StudyMed医師国家試験

「陽性=確定」ではない―NIPTを正しく説明するための5つのポイント

第114回医師国家試験 C問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第46問

32歳の経産婦(2妊1産)。妊娠12週。出生前診断について相談するため,遺伝カウンセリング外来に夫婦で来院した。これまでの妊娠経過に異常を認めない。28歳の時に出産した子供がDown症候群であった。無侵襲的出生前遺伝学的検査〈NIPT〉について知りたいという。  説明として適切なのはどれか。

  1. a.「羊水を使って検査を行います」
  2. b.「検査のために流産する確率は0.3%です」
  3. c.「検査で先天性疾患の80%が診断できます」
  4. d.「検査の結果が陽性であっても確定診断にはなりません」
  5. e.「妊娠16週以降にならないと検査することができません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は出生前診断、とくにNIPTについて妊婦さんにどう説明するかを問う問題だ。前のお子さんがDown症候群だったご夫婦が、今回の妊娠を心配して相談に来ている。検査の「検体」「安全性」「対象」「結果の意味」「時期」の5つの観点で、正しい説明を選べるかがポイントだよ。まず、NIPTは何を調べる検査か知っているかな。
医学生医学生
母体の血液で胎児の染色体を調べる検査、と産婦人科の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。妊婦さんの血液中には、胎盤の絨毛に由来する細胞外遊離DNA、いわゆるcell-free DNAが流れている。これを網羅的に解析して、13番・18番・21番などの染色体に由来する断片が多すぎないかを調べるんだ。採血だけだから、検体が羊水というのは誤りだね。
医学生医学生
羊水を採るのは羊水検査のほうですね。お腹から針を刺す侵襲的な検査でした。
ドクタードクター
その通り。だから流産率の説明も混同しやすい。0.3%程度、つまり約300人に1人という流産リスクは羊水検査について説明される数値で、絨毛検査は約1%程度とされる。NIPTは採血だけなので、検査が原因で流産することはない。
医学生医学生
採血だけで99%以上の精度があると聞いたので、陽性ならほぼ確定だと思っていました。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。21トリソミーに対する感度・特異度はいずれも99%以上と非常に高く、陰性なら対象疾患の可能性はきわめて低い。でも、調べているのは主に胎盤由来のDNAなんだ。胎盤だけに染色体異常がある胎盤限局性モザイクや、母体自身の染色体異常、母体の悪性腫瘍、双胎の一児消失などで偽陽性が起こりうる。
医学生医学生
胎児そのものではなく胎盤を見ているから、ずれが生じるんですね。
ドクタードクター
そう。それに陽性的中率は、検査を受ける集団でのその疾患の頻度に左右される。対象疾患によっても違って、13トリソミーではとくに低い。だから「陽性であっても確定診断にはならない」という説明が正解で、陽性なら羊水検査などの確定的検査で胎児の染色体を直接調べる必要がある。
医学生医学生
では「先天性疾患の80%が診断できる」というのも言い過ぎですね。
ドクタードクター
言い過ぎどころか大きな誤りだ。先天性疾患の原因のうち染色体異常は4分の1程度とされ、残りは単一遺伝子疾患、多因子性の形態異常、感染や薬剤などの環境要因だ。NIPTが対象にしているのはそのうちの一部の数的異常に限られる。しかもそもそも確定診断の検査ではない。
医学生医学生
時期についてはどうでしょう。16週以降というのは羊水検査の時期と混ざっている気がします。
ドクタードクター
鋭いね。NIPTは妊娠10週前後から受けられ、12週の今回はすでに検査可能だ。下限がある理由は、母体血中の胎児(胎盤)由来DNAの割合、つまり胎児分画が週数とともに増えるから。早すぎたり母体が肥満だったりすると分画が低く、判定保留になることがある。16週前後以降に行うのは羊水検査だね。
医学生医学生
整理すると、非確定的検査がNIPT、母体血清マーカー、コンバインド検査で、確定的検査が絨毛検査と羊水検査、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。母体血清マーカー検査は15〜18週頃に21・18トリソミーと開放性神経管閉鎖不全の確率を出し、コンバインド検査は11〜13週頃に胎児後頸部浮腫の計測と血清マーカーを組み合わせる。それぞれの時期と侵襲性を表にして覚えるといい。
医学生医学生
実習の遺伝カウンセリング外来では、先生がかなり時間をかけて説明していました。
ドクタードクター
それがとても大事なんだ。日本ではNIPTは、検査前後に十分な遺伝カウンセリングを提供できる体制を整えた認証施設で行うことが求められている。結果の意味を理解しないまま、陽性の結果だけで妊娠継続を判断することがあってはならないからね。
医学生医学生
前のお子さんがDown症候群の場合、次の子での再発率はどのくらいなんですか。
ドクタードクター
標準型21トリソミーなら、母体年齢による頻度にやや上乗せされる程度で、おおむね1%前後とされる。ただし転座型で親が均衡型転座の保因者なら再発率が高くなるので、親の染色体検査を検討する。こうした個別の情報を整理して伝えることも、カウンセリングの役割だよ。

まとめ

NIPTは母体の採血で胎盤由来の細胞外遊離DNAを解析し、主に13・18・21トリソミーの可能性を評価する非確定的検査で、流産リスクはなく妊娠10週前後から実施できます。感度・特異度は高く陰性的中率も高い一方、胎盤限局性モザイクなどにより偽陽性が生じうるため、陽性であっても確定診断にはならず、羊水検査や絨毛検査による確認が必要です。流産率約0.3%や妊娠15〜16週以降という数値は羊水検査のものであり、NIPTで先天性疾患の大部分がわかるわけでもありません。出生前検査の種類・時期・侵襲性・結果の意味を正確に区別して理解することは、検査前後の遺伝カウンセリングで妊婦さんとご家族の意思決定を適切に支えるための土台となります。

解答・解説

正解はdです

状況の整理

・32歳、2妊1産の経産婦で、現在妊娠12週。妊娠経過に異常はない。 ・28歳で出産した第1子がDown症候群(21トリソミー)であった。このため今回の妊娠でも胎児の染色体異常を心配し、夫婦で遺伝カウンセリング外来を受診している。 ・知りたいのは無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT:non-invasive prenatal genetic testing)についてである。

NIPTとは

妊婦の血液中には、胎盤(絨毛の栄養膜細胞)に由来する細胞外遊離DNA(cell-free DNA:cfDNA)が母体由来のDNAとともに流れている。NIPTはこの母体血を採取し、DNA断片を網羅的に解析して、特定の染色体(主に13番・18番・21番)に由来する断片の量が過剰かどうかを調べる検査である。母体からの採血だけで済むため、胎児や妊娠への直接的な危険はなく、流産の原因にもならない。妊娠10週前後以降から実施できる。

NIPTの位置づけ

出生前の遺伝学的検査は、結果が「可能性の高さ」を示すにとどまる非確定的検査と、胎児の細胞そのものを調べて診断を確定する確定的検査に分かれる。NIPTは非確定的検査に属する。21トリソミーに対する感度・特異度はいずれも99%以上と非常に高く、陰性であれば対象疾患である可能性はきわめて低い。一方で、検査しているのは主に胎盤由来のDNAであり、胎盤だけに染色体異常がある場合(胎盤限局性モザイク)や母体側の要因などにより偽陽性が生じうる。また陽性的中率は検査を受ける集団での疾患の頻度に左右され、対象疾患によっても異なる(とくに13トリソミーでは低い)。したがって、陽性の結果だけで胎児の染色体異常と確定することはできず、羊水検査(または絨毛検査)による確定診断が必要となる。

設問の考え方

本例のように前児が染色体異常であった妊婦は、NIPTの対象として適切である。説明として求められているのは、①母体採血で行う、②流産の危険はない、③対象は一部の染色体疾患に限られる、④陽性でも確定診断ではない、⑤妊娠10週前後から受けられる、という正しい情報である。これに合致する説明を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  「羊水を使って検査を行います」

    NIPTの検体は母体の末梢血であり、羊水ではない。母体血漿中に含まれる胎盤由来のcfDNAを解析する。羊水を採取するのは確定的検査である羊水検査で、経腹的に子宮内へ穿刺針を刺す侵襲的な手技である。

  2. ×b.  「検査のために流産する確率は0.3%です」

    NIPTは母体からの採血だけで行うため、検査が原因で流産することはない。約0.3%(およそ300人に1人)という流産リスクは、羊水検査について一般に説明される数値である。絨毛検査ではそれよりやや高い(約1%程度)とされる。

  3. ×c.  「検査で先天性疾患の80%が診断できます」

    NIPTの対象は主に21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーという特定の染色体数の異常に限られる。先天性疾患の原因のうち染色体異常が占める割合は4分の1程度とされ、残りは単一遺伝子疾患、多因子性の形態異常、環境要因(感染・薬剤など)などである。NIPTはそのうちの一部しか対象にしておらず、先天性疾患の80%を診断できるという説明は誤りである。またNIPTはそもそも確定診断の検査ではない。

  4. ○d.  「検査の結果が陽性であっても確定診断にはなりません」

    NIPTは非確定的検査である。解析しているのは主に胎盤由来のDNAなので、胎盤限局性モザイクなどにより胎児本人には異常がないのに陽性となる偽陽性が起こりうる。陽性的中率は対象疾患や受検者の背景(年齢など)によって異なり、100%ではない。そのため陽性の場合は、羊水検査などの確定的検査で胎児の染色体を直接調べて診断を確定する必要がある。陽性の結果だけで妊娠継続の可否を判断してはならず、結果の意味を検査前後の遺伝カウンセリングで十分に説明することが重要である。

  5. ×e.  「妊娠16週以降にならないと検査することができません」

    NIPTは妊娠10週前後から実施でき、妊娠12週の本例はすでに検査可能な時期である。母体血中の胎児(胎盤)由来DNAの割合は妊娠週数とともに増えるため、早すぎると十分量が得られず判定できないことがあり、これが下限の理由である。妊娠15〜16週以降に行うのは羊水検査であり、混同しないようにする。

出生前遺伝学的検査の分類

非確定的検査(結果は確率的・リスク評価) ・NIPT(母体血中cfDNA検査):妊娠10週前後〜。母体採血。主に13・18・21トリソミーが対象。流産リスクなし。 ・母体血清マーカー検査(クアトロテストなど):妊娠15〜18週頃。母体採血。21トリソミー、18トリソミー、開放性神経管閉鎖不全の確率を算出する。 ・コンバインド検査:妊娠11〜13週頃。超音波での胎児後頸部浮腫(NT)計測と母体血清マーカーを組み合わせる。 ・胎児超音波検査(胎児形態評価)。 確定的検査(胎児由来の細胞を直接調べる) ・絨毛検査:妊娠11〜14週頃。流産リスク約1%程度。胎盤限局性モザイクによる判定の難しさがある。 ・羊水検査:妊娠15〜16週以降。流産リスク約0.3%程度。

NIPTの性能と限界

・21トリソミーに対する感度・特異度は99%以上と高く、陰性的中率はきわめて高い。 ・偽陽性の要因:胎盤限局性モザイク、母体自身の染色体異常やモザイク、母体の悪性腫瘍、双胎の一児消失(バニシングツイン)など。 ・陽性的中率は対象疾患の頻度(母体年齢など)に依存し、13トリソミーでは比較的低い。 ・胎児由来DNAの割合(胎児分画)が低いと判定保留になることがある(妊娠早期、母体の肥満など)。

実施体制

・日本では、検査前後に十分な遺伝カウンセリングを提供できる体制を整えた認証施設で実施することが求められている。 ・前児が染色体異常、高年妊娠、超音波検査や母体血清マーカー検査で胎児の染色体異常の可能性が指摘された場合などが従来からの代表的な対象である。

21トリソミーの再発

・標準型21トリソミーの児を出産した後の次子での再発率は、母体年齢による頻度にやや上乗せされる程度(おおむね1%前後)とされる。転座型で親が均衡型転座保因者の場合は再発率が高く、親の染色体検査が検討される。

POINT

・NIPTは母体採血で行い、胎盤由来の細胞外遊離DNAを解析する非確定的検査。 ・流産リスクはない。妊娠10週前後から実施可能。 ・対象は主に13・18・21トリソミーで、先天性疾患全体のごく一部。 ・陰性的中率は高いが偽陽性があり、陽性なら羊水検査(または絨毛検査)で確定診断を行う。 ・羊水検査は妊娠15〜16週以降、流産リスク約0.3%。絨毛検査は妊娠11〜14週頃、約1%程度。 ・検査前後の遺伝カウンセリングが不可欠。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。