声帯に咲くカリフラワー―NBIの「点状血管」が教える喉頭乳頭腫
第114回医師国家試験 F問題 第50問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。嗄声を主訴に来院した。2年前から誘因なく嗄声が出現し,咽喉異物感と慢性的な咳が続いているという。喫煙歴と飲酒歴はない。白色光による喉頭内視鏡像(A)(B)及び狭帯域光による喉頭内視鏡像(C)を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.下咽頭癌
- b.声帯結節
- c.喉頭乳頭腫
- d.慢性喉頭炎
- e.ポリープ様声帯
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喫煙・飲酒歴のない成人で年単位の嗄声があり、声帯に乳頭状・カリフラワー状の隆起を認め、NBIで乳頭ごとに点状の血管が規則的に見える場合は、喉頭乳頭腫を考えます。本症はHPV(主に6型・11型)感染による良性腫瘍で、小児期と成人期の二峰性に発症し、喉頭微細手術で切除しても再発を繰り返しやすく、まれに悪性化するため生検による確定と長期の経過観察が必要です。声帯結節は両側対称で表面平滑な小隆起、ポリープ様声帯は喫煙に関連する声帯全長の浮腫、慢性喉頭炎はびまん性の発赤・肥厚、喉頭癌は潰瘍や白板を伴う不整な病変と、表面の性状と危険因子で鑑別します。病変の形態を組織構造と結びつけて読む姿勢は、内視鏡診断全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳の男性。2年前からはっきりした誘因なく嗄声が続き、咽喉の異物感と慢性の咳を伴う。 ・喫煙歴・飲酒歴はない。 ・白色光の喉頭内視鏡(A・B):前交連(左右の声帯が前方で合わさる部分。矢印)付近を中心に、声帯の表面が細かな顆粒状・乳頭状に隆起した病変を認める。表面は平滑ではなく、桑の実やカリフラワーのような凹凸がある。白色の角化(白板)や潰瘍は目立たない。 ・狭帯域光観察(narrow band imaging:NBI、青と緑の狭い波長の光で粘膜表層の血管を強調する内視鏡観察法)(C):病変部に一致して、小さな乳頭状隆起の一つひとつの中に茶褐色の点状の血管が規則的に並んでみえ、周囲の正常粘膜との境界が比較的明瞭である。
診断へのプロセス
嗄声の原因は、炎症(急性・慢性喉頭炎)、声の酷使などによる良性の隆起性病変(声帯結節、声帯ポリープ、ポリープ様声帯)、腫瘍(乳頭腫、癌)、声帯麻痺などに大別される。 本例は2年という長い経過で、喉頭癌・下咽頭癌の主要な危険因子である喫煙・飲酒がなく、悪性よりも良性疾患を考えやすい背景である。内視鏡では、声帯の浮腫や対称的な小隆起ではなく、表面が乳頭状に増殖した腫瘤性病変がみられる。NBIで乳頭状隆起ごとに中心の血管が点状にみえる所見は、乳頭腫の構造(乳頭の芯に血管を伴う線維血管性の間質があり、それを扁平上皮が覆う)をよく反映している。以上から喉頭乳頭腫が最も考えられる。確定診断には生検による病理組織検査を行い、扁平上皮癌との鑑別も行う。
選択肢考察
- ×a. 下咽頭癌
下咽頭癌は梨状陥凹・輪状後部・咽頭後壁に生じ、喫煙・飲酒が大きな危険因子である。初期は咽頭違和感や嚥下時痛が主で、嗄声は喉頭への浸潤や反回神経麻痺をきたして初めて現れることが多い。本例は危険因子がなく、病変は声帯そのものにあり下咽頭には腫瘤を認めないため、否定的である。
- ×b. 声帯結節
声帯結節は、声の酷使によって声帯の前1/3と中1/3の境界付近(膜様部の中央)に左右対称性に生じる、表面平滑な小さな隆起である。教師、歌手、保育士や、学童期の男児などに多い。本例の病変は表面が乳頭状で凹凸に富み、範囲も広いため、声帯結節とは合わない。
- ○c. 喉頭乳頭腫
ヒトパピローマウイルス(HPV、主に6型・11型)の感染による良性腫瘍で、声帯を中心に乳頭状・カリフラワー状の多発性の隆起を形成する。慢性に進行する嗄声で発症し、増大すれば喘鳴や呼吸困難をきたしうる。本例の白色光での乳頭状増殖と、NBIで乳頭ごとに点状の血管がみえ病変境界が明瞭になる所見は、本症に典型的である。喫煙・飲酒歴がなく長期経過である点も良性腫瘍に合致する。
- ×d. 慢性喉頭炎
慢性喉頭炎は、急性喉頭炎の反復、喫煙、声の酷使、後鼻漏、胃食道逆流などの持続的な刺激で生じ、喉頭粘膜のびまん性の発赤・腫脹・肥厚がみられる。ときに粘稠な分泌物や白苔を伴うが、本例のような限局した乳頭状の腫瘤は形成しない。
- ×e. ポリープ様声帯
ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)は、声帯粘膜の直下にある粘膜固有層浅層(ラインケ腔)に浮腫が生じ、声帯の全長にわたって両側性に水っぽく膨らんだ状態である。長期の喫煙が最大の原因で、声の酷使も関与し、中年以降の喫煙者(女性に多いとされる)に好発し低く太い声となる。表面は平滑で半透明であり、本例の乳頭状病変とは異なる。喫煙歴がない点も合わない。
喉頭乳頭腫の概要
・病因:HPV(主に低リスク型の6型・11型)の感染による扁平上皮の良性腫瘍。病理学的には、線維血管性の芯をもつ乳頭状突起を重層扁平上皮が覆う。 ・好発:小児期発症(若年型)と成人期発症(成人型)の二峰性をとる。小児例は出産時の産道での母子感染が主な感染経路と考えられ、多発・再発しやすく、気道閉塞の危険が高い。成人例は孤立性のことも多いが、再発は少なくない。気管・気管支や肺へ広がることもある。 ・症状:嗄声が初発症状で、進行すると失声、喘鳴、呼吸困難をきたす。 ・診断:喉頭内視鏡で乳頭状・カリフラワー状の病変を確認し、生検で確定する。NBIでは、乳頭状隆起の中心に点状〜ループ状の血管がみえ、病変と正常粘膜の境界がわかりやすいため、病変の拾い上げや切除範囲の決定に役立つ。 ・治療:根治的な治療法は確立しておらず、喉頭微細手術による切除(CO2レーザー、マイクロデブリッダーなど)が中心である。再発を繰り返すことが多く、複数回の手術を要することがある。補助療法として抗ウイルス薬(シドフォビルなど)や抗VEGF抗体(ベバシズマブ)の局所投与・全身投与が試みられている。 ・予後:基本的に良性だが、まれに悪性化(扁平上皮癌)することがあり、特に喫煙者や放射線治療歴のある例で注意を要する。 ・予防:HPVワクチン(6型・11型を含む4価・9価ワクチン)は、母親への接種を通じて若年型の発症を減らす効果が期待されている。
嗄声をきたす主な声帯病変の見分け方
・声帯結節:両側対称、膜様部中央、表面平滑な小隆起。声の酷使。 ・声帯ポリープ:多くは片側性、膜様部の有茎性または広基性の表面平滑な隆起。声の酷使、喫煙。 ・ポリープ様声帯:両側の声帯全長にわたるびまん性浮腫。長期喫煙。 ・喉頭乳頭腫:乳頭状・カリフラワー状、多発しやすい。HPV感染。 ・喉頭癌(声門癌):不整な隆起・潰瘍・白板を伴う。喫煙が最大の危険因子で、高齢男性に多い。 ・喉頭白板症:声帯粘膜の白色の角化病変で、前癌病変として扱われる。
POINT
・喉頭乳頭腫はHPV(6型・11型)感染による良性腫瘍で、声帯に乳頭状・カリフラワー状の病変を形成する。 ・小児型と成人型の二峰性。再発しやすく、まれに悪性化する。 ・NBIでは乳頭ごとに点状の血管がみえ、病変の境界が明瞭になる。 ・治療はレーザーなどによる喉頭微細手術が中心で、根治は難しい。 ・声帯結節(両側対称・表面平滑)、ポリープ様声帯(喫煙・全長のびまん性浮腫)、癌(喫煙・飲酒、不整な潰瘍・白板)との鑑別が重要。
