心拍があっても呼吸がなければ換気を―新生児蘇生の第一歩はマスク換気
第114回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
日齢0の新生児。在胎39週5日,経腟分娩で出生した。啼泣が弱く,保温および口腔内の羊水の吸引と皮膚への刺激を行った。出生後30秒の時点で自発呼吸を認めず,心拍数110/分であった。 まず行うべき対応はどれか。
- a.気管挿管
- b.胸骨圧迫
- c.生理食塩液の静脈内投与
- d.アドレナリンの静脈内投与
- e.バッグバルブマスクによる人工呼吸
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児蘇生では、初期処置(保温、体位保持と気道開通、必要に応じた吸引、皮膚の乾燥と刺激)の後、出生後約30秒で呼吸と心拍数を評価し、「自発呼吸なし」または「心拍数100/分未満」のいずれかがあれば人工呼吸を開始します。人工呼吸はバッグバルブマスクなどによるマスク換気から始め、同時に右手にSpO2モニターを装着し、正期産児では空気から換気を開始します。人工呼吸を行っても心拍数60/分未満なら胸骨圧迫(3:1)を加えて気管挿管を考慮し、それでも改善しなければアドレナリンや、失血が疑われる場合の容量負荷へ進みます。新生児の徐脈・心停止の主因は低酸素であるため、心拍が保たれていても呼吸がなければ有効な換気を最優先するという原則が重要です。評価の指標と数字の基準を正確に覚えておくことは、実際の分娩現場で迷わず行動するための土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・在胎39週5日で出生した正期産児(在胎37週0日〜41週6日)で、経腟分娩である。 ・出生直後の啼泣が弱く、蘇生の初期処置(保温、口腔内の羊水吸引による気道開通、皮膚刺激)が行われた。 ・出生後30秒(初期処置後)の評価で、自発呼吸がなく、心拍数は110/分である。
新生児蘇生の流れに沿った考え方
日本の新生児蘇生法(NCPR:Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation)のアルゴリズムでは、出生直後に「早産児か」「弱い呼吸・啼泣か」「筋緊張が低下しているか」を確認し、一つでも当てはまれば初期処置を行う。本例は啼泣が弱いため初期処置の対象となり、適切に実施されている。 初期処置の後(出生後おおむね30秒)には「呼吸」と「心拍数」の2つを評価する。自発呼吸がない(またはあえぎ呼吸である)場合、あるいは心拍数が100/分未満の場合は、どちらか一方を満たすだけで人工呼吸(陽圧換気)の適応となり、同時にSpO2モニターを装着する。本例は心拍数こそ110/分と100/分以上を保っているが、自発呼吸がないため人工呼吸を開始する必要がある。 新生児の蘇生では、出生時の呼吸の確立不全(低酸素)が徐脈や心停止の主な原因であり、有効な換気を行うことが最も重要な処置となる。人工呼吸はまずバッグバルブマスク(またはTピース蘇生装置、流量膨張式バッグ)とマスクで行い、多くの児はこれだけで心拍が保たれ自発呼吸が出現する。 心拍数は保たれているので、胸骨圧迫や薬物投与・輸液の段階には進まない。
選択肢考察
- ×a. 気管挿管
気管挿管は人工呼吸を確実に行うための手段の一つであるが、新生児蘇生ではまずマスクによる換気を開始するのが原則で、多くの児はマスク換気だけで回復する。気管挿管は、マスク換気を行っても胸の上がりが不十分で換気が有効でない場合、心拍数が改善しない場合(60〜100/分未満が続く場合)、胸骨圧迫を開始する場合、胎便による気道閉塞が疑われる場合などに検討する。手技に時間がかかり換気の中断を招きうるため、本例の段階で最初に行う処置ではない。
- ×b. 胸骨圧迫
新生児の胸骨圧迫は、有効な人工呼吸を30秒間行っても心拍数が60/分未満のままである場合に、人工呼吸と組み合わせて行う(胸骨圧迫3回:人工呼吸1回の比率)。本例は心拍数110/分と保たれており、胸骨圧迫の適応はない。心拍のある児に胸骨圧迫を行うことは不要であるだけでなく、心拍出を妨げる可能性がある。
- ×c. 生理食塩液の静脈内投与
新生児蘇生における生理食塩液(容量負荷)の投与は、人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍数60/分未満が続き、かつ胎盤早期剥離や臍帯からの出血などで循環血液量の減少(失血)が疑われる場合に、臍帯静脈などから行う。本例は心拍数が保たれ、失血を疑う情報もないため適応はない。
- ×d. アドレナリンの静脈内投与
アドレナリンは、十分な人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍数60/分未満が持続する場合に投与を検討する薬剤であり、経路は臍帯静脈などからの静脈内投与が推奨される。本例のように心拍数が100/分以上ある児への投与は適応がなく、頻脈・高血圧・不整脈などの有害作用を招くため行ってはならない。
- ○e. バッグバルブマスクによる人工呼吸
初期処置後の評価で「自発呼吸なし」または「心拍数100/分未満」のいずれかがあれば人工呼吸の適応である。本例は心拍数110/分であるが、自発呼吸を認めないため人工呼吸を開始する。新生児ではバッグバルブマスクなどを用いたマスク換気をまず行い、同時にSpO2モニターを右手(動脈管より上流の部位)に装着して酸素化と心拍を監視する。換気は1分間に40〜60回程度で、胸が軽く上がることを確認しながら行う。正期産児では空気(室内気)での換気から開始し、SpO2の値を見ながら酸素濃度を調整する。
NCPR(日本版新生児蘇生法)アルゴリズムの概要
1.出生直後のチェック:早産児/弱い呼吸・啼泣/筋緊張低下の3項目を確認する。いずれもなければルーチンケア(保温、気道開通、皮膚の乾燥)を母親のそばで行う。 2.初期処置:一つでも該当すれば、保温、体位保持(気道が開通しやすい「スニッフィングポジション」)、必要に応じた口腔・鼻腔の吸引、皮膚の乾燥と刺激を行う。 3.呼吸と心拍の評価(出生後約30秒):自発呼吸なし(あえぎ呼吸を含む)または心拍数100/分未満 → 人工呼吸(マスク換気)を開始し、SpO2モニターを装着する(心電図モニターの装着も考慮)。自発呼吸があり心拍数100/分以上でも、努力呼吸やチアノーゼがあればSpO2モニターを付け、CPAP(持続陽圧呼吸)や酸素投与を考慮する。 4.人工呼吸開始後約30秒で再評価:心拍数60/分未満 → 人工呼吸と胸骨圧迫(3:1)を行い、気管挿管を考慮する。心拍数60〜100/分未満 → 換気が有効か(マスクの密着、気道の開通、胸の上がり)を確認し、気管挿管を検討する。 5.人工呼吸+胸骨圧迫でも心拍数60/分未満が続く → アドレナリン投与、失血が疑われれば生理食塩液などによる容量負荷を検討する。
新生児蘇生の特徴
成人の心停止の多くは不整脈など心臓自体の問題に起因するのに対し、新生児の徐脈・心停止は呼吸の確立不全による低酸素が主な原因である。このため、新生児蘇生では「有効な換気」が最優先とされ、評価のたびに換気の質を確認する。評価は約30秒ごとに呼吸と心拍数を指標として行い、段階的に処置を追加していく。
Apgarスコアとの関係
Apgarスコア(心拍数、呼吸、筋緊張、反射、皮膚色の5項目、各0〜2点)は出生後1分・5分に評価する児の状態の指標であり、蘇生処置を開始するかどうかの判断には用いない。蘇生は1分を待たずに、上記の評価に基づいて開始する。
POINT
・初期処置(保温、体位保持、気道開通、皮膚乾燥と刺激)後に「自発呼吸なし」または「心拍数100/分未満」→ 人工呼吸(まずマスク換気)+SpO2モニター装着。 ・人工呼吸を行っても心拍数60/分未満 → 胸骨圧迫を追加(3:1)、気管挿管を考慮。 ・人工呼吸+胸骨圧迫でも心拍数60/分未満 → アドレナリン、失血が疑われれば容量負荷。 ・新生児蘇生で最も重要なのは有効な換気であり、心拍数が保たれていても自発呼吸がなければ人工呼吸を始める。 ・評価は約30秒ごと、指標は呼吸と心拍数。
