「家から近いので来ました」―医療面接の一言を受療行動として読み取る
第114回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
膝の疼痛を主訴に来院した患者と医師との会話を以下に示す。 医師「今日はどうされましたか?」 患者「①左の膝が痛いので来ました」 医師「そうですか。もう少し詳しく教えて下さい」 患者「②平らなところを歩いているときはそうでもないのですが,最近,階段で膝が痛くなります」 医師「そうなのですね。ある日急に起こったのでしょうか?」 患者「③いいえ,昨年末くらいからでしょうか。気付いたら階段を使うといつも痛い気がして」 医師「ご心配ですね」 患者「④はい,ひどくなって歩けなくなったら,周りに迷惑をかけるのではないかと心配です」 医師「それで今日はいらしたのですね」 患者「⑤そうです。こちらは評判も良く,家から近いので来ました」 受療行動についての情報はどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
受療行動とは、健康上の異常を感じたときに人がとる行動のことで、受診の判断やタイミング、医療機関の選択とその理由、他院受診歴、市販薬の使用、相談相手などが含まれます。「評判が良く家から近いので来た」という発言は医療機関を選んだ理由であり、受療行動の典型的な情報です。一方、膝が痛いという訴えは主訴、階段で痛む・昨年末からという内容は現病歴、悪化して迷惑をかけることへの心配は解釈モデル(ICEのconcerns)にあたり、受診の動機に関係していても行動そのものではありません。受療行動を把握すると、医療へのアクセスや受診の障壁、継続通院の見通しが分かり、診療方針の立案に役立ちます。患者の語りを情報の種類ごとに整理する力は、医療面接の質を高め、患者中心の医療を実践する基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、医療面接で患者が語った内容を、医療面接で収集すべき情報の種類(主訴、現病歴、患者の解釈モデル・心理社会的情報、受療行動など)に分類できるかを問う問題である。
受療行動とは
受療行動とは、人が自分の健康に何らかの異常を感じたときにとる行動のことである。具体的には、受診するか否か・いつ受診するかの判断、どの医療機関(診療科)を選ぶか、その選択の理由、これまでに他院を受診したか、市販薬を使ったか、誰に相談したか、といった「医療を受けるに至る行動とその経緯」を指す。厚生労働省が実施している受療行動調査でも、「病院を選んだ理由」が主要な調査項目の一つになっている。
会話の整理
・①左膝が痛くて来た:主訴 ・②平地歩行では軽いが階段で痛む:症状の性状・誘因(現病歴) ・③昨年末ごろからで、急に起こったわけではない:発症様式と経過(現病歴) ・④悪化して歩けなくなり周囲に迷惑をかけるのが心配:患者の不安・懸念(解釈モデル、心理社会的側面) ・⑤評判が良く家から近いのでこの医療機関に来た:医療機関を選んだ理由(受療行動)
考え方
①~④はいずれも「患者に何が起きているか」「患者がそれをどう受け止めているか」についての情報であり、患者がとった「行動」そのものの説明ではない。これに対し⑤は、患者が数ある医療機関の中からこの施設を選んで受診したという行動と、その理由を述べている。よって受療行動に関する情報は⑤である。
選択肢考察
- ×a. ①
「左の膝が痛い」は、患者が受診した最も中心的な訴え、すなわち主訴である。主訴は受診のきっかけとなった健康上の異常の内容を示すものであり、受診のきっかけではあっても、患者がどのような受診行動をとったかの情報ではない。紛らわしいが受療行動には当たらない。
- ×b. ②
平地では痛みが軽く、階段昇降で痛むという、症状の出現状況・増悪因子についての情報であり、現病歴の一部である。膝関節に荷重や屈曲負荷がかかる動作で痛むという特徴は、変形性膝関節症などを考えるうえで重要な情報となる。
- ×c. ③
突然の発症ではなく、昨年末ごろから徐々に自覚するようになったという、発症時期・発症様式・経過についての情報であり、現病歴に属する。急性発症か慢性経過かは鑑別診断を絞り込むうえで重要である。
- ×d. ④
症状が悪化して歩けなくなり、周囲に迷惑をかけるのではないかという患者の不安・懸念を述べたもので、患者が自分の病気をどう理解し、何を心配しているかという解釈モデル(心理社会的側面)の情報である。この心配が受診の動機になってはいるが、述べられているのは患者の受け止め方や気持ちであり、とった行動の説明ではない。
- ○e. ⑤
「評判が良い」「家から近い」という理由でこの医療機関を選んで受診した、という内容である。どの医療機関を選び、なぜそこを受診したかは、健康上の異常を感じた際に患者がとった行動とその理由そのものであり、受療行動についての情報に当たる。
医療面接で収集する主な情報
・主訴:受診の主な理由となった症状・訴え ・現病歴:発症時期、発症様式(突然・急性・慢性)、部位、性状、程度、経過、増悪・寛解因子、随伴症状など ・既往歴、家族歴、生活歴・社会歴(職業、喫煙、飲酒、家族構成、生活環境など) ・患者の解釈モデル:患者が自分の病気の原因や意味をどう考えているか、何を心配しているか、医療に何を期待しているか ・受療行動:受診に至るまでの行動(受診のタイミングとその理由、医療機関の選択理由、他院受診歴、市販薬の使用、相談相手など)
解釈モデルの聴取
患者の考え・感情・期待・生活への影響を把握することは、患者中心の医療を実践するうえで欠かせない。英語圏では、ideas(考え)、concerns(心配)、expectations(期待)の頭文字をとって ICE と呼び、これらを意識して聴取することが勧められている。④のような「心配」は concerns に相当する。
受療行動を聴取する意義
受療行動を知ることで、患者の医療へのアクセスのしやすさ、医療機関に対する期待、受診をためらわせた要因(費用、仕事、交通手段など)、すでに受けた治療の有無などが分かり、診療方針の立案や継続的な通院の支援に役立つ。
POINT
・受療行動=健康上の異常を感じたときに人がとる行動(受診の判断・時期、医療機関の選択とその理由、他院受診、市販薬使用、相談相手など)。 ・「なぜこの医療機関を選んだか」は典型的な受療行動の情報である。 ・主訴(何が起きているか)、現病歴(症状の性状・経過)、解釈モデル(患者の考え・心配・期待)と区別する。
