10cmの筋腫が乱すのは「周期」か「量」か―子宮筋腫の症状を器質と内分泌で切り分ける
第114回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
直径10cmの子宮筋層内筋腫が原因となって生じ得るのはどれか。
- a.片頭痛
- b.無排卵
- c.過多月経
- d.希発月経
- e.月経前症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
子宮筋腫は子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、エストロゲン依存性に増大しますが、それ自体は排卵や卵巣ホルモン分泌に影響しません。そのため無排卵・希発月経・月経前症候群といった視床下部-下垂体-卵巣系に由来する病態は起こさず、代表的な症状は過多月経と鉄欠乏性貧血、月経痛、圧迫症状、不妊です。過多月経は粘膜下筋腫で最も起こりやすいものの、直径10cmのような大きな筋層内筋腫でも内腔の拡大・変形や子宮収縮不良によって生じ得ます。「周期の異常は内分泌、量の異常は器質」という整理は、月経異常の鑑別全般に役立つ基本的な考え方です。
解答・解説
正解はcです
子宮筋腫は子宮の平滑筋から発生する良性腫瘍で、生殖年齢女性に非常に多い。症状は筋腫の「発生部位」と「大きさ」によって決まり、卵巣ホルモンの分泌や排卵そのものを障害する腫瘍ではない、という点が本問を解く鍵である。 筋腫は子宮壁内での位置により、粘膜下筋腫(内膜直下で子宮内腔へ突出)、筋層内筋腫(子宮筋層の中にとどまる)、漿膜下筋腫(子宮の外側へ突出)に分けられる。月経血量の増加は内腔を変形させる粘膜下筋腫で最も起こりやすいが、筋層内筋腫であっても直径10cmに達するような大きなものでは、子宮内腔が引き伸ばされて内膜の面積が広がること、子宮筋の収縮が妨げられて月経時の止血が不十分になること、子宮の血流やうっ血が増えることなどにより、過多月経を生じ得る。 一方、選択肢のうち無排卵・希発月経・月経前症候群はいずれも視床下部-下垂体-卵巣系(排卵と卵巣ホルモン分泌の調節系)の働きに関係する病態であり、片頭痛は神経系の疾患である。子宮という「器官の形態」の異常である筋腫とは機序が異なるため、筋腫の直接の結果としては生じない。このように「器質的な異常か、内分泌(排卵)の異常か」で選択肢を振り分けると正解に到達できる。
選択肢考察
- ×a. 片頭痛
誤り。片頭痛は女性に多い一次性(機能性)頭痛で、月経は代表的な誘因の一つである。月経前後にエストロゲンが急に低下することが発作の引き金になると考えられており(月経関連片頭痛)、ホルモン変動とは関係がある。しかし子宮筋腫という子宮の腫瘤そのものが片頭痛を起こす機序はない。
- ×b. 無排卵
誤り。無排卵は視床下部・下垂体・卵巣のいずれかの機能障害によって卵胞が成熟・排卵に至らない状態である。思春期や更年期のように視床下部-下垂体-卵巣系が未熟あるいは衰えている時期、多囊胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、体重減少やストレスなどが原因となる。子宮筋腫は卵巣機能やゴナドトロピン分泌に影響しないので、排卵は保たれる。
- ○c. 過多月経
正しい。子宮筋腫は器質的な過多月経の代表的な原因である(ほかに子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなど)。粘膜下筋腫で最も顕著だが、10cm大の筋層内筋腫では子宮内腔が拡大・変形して出血する内膜の面積が増えること、筋層の収縮不良により月経時に血管が十分に締め付けられず止血しにくいこと、子宮血流の増加などにより月経血量が増える。過多月経が続くと鉄欠乏性貧血をきたし、それが受診のきっかけになることも多い。
- ×d. 希発月経
誤り。希発月経は月経周期が39日以上3か月未満に延長した状態である。卵胞の発育が遅れて卵胞期が延びる場合や、無排卵周期症によって起こり、排卵機構の異常に基づく周期の異常である。子宮筋腫は周期を決める内分泌系に影響しないため、月経周期を延長させない。筋腫で変化するのは周期ではなく月経血の量や月経痛である。
- ×e. 月経前症候群
誤り。月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)は排卵後の黄体期、とくに月経開始前3〜10日ほどの間に繰り返し現れる精神症状(いらいら、抑うつ、不安など)や身体症状(乳房痛、腹部膨満感、むくみ、頭痛など)で、月経の開始とともに軽快・消失する。排卵後の卵巣ホルモンの変動に対する反応と考えられており、子宮筋腫は原因とならない。
子宮筋腫の概要
子宮平滑筋由来の良性腫瘍で、30〜40歳代に多く、エストロゲン依存性に増大する。閉経後は縮小する傾向がある。多発することも多い。
発生部位による分類と症状の特徴
・粘膜下筋腫:子宮内腔に突出する。小さくても過多月経・不正出血・不妊・流産の原因となりやすい。有茎性のものは子宮口から脱出する(筋腫分娩)ことがある。 ・筋層内筋腫:最も頻度が高い。大きくなると内腔を変形させ、過多月経や月経痛、不妊の原因となる。 ・漿膜下筋腫:月経異常は起こしにくく、大きくなって周囲臓器を圧迫するまで無症状のことが多い。有茎性では茎捻転による急性腹症を起こすことがある。
大きな筋腫でみられる主な症状
・過多月経とそれに伴う鉄欠乏性貧血 ・月経痛(月経困難症) ・圧迫症状:膀胱圧迫による頻尿、直腸圧迫による便秘、骨盤内静脈・尿管の圧迫による下肢浮腫や水腎症 ・下腹部腫瘤の触知 ・不妊・流産
月経周期に関する用語の整理
・正常の月経周期:25〜38日 ・頻発月経:24日以下 ・希発月経:39日以上3か月未満 ・続発性無月経:3か月以上月経がない 周期の異常は主に排卵・内分泌の異常を、月経血量の異常(過多月経・過少月経)は主に子宮の器質的異常を反映することが多い。
POINT
・子宮筋腫は排卵や卵巣ホルモン分泌に影響せず、月経周期の異常(希発月経・無排卵)は起こさない。 ・子宮筋腫の代表症状は過多月経(→鉄欠乏性貧血)、月経痛、圧迫症状(頻尿・便秘)、不妊である。 ・過多月経は粘膜下筋腫で最も起こりやすいが、大きな筋層内筋腫でも生じる。 ・月経前症候群は黄体期に症状が出て月経開始とともに消失する。
