喉の痛みのわりに口の中はきれい―窒息へ急ぐ急性喉頭蓋炎と気管切開の判断
第114回医師国家試験 B問題 第2問
国試問題にチャレンジ
緊急気管切開を考慮すべき疾患はどれか。
- a.肺水腫
- b.緊張性気胸
- c.過換気症候群
- d.急性喉頭蓋炎
- e.声帯ポリープ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
緊急気管切開が必要になるのは、声門やその上方の上気道が急速に閉塞し、しかも気管挿管が困難な場合です。急性喉頭蓋炎は喉頭蓋の細菌感染による急速な腫脹で数時間のうちに窒息に至りうる代表的疾患で、強い咽頭痛のわりに口腔内所見が乏しいこと、含み声、流涎、吸気性喘鳴、頸部側面X線のthumb signが手がかりです。肺水腫や緊張性気胸は肺・胸腔の問題で気道は開通しており、過換気症候群は器質的異常がなく、声帯ポリープは通常気道を閉塞しません。切迫時には輪状甲状靱帯穿刺・切開でまず気道を確保し、のちに気管切開へ移行するという流れを理解しておくことは、救急外来での迅速な判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
気管切開は、頸部の皮膚を切開して気管に直接孔を開け、そこから気道を確保する処置である。緊急に気管切開(または輪状甲状靱帯穿刺・切開)が必要になるのは、声門やその上方の「上気道」が急速に閉塞して窒息の危険が迫っており、しかも口や鼻からの気管挿管が困難な場合である。 したがって本問では、各疾患について「呼吸困難の原因が上気道の閉塞か」「閉塞が急速に進行しうるか」を考えればよい。肺水腫や緊張性気胸は呼吸不全を来すが、問題の場は肺・胸腔であり、気道そのものは開通している。過換気症候群は気道や肺に器質的な異常がない。声帯ポリープは声門の病変だが、通常は小さく急速に気道を塞ぐことはない。 急性喉頭蓋炎は、喉頭蓋(声門の上で気管の入口に蓋をする軟骨性の構造)とその周囲が細菌感染によって急速に腫れる疾患であり、数時間の単位で上気道が閉塞して窒息に至りうる。腫れた喉頭蓋のために喉頭の視野が得られず気管挿管が難しいことも多く、緊急気管切開を考慮すべき代表的疾患である。
選択肢考察
- ×a. 肺水腫
誤り。肺水腫は、肺の間質や肺胞に血管外の水分が過剰に貯留した状態で、心不全による心原性のものと、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などによる非心原性のものがある。ガス交換障害による低酸素血症が問題であり、上気道は閉塞しない。治療は原因疾患への対処(心原性なら利尿薬・血管拡張薬など)に加えて、酸素投与、非侵襲的陽圧換気(NPPV)、必要に応じて気管挿管のうえ呼気終末陽圧(PEEP)をかけた人工呼吸管理を行う。気道は開通しているので、気道確保が必要になっても気管挿管で対応でき、緊急気管切開の適応とはならない。
- ×b. 緊張性気胸
誤り。緊張性気胸は、胸膜の損傷部が一方弁(チェックバルブ)となり、吸気のたびに胸腔内へ空気がたまり続けて胸腔内圧が上昇する状態である。患側肺の虚脱に加え、縦隔が健側へ偏位し、静脈還流が妨げられて閉塞性ショックに至る。直ちに必要なのは胸腔内の空気を抜くことであり、針による緊急脱気(胸腔穿刺)を行ったのち胸腔ドレーンを留置する。上気道の問題ではないため気管切開は無効である。
- ×c. 過換気症候群
誤り。過換気症候群は、不安や心理的ストレスなどを契機に呼吸が過剰となり、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下して呼吸性アルカローシスを来す病態である。手足や口周囲のしびれ、テタニー(手指のけいれん)、呼吸困難感などを訴えるが、気道や肺に器質的異常はない。器質的疾患を除外したうえで、患者を安心させ、ゆっくりした呼吸(特に呼気を長くする)を促すことが治療の中心となる。かつて行われたペーパーバッグ法は低酸素血症の危険があるため現在は推奨されない。気道確保の処置は不要である。
- ○d. 急性喉頭蓋炎
正しい。急性喉頭蓋炎は、喉頭蓋とその周囲(声門上部)の細菌感染症で、成人ではさまざまな細菌が原因となり、かつて小児に多かったインフルエンザ菌b型(Hib)による例はワクチン普及で減少した。強い咽頭痛・嚥下痛に比べて口腔内の所見が乏しいことが特徴で、含み声、流涎(唾液を飲み込めない)、吸気性喘鳴、前かがみで顎を突き出す姿勢などがみられる。喉頭蓋の腫脹は短時間で進行し、急激な上気道閉塞から窒息に至りうる。腫れた喉頭蓋のため喉頭展開が困難で気管挿管ができないこともあるため、気道確保の手段として緊急気管切開を考慮する。一刻を争う場合には、より短時間で行える輪状甲状靱帯穿刺・切開でまず気道を確保し、その後に気管切開へ移行する。
- ×e. 声帯ポリープ
誤り。声帯ポリープは、大声を出すなどの声の酷使(音声酷使)や喫煙、炎症などを背景に、声帯の縁に生じる良性の隆起性病変で、通常は片側性である。主症状は嗄声(声がれ)であり、気道を閉塞して呼吸困難を起こすことはほとんどない。まず発声の安静(沈黙療法)、禁煙、吸入療法などの保存的治療を行い、改善しない場合は喉頭微細手術で切除する。緊急の気道確保を要する疾患ではない。
上気道閉塞を来す主な疾患
・感染・炎症:急性喉頭蓋炎、クループ(急性声門下喉頭炎)、深頸部膿瘍、扁桃周囲膿瘍の進展、咽後膿瘍 ・アレルギー・浮腫:アナフィラキシーによる喉頭浮腫、血管性浮腫(遺伝性血管性浮腫など) ・異物:気道異物(小児・高齢者) ・外傷・熱傷:喉頭外傷、気道熱傷 ・腫瘍:喉頭癌、下咽頭癌など(徐々に進行するが末期には高度狭窄を来す) ・神経:両側反回神経麻痺(声帯が正中位で固定し、声門が狭くなる)
気道確保の方法と使い分け
・気管挿管:口や鼻から喉頭を経由して気管へチューブを入れる最も標準的な方法。喉頭が見えない、または通過できない場合は困難となる。 ・輪状甲状靱帯穿刺・切開:甲状軟骨と輪状軟骨の間の膜(輪状甲状靱帯)を穿刺・切開する。浅い位置にあり短時間で施行できるため、挿管も換気もできない状況での救命的手段となる。長期管理には向かない。 ・気管切開:通常、第2〜4気管輪付近を切開する。輪状甲状靱帯切開より時間がかかるが、長期の気道管理に適する。
急性喉頭蓋炎の診断と対応
・頸部側面X線写真で、腫大した喉頭蓋が親指を立てたように見える所見(thumb sign)を示す。 ・喉頭内視鏡(ファイバースコープ)で喉頭蓋の発赤・腫脹を直接確認する。小児では刺激により急激な閉塞を誘発することがあるため、無理な咽頭の観察(舌圧子の使用など)は避け、気道確保の準備を整えた状況で評価する。 ・治療は抗菌薬投与と、喉頭浮腫に対する副腎皮質ステロイド投与。気道閉塞の進行が疑われれば気道確保を優先する。
POINT
・緊急気管切開の適応は、急速に進行する上気道閉塞で、気管挿管が困難な場合である。 ・急性喉頭蓋炎はその代表で、強い咽頭痛のわりに口腔内所見が乏しい、含み声、流涎、吸気性喘鳴が手がかり。頸部側面X線でthumb sign。 ・切迫した状況では輪状甲状靱帯穿刺・切開でまず気道を確保し、のちに気管切開へ移行する。 ・肺水腫・緊張性気胸は上気道の問題ではない。緊張性気胸には胸腔穿刺・ドレナージ。 ・過換気症候群、声帯ポリープは緊急気道確保の対象ではない。
