薄いピンクと厚いピンクの間―胃壁の層構造を顕微鏡で読み解く
第114回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
胃の正常組織のH-E染色標本を別に示す。 粘膜下層はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
消化管壁は内腔側から、粘膜(上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層・漿膜の順に並びます。H-E染色では平滑筋が好酸性に濃く染まるため、細い帯状の粘膜筋板と厚い固有筋層に挟まれた、線維がまばらで淡い疎性結合組織の層として粘膜下層を同定できます。粘膜下層にはMeissner神経叢や太い血管・リンパ管があり、固有筋層の輪走筋と縦走筋の間にはAuerbach神経叢があります。胃の固有筋層は内斜・中輪・外縦の3層である点も特徴です。この層構造は胃癌の深達度分類(癌が粘膜下層までにとどまれば早期胃癌)やESDの手技の理解に直結するため、組織学の段階で確実に押さえておくことが臨床への土台になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
胃壁の正常組織像(H-E染色:ヘマトキシリン・エオジン染色)で、各層を内腔側から順に同定できるかを問う組織学の基本問題である。
胃壁の層構造の読み方
消化管壁は、内腔(食物の通る側)から外側に向かって次の順に並ぶ。 1. 粘膜層:粘膜上皮(胃では単層円柱上皮)、粘膜固有層(胃腺を含む結合組織)、粘膜筋板(薄い平滑筋層)の3つから成る。 2. 粘膜下層:疎性結合組織で、太い血管・リンパ管・神経(粘膜下神経叢)を含む。 3. 固有筋層:厚い平滑筋層。胃では内斜走筋・中輪走筋・外縦走筋の3層。 4. 漿膜下層・漿膜:結合組織と、腹腔に面する中皮(単層扁平上皮)。 標本では、①が内腔に面して腺管が密に並ぶ粘膜(上皮と固有層)、②がその直下を走る細い帯状の平滑筋である粘膜筋板、③が粘膜筋板と厚い筋層の間にある、染色の淡い疎な結合組織の層である。H-E染色では平滑筋は好酸性(ピンク色)に濃く染まり、疎性結合組織は線維がまばらで淡く見えるため、「濃いピンクの薄い帯(粘膜筋板)」と「濃いピンクの厚い層(固有筋層)」に挟まれた淡い層を探すと粘膜下層を同定しやすい。したがって粘膜下層は③である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は内腔に面する粘膜層(粘膜上皮と粘膜固有層)である。表面は単層円柱上皮(表層粘液細胞)で覆われ、その下の粘膜固有層には胃小窩から続く胃腺(胃底腺では主細胞・壁細胞・副細胞などを含む)が密に並ぶため、細胞成分が多く濃く見える。粘膜下層ではない。
- ×b. ②
②は粘膜筋板である。粘膜層の最深部にある薄い平滑筋の層で、粘膜固有層と粘膜下層との境界をなす。粘膜を局所的に動かし、腺からの分泌物の排出を助けると考えられている。粘膜層の一部であり、粘膜下層ではない。
- ○c. ③
③は粘膜筋板(②)と固有筋層(④)の間に位置する、線維がまばらで淡く染まる層であり、粘膜下層である。疎性結合組織から成り、比較的太い血管・リンパ管・神経が走行し、粘膜下神経叢(Meissner神経叢)が存在する。この疎な構造のおかげで粘膜は筋層に対して滑るように動くことができる。
- ×d. ④
④は固有筋層である。厚い平滑筋の層で、H-E染色では好酸性に濃く染まる。胃では内斜走筋・中輪走筋・外縦走筋の3層から成り(他の消化管は内輪・外縦の2層が基本)、輪走筋と縦走筋の間には蠕動運動を調節する筋層間神経叢(Auerbach神経叢)がある。
- ×e. ⑤
⑤は最外層の漿膜下層と漿膜である。漿膜下層は結合組織から成り、その表面を覆う漿膜は中皮(単層扁平上皮)で、臓側腹膜に相当し腹腔に面している。
消化管壁の基本構造と機能
・粘膜上皮:胃は単層円柱上皮。食道(重層扁平上皮)との境界は食道胃接合部で、上皮の種類が急に変わる。 ・粘膜固有層:胃腺(噴門腺・胃底腺・幽門腺)、毛細血管、リンパ球などを含む。 ・粘膜筋板:粘膜の局所的な運動に関与。小腸では輪状ひだや絨毛の運動にも関わる。 ・粘膜下層:疎性結合組織。Meissner神経叢(主に腺分泌や局所血流を調節)、太い血管・リンパ管。十二指腸ではBrunner腺、食道では食道腺がこの層にある。 ・固有筋層:Auerbach神経叢(主に蠕動運動を調節)。胃のみ斜走筋を加えた3層。 ・漿膜/外膜:腹膜に覆われる部分は漿膜(中皮)、食道など腹膜に覆われない部分は外膜(結合組織)。
臨床との関連:胃癌の深達度
胃癌の壁深達度は、M(粘膜内)、SM(粘膜下層)、MP(固有筋層)、SS(漿膜下層)、SE(漿膜表面に露出)、SI(他臓器へ直接浸潤)と、ここで学ぶ層構造に沿って分類される。癌の浸潤が粘膜または粘膜下層にとどまるもの(T1)は、リンパ節転移の有無を問わず早期胃癌と呼ばれ、固有筋層以深に及ぶものは進行胃癌とされる。粘膜下層には豊富なリンパ管・血管があるため、SMに浸潤するとリンパ節転移の頻度が上がる。また内視鏡的切除(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)は、この粘膜下層で剥離して病変を一括切除する手技である。
POINT
・消化管壁は内腔側から、粘膜(上皮・固有層・粘膜筋板)→粘膜下層→固有筋層→漿膜下層・漿膜の順。 ・粘膜下層は「薄い粘膜筋板」と「厚い固有筋層」に挟まれた、淡く疎な結合組織の層として同定する。 ・粘膜下層にMeissner神経叢、固有筋層(輪走筋と縦走筋の間)にAuerbach神経叢。 ・胃の固有筋層は内斜・中輪・外縦の3層。 ・癌の浸潤が粘膜下層までなら早期胃癌(リンパ節転移の有無は問わない)。
