StudyMed医師国家試験

命を救う酸素が目と肺を傷つける―早産児の酸素毒性を読み解く

第114回医師国家試験 F問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第30問

高濃度酸素が誘因となる早産児の合併症はどれか。2つ選べ。

  1. a.壊死性腸炎
  2. b.頭蓋内出血
  3. c.慢性肺疾患
  4. d.未熟児貧血
  5. e.未熟児網膜症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早産児の合併症のうち、高濃度酸素が誘因になるものを選ぶ問題だ。早産児の合併症はたくさんあるけれど、それぞれ何が引き金になるのかを整理しておくと迷わない。まず、なぜ早産児は酸素に弱いのか考えてみよう。
医学生医学生
肺が未熟で酸素投与が必要になることが多い、というのは分かるんですが、酸素そのものが害になるのはなぜでしょう。
ドクタードクター
鍵は活性酸素だ。高濃度の酸素の下ではスーパーオキシドや過酸化水素などが過剰に作られ、脂質やタンパク質、DNAを傷つける。成熟した体ならスーパーオキシドジスムターゼやカタラーゼといった抗酸化酵素で処理できるけれど、早産児ではその防御の仕組みがまだ弱いんだ。
医学生医学生
生化学の講義で習った活性酸素の消去系が、ここで臨床につながるんですね。
ドクタードクター
その通り。そして酸化ストレスの影響を特に受けやすいのが、発達途中の網膜血管と肺。つまり答えは未熟児網膜症と慢性肺疾患の2つだ。まず未熟児網膜症から説明しよう。網膜の血管は胎生期に視神経乳頭から周辺部へ伸びていき、在胎36〜40週頃に完成する。
医学生医学生
早産児では、その血管がまだ周辺部まで届いていないということですね。
ドクタードクター
そう。そこで高濃度酸素にさらされると、血管が収縮して伸長が止まってしまう。その後、血管のない網膜が相対的に低酸素になると、VEGFが過剰に作られて異常な新生血管が増える。重症では線維血管増殖から牽引性網膜剝離を起こし、失明に至ることもある。
医学生医学生
酸素が多すぎて止まり、そのあと足りなくなって暴走する、という2段階なんですね。眼科の実習で、抗VEGF薬の硝子体注射を見学したのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。未熟児網膜症も進行例では網膜光凝固術や抗VEGF薬で治療する。在胎週数が短く出生体重が小さいほど起こりやすいから、早産児には眼底検査で定期的にスクリーニングを行うんだ。次は慢性肺疾患。気管支肺異形成とも呼ばれるね。
医学生医学生
日齢28を超えても酸素が必要な状態、と小児科の講義で聞きました。原因は酸素だけですか。
ドクタードクター
酸素毒性が主な誘因の一つだけど、それだけではない。人工換気による圧損傷・容量損傷、絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染、動脈管開存症による炎症も重なる。その結果、肺胞の数が減って構造が単純化し、肺血管の発達も妨げられるんだ。だから予防には、酸素濃度も換気圧もできるだけ低く抑えることが大事になる。
医学生医学生
では壊死性腸炎はどうでしょう。早産児で重症になる代表的な病気なので、酸素も関係しそうに思えました。
ドクタードクター
迷うところだね。でも壊死性腸炎の中心にあるのは腸管の虚血だ。新生児仮死や動脈管開存症による腸管血流の低下に、腸管の未熟性、細菌感染、人工乳による経腸栄養が重なって起こる。腹部膨満や血便、腹部X線での腸管壁内ガス像が特徴で、母乳栄養に予防効果がある。高濃度酸素は誘因ではないよ。
医学生医学生
頭蓋内出血は、低酸素が誘因になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう、むしろ低酸素や高二酸化炭素血症、血圧や脳血流の急な変動が引き金になる。早産児では側脳室近くの上衣下胚芽層の血管がもろく、脳血流の自動調節能も未熟なので脳室内出血を起こしやすい。生後72時間以内に多いのが特徴だ。新生児ではビタミンK欠乏による出血も原因になるけれど、いずれも高濃度酸素とは関係しない。
医学生医学生
未熟児貧血は造血の問題なので、酸素とは別の話ですよね。
ドクタードクター
その通り。腎臓からのエリスロポエチン産生が未熟なこと、鉄の蓄えが少ないこと、赤血球寿命が短いこと、体重増加で循環血液量が増えること、そして検査の採血が多いことが重なって、生後数週〜2か月頃に起こる。治療はエリスロポエチン製剤や鉄剤で、重症なら輸血だ。
医学生医学生
原因で分けると、網膜症と慢性肺疾患は酸素、壊死性腸炎は虚血、脳室内出血は脳血流の変動、貧血は造血の未熟性、と整理できますね。
ドクタードクター
見事な整理だ。最後に臨床での注意点。酸素は過剰でも害になるけれど、逆に酸素飽和度の目標を低くしすぎると死亡率が上がるという報告もある。だから早産児ではSpO2を100%にせず、おおむね90%台前半〜半ばを目安に、高すぎず低すぎない範囲で管理するんだ。新生児蘇生でも、早産児では低い酸素濃度から始めてSpO2を見ながら調節することが推奨されている。
医学生医学生
NICUの実習でアラームの設定範囲が上にも下にもあって不思議だったんですが、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
そう、上限のアラームは酸素毒性から赤ちゃんを守るためのものなんだ。酸素は薬と同じで、適量を見極めて使うものだと覚えておこう。

まとめ

早産児は抗酸化防御の仕組みが未熟なため、高濃度酸素による酸化ストレスで組織が傷つきやすく、特に影響を受けるのが発達途中の網膜血管と肺です。未熟児網膜症は、高濃度酸素による網膜血管の伸長停止と、その後の相対的低酸素によるVEGF過剰で新生血管が増殖して起こり、慢性肺疾患(気管支肺異形成)は酸素毒性に人工換気による肺損傷や炎症が加わって肺胞・肺血管の発達が妨げられて起こります。一方、壊死性腸炎は腸管虚血、脳室内出血は脳血流の変動や低酸素、未熟児貧血はエリスロポエチン産生の未熟性などが主な原因で、高濃度酸素は誘因ではありません。早産児ではSpO2を高すぎず低すぎない範囲に保つ酸素管理が重要です。合併症をその誘因ごとに整理しておくことは、NICUでの予防的な管理を理解する土台になります。

解答・解説

正解はc, eです

本問は、早産児の代表的な合併症のうち、酸素投与が過剰であることが発症の誘因になるものを選ぶ問題である。 早産児は肺が未熟で、呼吸窮迫症候群などのため酸素投与や人工呼吸管理が必要になることが多い。しかし早産児は、酸素から生じる活性酸素を消す抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼなど)や抗酸化物質の働きが弱い。そのため高濃度の酸素にさらされると、酸化ストレスで組織が傷つきやすい。酸素毒性の影響を特に受けやすいのは、発達途中の網膜血管と肺である。 網膜では、高濃度酸素によって血管の伸長が止まる。その後、網膜が相対的に低酸素になると、血管内皮増殖因子〈VEGF〉が過剰に作られて異常な血管が増える。これが未熟児網膜症である。肺では、酸素毒性に人工換気による圧・容量の負荷(圧損傷・容量損傷)や炎症が加わり、肺胞と肺血管の発達が妨げられる。これが慢性肺疾患である。 ほかの選択肢の合併症は、主に虚血・循環変動・造血の未熟性によって起こり、高濃度酸素が直接の誘因ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  壊死性腸炎

    壊死性腸炎は、腸管の粘膜から壁全層に虚血性の壊死が起こる疾患である。腸管の虚血(新生児仮死、動脈管開存症による腸管血流の低下など)、腸管の未熟性、細菌感染、人工乳による経腸栄養などが重なって発症する。極低出生体重児に多く、腹部膨満、胆汁性嘔吐、血便が見られる。腹部X線では腸管壁内ガス像が特徴的である。母乳栄養には予防効果がある。高濃度酸素は誘因ではない。

  2. ×b.  頭蓋内出血

    早産児の頭蓋内出血で代表的なのは脳室内出血である。側脳室の近くにある上衣下胚芽層(germinal matrix)は血管がもろく、脳血流の自動調節能も未熟なため、出血が起こりやすい。誘因は、血圧や脳血流の急な変動、低酸素、高二酸化炭素血症、気胸、急速な輸液などである。生後数日以内、特に72時間以内に起こりやすい。このほか、ビタミンK欠乏による出血傾向も新生児の頭蓋内出血の原因になる。いずれも高濃度酸素が誘因ではない。

  3. ○c.  慢性肺疾患

    慢性肺疾患(気管支肺異形成〈BPD〉を含む)は、早産児の肺が出生後に障害を受けて起こる慢性の呼吸障害である。一般に、日齢28を超えても酸素投与が必要な状態を指す。高濃度酸素による酸化ストレスが主な誘因の一つであり、人工換気による圧損傷・容量損傷、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)、動脈管開存症などによる炎症も加わって発症する。これらにより肺胞の数が減り、肺胞が単純化し、肺血管の発達も妨げられる。予防には、酸素濃度と換気圧をできるだけ低く抑えることが重要である。正しい。

  4. ×d.  未熟児貧血

    未熟児貧血は、生後数週〜2か月頃に見られる早産児の貧血である。次のような原因が重なって起こる。 ・腎臓からのエリスロポエチン産生が未熟で、貧血になってもあまり増えない。 ・胎児期に鉄などの造血材料を十分に蓄えられていない。 ・赤血球の寿命が短い。 ・体重が急に増えて循環血液量が増える。 ・検査のための採血が多い。 高濃度酸素とは関係しない。治療ではエリスロポエチン製剤や鉄剤が使われ、重症例では輸血を行う。誤り。

  5. ○e.  未熟児網膜症

    網膜の血管は胎生期に視神経乳頭から周辺部へ伸びていき、在胎36〜40週頃に完成する。早産児では網膜血管がまだ周辺部まで届いていない。この状態で高濃度酸素にさらされると、血管が収縮し、伸長も止まる。その後、血管のない網膜が相対的に低酸素になると、VEGFが過剰に作られる。その結果、異常な新生血管と線維血管増殖が起こり、重症例では牽引性網膜剝離から失明に至る。在胎週数が短く出生体重が小さいほど起こりやすい。高濃度酸素は代表的な誘因であり、正しい。早産児には眼底検査による定期的なスクリーニングを行い、進行例には網膜光凝固術や抗VEGF薬の硝子体内注射で治療する。

早産児・低出生体重児の主な合併症

呼吸器: 呼吸窮迫症候群(肺サーファクタント欠乏による)、慢性肺疾患、未熟児無呼吸発作 循環器: 動脈管開存症 中枢神経: 脳室内出血、脳室周囲白質軟化症(脳の虚血による) 消化器: 壊死性腸炎 眼: 未熟児網膜症 血液: 未熟児貧血、高ビリルビン血症 代謝: 低血糖、低カルシウム血症、未熟児くる病(骨代謝性疾患) 感染症: 敗血症など

新生児・早産児への酸素投与

酸素は低酸素症の治療に欠かせないが、過剰に投与すると未熟児網膜症や慢性肺疾患の危険を高める。逆に、酸素飽和度の目標を低くしすぎると死亡率が上がるという報告もある。そのため早産児では、SpO2を100%にせず、おおむね90%台前半〜半ばを目安に、高すぎも低すぎもしない範囲に保つ管理が行われる。新生児の蘇生でも、早産児では低い酸素濃度から始め、SpO2を見ながら調節することが推奨されている。

酸素毒性の機序

高濃度酸素の下では、スーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素種が過剰に作られる。これらが脂質・タンパク質・DNAを傷つける。早産児は抗酸化防御の仕組みが未熟なため、この障害を受けやすい。

POINT

・高濃度酸素が誘因となる早産児の合併症は、未熟児網膜症と慢性肺疾患(気管支肺異形成)の2つである。 ・未熟児網膜症は、高濃度酸素による網膜血管の伸長停止と、その後のVEGF過剰による新生血管の増殖で起こる。 ・壊死性腸炎は腸管虚血、脳室内出血は脳血流の変動、未熟児貧血はエリスロポエチン産生の未熟性などが主な原因である。 ・早産児では、SpO2を高くしすぎない酸素管理が重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。