熱傷直後のショックは「水が漏れる」ショック―3つの指標で読み解く循環血液量減少
第113回医師国家試験 F問題 第83問
国試問題にチャレンジ
広範囲熱傷受傷早期のショックにおいて想定されるのはどれか。 心拍出量 中心静脈圧 体血管抵抗 a 上昇 上昇 上昇 b 上昇 上昇 低下 c 上昇 低下 上昇 d 上昇 低下 低下 e 低下 上昇 上昇 f 低下 上昇 低下 g 低下 低下 上昇 h 低下 低下 低下
- a.上昇 / 上昇 / 上昇
- b.上昇 / 上昇 / 低下
- c.上昇 / 低下 / 上昇
- d.上昇 / 低下 / 低下
- e.低下 / 上昇 / 上昇
- f.低下 / 上昇 / 低下
- g.低下 / 低下 / 上昇
- h.低下 / 低下 / 低下
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
広範囲熱傷の受傷早期には、炎症性メディエーターによる全身の血管透過性亢進と創面からの体液喪失によって循環血液量が急減し、循環血液量減少性ショックとなります。静脈還流の減少で中心静脈圧は低下し、前負荷の低下から心拍出量も低下する一方、交感神経系やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系による代償性の血管収縮で体血管抵抗は上昇します。中心静脈圧が上昇するなら心原性・閉塞性ショック、体血管抵抗が低下するなら血液分布異常性ショックと区別でき、熱傷でも受傷数日後の敗血症ではwarm shockの型に変わりうる点に注意が必要です。初期治療はBaxter(Parkland)の公式を目安とした細胞外液輸液で、尿量を指標に過不足なく調整します。病態から3つの血行動態指標を予測する考え方は、あらゆるショックの鑑別と治療方針の判断に直結します。
解答・解説
正解はgです
問われていること
広範囲熱傷の受傷直後から数十時間のうちに起こるショック(熱傷ショック)が、血行動態のうえでどの型に当たるかを問う問題である。心拍出量、中心静脈圧(CVP:右心房付近の圧で、静脈還流量すなわち前負荷の目安)、体血管抵抗(SVR:末梢血管の収縮の程度)の3つの指標の組み合わせで判断する。
熱傷ショックの病態
広範囲に皮膚が損傷されると、次の2つの機序で血管内の水分が急速に失われる。 1. 損傷部位で炎症性メディエーター(ヒスタミン、ブラジキニン、プロスタグランジン、サイトカインなど)が放出され、血管透過性が亢進する。熱傷部だけでなく、広範囲熱傷では全身の毛細血管から血漿成分が間質へ漏れ出し、著明な浮腫を生じる。 2. 皮膚のバリア機能が失われ、創面から滲出液や不感蒸泄として体液が体外へ失われる。 この結果、循環血液量が急激に減少し、受傷早期のショックは循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)の性格をもつ。血管透過性の亢進は受傷後おおむね24時間前後まで続くとされ、この時期が最も輸液を必要とする。
3つの指標の変化
・中心静脈圧:静脈へ戻る血液そのものが減るため低下する。 ・心拍出量:前負荷(心室に戻る血液量)が減るため、Frank-Starling機序により1回拍出量が減り、心拍出量は低下する。頻脈で一部代償されるが、全体としては低下する。 ・体血管抵抗:血圧の低下を圧受容体が感知し、交感神経系やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、バソプレシンが活性化され、末梢血管が収縮するため上昇する。四肢の冷感・蒼白(cold shock)はこれを反映した所見である。 したがって「心拍出量低下・中心静脈圧低下・体血管抵抗上昇」の組み合わせが想定される。
時期による病態の違い
受傷から数日たって創感染から敗血症を起こした場合は、ショックの性格が変わる。サイトカインによる末梢血管の拡張で体血管抵抗は低下し、初期には代償的に心拍出量が上昇する血液分布異常性ショック(warm shock)となり、相対的な循環血液量不足のため中心静脈圧は低下する。受傷早期と後期を区別して考えることが重要である。
選択肢考察
- ×a. 上昇 / 上昇 / 上昇
3つの指標がすべて上昇する組み合わせは、受傷早期の熱傷ショックには当てはまらない。熱傷早期は血漿成分が血管外へ漏出して循環血液量が減るため、静脈還流が減って中心静脈圧は下がり、前負荷の低下によって心拍出量も下がる。上昇するのは代償性の血管収縮による体血管抵抗だけである。
- ×b. 上昇 / 上昇 / 低下
心拍出量と中心静脈圧が上がり体血管抵抗が下がる組み合わせは、輸液過剰で容量負荷がかかった状態に末梢血管拡張が加わったような状況に近く、循環血液量が不足する熱傷早期とは逆の所見である。熱傷早期には中心静脈圧・心拍出量はともに低下し、体血管抵抗は代償的に上昇する。
- ×c. 上昇 / 低下 / 上昇
中心静脈圧の低下と体血管抵抗の上昇は熱傷早期の所見と一致するが、心拍出量が上昇する点が誤りである。循環血液量が減って心臓に戻る血液が少なくなれば、頻脈による代償があっても1回拍出量の減少が上回り、心拍出量は低下する。
- ×d. 上昇 / 低下 / 低下
心拍出量上昇・中心静脈圧低下・体血管抵抗低下は、敗血症性ショック初期(warm shock)やアナフィラキシーショックなどの血液分布異常性ショックで典型的にみられる組み合わせである。熱傷でも受傷数日後に創感染から敗血症を起こした場合にはこの型を呈しうるが、受傷早期の循環血液量減少性ショックとは異なる。
- ×e. 低下 / 上昇 / 上昇
心拍出量低下・中心静脈圧上昇・体血管抵抗上昇は、心臓のポンプ機能が落ちる心原性ショック(広範な急性心筋梗塞など)や、心臓の拡張・充満が妨げられる閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症)でみられる組み合わせである。血液が心臓の手前でうっ滞するため中心静脈圧が上がる。熱傷早期では血管内容量そのものが減るので中心静脈圧は低下する。
- ×f. 低下 / 上昇 / 低下
中心静脈圧が上昇している点も、体血管抵抗が低下している点も熱傷早期の病態と合わない。循環血液量が減ると中心静脈圧は下がり、血圧を保つため交感神経系などを介して末梢血管が収縮し、体血管抵抗は上昇する。
- ○g. 低下 / 低下 / 上昇
受傷早期の熱傷ショックは、血管透過性亢進による血漿の血管外漏出と創面からの体液喪失による循環血液量減少性ショックである。静脈還流が減るため中心静脈圧は低下し、前負荷の低下から心拍出量も低下する。血圧低下に対して交感神経系、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、バソプレシンが働いて末梢血管が収縮するため、体血管抵抗は上昇する。この組み合わせが本問で想定される血行動態である。
- ×h. 低下 / 低下 / 低下
心拍出量と中心静脈圧の低下は熱傷早期に合致するが、体血管抵抗まで低下する点が誤りである。循環血液量減少性ショックでは代償機構として末梢血管が収縮し、体血管抵抗は上昇する。体血管抵抗が下がるのは、脊髄損傷による神経原性ショックのように交感神経の働きが失われた場合や、代償機構が破綻した末期の状態などである。
ショックの分類と血行動態
ショックは原因によって4つに分けられ、心拍出量(CO)、中心静脈圧(CVP)、体血管抵抗(SVR)の組み合わせで区別できる。 ・循環血液量減少性ショック(出血、熱傷早期、脱水など):CO低下、CVP低下、SVR上昇 ・心原性ショック(急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎など):CO低下、CVP上昇、SVR上昇 ・閉塞性ショック(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症):CO低下、CVP上昇、SVR上昇 ・血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性):SVR低下、CVPは低下〜正常、COは敗血症初期・アナフィラキシーでは上昇することが多い。神経原性ショックでは交感神経の働きが失われ、徐脈を伴いやすい。
熱傷の重症度の評価
・熱傷面積:成人では9の法則(頭頸部9%、片上肢9%ずつ、体幹前面18%、体幹後面18%、片下肢18%ずつ、陰部1%)、小児では5の法則、小さな熱傷では患者の手掌(指を含む)を約1%とする手掌法が用いられる。 ・熱傷深度:Ⅰ度(表皮のみ、発赤)、浅達性Ⅱ度(真皮浅層、水疱形成・強い痛み)、深達性Ⅱ度(真皮深層)、Ⅲ度(皮膚全層、白色〜黒色で痛覚消失)。 ・一般に成人ではⅡ度以上が体表面積のおよそ15%以上、小児・高齢者ではおよそ10%以上で、熱傷ショックへの対処として輸液が必要になる。
初期輸液
受傷早期の循環血液量減少に対しては、乳酸リンゲル液などの細胞外液を大量に輸液する。代表的なBaxter(Parkland)の公式では、受傷後24時間の輸液量を「4 mL × 体重(kg)× 熱傷面積(%)」とし、その半量を受傷後最初の8時間、残りを次の16時間で投与する。ただし公式はあくまで開始量の目安であり、実際には尿量(成人で0.5 mL/kg/時前後、小児では1 mL/kg/時前後)を指標に輸液速度を調整する。過剰輸液は肺水腫や腹部コンパートメント症候群などの原因となるため、近年は必要最小限の輸液が意識されている。
熱傷の経過
受傷後48時間程度までのショック期を過ぎると、間質に漏出した水分が血管内に戻るリフィリング期となり、尿量が増え、心不全や肺水腫に注意が必要となる。その後は感染期となり、創感染を契機とした敗血症が主な死因となる。局所治療として壊死組織の除去(デブリードマン)や外用薬による感染予防、早期の植皮が行われる。
POINT
・広範囲熱傷の受傷早期のショックは、血管透過性亢進と体表からの体液喪失による循環血液量減少性ショックである。 ・血行動態は、心拍出量低下・中心静脈圧低下・体血管抵抗上昇(代償性の末梢血管収縮)となる。 ・心原性・閉塞性ショックは中心静脈圧上昇、血液分布異常性ショックは体血管抵抗低下で区別する。 ・熱傷後期に敗血症を起こすと、体血管抵抗低下・心拍出量上昇のwarm shockに変わりうる。 ・初期輸液はBaxter(Parkland)の公式(4 mL × 体重kg × 熱傷面積%/24時間、半量を最初の8時間)を目安とし、尿量で調整する。
