泣かない2歳児は「いい子」ではない―バイタル正常の陰に潜む意識障害
第114回医師国家試験 C問題 第44問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。生来健康であったが,発熱を主訴に母親に連れられて来院した。診察時に母親が離れても啼泣しない。体温38.2℃。心拍数110/分,整。血圧98/62mmHg。呼吸数30/分。SpO2 98%(room air)。毛細血管再充満時間は2秒以内。自発的に開眼しており光をまぶしがるが,視線が合わず追視をしない。 この患児に疑われるのはどれか。
- a.頻拍
- b.低血圧
- c.意識障害
- d.呼吸不全
- e.末梢循環障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱した2歳児で、心拍数・呼吸数・血圧・SpO2・毛細血管再充満時間はいずれも年齢相応の正常範囲であり、頻拍、低血圧、呼吸不全、末梢循環障害を示す所見はありません。一方、母親が離れても泣かず、自発開眼していても視線が合わず追視しない様子は、乳幼児版Japan Coma ScaleでI-3に相当する意識障害を示しています。小児のバイタル評価では年齢別の正常値を用い、低血圧は1〜10歳で収縮期血圧70+2×年齢mmHg未満を目安にします。発熱に意識障害や羞明を伴う乳幼児では、細菌性髄膜炎や急性脳炎・脳症を疑って速やかに精査を進める必要があります。数値が正常でも「泣かない・視線が合わない」という外観の異常を重症のサインとして捉える視点は、小児救急の初期評価の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・2歳の男児で、既往歴のない幼児が発熱を主訴に来院した。 ・バイタルサイン: 体温38.2℃と発熱がある。心拍数110/分、血圧98/62mmHg、呼吸数30/分、SpO2 98%(室内気)、毛細血管再充満時間(CRT)2秒以内は、いずれも2歳児として正常範囲内である。 ・行動・反応: 母親が離れても泣かない。自発的に開眼しており光をまぶしがるが、視線が合わず、動くものを目で追わない(追視をしない)。
評価のプロセス
小児の急病の診察では、まずバイタルサインから呼吸(気道・呼吸)、循環、中枢神経の順に生命を脅かす異常がないかを評価する。本児は呼吸数・SpO2が正常で呼吸の異常はなく、心拍数・血圧・CRTも正常で循環の異常もない。異常が見られるのは中枢神経、すなわち意識の領域だけである。 2歳児は通常、人見知りや分離不安があり、母親が離れたり見知らぬ医師に診察されたりすれば泣くのがふつうである。泣かないのは周囲への関心・反応が乏しくなっていることを示す。さらに、開眼していても視線が合わず追視をしないのは、外界からの刺激を正しく認識できていないことを意味する。乳幼児用のJapan Coma Scale(JCS)では、「刺激しなくても覚醒しているが、母親と視線が合わない」状態はI-3に相当し、本児には意識障害がある。
臨床的意義
発熱に意識障害を伴う乳幼児では、細菌性髄膜炎、急性脳炎・脳症(インフルエンザ脳症など)などの重篤な中枢神経疾患を考える必要がある。光をまぶしがる(羞明)ことは髄膜刺激症状の一つでもあり、髄膜炎を疑う手がかりとなる。バイタルサインが安定していても、意識状態の異常は重症のサインとして見逃してはならない。
選択肢考察
- ×a. 頻拍
誤り。2歳児(幼児)の安静時の心拍数はおおむね100~120/分前後が目安で、覚醒時には140/分程度までは正常範囲とされる。心拍数110/分は正常であり、38.2℃の発熱があることを考えても頻拍とはいえない。
- ×b. 低血圧
誤り。幼児の収縮期血圧はおおむね90~110mmHg程度が目安である。小児の低血圧の基準として、1~10歳では「収縮期血圧<70+2×年齢(mmHg)」が用いられ、2歳児では74mmHg未満が低血圧となる。収縮期血圧98mmHgは正常範囲内である。
- ○c. 意識障害
正しい。2歳児は母親から離されると泣くのがふつうであるが、本児は泣かない。また、自発的に開眼しているものの視線が合わず追視もしないことから、周囲の刺激を認識できていない状態と判断できる。乳幼児用JCSでは、刺激がなくても覚醒しているが「母親と視線が合わない」のはI-3に相当し、意識障害がある。バイタルサインが正常であっても、発熱に意識障害を伴う場合は髄膜炎や急性脳炎・脳症などを疑って精査を急ぐ必要がある。
- ×d. 呼吸不全
誤り。2歳児の呼吸数の目安はおおむね20~30/分程度(覚醒時には40/分程度まで許容される)で、呼吸数30/分は正常範囲である。SpO2も室内気で98%と保たれ、陥没呼吸や鼻翼呼吸などの努力呼吸の記載もない。低酸素血症も呼吸努力の増加もなく、呼吸不全を示す所見はない。
- ×e. 末梢循環障害
誤り。毛細血管再充満時間(CRT)は、爪床などを5秒ほど圧迫して白くしたのち、圧迫を解除して元の色に戻るまでの時間で、末梢循環の指標である。2秒以内が正常で、2秒を超えると末梢循環不全(ショックの初期など)を疑う。本児はCRT 2秒以内で、心拍数・血圧も正常であり、末梢循環障害を示す所見はない。
乳幼児版Japan Coma Scale(坂本の分類)
I 刺激しないでも覚醒している状態 1: あやすと笑う。ただし不十分で、声を出して笑わない 2: あやしても笑わないが、視線は合う 3: 母親と視線が合わない II 刺激すると覚醒する状態 10: 飲み物を見せると飲もうとする。あるいは乳首を見せれば欲しがって吸う 20: 呼びかけると開眼して目を向ける 30: 呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する III 刺激しても覚醒しない状態 100: 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする 200: 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる 300: 痛み刺激に反応しない 本児は自発的に開眼しており(I群)、母親と視線が合わないのでI-3と評価される。
小児のバイタルサインの目安
年齢が低いほど心拍数・呼吸数は多く、血圧は低い。 ・乳児: 心拍数 約110~160/分、呼吸数 約30~50/分 ・幼児: 心拍数 約90~140/分、呼吸数 約20~40/分 ・学童: 心拍数 約70~110/分、呼吸数 約20~25/分 (目安であり、文献により若干異なる。睡眠時はより低く、発熱・啼泣時はより高くなる) ・低血圧の目安(収縮期血圧): 新生児 60mmHg未満、乳児 70mmHg未満、1~10歳 70+2×年齢mmHg未満、10歳以上 90mmHg未満
小児の初期評価
小児救急では、まず第一印象(外観・呼吸・皮膚色)で重症感を素早く判断し(小児評価トライアングル)、続いて気道・呼吸・循環・中枢神経(意識)・体温の順に評価する。外観の評価では、筋緊張、周囲への反応性、なだめやすさ、視線、会話・啼泣の様子をみる。「視線が合わない」「あやしても反応しない」「泣かない・泣き声が弱い」は、重症疾患を示唆する重要なサインである。
発熱と意識障害を伴う乳幼児で考える疾患
・細菌性髄膜炎: 項部硬直、ケルニッヒ徴候などの髄膜刺激症状。乳児では大泉門膨隆。羞明もみられる。 ・急性脳炎・脳症: インフルエンザ脳症、急性壊死性脳症など。けいれんや異常行動を伴うことがある。 ・熱性けいれん後の意識障害: けいれん後に一時的に意識が低下するが、遷延する場合は脳炎・脳症を疑う。 ・敗血症: 循環不全を伴う重症感染症。 これらでは血液検査、頭部画像検査、髄液検査などを速やかに行う。
POINT
・小児の意識状態は乳幼児版JCSで評価する。刺激なしで覚醒しているが「母親と視線が合わない」はI-3。 ・2歳児が母親から離れても泣かない、視線が合わない、追視しないのは意識障害のサインである。 ・小児の低血圧の目安(1~10歳)は「収縮期血圧<70+2×年齢mmHg」。 ・毛細血管再充満時間(CRT)は2秒以内が正常で、延長は末梢循環不全を示唆する。 ・発熱+意識障害の乳幼児では、髄膜炎・急性脳炎・脳症を考える。羞明は髄膜刺激症状の一つ。
