StudyMed医師国家試験

「蓄えるホルモン」が下げるもの―インスリン作用を糖尿病性ケトアシドーシスの裏返しで読み解く

第114回医師国家試験 F問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第34問

インスリンの作用により血中濃度が低下するのはどれか。3つ選べ。

  1. a.尿酸
  2. b.カリウム
  3. c.ケトン体
  4. d.トリグリセリド
  5. e.総コレステロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、インスリンの作用で血中濃度が下がる物質を選ぶ問題だ。血糖以外への作用をどれだけ整理できているかが問われている。キーワードは「同化の促進と異化の抑制」。インスリンは食後に入ってきた栄養素を、肝臓・筋肉・脂肪組織にしまい込ませるホルモンなんだ。
医学生医学生
生化学の講義で、インスリンは唯一の血糖降下ホルモンだと習いました。でも血糖以外となると、ちょっと自信がないです。
ドクタードクター
それなら臓器別に考えるといい。肝臓ではグリコーゲン合成を進め、糖新生やケトン体産生を抑える。筋肉ではGLUT4を細胞膜に移動させてブドウ糖を取り込ませる。脂肪組織では中性脂肪の合成を進め、ホルモン感受性リパーゼを抑えて脂肪分解を止める。そしてもう一つ、電解質への作用がある。
医学生医学生
カリウムですね。腎臓内科の実習で、高カリウム血症の患者さんにグルコース・インスリン療法をしていました。
ドクタードクター
そう、それが一つ目の正解だ。インスリンは細胞膜のNa⁺/K⁺-ATPaseを活性化して、カリウムを主に骨格筋や肝臓の細胞内へ移動させる。だから血清カリウムが下がる。ブドウ糖を一緒に入れるのは、低血糖を防ぐためだよ。
医学生医学生
ケトン体も、インスリンがないと増えるイメージがあります。
ドクタードクター
正しい感覚だ。ケトン体は肝臓で脂肪酸がβ酸化されてできるアセチルCoAから作られる。インスリンは二段階でこれを抑える。まず脂肪組織での脂肪分解を抑えて、材料の遊離脂肪酸の放出を減らす。次に肝臓でマロニルCoAを増やしてカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIを抑え、脂肪酸がミトコンドリアに入ってβ酸化される流れを止めるんだ。
医学生医学生
材料の供給と工場の稼働の両方を止める感じですね。トリグリセリドはどうでしょう。インスリンは脂肪を作る方向だから、むしろ増えそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。ポイントは「組織の中に蓄える」のと「血中に浮いている」のを分けて考えること。インスリンは毛細血管内皮のリポ蛋白リパーゼ(LPL)を活性化して、カイロミクロンやVLDLの中性脂肪を分解し、脂肪酸を脂肪組織や筋肉に取り込ませる。さらに肝臓に流れ込む遊離脂肪酸が減るのでVLDLの産生も抑えられる。結果として血中のトリグリセリドは下がるんだ。
医学生医学生
血中から組織へ移して蓄えるから、血中濃度は下がるわけですね。じゃあ総コレステロールも同じように下がりますか。
ドクタードクター
そこは違う。総コレステロールはLDL、HDL、VLDLなどに含まれるコレステロールの総和で、インスリンによって血中濃度が一定方向に下がる作用は確立していない。肝臓でのコレステロール合成の律速酵素、HMG-CoA還元酵素については、インスリンはむしろ活性化する方向に働くとされている。コレステロールを下げる代表はこの酵素を阻害するスタチンだね。
医学生医学生
尿酸はどうですか。糖尿病の患者さんで尿酸値が高い人をよく見かけた気がします。
ドクタードクター
いい観察だ。インスリンに尿酸を下げる作用はなく、むしろ逆なんだ。インスリン抵抗性で高インスリン血症になると、腎の近位尿細管でナトリウムと一緒に尿酸の再吸収が亢進して、血清尿酸値は上がりやすくなる。肥満やメタボリックシンドロームで高尿酸血症が多い一因と考えられているよ。
医学生医学生
なるほど。下がるのはカリウム、ケトン体、トリグリセリドの3つで、尿酸と総コレステロールは外れるんですね。
ドクタードクター
その通り。この答えは、インスリンが極端に足りない状態を思い浮かべると確認できる。糖尿病性ケトアシドーシスでは何が起きているかな。
医学生医学生
高血糖に、ケトン体が増えてアシドーシス、それに中性脂肪も高くなって、カリウムも高めになります。
ドクタードクター
完璧だ。ただカリウムには注意が必要で、細胞外へのシフトで血清値は高めでも、浸透圧利尿で体内の総カリウム量は欠乏している。そこにインスリンを入れると細胞内に一気に戻って急速に低下するから、ケトアシドーシスの治療ではカリウムの補充とこまめなモニタリングが欠かせない。臨床でとても大事なポイントだよ。
医学生医学生
CBTの勉強ではただ暗記していましたが、ケトアシドーシスの裏返しで考えると全部つながりますね。
ドクタードクター
そう、生理作用と病態をセットにすると忘れにくい。ついでに、カリウムを細胞内に移すものとしてインスリンのほかにβ2刺激薬やアルカローシス、細胞外に出すものとしてインスリン欠乏、β遮断薬、アシドーシス、細胞崩壊も一緒に整理しておくといい。

まとめ

インスリンは同化を促進し異化を抑制するホルモンで、血糖だけでなく電解質や脂質代謝にも作用します。Na⁺/K⁺-ATPaseを活性化してカリウムを細胞内へ移動させ、脂肪分解と肝でのβ酸化を抑えてケトン体産生を抑制し、リポ蛋白リパーゼを活性化して血中トリグリセリドを低下させます。一方、総コレステロールを下げる作用は確立しておらず、尿酸は高インスリン血症で腎での再吸収が亢進しむしろ上昇しやすくなります。インスリン欠乏の極型である糖尿病性ケトアシドーシスでは高血糖・高ケトン体血症・高トリグリセリド血症・見かけ上の高カリウム血症が生じ、治療時にはカリウムの急低下に注意が必要です。生理作用と病態を表裏で理解することが、GI療法やケトアシドーシス管理といった臨床判断に直結します。

解答・解説

正解はb, c, dです

インスリンは膵ランゲルハンス島のβ細胞から分泌される、生体で唯一の血糖降下ホルモンである。その作用は「同化(エネルギーを蓄える方向)の促進」と「異化(蓄えを分解する方向)の抑制」の一言にまとめられる。食後に血中へ入ってきた栄養素を、肝臓・筋肉・脂肪組織に取り込ませて貯蔵させるのがインスリンの役割である。 主な作用を臓器別に整理すると次のとおりである。 ・肝臓:グリコーゲン合成促進、糖新生・グリコーゲン分解の抑制、脂肪酸・中性脂肪合成の促進、ケトン体産生の抑制 ・骨格筋:GLUT4(インスリン依存性のブドウ糖輸送体)を細胞膜へ移動させてブドウ糖を取り込ませる、蛋白合成促進 ・脂肪組織:ブドウ糖取り込みと中性脂肪合成の促進、ホルモン感受性リパーゼの抑制による脂肪分解の抑制、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性化 ・電解質:Na⁺/K⁺-ATPaseを活性化してカリウムを細胞内へ移動させる 設問は「インスリンの作用によって血中濃度が下がるもの」を問うている。各物質について、インスリンが直接その血中濃度を下げる方向に働くかを考えると、カリウム(細胞内へ移動)、ケトン体(産生抑制)、トリグリセリド(LPLによる分解・取り込み促進)が該当する。尿酸と総コレステロールについては、インスリンがそれらの血中濃度を下げる作用は確立していない。逆に、インスリン作用が不足する糖尿病性ケトアシドーシスでは、高血糖に加えて高ケトン体血症、高トリグリセリド血症、体内総量は欠乏しているにもかかわらず血清カリウムが高値(細胞外へのシフト)を示すことが多く、裏返しとして理解しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  尿酸

    誤り。インスリンが血中尿酸濃度を低下させる作用はない。むしろ、インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症の状態では、腎の近位尿細管でナトリウムの再吸収とともに尿酸の再吸収が亢進し、尿酸の排泄が減って血清尿酸値は上昇しやすい。メタボリックシンドロームや肥満の患者に高尿酸血症が多いのは、この機序が一因と考えられている。

  2. ○b.  カリウム

    正しい。インスリンは細胞膜のNa⁺/K⁺-ATPase(ナトリウムポンプ)を活性化し、細胞外のカリウムを細胞内(主に骨格筋と肝臓)へ移動させるため、血清カリウム値は低下する。この作用を利用したのが高カリウム血症の緊急治療として行うグルコース・インスリン(GI)療法であり、ブドウ糖は低血糖を防ぐために併用する。また、糖尿病性ケトアシドーシスの治療でインスリンを投与すると血清カリウムが急速に低下するため、カリウムの補充とモニタリングが必要になる。

  3. ○c.  ケトン体

    正しい。ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)は、肝臓で脂肪酸がβ酸化されて生じるアセチルCoAから作られる。インスリンは、①脂肪組織のホルモン感受性リパーゼを抑制して脂肪分解を抑え、ケトン体の材料となる遊離脂肪酸の放出を減らす、②肝臓での脂肪酸のミトコンドリアへの取り込みとβ酸化を抑え(マロニルCoAの増加によるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIの抑制)、ケトン体産生を抑制する、という二段階で血中ケトン体を低下させる。インスリンが著しく欠乏すると、この抑制が外れて糖尿病性ケトアシドーシスに至る。

  4. ○d.  トリグリセリド

    正しい。インスリンは毛細血管内皮に存在するリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を高める。LPLはカイロミクロンやVLDLに含まれるトリグリセリド(中性脂肪)を脂肪酸とグリセロールに分解し、脂肪酸は脂肪組織や筋肉に取り込まれる。その結果、血中のトリグリセリドは低下する。さらに、脂肪組織での脂肪分解が抑えられ、肝臓へ流入する遊離脂肪酸が減ることで、肝臓でのVLDL産生も抑えられる。インスリン作用が不足するとLPL活性低下と遊離脂肪酸の増加により高トリグリセリド血症となり、糖尿病の治療で血糖が改善するとトリグリセリドも低下することをよく経験する。

  5. ×e.  総コレステロール

    誤り。総コレステロールは、血中のLDL、HDL、VLDLなどのリポ蛋白に含まれるコレステロールの総和である。インスリンは肝臓でコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を活性化する方向に働くとされるが、血中の総コレステロール濃度を一定方向に大きく変化させる作用は明らかではなく、インスリンの作用で血中濃度が低下する物質とはいえない。血中コレステロールを下げる薬剤の代表は、HMG-CoA還元酵素を阻害するスタチンである。

インスリンと拮抗ホルモン

血糖を上げるホルモン(インスリン拮抗ホルモン)には、グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンがある。これらは糖新生、グリコーゲン分解、脂肪分解を促進し、インスリンと逆の方向に働く。

インスリン作用不足で起こる代謝変化(糖尿病性ケトアシドーシスを例に)

・高血糖:筋・脂肪組織への糖の取り込み低下、肝臓での糖新生亢進 ・高ケトン体血症・代謝性アシドーシス:脂肪分解亢進→遊離脂肪酸増加→肝でケトン体産生亢進 ・高トリグリセリド血症:LPL活性低下と肝でのVLDL産生増加 ・血清カリウム:細胞外への移動により高値~正常を示すが、浸透圧利尿で体内総カリウム量は欠乏している。インスリン投与で急激に低下するため補充が必要。

カリウムの細胞内外の移動に影響する因子

・細胞内へ移動(血清K低下):インスリン、β2刺激薬(カテコールアミン)、アルカローシス ・細胞外へ移動(血清K上昇):インスリン欠乏、β遮断薬、アシドーシス、高浸透圧、細胞崩壊(横紋筋融解、腫瘍崩壊症候群、溶血) 高カリウム血症の治療では、カルシウム製剤(心筋の膜安定化)、GI療法・β2刺激薬・炭酸水素ナトリウム(細胞内への移動)、陽イオン交換樹脂・利尿薬・透析(体外への除去)を組み合わせる。

インスリン抵抗性と高尿酸血症

高インスリン血症は腎での尿酸再吸収を高めて血清尿酸値を上げる方向に働く。肥満・メタボリックシンドロームでは高尿酸血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高血圧が集積しやすい。

POINT

・インスリン=同化促進・異化抑制の唯一の血糖降下ホルモン ・血中濃度を下げるもの:ブドウ糖、カリウム(Na⁺/K⁺-ATPase活性化で細胞内へ)、ケトン体(脂肪分解・ケトン体産生の抑制)、遊離脂肪酸、トリグリセリド(LPL活性化) ・高カリウム血症の緊急治療にGI療法 ・高インスリン血症では尿酸の腎再吸収が亢進し、尿酸値はむしろ上昇しやすい ・総コレステロールはインスリンで低下するとはいえない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。