やせると十二指腸が挟まれる?―連続CTで上腸間膜動脈を見つけ出せ
第114回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
健常人の腹部造影CTの連続スライス(A)~(F)を別に示す。 急激な体重減少などにより腹部大動脈との間隙に十二指腸が挟まれ,食後の嘔吐や腸閉塞の原因となり得る血管はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
上腸間膜動脈症候群は、腹部大動脈と上腸間膜動脈(SMA)の間を通る十二指腸水平部が、急激な体重減少などで両者の間の脂肪が減ることにより挟まれ、食後の嘔吐や腸閉塞をきたす病態です。造影CTの連続スライスでは、腹腔動脈が大動脈から真前に短く出てすぐ分岐するのに対し、SMAはその尾側で前方に出てから尾側へ下行し、大動脈の腹側に円形断面として何枚も追跡できる点で区別します。腎動脈は大動脈の側方から出るため十二指腸を挟むことはなく、膵背側の太い血管は門脈系の静脈です。治療は胃管減圧と栄養療法による体重回復が基本で、同じ隙間で左腎静脈が挟まれるナットクラッカー症候群も併せて押さえておきましょう。解剖と画像を結びつけて血管を同定する力は、腹部CT読影の基礎として臨床で欠かせません。
解答・解説
正解はcです
問題文が述べているのは上腸間膜動脈症候群(上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症)である。十二指腸の水平部(第3部)は後腹膜に固定されており、後ろの腹部大動脈と前の上腸間膜動脈(SMA)の間をくぐって左へ走る。急激な体重減少などで両血管の間の脂肪組織が減ると、SMAが大動脈から分かれる角度と両者の距離が小さくなり、十二指腸水平部が挟まれて通過障害を起こす。したがって、画像の中からSMAを特定すればよい。
画像の読み方
スライスはAが頭側、Fが尾側の順に並んでいる。腹部大動脈の前面からは、頭側から順に腹腔動脈、SMAが分かれ、そのやや尾側で左右の腎動脈が側方へ分かれる。両者を区別する手がかりは次のとおりである。 ・腹腔動脈:大動脈からほぼ真前に短く出て、すぐに総肝動脈・脾動脈・左胃動脈に分かれる。 ・SMA:腹腔動脈より尾側で前方に分かれ、その後は尾側へ斜めに下っていく。そのため連続スライスでは、大動脈の前方に小さな円形の断面として何枚にもわたって見え続ける。 本問の画像では、②がスライスA・Bで大動脈から前方へ出る血管であり、腹腔動脈にあたる。③はスライスDで大動脈の前面から分かれ、スライスE・Fでは大動脈の腹側に円形の断面として追跡できるので、尾側へ下行するSMAである。①は膵臓の背側を走る門脈系の太い静脈、④は大動脈から右へ向かう右腎動脈、⑤は左腎に入る左腎動脈である。
選択肢考察
- ×a. ①
①はスライスA〜Cで、膵頸部から膵体部の背側にみえる太い血管である。脾静脈と上腸間膜静脈が合流して門脈となる部位にあたり、門脈系の静脈と考えられる。静脈であり、大動脈との間に十二指腸を挟み込む血管ではない。
- ×b. ②
②はスライスA・Bで腹部大動脈の前面からほぼ真前に向かって分かれている。③より頭側で分かれており、腹腔動脈である。腹腔動脈は分岐後すぐに総肝動脈・脾動脈・左胃動脈に分かれ、胃・肝臓・脾臓・膵臓などの上腹部臓器を栄養する。十二指腸水平部より頭側にあり、十二指腸を大動脈との間に挟むことはない。なお、腹腔動脈が正中弓状靱帯に圧迫されて起こる病態は正中弓状靱帯圧迫症候群であり、上腸間膜動脈症候群とは別の病態である。
- ○c. ③
③はスライスDで腹腔動脈より尾側の大動脈前面から分かれる。スライスE・Fでは大動脈の腹側を下る円形の断面として連続してみえ、尾側へ斜めに走行する上腸間膜動脈(SMA)である。十二指腸水平部はSMAと腹部大動脈の間を通る。急激な体重減少や長期臥床、側弯症手術後などで両血管の間の距離と角度が狭くなると、十二指腸水平部が圧迫される。その結果、食後の腹部膨満・嘔吐などの通過障害(上腸間膜動脈症候群)が起こる。
- ×d. ④
④はスライスD・Eで腹部大動脈から右外側へ向かう血管で、下大静脈の背側を通って右腎に至る右腎動脈である。SMAとほぼ同じ高さで分かれるため紛らわしいが、前方ではなく側方へ走る点で区別できる。十二指腸を大動脈との間で挟む血管ではない。
- ×e. ⑤
⑤はスライスFで腹部大動脈から左外側へ出て左腎門に入る血管で、左腎動脈である。腎動脈は大動脈の側方から出るため、十二指腸を挟み込むことはない。なお、SMAと大動脈の間で挟まれる構造には十二指腸のほかに左腎静脈がある。左腎静脈が挟まれて起こる病態はナットクラッカー症候群であり、左腎動脈が原因となるわけではない。
上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)
・病態:十二指腸水平部が、SMAと腹部大動脈の間で圧迫されて通過障害をきたす。両血管の間には通常、脂肪組織やリンパ組織があり、これがクッションとなって十二指腸の通り道が保たれている。 ・誘因:急激な体重減少(神経性やせ症、悪性腫瘍、熱傷、重症疾患、肥満手術後など)、長期臥床、ギプス固定、側弯症手術後、内臓下垂、やせ型の体型。 ・症状:食後の上腹部膨満感・腹痛、胆汁性嘔吐。症状は仰臥位で悪化し、腹臥位・膝胸位・左側臥位で軽くなることが多い。 ・検査:腹部X線で胃・十二指腸の拡張がみられる。上部消化管造影では十二指腸水平部で、SMAの走行に一致して縦方向に途絶する所見がみられる。造影CTでは、SMAと大動脈のなす角度や両者の距離の減少を確認する。 ・治療:まず保存療法を行う。胃管による減圧、補液と栄養療法(経腸栄養チューブを圧迫部より遠位に留置するなど)、食後の体位工夫を行い、体重を回復させて脂肪組織を増やす。改善しなければ十二指腸空腸吻合術などの手術を考える。
SMAと大動脈の間を通る構造
頭側から順に、左腎静脈、十二指腸水平部(第3部)が通る。左腎静脈が挟まれるとナットクラッカー症候群となり、血尿、左精索静脈瘤、左側腹部痛などを起こす。
腹部大動脈の主な分枝(おおよその椎体高位)
・腹腔動脈:第12胸椎〜第1腰椎 ・上腸間膜動脈:第1腰椎 ・腎動脈:第1〜2腰椎 ・下腸間膜動脈:第3腰椎 ・総腸骨動脈への分岐:第4腰椎
POINT
・上腸間膜動脈症候群は、十二指腸水平部がSMAと腹部大動脈の間に挟まれて起こる通過障害である。急激なやせが誘因となる。 ・造影CTでは、腹腔動脈は大動脈から真前に短く出てすぐ分岐し、SMAはその尾側で前方に出てから尾側へ下行する。 ・腎動脈は大動脈から側方へ出る。右腎動脈は下大静脈の背側を通る。 ・SMAと大動脈の間で左腎静脈が挟まれるとナットクラッカー症候群になる。
