の筋注による生涯補充です。貧血の種類ごとに病態と随伴所見を結びつけて整理することが、鑑別診断の力を高めます。

解答・解説

正解はeです

悪性貧血の病態と、それに伴う所見を問う一般問題である。 悪性貧血は、胃の壁細胞や内因子に対する自己抗体が生じる自己免疫疾患である。壁細胞が破壊されると胃底腺が萎縮し(自己免疫性萎縮性胃炎、A型胃炎)、胃酸と内因子の分泌がなくなる。ビタミンB12は胃で内因子と結合し、その複合体が回腸末端の受容体から吸収されるため、内因子が欠乏するとビタミンB12を吸収できなくなる。ビタミンB12はDNA合成に必要なので、欠乏すると細胞の核の成熟が遅れ、骨髄に巨赤芽球が出現する巨赤芽球性貧血となる。 したがって、萎縮性胃炎は悪性貧血の「結果」ではなく「原因そのもの」である。他の選択肢は、溶血性貧血(胆石、脾腫)や鉄欠乏性貧血(異食症、嚥下障害)に特徴的な所見であり、貧血の種類ごとの随伴所見を整理しておけば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  胆石

    悪性貧血に特徴的な所見ではない。胆石(ビリルビンカルシウム石などの色素石)は、遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性貧血でよくみられる。赤血球が長期にわたって大量に壊れると、ヘモグロビンの分解産物であるビリルビンが過剰に生成され、胆汁中に排泄されて結石を作りやすくなるためである。悪性貧血でも骨髄内で未熟な赤芽球が壊れる無効造血によって間接ビリルビンやLDHが上昇するが、胆石が高頻度にみられる疾患とはされていない。

  2. ×b.  脾腫

    悪性貧血の特徴的所見ではない。脾腫は、脾臓で赤血球が壊される溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)、リンパ腫、門脈圧亢進症などでみられる。著明な脾腫(巨脾)は、慢性骨髄性白血病や原発性骨髄線維症などの骨髄増殖性腫瘍、慢性リンパ性白血病で認められる。悪性貧血では軽度の脾腫をみることはあっても、診断の手がかりとなるような所見ではない。

  3. ×c.  異食症

    鉄欠乏性貧血の所見である。異食症は、栄養にならないものを無性に食べたくなる症状で、鉄欠乏では特に氷をかじりたくなる氷食症が多い。土や粘土などを食べることもある。機序ははっきりしないが、鉄補充により速やかに改善する。悪性貧血では通常みられない。

  4. ×d.  嚥下障害

    鉄欠乏性貧血の所見である。鉄欠乏が長く続くと、下咽頭から食道入口部に膜様の狭窄(食道web)ができて嚥下障害を起こすことがあり、舌炎、口角炎、匙状爪などを伴う。これをPlummer-Vinson症候群という。悪性貧血でも舌の乳頭が萎縮して赤く平らになり痛みを伴うHunter舌炎がみられるが、嚥下障害は特徴的な症状ではない。

  5. ○e.  萎縮性胃炎

    悪性貧血でみられる所見であり、正解である。抗壁細胞抗体や抗内因子抗体によって胃体部・胃底部の粘膜が障害される自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)が悪性貧血の本態である。胃底腺の萎縮によって胃酸が出なくなり(無酸症)、内因子も欠乏してビタミンB12の吸収障害が起こる。胃酸が減ると、その刺激で胃前庭部のG細胞からガストリンが過剰に分泌され、高ガストリン血症となる。萎縮性胃炎を背景に胃癌や胃神経内分泌腫瘍(カルチノイド)を合併しやすいため、定期的な上部消化管内視鏡検査が勧められる。

悪性貧血の概要

ビタミンB12欠乏性巨赤芽球性貧血の一型で、自己免疫性萎縮性胃炎による内因子欠乏が原因である。中高年に多く、橋本病などの他の自己免疫疾患を合併しやすい。

主な臨床所見

・貧血症状(動悸、息切れ、倦怠感) ・Hunter舌炎(舌乳頭の萎縮による平滑で赤い舌、疼痛) ・若年性白髪 ・軽度の黄疸(無効造血による間接ビリルビン上昇) ・神経症状:亜急性連合性脊髄変性症。脊髄の後索と側索が障害され、両下肢のしびれ、振動覚・位置覚の低下、Romberg徴候陽性、Babinski徴候陽性などを呈する。末梢神経障害や認知機能低下も起こりうる。貧血がなくても神経症状が先行することがある。

主な検査所見

・大球性貧血(MCV高値)、汎血球減少を伴うことがある ・好中球の核の過分葉 ・骨髄で巨赤芽球の増加 ・LDH著明高値、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下(無効造血による) ・血清ビタミンB12低値 ・抗内因子抗体(特異度が高い)、抗壁細胞抗体(感度が高い)陽性 ・高ガストリン血症、無酸症

治療

経口では吸収できないため、ビタミンB12(メコバラミンやヒドロキソコバラミン)を筋注で補充し、生涯続ける。治療開始後に網赤血球が急増する。

貧血の種類と随伴所見の整理

・鉄欠乏性貧血:匙状爪、異食症(氷食症)、舌炎・口角炎、Plummer-Vinson症候群(嚥下障害) ・溶血性貧血:黄疸、脾腫、胆石(色素石) ・悪性貧血:萎縮性胃炎、Hunter舌炎、白髪、亜急性連合性脊髄変性症

POINT

・悪性貧血の本態は抗壁細胞抗体・抗内因子抗体による自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)である。 ・内因子欠乏 → 回腸末端でのビタミンB12吸収障害 → 巨赤芽球性貧血。 ・無酸症と高ガストリン血症を伴い、胃癌・胃カルチノイドのリスクが高い。 ・Hunter舌炎、白髪、亜急性連合性脊髄変性症も重要な所見。 ・異食症・嚥下障害は鉄欠乏性貧血、胆石・脾腫は溶血性貧血の所見。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。