「怖い治療」は誤解?―修正型電気けいれん療法の適応と安全性
第113回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
電気けいれん療法について正しいのはどれか。
- a.65歳以上は適応にならない。
- b.重症うつ病は適応疾患である。
- c.副作用として筋強剛がみられる。
- d.脳神経外科医の立ち会いが要件である。
- e.患者やその保護者の同意なしに実施できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
電気けいれん療法(ECT)は、現在では静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いた全身麻酔下の修正型ECTが標準で、麻酔管理は麻酔科医が担い、脳神経外科医の関与は不要です。代表的な適応は重症うつ病で、精神病症状を伴う場合、自殺の危険が切迫している場合、拒食などで身体的に危険な場合、薬物抵抗性の場合に選択され、双極性障害、統合失調症、緊張病、悪性症候群にも有効です。年齢制限はなく、抗うつ薬の副作用が出やすい高齢者ではむしろよい適応となります。主な副作用は頭痛、筋肉痛、せん妄、多くは一過性の記憶障害であり、筋強剛は副作用ではなく、悪性症候群や緊張病の筋強剛はむしろ治療対象です。侵襲的治療であるため文書による同意が必須で、本人に同意能力がなければ家族等の同意を得る必要があり、こうした知識は治療選択の説明や倫理的配慮の基本となります。
解答・解説
正解はbです
問われているテーマ
電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)の適応・方法・副作用・実施要件について、基本的な知識を問う問題である。
ECTの要点
・頭皮上に置いた電極から短時間通電し、脳に人工的な発作(脳波上のけいれん発作)を誘発することで治療効果を得る方法である。作用機序の詳細は解明されていないが、神経伝達物質系や神経可塑性への作用が想定されている。 ・現在は、静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いて全身麻酔下で行う「修正型電気けいれん療法(modified ECT:mECT)」が標準である。筋弛緩により全身の強いけいれん運動が起こらないため、骨折・脱臼・咬舌などの事故が防がれる。通電装置も、従来のサイン波から、少ないエネルギーで発作を誘発できる短パルス矩形波の装置が主流となっている。 ・通常は週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとして行う。
適応
薬物療法に反応しない、あるいは早急な効果が必要な重症の精神疾患が対象となる。代表は重症うつ病(特に精神病症状を伴うもの、強い希死念慮・自殺の危険が切迫しているもの、拒食・拒薬で身体的に危険な状態のもの)であり、ほかに双極性障害(躁病・うつ病エピソード)、統合失調症(特に薬物抵抗性例)、緊張病(カタトニア)、悪性症候群などにも有効である。
考え方
年齢制限、副作用、立ち会う医師の専門、同意の要否について、それぞれ上記の知識と照らし合わせれば、正しいのは「重症うつ病は適応疾患である」のみとわかる。
選択肢考察
- ×a. 65歳以上は適応にならない。
ECTに年齢による制限はない。高齢者は抗うつ薬の副作用(抗コリン作用、起立性低血圧、転倒など)が出やすく、薬物を十分量使えないことが多いため、むしろECTのよい適応となることが多い。高齢者のうつ病に対するECTの有効率は高いとされる。ただし全身麻酔を行うため、心血管系などの合併症の評価は慎重に行う。
- ○b. 重症うつ病は適応疾患である。
重症うつ病はECTの最も代表的な適応である。特に、薬物療法に抵抗性の場合、精神病症状(妄想など)を伴う場合、自殺の危険が切迫している場合、食事・水分がとれず身体的に危険な状態にある場合など、迅速で確実な効果が求められる状況で選択される。ECTは抗うつ薬より効果発現が早く、有効率も高い。
- ×c. 副作用として筋強剛がみられる。
ECTの主な副作用は、頭痛、筋肉痛、悪心、施行直後のせん妄(もうろう状態)、および記憶障害(施行前後の出来事を思い出せない逆向性健忘や一過性の記銘力低下)である。記憶障害の多くは治療終了後に数週〜数か月で回復する。ほかに通電直後の徐脈・頻脈、血圧上昇などの循環変動がある。筋強剛はECTの副作用ではなく、抗精神病薬による錐体外路症状や悪性症候群でみられる症状であり、むしろ悪性症候群や緊張病の筋強剛はECTの治療対象となる。
- ×d. 脳神経外科医の立ち会いが要件である。
ECTは頭皮上の電極から通電するだけで、開頭などの外科的操作は伴わないため、脳神経外科医の立ち会いは不要である。修正型ECTでは静脈麻酔薬と筋弛緩薬を使用し、人工呼吸を含む全身麻酔管理が必要となるため、麻酔科医が麻酔管理を担当するのが原則である。
- ×e. 患者やその保護者の同意なしに実施できる。
ECTは全身麻酔を伴う侵襲的な治療であり、施行前に治療の目的・方法・効果・副作用・代替治療を説明し、文書による同意(インフォームド・コンセント)を得ることが必須である。原則として患者本人の同意を得る。病状のため本人に同意能力がない場合は、家族など(法的な代理人)の同意を得て実施する。措置入院や医療保護入院といった非自発的入院中であっても、同意なしにECTを行ってよいことにはならない。
修正型電気けいれん療法(mECT)の実際
・術前に絶食とし、心電図、胸部X線、血液検査などで全身状態を評価する。 ・静脈麻酔薬(プロポフォール、チオペンタールなど)で入眠させ、筋弛緩薬(スキサメトニウム)を投与し、酸素化しながら通電する。 ・電極は両側の前頭側頭部に置く方法(両側性)と、劣位半球側に置く方法(片側性)などがある。片側性は記憶障害が少ないが、効果がやや劣ることがある。 ・脳波で発作波の出現と持続時間を確認し、有効な発作が得られたかを判定する。
主な適応
・重症うつ病(精神病性うつ病、自殺の危険が高い、拒食・拒薬、薬物抵抗性) ・双極性障害(躁病・うつ病エピソード) ・統合失調症(薬物抵抗性、緊張病症状を伴うもの) ・緊張病(カタトニア) ・悪性症候群
禁忌・注意を要する状態
絶対的禁忌はないとされるが、頭蓋内圧亢進(脳腫瘍など)、最近の心筋梗塞、最近の脳血管障害、脳・大動脈瘤、重篤な呼吸器疾患など、通電や麻酔に伴う血圧上昇・頭蓋内圧上昇・循環変動が危険となる状態では、リスクが高く慎重な判断を要する。
主な副作用
頭痛、筋肉痛、悪心、発作後のせん妄、記憶障害(逆向性健忘・前向性の記銘力低下。多くは一過性)、不整脈・血圧上昇などの循環変動、遷延性発作。
POINT
・ECTの代表的適応は重症うつ病(精神病症状・切迫した自殺念慮・拒食・薬物抵抗性)。双極性障害、統合失調症、緊張病、悪性症候群にも有効。 ・年齢制限はなく、高齢者にもよい適応となる。 ・現在は静脈麻酔+筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準で、麻酔科医が麻酔管理を行う。 ・副作用は頭痛、筋肉痛、せん妄、一過性の記憶障害(逆向性健忘)など。筋強剛は副作用ではない。 ・施行には文書による同意が必須(本人に同意能力がなければ家族等の同意)。
