StudyMed医師国家試験

「で、どうしてほしいの?」に答える―SBARの「R」を見抜く

第113回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第7問

コミュニケーションツールの一つであるSBAR〈Situation, Background, Assessment,Recommendation〉に基づいて,研修医が指導医に担当患者の病状を報告している。 研修医:「担当の患者さんの状態について報告と相談をさせてください」 指導医:「どうぞ」 研修医:「78歳の女性で,①昨日大腿骨頸部骨折に対する手術を行い,維持輸液を継続しています。②本日明け方から息苦しさを訴えています」 指導医:「患者さんの状態はどうですか」 研修医:「③SpO2はルームエアーで92%,両側でcoarse cracklesを聴取し,心不全発症の可能性を疑います。④まずは酸素投与を開始すべきと考えます」 指導医:「分かりました。⑤今から私と一緒に患者さんの病状を確認しましょう」  SBARの「R」に相当するのは下線のうちどれか。

  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、報告・相談のための構造化コミュニケーションツールであるSBARを、実際の会話の中で見分けられるかを問う問題だ。着眼点は、それぞれの発言が「何を伝えているか」という中身。会話に出てくる順番に惑わされないことが大切だよ。
医学生医学生
SBARはSituation、Background、Assessment、Recommendationの頭文字ですよね。会話の流れでいうと、最後のほうにRがあるはずです。
ドクタードクター
いいね。まず4つの意味を確認しよう。Sは「いま患者に何が起きているか」、Bは「それを理解するための経過や治療内容」、Aは「報告者自身がどう判断しているか」、Rは「報告者が相手に何をしてほしいか、何をすべきと考えるか」だ。
医学生医学生
そうすると、最初の「昨日手術をして維持輸液をしている」という部分がSでしょうか。最初に言っているので。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。手術を受けたことや輸液を続けていることは、いま起きている問題そのものではなく、それを理解するための経過と治療内容だよね。だからこれはB、背景にあたる。
医学生医学生
なるほど。では「明け方から息苦しさを訴えている」のほうが、いま起きていることなのでSですね。
ドクタードクター
その通り。この会話ではBがSより先に話されているけれど、要素は順番ではなく内容で判断する。次に、SpO2の低下と両側のcoarse cracklesから心不全を疑う、という発言はどうかな。
医学生医学生
所見を並べるだけじゃなく「心不全を疑います」と自分の考えを言っているので、Aですね。
ドクタードクター
正解。客観的な所見と、そこから導いた報告者の判断をセットで伝えるのがAだ。coarse cracklesは水泡音ともいい、気道内の液体を空気が通るときの粗い断続性副雑音だから、肺うっ血を考える根拠になる。
医学生医学生
だとすると「まずは酸素投与を開始すべきと考えます」がRですね。最後の指導医の「一緒に確認しましょう」もRっぽく見えて迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だけど、SBARはあくまで報告する側が情報を整理して伝えるための枠組みなんだ。指導医の発言は報告を受けた側の返答・指示だから、SBARのどの要素にも当たらない。研修医の「酸素投与を開始すべき」という提案こそがRだよ。
医学生医学生
Rは自分から「こうしたい」「こうしてほしい」と言う部分なんですね。臨床実習のときは、報告で精一杯で、最後に何をしてほしいかまで言えていなかった気がします。
ドクタードクター
実はそこが一番抜けやすいところなんだ。Rがないと、聞き手は「それで、どうしてほしいの?」と聞き返さなければならず、報告が相談として機能しない。処置の提案、指示の確認、診察の依頼など、求める行動を具体的に言葉にすることが大事だね。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、最後のまとめと提案ができるかを見られていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいつながりだね。少し発展的な話もしておこう。SBARの前に自分の名前と患者名を名乗る形をI-SBAR、最後に受け手の指示を復唱して確認する形をSBAR-Cという。SBARはもともと潜水艦での情報伝達に使われたものが医療に応用されたもので、チーム医療で患者安全を高めるTeam STEPPSのコミュニケーション技法の一つに位置づけられている。
医学生医学生
Team STEPPSには、指示を復唱するチェックバックや、懸念を段階的に伝えるCUSもありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。それと臨床面で注意したいのは、大腿骨頸部骨折術後の高齢者の呼吸困難では、輸液負荷による心不全だけでなく、深部静脈血栓症からの肺血栓塞栓症、誤嚥性肺炎、無気肺なども鑑別に挙がることだ。指導医が「一緒に確認しましょう」と言ったのは、報告された評価に引きずられず、自分の目で患者を診るという姿勢でもあるんだよ。
医学生医学生
報告する側は評価と提案まで明確に伝え、受ける側は自分で確かめる。両方そろって安全につながるんですね。
ドクタードクター
その通り。研修医になったらすぐに使う技術だから、今のうちに口に出して練習しておこう。

まとめ

SBARは、報告者がS(状況:いま何が起きているか)、B(背景:経過や治療内容)、A(評価:報告者の判断)、R(提案・要請:相手に何をしてほしいか)の4要素で情報を整理して伝える構造化コミュニケーション手法です。各要素は会話の順番ではなく内容で判断し、本問では術後で輸液中という情報がB、息苦しさの訴えがS、所見から心不全を疑う判断がA、酸素投与開始の提案がRにあたり、報告を受けた指導医の発言はSBARの要素に含まれません。Rは省かれやすい部分ですが、求める行動を具体的に伝えることで報告が相談として機能します。SBARはTeam STEPPSのコミュニケーション技法の一つで、I-SBARやSBAR-Cといった発展形もあります。研修初日から求められる報告・相談の技術として、医療安全とチーム医療の基盤となる考え方です。

解答・解説

正解はdです

報告・相談のための構造化コミュニケーションツールであるSBARの各要素を、実際の会話の中で見分けられるかを問う問題である。 SBARは、報告する側(本問では研修医)が、伝えるべき情報を次の4つの順に整理して簡潔に伝える手法である。 ・S(Situation:状況):いま患者に何が起きているか ・B(Background:背景):その状況を理解するのに必要な患者の経過・既往・治療内容 ・A(Assessment:評価):報告者自身が状況をどう判断しているか ・R(Recommendation:提案・要請):報告者が相手に何をしてほしいか、何をすべきと考えるか 会話を順に追うと、①は手術歴と現在の治療内容という患者の背景(B)、②は本日明け方からの息苦しさという現在起きている問題(S)、③はSpO2と聴診所見を踏まえて心不全を疑うという研修医の評価(A)、④は酸素投与を開始すべきという研修医からの提案(R)にあたる。⑤は報告を受けた指導医の応答であり、SBARの構成要素ではない。 なお本問の会話ではBがSより先に述べられているが、SBARの要素は順番ではなく「内容」で判断することが大切である。また「R」は単なる行動の羅列ではなく、報告者が相手に求める具体的な行動(指示の確認、診察の依頼、処置の提案など)を明確に言語化する部分であり、ここを省かずに伝えることで報告が相談として機能する。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    誤り。①「昨日大腿骨頸部骨折に対する手術を行い、維持輸液を継続しています」は、現在の問題が生じるまでの経過と行われている治療内容を伝えており、B(Background:背景)に相当する。術後であることや輸液中であることは、息苦しさの原因(輸液過多による心不全、術後の肺塞栓症など)を考えるうえで重要な情報となる。

  2. ×b.  ②

    誤り。②「本日明け方から息苦しさを訴えています」は、いま患者に起きている問題、つまり報告の主題を述べており、S(Situation:状況)に相当する。

  3. ×c.  ③

    誤り。③はSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が室内気で92%と低下していること、両側でcoarse crackles(水泡音:気道内の液体を空気が通過するときに生じる粗い断続性副雑音)を聴取することを述べたうえで、「心不全発症の可能性を疑います」と報告者自身の判断を示しており、A(Assessment:評価)に相当する。客観的所見とそこから導いた報告者の考えをあわせて伝える部分である。

  4. ○d.  ④

    正しい。④「まずは酸素投与を開始すべきと考えます」は、評価を踏まえて報告者が次にとるべき対応を相手に提案しており、R(Recommendation:提案・要請)に相当する。Rでは、どのような処置・指示・診察を相手に求めるのかを具体的に述べることで、聞き手が判断・行動しやすくなる。

  5. ×e.  ⑤

    誤り。⑤「今から私と一緒に患者さんの病状を確認しましょう」は、報告を受けた指導医の返答・指示である。SBARは報告する側が情報を整理して伝えるための枠組みであり、受け手の発言はSBARのどの要素にも該当しない。

SBARとは

医療現場で、特に緊急性のある報告・相談を短時間で正確に伝えるための構造化された伝達手法である。もとは軍隊の潜水艦での情報伝達に用いられたものが医療に応用された。報告者は以下の順に話を組み立てる。 S(Situation):患者に何が起きているか B(Background):臨床的背景(診断名、治療経過、既往など) A(Assessment):報告者の評価・判断(何が問題だと考えるか) R(Recommendation):提案・要請(何をしてほしいか、何をすべきか) 報告の前に自分の名前・所属と患者の氏名を名乗ってから始める形(I-SBAR)や、最後に受け手の指示を復唱して確認する形(SBAR-C)もある。

Team STEPPS(チームステップス)

米国で開発された、チーム医療によって医療の質と患者安全を高めるための教育・実践の体系である。名称は、チームとしての戦略(Strategies)と道具(Tools)を用いて、医療の成果(Performance)と患者の安全(Patient Safety)を向上させる、という趣旨の英語の頭文字に由来する。医師・看護師・薬剤師など職種の異なるメンバーが、相互支援、コミュニケーション、リーダーシップ、状況モニタリングという4つの中核的な技能を習得・実践することを目指す。SBARはこのうちコミュニケーションを支える技法の一つであり、ほかに指示や報告を復唱して確認するチェックバック、懸念を段階的に表明するCUS(Concerned/Uncomfortable/Safety issue)などがある。

本症例の臨床的背景について

大腿骨頸部骨折術後の高齢者に生じた呼吸困難では、輸液負荷による心不全のほか、深部静脈血栓症から生じる肺血栓塞栓症、誤嚥性肺炎、無気肺なども鑑別に挙がる。報告を受けた側は、提示された評価に引きずられず、自ら患者を診察して確認することが重要である。

POINT

・SBARは報告者が S(状況)→ B(背景)→ A(評価)→ R(提案・要請)の順に情報を整理して伝える手法である。 ・Rは「何をしてほしいか/何をすべきか」という報告者の提案・要請である。 ・要素は会話の順番ではなく内容で判断する。 ・受け手(指導医)の発言はSBARの要素に含まれない。 ・SBARは、チームで患者安全を高める体系であるTeam STEPPSにおけるコミュニケーション技法の一つに位置づけられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。