高齢者の初めての失神―まず疑うべきは「心臓」、最初の一手は心電図
第114回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
70歳台の女性が初めての失神を主訴に救急外来を受診した。 血糖測定とともにまず行うべき検査はどれか。
- a.脳波検査
- b.頸椎MRI
- c.心電図検査
- d.頸動脈エコー検査
- e.胸部エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
失神は脳全体の一過性血流低下による意識消失で、反射性失神、起立性低血圧、心原性失神の3つに大別されます。頻度は反射性が最多ですが、突然死につながりうる心原性失神を最初に評価することが鉄則で、特に高齢者の初回失神は心原性のリスクが高い状況です。そのため初期評価では病歴聴取・身体診察(臥位・立位の血圧を含む)とともに12誘導心電図を全例に行い、低血糖の除外には血糖測定を併用します。脳波、頸動脈エコー、頸椎MRI、胸部エックス線は失神の初期評価としては優先されず、心電図異常や労作時・臥位の失神、突然死の家族歴などがあれば入院のうえモニター・心エコーなどの精査に進みます。「頻度より危険度で優先順位をつける」という発想は、救急診療全般に通じる重要な考え方です。
解答・解説
正解はcです
失神とは
失神(syncope)は、脳全体の血流が一過性に低下することで起こる、意識と姿勢保持能力(筋緊張)の一過性の消失で、発症が急速で持続が短く、自然かつ完全に回復するものをいう。原因は大きく、①反射性(神経調節性)失神、②起立性低血圧による失神、③心原性失神の3つに分けられる。
初期評価の考え方
失神の原因として頻度が高いのは反射性失神(血管迷走神経性失神など)で、多くは予後良好である。一方、心原性失神(不整脈や器質的心疾患による失神)は頻度こそ低いものの、突然死につながりうるため、救急外来では「見逃してはならない心原性失神を最初に評価する」ことが鉄則である。 ガイドラインでは、失神患者の初期評価として、①詳細な病歴聴取(発症時の状況、前駆症状、体位、既往歴、内服薬、突然死の家族歴など)、②身体診察(臥位・立位の血圧測定を含む)、③12誘導心電図の3つを全例に行うことが推奨されている。心電図は非侵襲的・短時間・低コストで、徐脈性不整脈(洞不全症候群、房室ブロック)、頻脈性不整脈、Brugada症候群やQT延長症候群などの遺伝性不整脈、急性冠症候群、心肥大などの手がかりを得られる。
本問のポイント
70歳台という高齢での初回の失神は、心原性失神のリスクが相対的に高い状況である。意識消失をきたす病態の鑑別として低血糖を簡便に除外できる血糖測定とあわせて、まず行うべきは心電図検査である。心電図や病歴で心原性が疑われれば、心電図モニター、心エコー、ホルター心電図、採血(トロポニン、BNPなど)へと進める。
選択肢考察
- ×a. 脳波検査
脳波検査は、一過性意識消失がてんかん発作によるものかどうかを評価するのに有用である。てんかん発作は失神と鑑別すべき病態だが、発作間欠期の脳波で異常が出ないことも多く、救急外来で最初に行う検査ではない。病歴(発作後のもうろう状態、舌咬傷など)からてんかんが疑われる場合に、後日行うのが一般的である。
- ×b. 頸椎MRI
頸椎MRIは、頸椎症や頸部脊柱管狭窄症、脊髄病変など脊椎・脊髄疾患の評価に用いる検査である。脊髄病変は脳全体の血流低下をきたさないため失神の原因にはならず、失神の初期評価として行う意義はない。失神に伴う転倒で頸部を受傷し、神経症状がある場合などに限って検討される。
- ○c. 心電図検査
12誘導心電図は失神の初期評価で全例に行うべき基本検査である。生命予後に直結する心原性失神の原因、すなわち高度房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈(Adams-Stokes発作)、心室頻拍などの頻脈性不整脈、WPW症候群、Brugada症候群、QT延長症候群、急性冠症候群、肥大型心筋症を示唆する所見などを、非侵襲的かつ迅速に評価できる。高齢者の初回失神では心原性の可能性を念頭に置き、最優先で行う。
- ×d. 頸動脈エコー検査
頸動脈エコー検査は、頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)やプラーク、狭窄の有無を評価する検査で、動脈硬化の評価や脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)の原因検索に用いられる。片側の頸動脈狭窄では脳全体の血流低下は起こりにくく、失神の原因となることはまれであるため、救急外来でまず行う検査ではない。
- ×e. 胸部エックス線撮影
胸部エックス線撮影では心拡大、肺うっ血、縦隔拡大(大動脈解離の手がかり)などを評価でき、失神の原因検索の参考にはなる。しかし特異的な情報は乏しく、心原性失神の主因である不整脈は評価できない。必要に応じて追加する検査であり、心電図より優先されるものではない。
失神の分類
1.反射性(神経調節性)失神:最も頻度が高い。 ・血管迷走神経性失神:長時間の立位、痛み、恐怖、精神的ストレスなどが誘因。前駆症状(冷汗、悪心、眼前暗黒感)を伴いやすい。 ・状況失神:排尿、排便、咳嗽、嚥下などの特定の状況で起こる。 ・頸動脈洞症候群:頸部の圧迫や回旋、きついネクタイなどで誘発される。高齢者に多い。 2.起立性低血圧による失神:自律神経障害(糖尿病、パーキンソン病など)、薬剤(降圧薬、利尿薬、α遮断薬など)、脱水・出血による循環血液量減少が原因。 3.心原性失神: ・不整脈:洞不全症候群、高度房室ブロック、心室頻拍、遺伝性不整脈(Brugada症候群、QT延長症候群)など ・器質的心疾患:大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症(閉塞性)、急性心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離、心タンポナーデなど
失神と鑑別すべき一過性意識消失
てんかん発作、低血糖、低酸素血症、薬物中毒、心因性偽性失神などは、脳血流の低下を機序としないため狭義の失神には含まれないが、鑑別が必要である。本問で血糖測定を行うのは、低血糖を簡便かつ速やかに除外するためである。なお、TIAが意識消失のみを呈することはまれである。
心原性失神を疑う特徴(高リスク所見)
・高齢、器質的心疾患や心不全の既往 ・労作中や臥位での失神、前駆症状のない突然の失神、動悸に引き続く失神 ・突然死の家族歴 ・心電図異常(房室ブロック、脚ブロック、QT延長、Brugada型心電図、病的Q波、持続性・非持続性心室頻拍など) これらがある場合は入院のうえ、心電図モニター、心エコー、ホルター心電図、植込み型ループレコーダー、電気生理学的検査などで精査する。
POINT
・失神の初期評価は「病歴聴取・身体診察(起立時の血圧測定を含む)・12誘導心電図」の3点セットである。 ・最も頻度が高いのは反射性失神だが、最も危険なのは心原性失神であり、まず心原性を評価する。 ・高齢者の初回失神、労作時・臥位の失神、前駆症状のない失神、突然死の家族歴、心電図異常は心原性を疑う。 ・脳波、頸動脈エコー、頭部・頸椎画像検査は失神の初期評価としてルーチンには行わない。
