命を救う酸素が目と肺を傷つける―早産児の酸素毒性を読み解く
第114回医師国家試験 F問題 第30問
国試問題にチャレンジ
高濃度酸素が誘因となる早産児の合併症はどれか。2つ選べ。
- a.壊死性腸炎
- b.頭蓋内出血
- c.慢性肺疾患
- d.未熟児貧血
- e.未熟児網膜症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
早産児は抗酸化防御の仕組みが未熟なため、高濃度酸素による酸化ストレスで組織が傷つきやすく、特に影響を受けるのが発達途中の網膜血管と肺です。未熟児網膜症は、高濃度酸素による網膜血管の伸長停止と、その後の相対的低酸素によるVEGF過剰で新生血管が増殖して起こり、慢性肺疾患(気管支肺異形成)は酸素毒性に人工換気による肺損傷や炎症が加わって肺胞・肺血管の発達が妨げられて起こります。一方、壊死性腸炎は腸管虚血、脳室内出血は脳血流の変動や低酸素、未熟児貧血はエリスロポエチン産生の未熟性などが主な原因で、高濃度酸素は誘因ではありません。早産児ではSpO2を高すぎず低すぎない範囲に保つ酸素管理が重要です。合併症をその誘因ごとに整理しておくことは、NICUでの予防的な管理を理解する土台になります。
解答・解説
正解はc, eです
本問は、早産児の代表的な合併症のうち、酸素投与が過剰であることが発症の誘因になるものを選ぶ問題である。 早産児は肺が未熟で、呼吸窮迫症候群などのため酸素投与や人工呼吸管理が必要になることが多い。しかし早産児は、酸素から生じる活性酸素を消す抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼなど)や抗酸化物質の働きが弱い。そのため高濃度の酸素にさらされると、酸化ストレスで組織が傷つきやすい。酸素毒性の影響を特に受けやすいのは、発達途中の網膜血管と肺である。 網膜では、高濃度酸素によって血管の伸長が止まる。その後、網膜が相対的に低酸素になると、血管内皮増殖因子〈VEGF〉が過剰に作られて異常な血管が増える。これが未熟児網膜症である。肺では、酸素毒性に人工換気による圧・容量の負荷(圧損傷・容量損傷)や炎症が加わり、肺胞と肺血管の発達が妨げられる。これが慢性肺疾患である。 ほかの選択肢の合併症は、主に虚血・循環変動・造血の未熟性によって起こり、高濃度酸素が直接の誘因ではない。
選択肢考察
- ×a. 壊死性腸炎
壊死性腸炎は、腸管の粘膜から壁全層に虚血性の壊死が起こる疾患である。腸管の虚血(新生児仮死、動脈管開存症による腸管血流の低下など)、腸管の未熟性、細菌感染、人工乳による経腸栄養などが重なって発症する。極低出生体重児に多く、腹部膨満、胆汁性嘔吐、血便が見られる。腹部X線では腸管壁内ガス像が特徴的である。母乳栄養には予防効果がある。高濃度酸素は誘因ではない。
- ×b. 頭蓋内出血
早産児の頭蓋内出血で代表的なのは脳室内出血である。側脳室の近くにある上衣下胚芽層(germinal matrix)は血管がもろく、脳血流の自動調節能も未熟なため、出血が起こりやすい。誘因は、血圧や脳血流の急な変動、低酸素、高二酸化炭素血症、気胸、急速な輸液などである。生後数日以内、特に72時間以内に起こりやすい。このほか、ビタミンK欠乏による出血傾向も新生児の頭蓋内出血の原因になる。いずれも高濃度酸素が誘因ではない。
- ○c. 慢性肺疾患
慢性肺疾患(気管支肺異形成〈BPD〉を含む)は、早産児の肺が出生後に障害を受けて起こる慢性の呼吸障害である。一般に、日齢28を超えても酸素投与が必要な状態を指す。高濃度酸素による酸化ストレスが主な誘因の一つであり、人工換気による圧損傷・容量損傷、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)、動脈管開存症などによる炎症も加わって発症する。これらにより肺胞の数が減り、肺胞が単純化し、肺血管の発達も妨げられる。予防には、酸素濃度と換気圧をできるだけ低く抑えることが重要である。正しい。
- ×d. 未熟児貧血
未熟児貧血は、生後数週〜2か月頃に見られる早産児の貧血である。次のような原因が重なって起こる。 ・腎臓からのエリスロポエチン産生が未熟で、貧血になってもあまり増えない。 ・胎児期に鉄などの造血材料を十分に蓄えられていない。 ・赤血球の寿命が短い。 ・体重が急に増えて循環血液量が増える。 ・検査のための採血が多い。 高濃度酸素とは関係しない。治療ではエリスロポエチン製剤や鉄剤が使われ、重症例では輸血を行う。誤り。
- ○e. 未熟児網膜症
網膜の血管は胎生期に視神経乳頭から周辺部へ伸びていき、在胎36〜40週頃に完成する。早産児では網膜血管がまだ周辺部まで届いていない。この状態で高濃度酸素にさらされると、血管が収縮し、伸長も止まる。その後、血管のない網膜が相対的に低酸素になると、VEGFが過剰に作られる。その結果、異常な新生血管と線維血管増殖が起こり、重症例では牽引性網膜剝離から失明に至る。在胎週数が短く出生体重が小さいほど起こりやすい。高濃度酸素は代表的な誘因であり、正しい。早産児には眼底検査による定期的なスクリーニングを行い、進行例には網膜光凝固術や抗VEGF薬の硝子体内注射で治療する。
早産児・低出生体重児の主な合併症
呼吸器: 呼吸窮迫症候群(肺サーファクタント欠乏による)、慢性肺疾患、未熟児無呼吸発作 循環器: 動脈管開存症 中枢神経: 脳室内出血、脳室周囲白質軟化症(脳の虚血による) 消化器: 壊死性腸炎 眼: 未熟児網膜症 血液: 未熟児貧血、高ビリルビン血症 代謝: 低血糖、低カルシウム血症、未熟児くる病(骨代謝性疾患) 感染症: 敗血症など
新生児・早産児への酸素投与
酸素は低酸素症の治療に欠かせないが、過剰に投与すると未熟児網膜症や慢性肺疾患の危険を高める。逆に、酸素飽和度の目標を低くしすぎると死亡率が上がるという報告もある。そのため早産児では、SpO2を100%にせず、おおむね90%台前半〜半ばを目安に、高すぎも低すぎもしない範囲に保つ管理が行われる。新生児の蘇生でも、早産児では低い酸素濃度から始め、SpO2を見ながら調節することが推奨されている。
酸素毒性の機序
高濃度酸素の下では、スーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素種が過剰に作られる。これらが脂質・タンパク質・DNAを傷つける。早産児は抗酸化防御の仕組みが未熟なため、この障害を受けやすい。
POINT
・高濃度酸素が誘因となる早産児の合併症は、未熟児網膜症と慢性肺疾患(気管支肺異形成)の2つである。 ・未熟児網膜症は、高濃度酸素による網膜血管の伸長停止と、その後のVEGF過剰による新生血管の増殖で起こる。 ・壊死性腸炎は腸管虚血、脳室内出血は脳血流の変動、未熟児貧血はエリスロポエチン産生の未熟性などが主な原因である。 ・早産児では、SpO2を高くしすぎない酸素管理が重要である。
