雷鳴頭痛と開いた瞳孔―動眼神経が教えてくれる動脈瘤の居場所
第114回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
62歳の女性。突然の激しい頭痛のため救急車で搬入された。悪心および嘔吐を伴う強い頭痛があり,救急車を要請した。意識レベルはJCSⅠ-1。体温36.9℃。心拍数92/分,整。血圧150/88mmHg。呼吸数14/分。SpO2 100%(鼻カニューラ1 L/分酸素投与下)。神経診察では片麻痺を認めないが,右の眼瞼下垂を認める。瞳孔径は右6mm,左3mm。対光反射は左で迅速だが右で消失している。 最も考えられるのはどれか。
- a.髄膜炎
- b.脳梗塞
- c.片頭痛
- d.緊張型頭痛
- e.脳動脈瘤破裂
対話形式の解説
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ドクターまとめ
突然発症して短時間で最強に達する雷鳴頭痛に悪心・嘔吐や軽度の意識障害を伴う場合は、まずくも膜下出血を疑い、頭部単純CTを行います。くも膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂が約8割と最多で、脳実質を直接壊さないため片麻痺などの巣症状は目立たないことが多いです。散瞳と対光反射消失を伴う動眼神経麻痺は、神経の表層を走る瞳孔線維が外から圧迫されていることを示し、内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などを強く示唆します。一方、糖尿病性の動眼神経麻痺は瞳孔回避型が多く、片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛は神経学的異常所見を伴いません。頭痛の「始まり方」と「神経所見」に注目する姿勢は、見逃してはならない二次性頭痛を拾い上げる救急診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・62歳女性。「突然の激しい頭痛」で発症し、悪心・嘔吐を伴う。 ・意識レベルはJCSⅠ-1(覚醒しているが、今ひとつはっきりしない)と軽度の意識障害がある。 ・体温36.9℃で発熱はない。血圧150/88mmHgとやや高い。 ・片麻痺はない(大脳実質の局所症状に乏しい)。 ・右眼瞼下垂、右瞳孔散大(右6mm、左3mmの瞳孔不同)、右対光反射消失 → 右動眼神経麻痺。
診断へのプロセス
頭痛の診療では、まず「突然発症か」を確認する。発症した瞬間を特定できるほど急激に始まり、短時間で最強に達する頭痛(雷鳴頭痛)は、くも膜下出血(SAH:subarachnoid hemorrhage)を第一に疑うべき危険なサインである。悪心・嘔吐や軽い意識障害は頭蓋内圧の急上昇を示唆し、SAHに合致する。SAHは脳表のくも膜下腔への出血であって脳実質を壊すわけではないため、片麻痺などの巣症状が目立たないことが多く、本例の所見とも矛盾しない。 SAHの原因として成人で最も多いのは脳動脈瘤の破裂で、全体の約8割を占める。若年者では脳動静脈奇形なども原因となるが、60歳代で初めて発症した本例ではまず脳動脈瘤破裂を考える。 さらに本例では右動眼神経麻痺(眼瞼下垂、散瞳、対光反射消失)がある。動眼神経は中脳から出て、後大脳動脈と上小脳動脈の間を通り、内頸動脈から後交通動脈が分岐する部位のすぐそばを前方へ走行する。このため内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤が動眼神経を外側から圧迫すると、神経の表面近くを走る副交感神経線維(瞳孔を縮める線維)が早期に障害され、散瞳と対光反射消失を伴う動眼神経麻痺が生じる。 以上から、右IC-PC動脈瘤の破裂によるくも膜下出血が最も考えられる。
初期対応の考え方
診断はまず頭部単純CTで行い、くも膜下腔(脳底槽、シルビウス裂など)の高吸収域を確認する。CTで出血が明らかでなく臨床的に強く疑う場合に限り腰椎穿刺で血性髄液・キサントクロミーを確認する。動脈瘤の部位はCTアンギオグラフィーや脳血管撮影で同定する。再出血は発症早期(特に24時間以内)に多く致命的になりやすいため、鎮痛・鎮静と降圧で再出血を防ぎつつ、クリッピング術やコイル塞栓術による動脈瘤の処置を早期に行う。
選択肢考察
- ×a. 髄膜炎
考えにくい。細菌性髄膜炎は激しい頭痛・嘔吐・項部硬直を呈しうるが、通常は数時間~数日かけて進行し、本例のように突然発症することはない。また多くは38℃以上の発熱を伴うが、本例の体温は36.9℃である。なお、SAHでもくも膜下腔に流出した血液の刺激による化学的な髄膜刺激症状(項部硬直など)や、経過中の軽度発熱がみられることがあり、髄膜刺激症状の存在だけで髄膜炎と判断してはならない。一側の動眼神経麻痺のみを急性に呈する点も、髄膜炎では説明しにくい。
- ×b. 脳梗塞
考えにくい。脳梗塞は突然の神経脱落症状(片麻痺、失語など)で発症するが、多くは頭痛を伴わないか、あっても軽い。悪心・嘔吐を伴う突然の激しい頭痛は脳梗塞の典型像ではない(椎骨動脈解離に伴う梗塞などで頭痛を伴う例はあるが例外的である)。中脳梗塞で動眼神経麻痺が出ることはあるが、その場合は反対側の片麻痺(Weber症候群)や小脳失調などを伴うことが多く、本例の臨床像とは合わない。
- ×c. 片頭痛
考えにくい。片頭痛は片側性・拍動性の中等度~重度の頭痛で、悪心・嘔吐や光・音過敏を伴い、4~72時間持続する一次性頭痛である。しかし通常は数十分~数時間かけて痛みが強まり、雷鳴頭痛のように瞬時に最強に達することはない。また片頭痛では意識障害や瞳孔異常は生じない。かつて「眼筋麻痺性片頭痛」と呼ばれた病態があったが、現在の国際頭痛分類では片頭痛ではなく脳神経の有痛性ニューロパチーとして扱われており、いずれにせよ初発の動眼神経麻痺に突然の激しい頭痛を伴う場合には、まず動脈瘤を除外しなければならない。
- ×d. 緊張型頭痛
考えにくい。緊張型頭痛は頭全体や後頭部を締めつけられるような、軽度~中等度の非拍動性の頭痛で、最も頻度の高い一次性頭痛である。徐々に始まり、日常動作で悪化せず、悪心・嘔吐は通常伴わない。突然発症の激しい頭痛や、動眼神経麻痺のような神経学的異常所見を伴うことはない。
- ○e. 脳動脈瘤破裂
最も考えられる。突然発症の激しい頭痛、悪心・嘔吐、軽度の意識障害、片麻痺がないことは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に典型的である。加えて、散瞳と対光反射消失を伴う右動眼神経麻痺は、動眼神経に接する右内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤による圧迫を強く示唆する。なお、脳底動脈-上小脳動脈分岐部の動脈瘤も動眼神経に近く、同様の麻痺を生じうる。IC-PC動脈瘤であっても全例で動眼神経麻痺を起こすわけではなく、動脈瘤が神経の方向へ突出している場合などに限られる。
くも膜下出血(SAH)
・原因:脳動脈瘤破裂が約8割と最多。そのほか脳動静脈奇形、もやもや病、脳動脈解離など。 ・好発部位(脳動脈瘤):前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など、Willis動脈輪とその周辺の分岐部。 ・症状:突然の激しい頭痛(「これまでで最悪の頭痛」)、悪心・嘔吐、意識障害、髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候など。発症直後には目立たないことがある)。 ・検査:頭部単純CTが第一選択。疑わしいがCTで所見がなければ腰椎穿刺(血性髄液、キサントクロミー)。CTA、MRA、脳血管撮影で出血源を同定する。 ・合併症:再出血(発症早期に多い)、脳血管攣縮(発症後4~14日頃)、正常圧水頭症(慢性期)、低ナトリウム血症など。 ・治療:再出血予防(安静、鎮痛・鎮静、降圧)と、開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術。
雷鳴頭痛の鑑別
くも膜下出血のほか、可逆性脳血管攣縮症候群、脳静脈洞血栓症、頸部動脈解離、下垂体卒中などがあり、いずれも二次性頭痛として精査が必要である。
動眼神経麻痺と瞳孔
・動眼神経は眼瞼挙筋(眼瞼挙上)、上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋(眼球運動)、瞳孔括約筋(縮瞳、副交感神経)を支配する。完全麻痺では眼瞼下垂、眼球の外下方偏位、散瞳・対光反射消失が出る。 ・瞳孔を支配する副交感神経線維は動眼神経の表層を走るため、外からの圧迫(動脈瘤、鉤ヘルニア)では早期から散瞳をきたす(瞳孔障害型)。 ・糖尿病などによる神経内部の虚血では神経の中心部が障害されやすく、瞳孔機能が保たれることが多い(瞳孔回避型)。 ・したがって、散瞳を伴う急性動眼神経麻痺は、動脈瘤などの圧迫性病変を緊急に検索すべき所見である。
POINT
・突然発症の激しい頭痛(雷鳴頭痛)+悪心・嘔吐、巣症状なし → くも膜下出血をまず疑い、頭部単純CTを行う。 ・SAHの原因は脳動脈瘤破裂が最多。 ・散瞳・対光反射消失を伴う動眼神経麻痺 → 内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤による圧迫を想起する(脳底動脈-上小脳動脈分岐部動脈瘤も鑑別)。 ・圧迫性の動眼神経麻痺は瞳孔障害型、糖尿病性は瞳孔回避型が多い。 ・片頭痛・緊張型頭痛は一次性頭痛であり、突然発症や神経学的異常所見を伴わない。
