StudyMed医師国家試験

食事を始めたら胸水が真っ白に―術後乳び胸を決める「たった一つの検査値」

第114回医師国家試験 D問題 第63問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第63問

A 65-year-old woman was diagnosed with stage IB right lung cancer. She underwent right lower lobectomy with lymph node dissection for the cancer. She developed a milky white pleural effusion of 860mL, which was drained after starting meals on the first postoperative day.  Which pleural effusion test should be performed for a definitive diagnosis?

  1. a.Protein
  2. b.Bacteria
  3. c.Triglyceride
  4. d.Malignant cells
  5. e.White blood cells

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語の問題で、肺癌手術の後に出てきた乳白色の胸水をどう確定診断するか、というテーマだ。注目してほしいのは、どんな手術をしたか、排液が増えたきっかけが何か、そして排液の色。この3つを結びつけると疾患がぐっと絞り込めるよ。
医学生医学生
リンパ節郭清をして、食事を始めたら白い排液……。乳び胸でしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。なぜそう考えたのか、もう少し理屈を言葉にしてみようか。
医学生医学生
解剖の講義で、胸管が縦隔を通ると習いました。郭清のときに胸管を傷つけたのかなと思いました。
ドクタードクター
その通り。胸管は乳び槽から始まって大動脈裂孔から胸腔に入り、下部では椎体の右前方を上がって、途中で左へ移って左静脈角に注ぐ。縦隔リンパ節郭清では、この胸管やその枝を損傷することがあるんだ。では、なぜ食事がきっかけになるのかな。
医学生医学生
脂肪がリンパ管から吸収されるから……でしたっけ。
ドクタードクター
そう。食事中の長鎖脂肪酸は小腸でカイロミクロンという大きなリポ蛋白に組み込まれ、リンパ管から胸管を通って静脈へ運ばれる。だから胸管が傷ついていると、食事を始めた途端にカイロミクロンを含んだ白いリンパ液、つまり乳びが胸腔に漏れ出すわけだ。
医学生医学生
ということは、確定診断にはカイロミクロンの存在を示せばいいんですね。カイロミクロンの中身は……中性脂肪でしたか。
ドクタードクター
正解。カイロミクロンの大部分はトリグリセリド、中性脂肪だ。だから胸水のトリグリセリドを測るのが基本になる。目安として110mg/dL以上なら乳び胸と診断でき、50mg/dL未満ならほぼ否定的。その間の値ならリポ蛋白電気泳動でカイロミクロンを証明する。胸水と血清のトリグリセリド比が1を超えることも参考になるよ。
医学生医学生
でも、見た目が真っ白なら、わざわざ測らなくても分かりそうな気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。乳白色の胸水には、乳び胸のほかに偽乳び胸と膿胸がある。偽乳び胸は結核性胸膜炎や関節リウマチなどで胸水が長く溜まって起こり、コレステロールが高くてコレステロール結晶が見えるけれど、カイロミクロンはない。膿胸は遠心分離すると上清が透明になるが、乳びは濁ったまま。外観だけでは決められないから、生化学で裏付けるんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ蛋白はどうでしょう。胸水といえばLightの基準をCBTで必死に覚えました。
ドクタードクター
Lightの基準は漏出性か滲出性かを分けるためのものだね。乳び胸の胸水は蛋白濃度が症例によってまちまちで、どちらの値もとりうる。だから蛋白では乳び胸を確定できない。
医学生医学生
術後なので、感染も心配になります。細菌検査はいらないんですか。
ドクタードクター
術後膿胸を疑うなら細菌検査は必要だよ。でも今回は発熱など感染を示す記載がなく、食事を契機に白くなったという経過は乳び胸に典型的。しかも乳びには静菌作用があって通常は無菌だから、細菌を調べても乳び胸の確定にはならない。
医学生医学生
肺癌の手術後だから悪性細胞も気になりましたが、根治術の直後に食事で急に出てくるのは不自然ですね。
ドクタードクター
そういうこと。悪性胸水なら胸膜播種でM1aになるけれど、IB期で切除したばかりの時期に、食事を契機に生じた乳白色胸水を癌性胸膜炎で説明するのは無理がある。白血球も同様で、乳び胸ではリンパ球優位になるのが一般的だけど、リンパ球優位の胸水は結核や悪性胸水でも見られるから特異的じゃない。
医学生医学生
つまり、カイロミクロンの主成分を直接測るトリグリセリドだけが、乳び胸に特異的な検査なんですね。
ドクタードクター
よくまとまったね。最後に治療と臨床での注意点も押さえておこう。保存的治療が基本で、ドレナージを続けながら絶食と中心静脈栄養にするか、脂肪制限食にする。中鎖脂肪酸、つまりMCTは門脈から吸収されてリンパ流を増やさないから、MCTを使った食事が使える。オクトレオチドや胸膜癒着療法も選択肢だ。
医学生医学生
臨床実習の呼吸器外科で、術後のドレーン排液の色と量を毎朝チェックしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
その観察こそが早期発見の鍵なんだ。乳びにはリンパ球や蛋白、脂肪がたくさん含まれているから、漏出が続くと低栄養や免疫不全を招く。排液量が多くて保存的治療で改善しなければ、胸管結紮術やリンパ管塞栓術を考える。食道癌手術や心臓大血管手術の後にも起こりうるから、外科系を回るときはぜひ意識しておいてほしい。

まとめ

縦隔リンパ節郭清を伴う肺癌手術や食道癌手術の後、食事開始を契機に乳白色の胸腔ドレーン排液が増えた場合は、胸管損傷による術後乳び胸を疑います。食事中の長鎖脂肪酸はカイロミクロンとしてリンパ管・胸管を通って運ばれるため、確定診断には主成分である胸水トリグリセリドを測定し、110mg/dL以上で診断、50mg/dL未満でほぼ否定、中間値ではカイロミクロンの証明を追加します。乳白色の外観は偽乳び胸(コレステロール高値・結晶あり)や膿胸(遠心後に上清透明・細菌あり)でもみられるため、外観だけで判断しないことが重要で、蛋白・細菌・細胞診・白血球はいずれも乳び胸に特異的ではありません。治療は絶食と中心静脈栄養やMCT食、オクトレオチドなどの保存的治療が基本で、難治例では胸管結紮などを考慮します。胸管の解剖と脂質吸収の生理を結びつけて理解しておくと、術後管理の場面で迷わず判断できるようになります。

解答・解説

正解はcです

問題文の和訳

65歳の女性。右肺癌(IB期)と診断され、リンパ節郭清を伴う右下葉切除術を受けた。術後1日目に食事を開始したところ、乳白色の胸水が860mL排液された。確定診断のために行うべき胸水検査はどれか。

所見の整理

・肺癌に対する肺葉切除術+縦隔リンパ節郭清の術後である。郭清操作では、縦隔を走行する胸管やその分枝(リンパ管)を損傷する危険がある。 ・食事開始後に排液が増え、性状が乳白色になった。食事に含まれる脂肪(長鎖脂肪酸)は小腸でカイロミクロンとなってリンパ管に吸収され、胸管を通って静脈へ運ばれる。そのため、胸管が損傷していると、食事(脂肪摂取)を契機に乳白色のリンパ液(乳び)が胸腔内に漏れ出す。 ・発熱や創部痛など感染を示す記載はない。

診断へのプロセス

肺切除術後早期に胸水(ドレーン排液)が問題となる合併症には、術後出血(血性排液)、膿胸(発熱・混濁した膿性排液)、乳び胸(乳白色排液)などがある。本例は、リンパ節郭清後、食事開始を契機に乳白色の排液が大量に出ている。経過と性状から、術後乳び胸が最も疑われる。

設問の考え方

乳び胸の確定には、胸水中に乳び(カイロミクロン)が含まれることを示す必要がある。カイロミクロンの主成分は中性脂肪(トリグリセリド:TG)であるため、胸水TGの測定が基本となる。一般に、胸水TGが110mg/dL以上であれば乳び胸と診断でき、50mg/dL未満であればほぼ否定できる。その中間の値では、リポ蛋白電気泳動でカイロミクロンを証明して確定する。胸水TG/血清TG比が1を超えることも参考になる。 なお、乳白色に混濁した胸水には、乳び胸のほかに偽乳び胸(コレステロール胸水)や膿胸もある。外観だけでは区別できないため、生化学検査で確認することが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  Protein

    胸水蛋白(Protein)は、Lightの基準(胸水蛋白/血清蛋白>0.5、胸水LDH/血清LDH>0.6、胸水LDHが血清LDH正常上限の2/3超のいずれかを満たせば滲出性)の項目である。漏出性胸水と滲出性胸水を区別するのに用いる。乳び胸の胸水の蛋白濃度は症例によって異なり、漏出性・滲出性のどちらの値もとりうるため、蛋白濃度で乳び胸を確定することはできない。

  2. ×b.  Bacteria

    胸水の細菌検査(Gram染色・培養)は、術後膿胸などの感染性胸水の診断に必要である。しかし本例には発熱などの感染徴候の記載がなく、食事開始を契機とした乳白色排液という経過は乳び胸に典型的である。乳びは静菌作用をもち、通常は無菌であるため、細菌検査は乳び胸の確定診断には役立たない。

  3. ○c.  Triglyceride

    乳びに含まれるカイロミクロンは大部分が中性脂肪(TG)からなるため、胸水TGの高値が乳び胸の診断根拠となる。胸水TG 110mg/dL以上で乳び胸と診断でき、50mg/dL未満ではほぼ否定的である。50〜110mg/dLの場合はリポ蛋白電気泳動によるカイロミクロンの証明を追加する。胸水TG/血清TG比>1、胸水コレステロール/血清コレステロール比<1も乳び胸を支持する。乳白色の外観だけでは偽乳び胸や膿胸と区別できないため、TG測定による確認が必要である。

  4. ×d.  Malignant cells

    胸水細胞診で悪性細胞を証明すれば癌性胸膜炎(悪性胸水)と診断でき、胸膜播種を伴う肺癌は病期分類でM1aとなる。しかし本例はIB期で根治手術を受けた直後であり、術後早期に食事を契機として生じた乳白色胸水を癌性胸膜炎で説明するのは不自然である。悪性細胞の検索は乳び胸の確定診断には役立たない。

  5. ×e.  White blood cells

    胸水の白血球数・分画は、好中球優位で著増していれば膿胸などの細菌感染を示唆する。乳び胸の胸水ではリンパ球が優位となるのが一般的だが、リンパ球優位の胸水は結核性胸膜炎や悪性胸水でもみられ、乳び胸に特異的ではない。したがって白血球の検査では乳び胸を確定できない。

胸管の解剖と乳び胸の原因

・胸管は乳び槽(第1〜2腰椎の高さ)に始まり、大動脈裂孔を通って胸腔に入る。下部縦隔では椎体の右前方(食道の右後方)を上行し、第4〜6胸椎の高さで左へ移る。その後は左側を上行し、左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐ。 ・このため、胸管の損傷部位が下部(第5胸椎付近より下)であれば右側に、上部であれば左側に乳び胸が生じやすい。 ・原因:外傷性(肺癌手術の縦隔リンパ節郭清、食道癌手術、心臓大血管手術、胸部外傷など)と非外傷性(悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、リンパ脈管筋腫症<LAM>、先天性など)に分けられる。

乳び胸の診断

・外観:乳白色で、遠心分離しても上清が混濁したままである(膿胸では遠心後に上清が透明になる)。 ・胸水TG>110mg/dL、カイロミクロンの証明、胸水TG/血清TG>1、胸水コレステロール/血清コレステロール<1、リンパ球優位。 ・脂肪摂取(食事開始、牛乳・クリームの負荷)で排液量が増え、乳白色が強まる。

偽乳び胸(コレステロール胸水)との違い

結核性胸膜炎や関節リウマチなどによる長期間の胸水貯留で生じる。胸水コレステロールが高値(200mg/dL超)で、コレステロール結晶を認め、カイロミクロンは認めない。

術後乳び胸の治療

・保存的治療:胸腔ドレナージ、絶食と中心静脈栄養、または脂肪制限食(中鎖脂肪酸<MCT>は門脈経由で吸収されリンパ流を増やさないため、MCTを用いた食事を併用する)、オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)投与、胸膜癒着療法など。 ・排液量が多く、保存的治療で改善しない場合は、胸管結紮術などの外科的治療やリンパ管塞栓術を考慮する。 ・乳びの喪失が続くと、脂肪・蛋白・リンパ球(特にT細胞)の喪失による低栄養や免疫不全を招くため、早めの対応が必要である。

POINT

・肺癌手術(縦隔リンパ節郭清)や食道癌手術の後、食事開始とともに乳白色の胸腔ドレーン排液が増えたら、乳び胸を疑う。 ・確定診断には胸水中性脂肪(TG)を測定する(110mg/dL超で診断、50mg/dL未満で否定的、中間値ではカイロミクロンを証明)。 ・乳白色胸水の鑑別:乳び胸(TG高値・カイロミクロンあり)、偽乳び胸(コレステロール高値・コレステロール結晶)、膿胸(遠心後に上清透明・好中球多数・細菌)。 ・治療は絶食・中心静脈栄養またはMCT食、オクトレオチドなどで、難治例では胸管結紮を考慮する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。