その音はどこから鳴っている?―副雑音の「発生部位」で読み解く聴診と呼吸器疾患
第113回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
聴診所見と呼吸器疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.stridor ―― 肺サルコイドーシス
- b.wheezes ―― 喘息
- c.friction rub ―― 結核性胸膜炎
- d.fine crackles ―― 間質性肺炎
- e.coarse crackles ―― 細菌性肺炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
副雑音は、狭窄気道の振動による連続性ラ音(wheezes、rhonchi、stridor)、末梢気道の開放や分泌物の破裂による断続性ラ音(fine crackles、coarse crackles)、胸膜どうしがこすれる胸膜摩擦音に分けて理解します。wheezesは胸郭内気道の狭窄で呼気に目立ち喘息の代表所見、fine cracklesは吸気終末の細かい音で間質性肺炎、coarse cracklesは吸気初期からの粗い音で細菌性肺炎や肺水腫、friction rubは胸膜炎でみられます。stridorは喉頭・気管など胸郭外上気道の狭窄で吸気に目立ち頸部で強く聞こえる音で、気道異物や急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫などが原因となる一方、肺門リンパ節や間質を侵す肺サルコイドーシスの代表所見ではありません。音の種類・発生部位・呼吸相を病態と結び付けて理解することは、試験だけでなく、気道緊急を見逃さないベッドサイドの聴診力にも直結します。
解答・解説
正解はaです
肺の聴診で聴かれる異常音(副雑音)と、それを生じる代表的な疾患の対応を問う問題である。 副雑音は大きく、肺から生じるラ音(連続性ラ音・断続性ラ音)と、肺以外から生じる音(胸膜摩擦音など)に分けられる。連続性ラ音は狭くなった気道を空気が通過する際に気道壁が振動して生じる「ヒュー」「ピー」「グー」といった持続する音であり、断続性ラ音は閉じていた末梢気道が開放されたり、気道内の分泌物の膜が破裂したりして生じる「パチパチ」「ブツブツ」といった短い音である。 それぞれの音が「どこで」「どの呼吸相で」生じるのかを病態と結び付けて理解すれば、疾患との対応は自然に導ける。stridorは吸気時に聞こえる連続音で、喉頭や気管といった胸郭外の上気道(太い中枢気道)の狭窄を示す。肺サルコイドーシスは主に肺門・縦隔リンパ節や肺の間質(リンパ路に沿った部位)を侵す肉芽腫性疾患であり、上気道狭窄をきたすことはまれで、stridorの代表的な原因疾患ではない。したがって誤っている組合せはaである。
選択肢考察
- ○a. stridor ―― 肺サルコイドーシス
誤った組合せであり、これが正解となる。stridor(吸気性喘鳴)は主に吸気相に聴かれる高調の連続性ラ音で、喉頭・声門下・気管などの上気道(胸郭外気道)が狭窄したときに生じる。吸気時には胸郭外気道の内圧が大気圧より低くなって気道がさらに狭まるため、吸気で音が目立つ。発生源が中枢にあるため、胸壁よりも頸部で大きく聴取されるのが特徴である。原因としては気道異物、急性喉頭蓋炎、クループ、アナフィラキシーなどによる喉頭浮腫、腫瘍による気管の圧迫・浸潤、両側反回神経麻痺などが挙げられる。肺サルコイドーシスの主な病変は両側肺門リンパ節腫脹や肺野の粒状影・間質病変であり、上気道狭窄はまれである。肺サルコイドーシスでは画像所見の割に聴診所見に乏しいことが多いが、肺野病変が進んで線維化した場合にはfine cracklesを聴取することがある。
- ×b. wheezes ―― 喘息
正しい組合せである。wheezes(笛様音、ヒューヒュー・ピーピーという高調の連続性ラ音)は、気管支が狭くなった部分を空気が速く流れ、気道壁が振動することで生じる。気管支喘息では、気道の炎症に伴う平滑筋収縮・粘膜浮腫・粘液栓によって末梢の気道が狭窄し、特に呼気時(胸腔内圧が上がり気道がさらに狭まる時相)にwheezesが聴取される。COPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支拡張症、心不全による心臓喘息でも聴かれることがある。なお、発作が極めて重症で気流がほとんど流れなくなると、wheezesがかえって減弱・消失する(silent chest)ことがあり、危険な徴候である。
- ×c. friction rub ―― 結核性胸膜炎
正しい組合せである。friction rub(胸膜摩擦音)は、炎症によって表面が粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜が呼吸運動でこすれ合うことで生じる「ギュッギュッ」「キュッキュッ」といった、雪を踏みしめるような音であり、吸気・呼気の両相で聴取される。結核性胸膜炎を含む胸膜炎全般でみられる所見である。胸水が少ない時期(乾性胸膜炎の段階)や、胸水が吸収されつつある時期に聴かれやすく、胸水が大量に貯留して両胸膜が離れると音は消失しやすい。咳をしても音が変化しない点で、分泌物に由来するcracklesと区別できる。
- ×d. fine crackles ―― 間質性肺炎
正しい組合せである。fine crackles(捻髪音、「パチパチ」「チリチリ」と聞こえる細かく高調な断続性ラ音)は、間質の線維化などで硬くなり呼気時に閉塞していた末梢気道が、吸気の後半に急に開放されることで生じると考えられている。そのため典型的には吸気終末に聴取され、両側の背側肺底部で聴かれやすい。特発性肺線維症(IPF)をはじめとする特発性間質性肺炎、膠原病に伴う間質性肺炎、石綿肺、過敏性肺炎などで聴取される。初期の肺水腫で聴かれることもある。毛髪を耳元でこすり合わせた音にたとえられ、「ベルクロ(マジックテープ)ラ音」とも呼ばれる。
- ×e. coarse crackles ―― 細菌性肺炎
正しい組合せである。coarse crackles(水泡音、「ブツブツ」「ボコボコ」と聞こえる粗く低調な断続性ラ音)は、気道内にたまった分泌物(痰や滲出液)の中を空気が通り、液体の膜が破裂することで生じる。典型的には吸気の初期から聴取され、呼気時にも聴かれることがある。咳をして分泌物が移動すると音が変化・消失しうる点がfine cracklesとの鑑別に役立つ。細菌性肺炎のほか、進行した肺水腫(心不全)、気管支拡張症、COPDなどで聴取される。
肺の聴診音の分類
1. 呼吸音:正常呼吸音(気管呼吸音・気管支肺胞呼吸音・肺胞呼吸音)と、その減弱・消失・増強や、本来聞こえない部位で気管支呼吸音が聞こえる異常(気管支呼吸音化:肺炎の浸潤影部など)がある。 2. 副雑音 (1)ラ音(肺から生じる) ・連続性ラ音 wheezes(笛様音):高調。末梢〜中等大の気管支の狭窄。気管支喘息、COPDなど。 rhonchi(いびき様音):低調。より太い気管支の狭窄や分泌物。COPD、気管支炎など。 stridor:吸気性の高調音。喉頭・気管などの上気道狭窄。気道異物、喉頭浮腫、急性喉頭蓋炎、クループ、気管腫瘍など。 ・断続性ラ音 fine crackles(捻髪音):細かく高調、吸気終末。間質性肺炎・肺線維症、石綿肺、初期の肺水腫など。 coarse crackles(水泡音):粗く低調、吸気初期から。細菌性肺炎、進行した肺水腫、気管支拡張症など。 (2)その他 胸膜摩擦音(friction rub):胸膜炎。吸気・呼気の両相で聴取。 Hamman徴候:縦隔気腫で心拍に一致して聞こえる捻髪様の音。
サルコイドーシスの概要
原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とする。両側肺門リンパ節腫脹(BHL)が代表的な胸部所見で、ぶどう膜炎、皮膚病変、心病変(房室ブロックなど)を伴うことがある。血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)やリゾチームの上昇、高カルシウム血症、ツベルクリン反応陰転化などがみられる。肺病変は画像所見が目立つ割に自覚症状・聴診所見に乏しいことが多い。
POINT
・stridor=吸気性の連続音で上気道(喉頭・気管)の狭窄を示し、頸部で強く聞こえる。 ・wheezes=気管支狭窄(喘息では呼気時に目立つ)。 ・fine crackles=吸気終末の細かい断続音で間質性肺炎。 ・coarse crackles=吸気初期からの粗い断続音で肺炎・肺水腫など気道内分泌物。 ・friction rub=胸膜炎(胸水が多量になると消えやすい)。 ・肺サルコイドーシスは上気道狭窄をきたしにくく、stridorの代表疾患ではない。
