分厚い中隔と前に跳ねる弁―心エコー3枚で読み解く閉塞性肥大型心筋症
第114回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
心エコー図(A)~(C)を別に示す。 認められる所見はどれか。2つ選べ。

- a.心室瘤
- b.心嚢液貯留
- c.僧帽弁狭窄
- d.非対称性心室中隔肥厚
- e.僧帽弁収縮期前方運動
対話形式の解説
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ドクターまとめ
閉塞性肥大型心筋症の心エコーでは、心室中隔が左室後壁の1.3倍以上に厚くなる非対称性心室中隔肥厚(ASH)、狭い左室流出路を通る高速血流で僧帽弁前尖が中隔側に引き込まれる僧帽弁収縮期前方運動(SAM)、駆出血流の途中減少による大動脈弁収縮中期半閉鎖の3所見が特徴です。SAMは流出路閉塞を増悪させるとともに僧帽弁逆流の原因にもなります。心室瘤、心嚢液貯留、僧帽弁狭窄は、それぞれ壁の菲薄化と瘤状突出、心臓周囲の無エコー域、弁尖の肥厚と開放制限で見分けます。左室容量が減ると閉塞が強まるという病態を理解すれば、雑音の変化、β遮断薬などによる治療、陽性変力薬や血管拡張薬を避ける理由まで一貫して説明できます。突然死や心原性塞栓の予防も含め、画像所見から病態と管理までつなげて学ぶことが臨床判断の力になります。
解答・解説
正解はd, eです
示されているのは、(A)傍胸骨左室長軸断層図、(B)大動脈弁レベルのMモード図、(C)僧帽弁レベルのMモード図である。Mモードとは、超音波ビーム1本上の構造物の動きを縦軸に深さ、横軸に時間をとって記録する方法で、弁や壁の動きを時間的に詳しく追える。
各図の読み取り
(A)左室長軸断層図:心室中隔(画面上方、右室と左室の間の壁)が著しく厚く、左室後壁(画面下方)と比べて明らかに肥厚している。心室中隔が左室流出路に張り出し、流出路が狭く見える。心臓の周囲に心嚢液を示す無エコー域はなく、左室壁の限局的な瘤状突出もない。僧帽弁尖の明らかな肥厚もみられない。 (B)大動脈弁Mモード図:収縮期に開いた大動脈弁が、収縮中期にいったん閉じかかり、再び開く動き(収縮中期半閉鎖、ノッチ)がみられる。左室流出路の狭窄によって収縮中期に駆出血流が急に減少するために生じる所見である。 (C)僧帽弁Mモード図:拡張期には前尖と後尖が大きく開いており、開放制限はない。収縮期に、本来は閉鎖して後方に位置するはずの僧帽弁前尖のエコーが前方(心室中隔側)へ盛り上がるように動いている。これが僧帽弁収縮期前方運動(systolic anterior motion:SAM)である。
まとめ
非対称性心室中隔肥厚(asymmetric septal hypertrophy:ASH)、僧帽弁収縮期前方運動(SAM)、大動脈弁収縮中期半閉鎖の3つがそろっており、左室流出路狭窄を伴う閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy:HOCM)の典型的な心エコー所見である。設問は図に「認められる所見」を問うており、選択肢の中ではASHとSAMが該当する。
選択肢考察
- ×a. 心室瘤
心室瘤は、心筋梗塞後などに心筋が瘢痕化・菲薄化し、その部分が収縮期にも外側へ膨らむ(奇異性運動)限局的な瘤状の突出である。肥大型心筋症でも心尖部肥大型や中部閉塞型で心尖部瘤を伴うことがあるが、本図(A)では左室壁の菲薄化や瘤状の突出は認められない。むしろ心室中隔は著明に厚い。
- ×b. 心嚢液貯留
心嚢液が貯留すると、心エコーでは心臓(特に左室後壁の背側や右室前面)を取り囲むエコーフリースペース(無エコー域)として描出される。本図(A)や各Mモード図では心臓周囲にそのような無エコー域はなく、心嚢液貯留は認めない。
- ×c. 僧帽弁狭窄
僧帽弁狭窄では、弁尖の肥厚・石灰化、交連部の癒着による開放制限がみられ、長軸断層図では前尖のドーム形成(hockey stick様の形態)、Mモードでは前尖の拡張期後退速度(DDR)の低下による台形の波形や、後尖が前尖と同方向に動く所見がみられ、左房は拡大する。本例は(A)で弁尖の肥厚がなく、(C)で拡張期に前尖・後尖が十分に開いているため、僧帽弁狭窄の所見はない。
- ○d. 非対称性心室中隔肥厚
非対称性心室中隔肥厚(ASH)は、拡張末期の心室中隔厚と左室後壁厚の比が1.3以上(1.3〜1.5以上とする基準もある)の場合をいい、肥大型心筋症に特徴的な所見である。図(A)では心室中隔が左室後壁に比べ明らかに厚く、この基準を満たす。肥厚した中隔は左室流出路に突出し、流出路狭窄の土台となる。
- ○e. 僧帽弁収縮期前方運動
僧帽弁収縮期前方運動(SAM)は、収縮期に僧帽弁前尖(および腱索)が前方の心室中隔側へ引き寄せられる現象である。肥厚した中隔によって狭くなった左室流出路を血流が速い速度で通過すると、ベンチュリ効果や血流の引き込み(drag force)によって前尖が流出路側へ引き込まれる。図(C)の僧帽弁Mモードで、収縮期に前尖エコーが前方へ盛り上がる所見として確認できる。SAMは左室流出路の動的な閉塞をさらに強め、前尖と後尖の接合不全による僧帽弁逆流も生じさせる。
肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)の概要
・定義:高血圧や大動脈弁狭窄症などの明らかな原因がないのに、左室(まれに右室)の心筋が不均一に肥大し、心室の拡張能が障害される疾患である。 ・遺伝:約半数に家族歴があり、多くは常染色体顕性(優性)遺伝である。心筋の収縮単位であるサルコメアの構成蛋白(β-ミオシン重鎖、ミオシン結合蛋白Cなど)をコードする遺伝子の変異が見つかることが多いが、原因遺伝子が特定できない例も少なくない。 ・分類:安静時または誘発時に左室流出路の圧較差が30 mmHg以上あるものを閉塞性肥大型心筋症とよぶ。ほかに非閉塞性、心室中部閉塞性、心尖部肥大型などがある。経過中に左室の収縮力が低下し拡張型心筋症に似た状態になったものは拡張相肥大型心筋症とよばれる。
閉塞性肥大型心筋症の心エコー所見の整理
・非対称性心室中隔肥厚(ASH):中隔厚/後壁厚比≧1.3 ・僧帽弁収縮期前方運動(SAM) ・大動脈弁収縮中期半閉鎖 ・ドプラ法で左室流出路の加速血流と圧較差(収縮後期にピークをもつ短剣状の波形) ・拡張能障害(左室流入血流の異常)、左房拡大
身体所見
・収縮期駆出性雑音(胸骨左縁)。左室の容量を減らす操作(Valsalva手技の力み期、立位、亜硝酸薬)で増強し、容量を増やす操作(蹲踞、下肢挙上)で減弱する。 ・Ⅳ音を聴取することが多い。
治療と注意点
・閉塞性では、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル)、Ⅰa群抗不整脈薬(シベンゾリン、ジソピラミド)などで心収縮を抑え、流出路圧較差を軽減する。近年は心筋ミオシン阻害薬(マバカムテン)も使用可能となった。 ・薬物抵抗性の閉塞では、中隔心筋切除術や経皮的中隔心筋焼灼術(アルコールで肥厚中隔を壊死させる方法)を行う。 ・閉塞を悪化させるため、ジギタリスなどの陽性変力薬、硝酸薬などの血管拡張薬、利尿薬による過度の前負荷減少は原則として避ける。 ・主な死因は、若年者の突然死(心室性不整脈)、心不全、心房細動に伴う心原性塞栓症(脳梗塞)である。突然死の高リスク例では植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)を考慮する。
POINT
・閉塞性肥大型心筋症の心エコー三徴:非対称性心室中隔肥厚(中隔/後壁比≧1.3)、僧帽弁収縮期前方運動(SAM)、大動脈弁収縮中期半閉鎖。 ・SAMは狭い左室流出路を通る高速血流で僧帽弁前尖が中隔側に引き込まれる現象で、流出路閉塞と僧帽弁逆流を生じる。 ・左室流出路圧較差30 mmHg以上で閉塞性と判定する。 ・閉塞性HCMでは陽性変力薬・血管拡張薬・過度の利尿は禁忌的。β遮断薬やシベンゾリンなどで収縮を抑える。
