膵酵素の値は重症度を語らない―急性膵炎の予後因子は「全身」を見る指標
第114回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
急性膵炎の重症度判定基準の予後因子に含まれるのはどれか。2つ選べ。
- a.CRP
- b.PaCO2
- c.尿素窒素
- d.リパーゼ
- e.トリプシン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性膵炎の重症度は、9項目の予後因子(各1点)と造影CT Gradeの2本立てで判定し、予後因子3点以上またはCT Grade 2以上で重症とします。予後因子はBEまたはショック、PaO2、BUN・Crまたは乏尿、LDH、血小板、Ca、CRP、SIRS陽性項目数、年齢で構成され、循環・呼吸・腎・凝固などの臓器障害と全身性炎症を反映しています。CRPは炎症の程度を、BUNはサードスペースへの体液漏出による循環血液量減少と腎障害を映す指標です。一方、アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなどの膵酵素は診断には用いますが重症度とは相関せず、血液ガスで採用されるのもPaCO2ではなくPaO2です。初診時に軽症でも急速に重症化しうるため、発症72時間以内は経時的に重症度を再評価することが、適切な輸液や搬送の判断につながります。
解答・解説
正解はa, cです
わが国の急性膵炎重症度判定基準(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班、2008年改訂)の内容を問う問題である。この基準は「予後因子」と「造影CT Grade」の2本立てで構成され、どちらか一方でも基準を満たせば重症と判定する。 予後因子は次の9項目で、各1点として合計する。 ①塩基過剰(BE)≦−3 mEq/L、またはショック(収縮期血圧≦80 mmHg) ②PaO2≦60 mmHg(室内気)、または呼吸不全(人工呼吸管理が必要) ③BUN(尿素窒素)≧40 mg/dL または Cr≧2 mg/dL、または乏尿(輸液後も1日尿量≦400 mL) ④LDH≧基準値上限の2倍 ⑤血小板数≦10万/μL ⑥総Ca≦7.5 mg/dL ⑦CRP≧15 mg/dL ⑧SIRS(全身性炎症反応症候群)診断基準の陽性項目数≧3 ⑨年齢≧70歳 予後因子が3点以上、または造影CT Grade 2以上であれば重症と判定する。 項目を見ると、循環(BE・ショック)、呼吸(PaO2)、腎(BUN・Cr・尿量)、組織障害(LDH)、凝固(血小板)、脂肪壊死に伴う低Ca、全身炎症(CRP・SIRS)、宿主因子(年齢)と、臓器障害や全身性炎症の程度を反映する指標で構成されていることがわかる。一方、アミラーゼ・リパーゼなどの膵酵素は診断には用いるが、その血中濃度は重症度と相関しないため予後因子には含まれない。この「診断に使う項目」と「重症度判定に使う項目」の区別が本問の鍵である。
選択肢考察
- ○a. CRP
含まれる。CRP(C反応性蛋白)≧15 mg/dLが予後因子の1項目である。CRPはIL-6などの炎症性サイトカインの刺激により肝で産生される急性期蛋白で、膵の壊死や全身性炎症の程度をよく反映する。ただし上昇が発症から24〜48時間ほど遅れるため、発症直後の値だけで軽症と判断せず、経時的に再評価する必要がある。
- ×b. PaCO2
含まれない。予後因子として採用されている血液ガスの指標は動脈血酸素分圧(PaO2≦60 mmHg、室内気)であり、二酸化炭素分圧(PaCO2)ではない。重症膵炎では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などにより低酸素血症をきたすため、酸素化の指標が用いられる。なおPaCO2<32 Torrは、予後因子の1つであるSIRS診断基準の呼吸の項目(呼吸数>20回/分またはPaCO2<32 Torr)に含まれるが、予後因子そのものではない。
- ○c. 尿素窒素
含まれる。BUN(血中尿素窒素)≧40 mg/dL、またはクレアチニン≧2 mg/dL、または乏尿(輸液後も1日尿量≦400 mL)が予後因子の1項目である。急性膵炎では炎症による血管透過性亢進のため大量の体液が後腹膜腔や腹腔などのサードスペースへ漏出し、循環血液量が減少する。その結果生じる腎前性腎障害や急性腎障害の程度をBUNが反映する。BUNの上昇は脱水の指標でもあり、初期輸液の必要性を判断するうえでも重要である。
- ×d. リパーゼ
含まれない。血中リパーゼは膵特異性が高く、アミラーゼより長く高値が続くため、急性膵炎の診断には有用である(診断基準の「血中または尿中に膵酵素の上昇」に該当)。しかし、膵酵素の血中濃度は膵炎の重症度と相関しない。広範な壊死で膵の実質が失われると、むしろ酵素値が上がりにくいこともある。したがって重症度判定には用いない。
- ×e. トリプシン
含まれない。トリプシノーゲンが膵内で異常に活性化されてトリプシンとなり、他の膵酵素を次々と活性化して膵の自己消化を起こすことが急性膵炎の発症機序の中心であり、トリプシンは病態の鍵となる酵素である。しかし血中に出たトリプシンはα1-アンチトリプシンやα2-マクログロブリンなどのプロテアーゼインヒビターにより速やかに不活化されるため、活性型トリプシンの測定は実際的でなく、重症度の指標としては用いられない。
急性膵炎の診断基準(厚生労働省研究班 2008年)
①上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。 ②血中または尿中に膵酵素の上昇がある。 ③超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。 上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい。
造影CT Grade
・膵外進展度:前腎傍腔(0点)、結腸間膜根部(1点)、腎下極以遠(2点) ・膵の造影不良域:各区域(膵頭部・膵体部・膵尾部)に限局または膵の周辺のみ(0点)、2つの区域にかかる(1点)、2つの区域全体を占めるかそれ以上(2点) ・合計1点以下がGrade 1、2点がGrade 2、3点以上がGrade 3。Grade 2以上を重症とする。
SIRS診断基準(以下の2項目以上で陽性)
・体温>38℃または<36℃ ・心拍数>90/分 ・呼吸数>20/分またはPaCO2<32 Torr ・白血球数>12,000/μLまたは<4,000/μL、または未熟顆粒球>10% 急性膵炎の予後因子では、このSIRS診断基準の陽性項目数が3以上であることを1点とする。
重症度判定のタイミング
重症度判定は診断後ただちに行い、その後も診断から48時間以内、とくに発症から72時間以内は経時的に繰り返す。初診時に軽症であっても急速に重症化する例があるためである。重症と判定された場合は、集中治療が可能な施設への搬送を考慮する。
初期治療の要点
十分な初期輸液(細胞外液)、疼痛管理、早期の経腸栄養が基本である。胆石性膵炎で胆管炎や胆道通過障害を伴う場合は早期の内視鏡的胆道ドレナージを考慮する。
POINT
・急性膵炎の重症度判定は「予後因子(9項目、各1点)」と「造影CT Grade」の2本立て。予後因子3点以上またはCT Grade 2以上で重症。 ・予後因子:BE≦−3またはショック、PaO2≦60、BUN≧40またはCr≧2または乏尿、LDH≧基準上限2倍、血小板≦10万、Ca≦7.5、CRP≧15、SIRS陽性項目≧3、年齢≧70歳。 ・膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン)は診断に用いるが重症度とは相関せず、予後因子に含まれない。 ・血液ガスで採用されるのはPaO2であり、PaCO2はSIRS基準の項目として間接的に関わるのみ。
