StudyMed医師国家試験

麻疹・水痘・結核―「空気で広がる3つ」を押さえて感染経路別予防策を整理しよう

第114回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第25問

麻疹ウイルスと同様の感染経路別予防策を要するのはどれか。

  1. a.A群レンサ球菌
  2. b.ムンプスウイルス
  3. c.水痘帯状疱疹ウイルス
  4. d.多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉
  5. e.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は院内感染対策の基本、感染経路別予防策の問題だ。麻疹ウイルスがどの経路で広がるかを思い出し、それと同じ予防策が必要な病原体を選ぶ。病原体ごとの「広がり方」を軸に整理すると迷わなくなるよ。まず、すべての患者に共通して行う対策は何だったかな。
医学生医学生
標準予防策、スタンダードプリコーションです。OSCEの前に手指衛生の手順を何度も練習しました。
ドクタードクター
そうだね。血液・体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚や粘膜を感染性があるものとして扱う、というのが標準予防策。それに上乗せして、病原体の伝播様式に応じて行うのが感染経路別予防策で、空気予防策、飛沫予防策、接触予防策の3種類がある。では、麻疹はどれに当たる?
医学生医学生
麻疹は感染力がとても強いので……空気感染だったと思います。
ドクタードクター
正解。咳やくしゃみで出た飛沫から水分が蒸発すると、直径5μm以下の飛沫核になる。これは軽いので長時間空気中を漂い、同じ部屋にいなかった人にまで感染しうる。これが空気感染で、麻疹はその代表なんだ。
医学生医学生
飛沫感染とはどう違うんでしょうか。どちらも咳で広がるイメージがあって混同しがちです。
ドクタードクター
違いは粒子の大きさと飛ぶ距離だ。飛沫は5μmより大きく、重いのでおおむね1〜2m以内に落ちる。だから近くにいる人にしかうつりにくい。空気感染は遠くまで届くから、陰圧で換気された空気感染隔離室に収容して、入室者はN95マスクを着ける、という特別な対策が必要になるんだ。
医学生医学生
空気感染するのは、麻疹、水痘、結核の3つでしたよね。微生物学の講義で語呂合わせで覚えました。
ドクタードクター
そう、この3つは確実に押さえよう。選択肢の中では水痘帯状疱疹ウイルスが該当し、これが正解だ。水痘患者や、播種性帯状疱疹、免疫不全者の帯状疱疹では空気予防策をとる。さらに水疱の内容物からも感染するので接触予防策も併用し、すべての皮疹が痂皮化するまで続けるんだ。
医学生医学生
帯状疱疹でも空気予防策が必要になることがあるんですね。皮膚科の実習で見た普通の帯状疱疹の患者さんは、大部屋にいた気がします。
ドクタードクター
いい観察だね。免疫正常者の限局性帯状疱疹なら、病変を覆ったうえで標準予防策でよいとされている。播種性か、免疫不全かどうかで対応が変わる点が要注意だ。それに麻疹や水痘の患者さんのケアには、既往やワクチン接種で免疫をもつ職員が当たるのも大事なポイントだよ。
医学生医学生
ムンプスも子どもの間ですごく広がるので、空気感染かと一瞬迷いました。
ドクタードクター
感染力が強いと空気感染に見えてしまうよね。でもムンプスウイルスは唾液の飛沫や、唾液のついた手指や物を介して広がる。院内では飛沫予防策、つまり個室管理とサージカルマスクが基本で、耳下腺腫脹の出現後5日間程度続ける。風疹やインフルエンザ、百日咳も同じ飛沫予防策のグループだ。
医学生医学生
A群レンサ球菌も咽頭炎を起こすので、飛沫予防策でしょうか。
ドクタードクター
その通り。咽頭炎や猩紅熱、肺炎、侵襲性感染症では主に飛沫予防策で、有効な抗菌薬を始めて24時間たてば解除できる。ただ、広範な皮膚病変や創部感染がある場合は接触予防策も加える。いずれにしても空気予防策の対象ではないね。
医学生医学生
残りのMRSAと多剤耐性緑膿菌は、手を介して広がる接触感染ですよね。
ドクタードクター
そう。MRSAは鼻腔や皮膚、創部に定着しやすく、MDRPは流し台や吸引器のような湿った環境を好む。どちらも医療従事者の手指や器具、環境表面を介して広がるから、手指衛生の徹底、入室時の手袋・ガウン、聴診器や血圧計の患者専用化といった接触予防策をとる。VREやESBL産生菌などの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス、疥癬も接触予防策の仲間だ。
医学生医学生
C. difficileやノロウイルスはアルコールが効きにくいと聞きました。
ドクタードクター
よく知っているね。その場合は流水と石けんでの手洗いや、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒が必要になる。予防策の種類だけでなく、消毒法まで病原体の性質に合わせて選ぶのが実践的な感染対策なんだ。もう一つ臨床での注意点を挙げると、空気感染する疾患は診断がつく前に外来の待合室で広がってしまうことがある。発熱と発疹の患者や、長引く咳の患者は早めに別室へ誘導する、というトリアージの段階から感染対策は始まっているんだよ。

まとめ

院内感染対策は全患者に行う標準予防策を基本とし、病原体の伝播様式に応じて空気予防策・飛沫予防策・接触予防策の感染経路別予防策を追加します。麻疹は5μm以下の飛沫核が長時間空気中を漂う空気感染の代表で、同じく空気予防策(陰圧個室、N95マスク)を要するのは水痘帯状疱疹ウイルスと結核菌です。ムンプスやA群レンサ球菌の咽頭炎などは飛沫予防策、MRSAやMDRPなどの薬剤耐性菌は接触予防策の対象となります。水痘・播種性帯状疱疹では接触予防策も併用し、麻疹や水痘のケアには免疫をもつ職員が当たることも重要です。病原体ごとの「広がり方」を理解しておくことは、試験対策にとどまらず、患者と医療者自身を守る日常診療の基本になります。

解答・解説

正解はcです

感染経路別予防策とは

院内感染対策の基本は、すべての患者に対して行う標準予防策(スタンダードプリコーション:血液・体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜を感染性があるものとして扱い、手指衛生や個人防護具を用いる)である。これに加えて、感染力の強い病原体や疫学的に重要な病原体に感染・保菌している患者に対し、その病原体の伝播様式に応じて行うのが感染経路別予防策であり、「空気予防策」「飛沫予防策」「接触予防策」の3種類がある。

麻疹ウイルスの感染経路

麻疹ウイルスは、咳やくしゃみで放出された飛沫の水分が蒸発してできる飛沫核(直径5μm以下の微小な粒子)に乗って長時間空気中を漂い、離れた場所にいる人にも感染する。これが空気感染(飛沫核感染)であり、麻疹はその代表である。空気予防策として、陰圧に管理された空気感染隔離室への収容、入室者のN95マスク着用、免疫をもつ職員によるケアなどが必要となる。

本問の考え方

空気感染する病原体として押さえておくべきなのは、麻疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、結核菌の3つである。選択肢のうち空気予防策を要するのは水痘帯状疱疹ウイルスであり、これが正解となる。その他は、A群レンサ球菌とムンプスウイルスが主に飛沫予防策、MDRPとMRSAが接触予防策の対象である。

選択肢考察

  1. ×a.  A群レンサ球菌

    A群レンサ球菌(化膿レンサ球菌、Streptococcus pyogenes)は咽頭炎、猩紅熱、伝染性膿痂疹、蜂窩織炎、劇症型溶血性レンサ球菌感染症などの原因となる。咽頭炎や肺炎、猩紅熱、侵襲性感染症では主に飛沫で伝播するため飛沫予防策(サージカルマスク、個室または集団隔離)をとり、有効な抗菌薬投与開始後24時間で解除できる。広範な皮膚病変や創部感染がある場合は接触予防策も加える。いずれにしても空気予防策の対象ではない。

  2. ×b.  ムンプスウイルス

    ムンプスウイルスは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因ウイルスで、唾液の飛沫や、唾液が付着した手指・物品を介して感染する。院内では飛沫予防策(サージカルマスク着用、個室管理)が基本で、耳下腺腫脹の出現後5日間程度継続する。飛沫は比較的大きな粒子(5μmより大きい)ですぐに落下するため、空気予防策までは要しない。

  3. ○c.  水痘帯状疱疹ウイルス

    水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、麻疹ウイルス・結核菌と並ぶ代表的な空気感染の病原体である。水痘患者や、播種性帯状疱疹・免疫不全者の帯状疱疹の患者には、陰圧個室での管理、入室時のN95マスク着用などの空気予防策をとる。水疱内容物からの接触感染も起こるため接触予防策も併用し、すべての皮疹が痂皮化するまで継続する。ケアには水痘の既往またはワクチン接種で免疫をもつ職員が当たる。

  4. ×d.  多剤耐性緑膿菌〈MDRP〉

    多剤耐性緑膿菌(MDRP:multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa)は、カルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系の3系統の抗菌薬すべてに耐性を示す緑膿菌である。緑膿菌は湿潤環境(流し台、加湿器、吸引器など)を好み、医療従事者の手指や医療器具、環境表面を介して広がる。接触予防策(手指衛生の徹底、手袋・ガウンの着用、器具の患者専用化)の対象である。

  5. ×e.  メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉

    MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)は、β-ラクタム系抗菌薬に低親和性のペニシリン結合蛋白(PBP2')を産生し、多くのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示す黄色ブドウ球菌である。鼻腔や皮膚、創部に定着しやすく、主に医療従事者の手指や物品を介して伝播する。代表的な院内感染菌であり、接触予防策の対象である。

感染経路別予防策の整理

1.空気予防策(空気感染:飛沫核〈5μm以下〉が空気中を長時間浮遊し、遠くまで到達する) ・対象:麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)、結核 ・対策:陰圧で換気回数の多い空気感染隔離室(排気は屋外へ、またはHEPAフィルターを通す)、ドアは閉めておく、入室者はN95マスクを着用、患者が移動する際はサージカルマスクを着用させる。麻疹・水痘では免疫のある職員がケアに当たる。 2.飛沫予防策(飛沫感染:5μmより大きい飛沫が咳・くしゃみ・会話で放出され、おおむね1〜2m以内に落下する) ・対象:インフルエンザ、風疹、ムンプス、百日咳、A群レンサ球菌感染症(咽頭炎・肺炎など)、マイコプラズマ肺炎、髄膜炎菌感染症、インフルエンザ菌b型(Hib)感染症など ・対策:個室管理(困難なら同じ病原体の患者を同室にする集団隔離、ベッド間隔をあける)、患者に近づく際はサージカルマスクを着用する。特別な空調は不要である。 3.接触予防策(接触感染:患者や汚染された物品・環境との直接・間接的な接触で伝播する) ・対象:MRSA、MDRP、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、ESBL産生菌などの薬剤耐性菌、Clostridioides difficile、ノロウイルス・ロタウイルスなどの感染性胃腸炎、疥癬、流行性角結膜炎など ・対策:手指衛生の徹底、入室時の手袋・ガウン着用、聴診器や血圧計などの器具の患者専用化、環境の清拭消毒。C. difficileやノロウイルスはアルコールが効きにくいため、流水と石けんでの手洗いや次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を行う。

複数の予防策を併用する例

水痘・播種性帯状疱疹では空気予防策と接触予防策を併用する。免疫正常者の限局性帯状疱疹は、病変を覆ったうえで標準予防策でよいとされる。

POINT

・空気感染する病原体は「麻疹・水痘(播種性帯状疱疹)・結核」の3つを確実に覚える。 ・空気予防策:陰圧個室、N95マスク。飛沫予防策:個室または集団隔離、サージカルマスク。接触予防策:手袋・ガウン、器具の専用化。 ・ムンプス、A群レンサ球菌(咽頭炎など)は飛沫予防策、MRSA・MDRPなどの薬剤耐性菌は接触予防策。 ・感染経路別予防策は標準予防策に追加して行うものである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。