カルシウムチャネルが狙われる―Lambert-Eaton症候群の陰に潜む肺小細胞癌
第114回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
Lambert-Eaton症候群を合併する腫瘍として最も頻度が高いのはどれか。
- a.膵癌
- b.肺癌
- c.胸腺腫
- d.直腸癌
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
Lambert-Eaton症候群は、シナプス前膜のP/Q型電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体によりアセチルコリン放出が減少する神経筋接合部疾患で、約半数が傍腫瘍性に発症し、その原因腫瘍の大部分は肺小細胞癌です。小細胞癌の腫瘍細胞が同じカルシウムチャネルを発現していることが、この結びつきの背景と考えられています。胸腺腫に合併するのは重症筋無力症であり、両者の取り違えは典型的なひっかけです。臨床的には下肢近位筋優位の筋力低下、自律神経症状、腱反射低下、反復刺激試験での高頻度刺激による漸増が特徴で、神経症状が腫瘍発見に先行しうるため、診断後は肺癌の検索を繰り返し行うことが重要です。腫瘍と傍腫瘍性神経症候群の組み合わせを病態とともに理解しておくことは、早期のがん発見にもつながります。
解答・解説
正解はbです
Lambert-Eaton症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome, LEMS)は、神経筋接合部の神経終末(シナプス前膜)にあるP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に対する自己抗体によって、アセチルコリンの放出が減少し、筋力低下を来す自己免疫疾患である。 LEMSの約半数は悪性腫瘍に合併する傍腫瘍性神経症候群(腫瘍が直接浸潤・転移するのではなく、腫瘍に対する免疫反応などを介して離れた部位の神経が障害される病態)として発症し、その原因腫瘍の大部分は肺小細胞癌である。肺小細胞癌は神経内分泌系の性質をもち、腫瘍細胞自体がVGCCを発現しているため、腫瘍に対して作られた抗体が神経終末のVGCCにも結合してしまうと考えられている。 したがって本問では、LEMSと肺癌(特に小細胞癌)の結びつきを想起すればよい。重症筋無力症と胸腺腫の組み合わせとの混同に注意が必要である。
選択肢考察
- ×a. 膵癌
誤り。膵癌がLEMSの原因腫瘍となることはまれである。膵癌に関連して知られる腫瘍随伴性の病態としては、凝固能亢進によって脳梗塞などの血栓塞栓症を起こすTrousseau症候群や、新規発症・急な増悪を示す糖尿病などがある。進行膵癌で筋力低下がみられることはあるが、これは悪液質(がん悪液質)や栄養状態の悪化による筋量減少によるものであり、LEMSの機序とは異なる。
- ○b. 肺癌
正しい。LEMSに合併する腫瘍として最も多いのは肺癌、特に肺小細胞癌であり、腫瘍合併例の大半を占める。小細胞癌の細胞はVGCCを発現しており、腫瘍に対する免疫反応で産生された抗VGCC抗体が神経終末のVGCCを障害する。LEMSの症状が肺癌の発見に先行することも少なくないため、LEMSと診断したら胸部CTなどで肺小細胞癌を積極的に検索し、見つからなくても一定期間は繰り返し精査する。喫煙歴はその重要な手がかりとなる。
- ×c. 胸腺腫
誤り。胸腺腫に合併する自己免疫疾患として最も代表的なのは重症筋無力症(シナプス後膜のアセチルコリン受容体などに対する自己抗体による疾患)であり、LEMSではない。胸腺腫には重症筋無力症のほか、赤芽球癆(赤血球系の前駆細胞だけが著減する貧血)、低ガンマグロブリン血症(Good症候群)、電位依存性カリウムチャネル(VGKC)複合体抗体に関連する神経症候群(Morvan症候群など)、抗PIT-1抗体陽性の下垂体機能障害など、多彩な自己免疫疾患が合併しうる。
- ×d. 直腸癌
誤り。直腸癌がLEMSを含む傍腫瘍性神経症候群の原因となることはまれである。進行例で全身の筋力低下を来すことはあっても、その多くはがん悪液質や筋量減少(サルコペニア)によるもので、VGCC抗体による神経筋伝達障害ではない。
- ×e. 悪性リンパ腫
誤り。悪性リンパ腫に合併したLEMSの報告はあるものの頻度は低く、最多の原因腫瘍ではない。悪性リンパ腫、特にHodgkinリンパ腫と関連の深い傍腫瘍性神経症候群としては、抗Tr(DNER)抗体や抗代謝型グルタミン酸受容体1(mGluR1)抗体を伴う小脳失調(傍腫瘍性小脳変性症)が知られている。なお、全身性エリテマトーデス(SLE)、Sjögren症候群、関節リウマチなどの自己免疫疾患では、経過中に悪性リンパ腫が発生しやすいことも押さえておきたい。
Lambert-Eaton症候群の臨床像
・症状:近位筋(特に下肢近位筋)優位の筋力低下と易疲労性。眼瞼下垂や複視などの眼症状は重症筋無力症より目立たない。 ・自律神経症状:口渇、便秘、勃起障害、発汗低下など(自律神経のアセチルコリン放出も障害されるため)。 ・腱反射:低下または消失する。 ・筋力の一時的改善:短時間の随意収縮の直後に筋力や腱反射が一時的に回復する現象がみられる。
神経反復刺激試験(電気生理検査)
・安静時の複合筋活動電位(CMAP)の振幅が低い。 ・低頻度刺激(2〜5Hz)で漸減(waning)を示す。 ・高頻度刺激(20〜50Hz)または短時間の最大随意収縮後に、振幅が著明に増大(waxing、漸増)する。これはカルシウムが神経終末に蓄積してアセチルコリン放出が一時的に回復するためで、LEMSに特徴的である。
重症筋無力症との比較
・障害部位:LEMSはシナプス前(VGCC)、重症筋無力症はシナプス後(アセチルコリン受容体、MuSKなど)。 ・合併腫瘍:LEMSは肺小細胞癌、重症筋無力症は胸腺腫。 ・初発症状:LEMSは下肢近位筋の筋力低下、重症筋無力症は眼瞼下垂・複視が多い。 ・反復刺激:LEMSは高頻度刺激で漸増、重症筋無力症は低頻度刺激で漸減。 ・腱反射:LEMSは低下、重症筋無力症は通常保たれる。
治療
・腫瘍合併例では原因腫瘍の治療(肺小細胞癌に対する化学療法など)が最優先で、腫瘍の制御により神経症状も改善しうる。 ・対症療法として、カリウムチャネルを遮断して神経終末の脱分極を延長しアセチルコリン放出を増やす3,4-ジアミノピリジン(アミファンプリジン)が用いられる。コリンエステラーゼ阻害薬を併用することもある。 ・免疫療法として、副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法などを行う。
代表的な腫瘍と傍腫瘍性神経症候群の組み合わせ
・肺小細胞癌:LEMS(抗VGCC抗体)、抗Hu抗体関連の脳脊髄炎・感覚性ニューロパチー・自律神経障害、小脳変性症など ・卵巣奇形腫:抗NMDA受容体脳炎 ・精巣腫瘍:抗Ma2抗体関連脳炎 ・乳癌・婦人科癌:抗Yo抗体関連の傍腫瘍性小脳変性症 ・Hodgkinリンパ腫:抗Tr(DNER)抗体、抗mGluR1抗体関連の小脳失調 ・胸腺腫:重症筋無力症
POINT
・Lambert-Eaton症候群は、シナプス前膜のP/Q型電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による神経筋接合部疾患である。 ・合併腫瘍として最多は肺小細胞癌。LEMSをみたら肺癌を検索する。 ・胸腺腫に合併するのは重症筋無力症(混同に注意)。 ・下肢近位筋の筋力低下、自律神経症状、腱反射低下、反復刺激試験で高頻度刺激により漸増(waxing)を示す。
