StudyMed医師国家試験

「怖い治療」は誤解?―修正型電気けいれん療法の適応と安全性

第113回医師国家試験 D問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第2問

電気けいれん療法について正しいのはどれか。

  1. a.65歳以上は適応にならない。
  2. b.重症うつ病は適応疾患である。
  3. c.副作用として筋強剛がみられる。
  4. d.脳神経外科医の立ち会いが要件である。
  5. e.患者やその保護者の同意なしに実施できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は電気けいれん療法、ECTの基本知識を問う問題だ。適応、年齢、副作用、誰が関わるか、同意の扱いと、ECTの全体像を一通り押さえているかがポイントになる。まず、ECTと聞いてどんなイメージを持つかな。
医学生医学生
正直、昔の映画のように全身が激しくけいれんする、ちょっと怖い治療という印象があります。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも現在の標準は修正型ECT、mECTと呼ばれる方法で、静脈麻酔薬で眠ってもらい、筋弛緩薬を使って全身麻酔下で行う。頭皮に置いた電極から短時間通電して、脳波上の発作を誘発するけれど、筋弛緩のおかげで体が激しく動くことはなく、骨折や脱臼、咬舌といった事故も防げるんだ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で見学したときも、モニターの脳波に発作波が出ているのに、患者さんの体はほとんど動いていなくて驚きました。
ドクタードクター
それがmECTの実際だね。通常は週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとする。では適応から考えよう。どんな疾患に使われると思う?
医学生医学生
薬が効かない重症のうつ病、というのが一番に浮かびます。
ドクタードクター
その通り、重症うつ病は最も代表的な適応で、これが今回の正解だ。特に、妄想などの精神病症状を伴う場合、自殺の危険が切迫している場合、食事や水分がとれず身体的に危険な場合、薬物療法に抵抗性の場合などに選ばれる。抗うつ薬より効果発現が早く、有効率も高いとされている。ほかに双極性障害、薬物抵抗性の統合失調症、緊張病、悪性症候群にも有効だ。
医学生医学生
年齢についてはどうですか。高齢者は全身麻酔のリスクがあるので、避けたほうがいい気がします。
ドクタードクター
そこが落とし穴。ECTに年齢制限はないんだ。むしろ高齢者は抗コリン作用や起立性低血圧、転倒など抗うつ薬の副作用が出やすく、薬を十分量使えないことが多い。だから高齢者のうつ病はECTのよい適応になることが多く、有効率も高いとされている。もちろん心血管系などの合併症の評価は慎重に行う必要があるけれどね。
医学生医学生
なるほど、薬の副作用の出やすさと比べて考えるんですね。副作用の選択肢に筋強剛とありましたが、けいれんを起こすなら筋肉が硬くなることもありそうです。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、筋強剛はECTの副作用ではない。筋強剛は抗精神病薬による錐体外路症状や悪性症候群でみられる症状で、むしろ悪性症候群や緊張病の筋強剛はECTの治療対象になる。ECTの主な副作用は、頭痛、筋肉痛、悪心、施行直後のせん妄、そして記憶障害だ。
医学生医学生
記憶障害は残ってしまうんでしょうか。
ドクタードクター
施行前後の出来事を思い出せない逆向性健忘や、一過性の記銘力低下が中心で、多くは治療終了後、数週から数か月で回復する。電極を劣位半球側だけに置く片側性の方法は記憶障害が少ないが、効果がやや劣ることがある、という違いも知っておくといい。ほかに通電直後の徐脈や頻脈、血圧上昇などの循環変動もある。
医学生医学生
脳に電気を流すので、脳神経外科医の立ち会いが必要なのかと思っていました。
ドクタードクター
開頭などの外科的操作はまったく伴わないから、脳神経外科医は不要だ。必要なのは全身麻酔の管理で、人工呼吸を含めて麻酔科医が担当するのが原則になる。誰の専門性が必要かは、何をするかから考えるとわかりやすいよ。
医学生医学生
同意なしに実施できる、という記述は、医療保護入院のような非自発的入院なら許されるのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこはしっかり区別しよう。ECTは全身麻酔を伴う侵襲的な治療だから、目的、方法、効果、副作用、代替治療を説明したうえで、文書による同意を得ることが必須だ。原則は本人の同意で、病状のため同意能力がない場合は家族などの同意を得て行う。入院形態が非自発的だからといって、同意なしにECTを行ってよいことにはならない。ちなみに保護者制度は精神保健福祉法の改正で廃止されていて、今は家族等という枠組みになっている。
医学生医学生
入院の同意と治療の同意は別物、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に、注意を要する状態も確認しておこう。絶対的禁忌はないとされるけれど、脳腫瘍などによる頭蓋内圧亢進、最近の心筋梗塞や脳血管障害、脳動脈瘤や大動脈瘤、重篤な呼吸器疾患などは、通電や麻酔に伴う血圧上昇や循環変動が危険になるので慎重な判断が必要だ。
医学生医学生
術前に心電図や胸部X線で全身状態を評価するのも、そのためなんですね。
ドクタードクター
そう。ECTは怖いイメージが先行しがちだけれど、適切に行えば重症うつ病の患者さんの命を救いうる治療だ。正しい知識で患者さんや家族に説明できるようにしておこう。

まとめ

電気けいれん療法(ECT)は、現在では静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いた全身麻酔下の修正型ECTが標準で、麻酔管理は麻酔科医が担い、脳神経外科医の関与は不要です。代表的な適応は重症うつ病で、精神病症状を伴う場合、自殺の危険が切迫している場合、拒食などで身体的に危険な場合、薬物抵抗性の場合に選択され、双極性障害、統合失調症、緊張病、悪性症候群にも有効です。年齢制限はなく、抗うつ薬の副作用が出やすい高齢者ではむしろよい適応となります。主な副作用は頭痛、筋肉痛、せん妄、多くは一過性の記憶障害であり、筋強剛は副作用ではなく、悪性症候群や緊張病の筋強剛はむしろ治療対象です。侵襲的治療であるため文書による同意が必須で、本人に同意能力がなければ家族等の同意を得る必要があり、こうした知識は治療選択の説明や倫理的配慮の基本となります。

解答・解説

正解はbです

問われているテーマ

電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)の適応・方法・副作用・実施要件について、基本的な知識を問う問題である。

ECTの要点

・頭皮上に置いた電極から短時間通電し、脳に人工的な発作(脳波上のけいれん発作)を誘発することで治療効果を得る方法である。作用機序の詳細は解明されていないが、神経伝達物質系や神経可塑性への作用が想定されている。 ・現在は、静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いて全身麻酔下で行う「修正型電気けいれん療法(modified ECT:mECT)」が標準である。筋弛緩により全身の強いけいれん運動が起こらないため、骨折・脱臼・咬舌などの事故が防がれる。通電装置も、従来のサイン波から、少ないエネルギーで発作を誘発できる短パルス矩形波の装置が主流となっている。 ・通常は週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとして行う。

適応

薬物療法に反応しない、あるいは早急な効果が必要な重症の精神疾患が対象となる。代表は重症うつ病(特に精神病症状を伴うもの、強い希死念慮・自殺の危険が切迫しているもの、拒食・拒薬で身体的に危険な状態のもの)であり、ほかに双極性障害(躁病・うつ病エピソード)、統合失調症(特に薬物抵抗性例)、緊張病(カタトニア)、悪性症候群などにも有効である。

考え方

年齢制限、副作用、立ち会う医師の専門、同意の要否について、それぞれ上記の知識と照らし合わせれば、正しいのは「重症うつ病は適応疾患である」のみとわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  65歳以上は適応にならない。

    ECTに年齢による制限はない。高齢者は抗うつ薬の副作用(抗コリン作用、起立性低血圧、転倒など)が出やすく、薬物を十分量使えないことが多いため、むしろECTのよい適応となることが多い。高齢者のうつ病に対するECTの有効率は高いとされる。ただし全身麻酔を行うため、心血管系などの合併症の評価は慎重に行う。

  2. ○b.  重症うつ病は適応疾患である。

    重症うつ病はECTの最も代表的な適応である。特に、薬物療法に抵抗性の場合、精神病症状(妄想など)を伴う場合、自殺の危険が切迫している場合、食事・水分がとれず身体的に危険な状態にある場合など、迅速で確実な効果が求められる状況で選択される。ECTは抗うつ薬より効果発現が早く、有効率も高い。

  3. ×c.  副作用として筋強剛がみられる。

    ECTの主な副作用は、頭痛、筋肉痛、悪心、施行直後のせん妄(もうろう状態)、および記憶障害(施行前後の出来事を思い出せない逆向性健忘や一過性の記銘力低下)である。記憶障害の多くは治療終了後に数週〜数か月で回復する。ほかに通電直後の徐脈・頻脈、血圧上昇などの循環変動がある。筋強剛はECTの副作用ではなく、抗精神病薬による錐体外路症状や悪性症候群でみられる症状であり、むしろ悪性症候群や緊張病の筋強剛はECTの治療対象となる。

  4. ×d.  脳神経外科医の立ち会いが要件である。

    ECTは頭皮上の電極から通電するだけで、開頭などの外科的操作は伴わないため、脳神経外科医の立ち会いは不要である。修正型ECTでは静脈麻酔薬と筋弛緩薬を使用し、人工呼吸を含む全身麻酔管理が必要となるため、麻酔科医が麻酔管理を担当するのが原則である。

  5. ×e.  患者やその保護者の同意なしに実施できる。

    ECTは全身麻酔を伴う侵襲的な治療であり、施行前に治療の目的・方法・効果・副作用・代替治療を説明し、文書による同意(インフォームド・コンセント)を得ることが必須である。原則として患者本人の同意を得る。病状のため本人に同意能力がない場合は、家族など(法的な代理人)の同意を得て実施する。措置入院や医療保護入院といった非自発的入院中であっても、同意なしにECTを行ってよいことにはならない。

修正型電気けいれん療法(mECT)の実際

・術前に絶食とし、心電図、胸部X線、血液検査などで全身状態を評価する。 ・静脈麻酔薬(プロポフォール、チオペンタールなど)で入眠させ、筋弛緩薬(スキサメトニウム)を投与し、酸素化しながら通電する。 ・電極は両側の前頭側頭部に置く方法(両側性)と、劣位半球側に置く方法(片側性)などがある。片側性は記憶障害が少ないが、効果がやや劣ることがある。 ・脳波で発作波の出現と持続時間を確認し、有効な発作が得られたかを判定する。

主な適応

・重症うつ病(精神病性うつ病、自殺の危険が高い、拒食・拒薬、薬物抵抗性) ・双極性障害(躁病・うつ病エピソード) ・統合失調症(薬物抵抗性、緊張病症状を伴うもの) ・緊張病(カタトニア) ・悪性症候群

禁忌・注意を要する状態

絶対的禁忌はないとされるが、頭蓋内圧亢進(脳腫瘍など)、最近の心筋梗塞、最近の脳血管障害、脳・大動脈瘤、重篤な呼吸器疾患など、通電や麻酔に伴う血圧上昇・頭蓋内圧上昇・循環変動が危険となる状態では、リスクが高く慎重な判断を要する。

主な副作用

頭痛、筋肉痛、悪心、発作後のせん妄、記憶障害(逆向性健忘・前向性の記銘力低下。多くは一過性)、不整脈・血圧上昇などの循環変動、遷延性発作。

POINT

・ECTの代表的適応は重症うつ病(精神病症状・切迫した自殺念慮・拒食・薬物抵抗性)。双極性障害、統合失調症、緊張病、悪性症候群にも有効。 ・年齢制限はなく、高齢者にもよい適応となる。 ・現在は静脈麻酔+筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準で、麻酔科医が麻酔管理を行う。 ・副作用は頭痛、筋肉痛、せん妄、一過性の記憶障害(逆向性健忘)など。筋強剛は副作用ではない。 ・施行には文書による同意が必須(本人に同意能力がなければ家族等の同意)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。