StudyMed医師国家試験

労災の治療費はなぜ「タダ」なのか―事業主の補償責任から読み解く労災保険

第114回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第2問

労働災害補償保険について正しいのはどれか。

  1. a.通勤災害は含まれない。
  2. b.保険者は市町村である。
  3. c.労働災害の認定は厚生労働大臣が行う。
  4. d.保険料は労働者と事業者の両者で負担する。
  5. e.保険療養費は被災労働者の自己負担はない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は労働者災害補償保険、いわゆる労災保険の問題だ。細かい数字を丸暗記するより、「なぜこの保険が作られたのか」という成り立ちを押さえると、選択肢の正誤が自然に判断できるよ。
医学生医学生
健康保険とか介護保険と混ざってしまって、保険者や負担の仕組みをいつも取り違えてしまいます。
ドクタードクター
よくあることだね。まず出発点は労働基準法だ。業務上のけがや病気については、使用者、つまり事業主に療養補償などの災害補償責任が課されている。でも資力のない事業主だと、労働者は補償を受けられないかもしれない。
医学生医学生
会社が倒産したら治療費が出ない、ということになりかねないですね。
ドクタードクター
そう。そこで政府が保険者になって事業主から保険料を集め、事業主に代わって給付する仕組みが作られた。それが労災保険なんだ。この成り立ちから、保険者は誰になるかな。
医学生医学生
政府、つまり国ですね。市町村が保険者というのは、国民健康保険や介護保険と混同した記述だと思います。
ドクタードクター
その通り。窓口は厚生労働省の地方組織である都道府県労働局と労働基準監督署だ。では保険料は誰が払う?
医学生医学生
健康保険や厚生年金は労使折半なので、労災も労働者と事業者で半分ずつかと思いました。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけ。労災保険はもともと事業主の補償責任を肩代わりする保険だから、保険料は事業主の全額負担で、労働者の負担はない。賃金総額に業種別の保険率を掛けて算出し、災害の発生状況に応じて保険料が増減するメリット制もあるよ。
医学生医学生
なるほど、事業主の責任の保険だから事業主が払う。同じ理屈で、治療費の自己負担もないということですか。
ドクタードクター
まさにそれが正解の記述だ。業務上の傷病の療養費は使用者が全額補償すべきものだから、療養補償給付では健康保険のような3割負担はかからない。労災指定医療機関なら治療そのものが現物給付され、指定外なら立て替えた後に全額が支給される。
医学生医学生
救急外来の実習で、事務の方が「この人は労災だから保険証は使わないで」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験だね。労災なのに健康保険で受診すると、後から切り替えの手続きが必要になって患者さんも病院も困る。受診時に仕事中や通勤中のけがかを確認するのは大事なんだ。では通勤災害は含まれるかな。
医学生医学生
労働基準法の補償は業務上の災害なので、通勤中は対象外のような気がします。
ドクタードクター
労基法だけならそうだけど、労災保険法は1973年の改正以降、通勤災害も給付対象に加えている。ただし合理的な経路と方法での往復が前提で、寄り道して経路を外れるとその間とその後は原則として通勤と認められない。日用品の購入など日常生活上必要な最小限度の行為なら、経路に戻った後は再び通勤として扱われるよ。
医学生医学生
最後に、労災かどうかを決めるのは厚生労働大臣ではないんですか。
ドクタードクター
認定は、被災労働者や遺族の請求を受けて、所轄の労働基準監督署長が調査したうえで行う。大臣でも、主治医や産業医、事業主でもない。不服があれば都道府県労働局の労災保険審査官に審査請求し、さらに労働保険審査会に再審査請求できる。
医学生医学生
保険者は国、保険料は事業主、認定は労基署長、通勤災害も対象、業務災害の治療費は自己負担なし、ですね。成り立ちから考えると全部つながります。
ドクタードクター
完璧だね。補足すると、通勤災害の療養給付では初回に原則200円の一部負担金があるから、自己負担なしというのは業務災害を前提にした話だと覚えておこう。休業補償給付は休業4日目から給付基礎日額の60%で、特別支給金を加えると約80%。最初の3日間は事業主が補償する。
医学生医学生
産業医の講義で、過労死予防のための給付もあると聞きました。
ドクタードクター
二次健康診断等給付だね。定期健診で血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMIがすべて異常だった場合に、二次健診と特定保健指導を受けられる。また、複数の職場で働く人の業務負荷を合わせて評価する複数業務要因災害も、近年給付対象に加わった。働き方の多様化に合わせて制度も変わっているんだ。

まとめ

労災保険は、労働基準法が事業主に課す災害補償責任を、政府が保険者となって肩代わりする仕組みとして作られました。そのため保険料は事業主の全額負担で、業務災害の療養補償給付には被災労働者の自己負担がなく、健康保険の3割負担とは異なります。労働基準法の補償対象ではない通勤災害も労災保険法により給付対象とされ、労災の認定は厚生労働大臣ではなく労働基準監督署長が行います。休業補償給付は4日目から給付基礎日額の60%(特別支給金を加え約80%)で、二次健康診断等給付など予防的な給付もあります。制度の成り立ちから理解しておくと試験対策になるだけでなく、臨床現場で労災患者を適切に受け入れ、患者の生活を守ることにもつながります。

解答・解説

正解はeです

労働者災害補償保険(労災保険)は、労働者災害補償保険法に基づく公的保険である。業務上の事由や通勤によって労働者がけが・病気・障害・死亡に至った場合に、本人や遺族に必要な給付を行う。 成り立ちを知ると各選択肢を判断しやすい。労働基準法は、業務上の災害について使用者(事業主)に療養補償などの災害補償責任を課している。しかし、事業主に直接すべてを負わせると、資力のない事業主の下では補償が受けられないおそれがある。そこで、政府が保険者となって事業主から保険料を集め、事業主に代わって給付を行う仕組みとして労災保険がつくられた。 この成り立ちから、次の4点が導かれる。 ・保険者は政府(国)である。 ・保険料は事業主が全額負担する(もともと事業主の補償責任を肩代わりする保険であるため)。 ・業務災害の療養補償は使用者の全面的な責任なので、被災労働者に自己負担は生じない。 ・労働基準法上の補償ではない通勤災害も、労災保険法によって保護の対象に加えられている。 実務上の窓口は、厚生労働省の地方組織である都道府県労働局と労働基準監督署である。労災かどうかの認定(業務上外の判断)は、労働基準監督署長が行う。

選択肢考察

  1. ×a.  通勤災害は含まれない。

    誤り。1973年の法改正以降、通勤災害も労災保険の給付対象である。通勤とは、就業に関して住居と就業場所の間などを、合理的な経路と方法で往復することをいう。経路を外れたり(逸脱)、通勤と関係のない行為で中断したりすると、その間とその後は原則として通勤とは認められない。ただし、日用品の購入など日常生活上必要な最小限度の行為であれば、合理的な経路に戻った後は再び通勤と認められる。なお、業務災害の給付は「療養補償給付」「休業補償給付」のように「補償」が付き、通勤災害の給付は「療養給付」「休業給付」と呼ばれる。

  2. ×b.  保険者は市町村である。

    誤り。労災保険の保険者は政府(国)である。事務は厚生労働省の都道府県労働局と労働基準監督署が担う。市町村が保険者となるのは国民健康保険(都道府県と共同)や介護保険であり、混同しないよう注意する。

  3. ×c.  労働災害の認定は厚生労働大臣が行う。

    誤り。労災認定は、被災労働者(または遺族)の請求を受けて、所轄の労働基準監督署長が調査したうえで行う。厚生労働大臣や産業医、主治医、事業主が決めるものではない。認定の結果に不服がある場合は、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求でき、さらに労働保険審査会に再審査請求できる。

  4. ×d.  保険料は労働者と事業者の両者で負担する。

    誤り。労災保険の保険料は事業主が全額を負担し、労働者の負担はない。保険料は、賃金総額に業種ごとの労災保険率を掛けて算出する。業種によって災害の危険度が異なるため、保険率も業種別に定められている。また、一定規模以上の事業では、過去の災害発生状況に応じて保険料を増減するメリット制がある。健康保険や厚生年金保険が原則として労使折半であることと対比して覚える。

  5. ○e.  保険療養費は被災労働者の自己負担はない。

    正しい。業務災害の療養補償給付では、被災労働者の窓口負担はない。健康保険のような3割負担はかからない。これは、労働基準法上、業務上の傷病の療養費は使用者が全額補償すべきものとされているためである。労災指定医療機関で受診した場合は、治療そのものが現物給付される(療養の給付)。指定外の医療機関では、いったん費用を立て替えた後、全額が支給される(療養の費用の支給)。

労災保険の基本事項

・根拠法:労働者災害補償保険法(業務災害の補償責任の根拠は労働基準法) ・保険者:政府(窓口は都道府県労働局と労働基準監督署) ・適用:労働者を1人でも使用する事業は原則として強制適用。正社員だけでなく、パートタイマー・アルバイトなど雇用形態を問わずすべての労働者が対象となる。中小事業主・一人親方などは任意の特別加入制度で加入できる。 ・保険料:事業主の全額負担。業種別の保険率とメリット制がある。 ・認定:労働基準監督署長

主な保険給付(業務災害の名称)

・療養補償給付:治療そのもの(現物給付)または治療費の支給。自己負担はない。 ・休業補償給付:療養のため働けず賃金を受けられない日の4日目から、給付基礎日額の60%が支給される。社会復帰促進等事業から休業特別支給金20%が上乗せされ、合計で約80%となる。休業の最初の3日間(待期期間)は、労働基準法に基づき事業主が平均賃金の60%以上を補償する。 ・傷病補償年金:療養開始後1年6か月を過ぎても治っておらず、障害の程度が傷病等級(第1〜3級)に該当する場合に、休業補償給付に代えて支給される。 ・障害補償給付:治ったとき(症状が固定したとき)に障害が残った場合、等級に応じて年金または一時金が支給される。 ・介護補償給付:障害(補償)年金・傷病(補償)年金の一定の受給者で、介護を受けている場合に支給される。 ・遺族補償給付:死亡時に遺族へ年金または一時金が支給される。 ・葬祭料:葬祭を行う者に支給される。 ・二次健康診断等給付:定期健康診断で脳・心臓疾患に関連する項目(血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMI)がすべて異常の場合に、二次健康診断と特定保健指導を受けられる。

補足

・通勤災害の療養給付では、初回に原則200円の一部負担金が休業給付から差し引かれる。業務災害の療養補償給付には一部負担金はない。 ・2020年の法改正で、複数の事業場で働く労働者について、すべての就業先の業務負荷を総合して評価する「複数業務要因災害」が新たに給付対象となった。

POINT

・労災保険の保険者は政府(国)、保険料は事業主が全額負担する。 ・業務災害に加えて通勤災害も給付の対象となる。 ・労災の認定は労働基準監督署長が行う(厚生労働大臣・産業医・事業主ではない)。 ・業務災害の療養補償給付は自己負担なし。健康保険の3割負担とは異なる。 ・休業補償は4日目から給付基礎日額の60%(特別支給金を加えると80%)。最初の3日間は事業主が補償する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。