StudyMed医師国家試験

肺炎が治っても終わりじゃない―退院支援で問われる「誰が・何を・どう準備するか」

第113回医師国家試験 C問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第25問

80歳の男性。誤嚥性肺炎〉,脳梗塞による左片麻痺,脳血管性認知症および仙骨部褥瘡のため入院中である。寝たきりの状態で経口摂取が困難であり,経鼻経管栄養を行っている。肺炎は抗菌薬治療により改善し,在宅医療を担当する医師に診療情報提供を行うとともに,自宅への退院に向けて退院支援チームで相談をすることとなった。  正しい対応はどれか。

  1. a.褥瘡チームの介入を中断する。
  2. b.吸引器を自宅に準備してもらう。
  3. c.看護師が胃管の挿入を家族に指導する。
  4. d.主治医が退院後のケアプランを作成する。
  5. e.ケアマネジャーが喀痰吸引を家族に指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、誤嚥性肺炎が改善した寝たきりの高齢者を自宅に帰すとき、退院支援として何を準備すべきかを考える問題だ。着眼点は2つ。「自宅でどんなリスクや処置が残るか」と「その処置を誰が担うのか」という役割分担だよ。
医学生医学生
肺炎は治ったので、あとは経管栄養の管理だけ考えればいいのかなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。抗菌薬で治ったのは肺炎そのもので、原因になった嚥下機能障害は残ったままなんだ。寝たきり、脳梗塞後、認知症という条件はどれも誤嚥性肺炎の再発の強い危険因子だし、唾液や逆流した胃内容物を気づかないうちに誤嚥する不顕性誤嚥も起こりやすい。
医学生医学生
経鼻胃管が入っていること自体も、誤嚥のリスクになるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。チューブがあると咽頭の分泌物が増え、逆流もしやすくなる。だから在宅でも口腔・咽頭や気道の分泌物を吸引する場面がかなり多いと予想できる。退院してから慌てないよう、吸引器を前もって自宅に用意してもらうのが正しい対応だ。
医学生医学生
吸引器は介護保険でレンタルできるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。吸引器は介護保険の福祉用具貸与の対象には含まれていないから、業者からのレンタルや購入などで準備してもらうことになる。用意したうえで、入院中に家族が実際に使えるよう練習しておくことが大切だね。
医学生医学生
吸引って家族がやってもいいんですね。臨床実習で病棟の看護師さんがしているのしか見たことがなかったです。
ドクタードクター
喀痰吸引や経管栄養の注入は家族も行える。訪問看護師はもちろん、所定の研修を受けて認定された介護職員も実施できるよ。では、ほかの選択肢を見ていこう。退院が近いから褥瘡チームの介入をやめる、というのはどうだろう。
医学生医学生
褥瘡はまだ治っていないし、寝たきりで低栄養になりやすいので、むしろ悪化しそうです。
ドクタードクター
そうだね。仙骨部は骨突出部で褥瘡の好発部位だし、不動・低栄養という危険因子もそろっている。介入を中断する理由はなく、退院までに体位変換や除圧マットレス、創処置の方法を家族や訪問看護師へ引き継ぐ必要があるんだ。
医学生医学生
胃管の入れ替えを看護師が家族に教えておく、というのも在宅なら必要そうに思えましたが。
ドクタードクター
そこは間違えやすい。経鼻胃管の挿入・交換は医師または看護師が行う医療処置で、家族に挿入手技を指導することは通常ない。チューブが気管に入ったまま栄養剤を注入すると、重症肺炎や窒息で命に関わることもあるからね。家族に教えるのは、注入方法、注入前の固定位置のずれの確認、上体を起こして注入すること、トラブル時の連絡先などだよ。
医学生医学生
ケアプランは主治医が作るものだと思っていました。
ドクタードクター
CBTでもよく問われるポイントだね。ケアプラン、つまり居宅サービス計画は、介護保険でどのサービスをどれだけ使うかを決める計画で、通常はケアマネジャーが本人や家族の意向を聞いて作成する。医師の役割は、要介護認定に必要な主治医意見書や、訪問看護指示書を書くこと、サービス担当者会議で医学的情報を提供することなんだ。
医学生医学生
じゃあ逆に、ケアマネジャーが喀痰吸引を家族に指導する、というのも役割が違いますね。
ドクタードクター
その通り。吸引の手技指導は、入院中なら病棟の看護師や医師、退院後なら訪問看護師や訪問診療医が担う。ケアマネジャーは介護サービスの調整と計画作成の専門家で、看護師以外にも介護福祉士や社会福祉士などを基盤資格とする人が多いから、医療手技の指導は役割ではないんだ。
医学生医学生
処置ごとに担い手を整理すると、胃管の交換は医師・看護師、吸引と注入は家族も可、ケアプランはケアマネジャー、意見書と指示書は医師、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だね。臨床での注意点も加えておこう。退院前には在宅医、訪問看護師、ケアマネジャーなどが病院に集まる退院前カンファレンスを開いて情報を共有するのが望ましい。それから再発予防として、口腔ケア、注入時と注入後しばらくの上体挙上、注入速度の調整が基本になる。長期の経管栄養が見込まれれば胃瘻も検討されるけれど、胃瘻でも胃食道逆流による誤嚥は起こりうることは覚えておいてほしい。
医学生医学生
退院支援は、病気を治したあとの生活を具体的に想像する作業なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。自宅で何が起こりそうかを予測して、必要な物と人を退院前にそろえておく。それが再入院を防ぐ一番の近道なんだ。

まとめ

誤嚥性肺炎が改善しても、寝たきり・脳梗塞後・認知症・経鼻胃管留置といった誤嚥の危険因子は残るため、在宅では喀痰吸引が必要になりやすく、退院前に吸引器を準備して家族に手技を練習してもらうことが大切です。喀痰吸引や経管栄養の注入は家族も実施でき、手技の指導は医師・看護師が担いますが、経鼻胃管の挿入・交換は医師・看護師が行う医療処置であり家族に指導するものではありません。ケアプランの作成はケアマネジャー、主治医意見書や訪問看護指示書は医師の役割であり、未治癒の褥瘡への介入も退院まで継続して在宅側に引き継ぎます。退院支援では「どんな処置が残るか」と「誰がそれを担うか」を整理することが、安全な在宅移行と再入院予防の土台になります。

解答・解説

正解はbです

患者の状態の整理

・80歳男性。誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)で入院し、抗菌薬で肺炎は改善した。 ・背景に脳梗塞による左片麻痺(右大脳半球の病変)、脳血管性認知症、仙骨部褥瘡がある。 ・寝たきりで経口摂取ができず、経鼻経管栄養(鼻から胃へ挿入したチューブによる栄養)を継続している。 ・在宅医療を担う医師へ診療情報提供書を送り、退院支援チームで自宅退院の準備を進める段階である。

この患者が自宅で抱えるリスク

肺炎は治っても、原因となった嚥下機能障害は残っている。寝たきり・脳梗塞後・認知症という条件は誤嚥性肺炎の再発の強い危険因子であり、唾液や逆流した胃内容物を誤嚥する(不顕性誤嚥)可能性も高い。経鼻胃管が留置されていること自体も咽頭の分泌物を増やし、誤嚥や逆流を起こしやすくする。したがって在宅では、口腔・咽頭や気道の分泌物を除去する喀痰吸引が必要になる場面が多いと予想される。 また、仙骨部褥瘡は治癒しておらず、寝たきりと低栄養が続く限り悪化・新規発生のリスクも高い。

設問の考え方

退院支援では「退院後にどのような医療処置・介護が必要か」を洗い出し、「誰が」「どの制度・職種で」それを担うかを正しく割り振ることが問われる。医療行為は医師・看護師が行い、家族に任せられるのは家族が安全に実施できる範囲(喀痰吸引、経管栄養の注入など)に限られる。介護保険サービスの計画(ケアプラン)は介護支援専門員(ケアマネジャー)の役割である。これらの役割分担を踏まえると、在宅で必要になる喀痰吸引のための機器を事前に整えておくことが適切な対応となる。

選択肢考察

  1. ×a.  褥瘡チームの介入を中断する。

    誤り。仙骨部は骨突出部で圧迫を受けやすく、褥瘡の好発部位である。本例は寝たきり・片麻痺・経口摂取困難(低栄養になりやすい)という褥瘡の危険因子をそろえており、褥瘡はまだ治癒していない。退院が近いからといって介入をやめる理由はなく、むしろ退院までに体位変換・除圧マットレスの選択・創処置の方法を家族や訪問看護師へ引き継ぐ必要がある。褥瘡対策チームの関与は継続すべきである。

  2. ○b.  吸引器を自宅に準備してもらう。

    正しい。誤嚥性肺炎を起こしたばかりで、寝たきり・脳梗塞後・認知症・経鼻胃管留置と誤嚥の危険因子が重なっているため、在宅でも口腔・咽頭や気道の分泌物の吸引が必要になる可能性が高い。退院してから慌てないよう、退院前に吸引器を業者からのレンタルや購入などで自宅に用意してもらい、家族が使えるよう練習しておくのが適切な退院準備である。喀痰吸引は家族も実施でき、訪問看護師や、所定の研修を受けて認定された介護職員も行うことができる。

  3. ×c.  看護師が胃管の挿入を家族に指導する。

    誤り。経鼻胃管の挿入(入れ替え)は医師または看護師が行う医療処置であり、家族に挿入の手技を指導することは通常ない。胃管が誤って気管内に入ったまま栄養剤を注入すると、重症肺炎や窒息を起こして死に至ることもあるため、挿入後にはX線や胃内容の吸引などで先端位置を確認する必要がある。在宅では訪問診療医や訪問看護師が定期的に交換を担う。家族に指導するのは、栄養剤の注入方法、注入前のチューブ位置の確認(固定位置のずれの確認など)、注入時の体位(上体を起こす)、トラブル時の連絡方法などである。

  4. ×d.  主治医が退院後のケアプランを作成する。

    誤り。ケアプラン(居宅サービス計画)は、介護保険でどのサービス(訪問看護・訪問介護・福祉用具貸与など)をどれだけ利用するかを定める計画で、通常はケアマネジャー(介護支援専門員)が本人・家族の意向を聞いて作成する(本人や家族が自ら作成することも制度上は可能である)。主治医の役割は、要介護認定に必要な主治医意見書の作成や、訪問看護指示書の交付、サービス担当者会議での医学的情報の提供である。

  5. ×e.  ケアマネジャーが喀痰吸引を家族に指導する。

    誤り。喀痰吸引は医療的な手技であり、家族への指導は入院中であれば病棟の看護師や医師、退院後であれば訪問看護師や訪問診療医が行うのが一般的である。ケアマネジャーは介護サービスの調整・計画作成を担う職種で、医療処置の手技指導は役割ではない(ケアマネジャーは看護師以外に介護福祉士・社会福祉士などの資格を基盤とする者も多い)。

在宅療養移行の流れ

・介護保険の利用には市町村へ要介護認定を申請する。訪問調査と主治医意見書をもとに介護認定審査会が要介護度を判定し、要介護度に応じて月ごとの支給限度額が決まる。利用者負担は所得に応じて1〜3割である。 ・ケアマネジャー(介護支援専門員)が限度額の範囲でサービスを組み合わせたケアプランを作成し、サービス担当者会議で関係職種と共有する。 ・通院が難しければ訪問診療、医療処置(褥瘡処置、喀痰吸引、経管栄養管理など)が必要なら訪問看護、身体介助・生活援助が必要なら訪問介護を導入する。訪問看護の開始には医師の訪問看護指示書が必要である。介護ベッドやエアマットレスは福祉用具貸与として介護保険でレンタルできる。 ・退院前には、病院と在宅側の職種(在宅医、訪問看護師、ケアマネジャーなど)が集まる退院前カンファレンスを開き、情報を共有するのが望ましい。

処置と担い手の整理

・経鼻胃管の挿入・交換、尿道カテーテルの交換:医師・看護師 ・喀痰吸引、経管栄養の注入:医師・看護師のほか家族も可能。介護職員も一定の研修を修了し認定を受ければ(2012年から制度化)、喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内)と経管栄養を実施できる。 ・ケアプランの作成:ケアマネジャー ・主治医意見書・訪問看護指示書:医師

誤嚥性肺炎の再発予防

口腔ケア(口腔内細菌の減少)、経管栄養注入時と注入後しばらくの上体挙上(30度以上を目安とすることが多い)、注入速度の調整、必要に応じた吸引が基本である。長期の経管栄養が見込まれる場合は、経鼻胃管より管理しやすい胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)が検討されることもあるが、胃瘻でも胃食道逆流による誤嚥は起こりうる。

褥瘡

仙骨部、大転子部、踵部、坐骨部など骨突出部に好発する。危険因子は不動・知覚障害・低栄養・湿潤などで、体位変換、体圧分散寝具、栄養改善、スキンケアが予防・治療の柱となる。

POINT

・誤嚥性肺炎後の寝たきり患者では在宅で喀痰吸引が必要になりやすく、退院前に吸引器の準備と家族への手技指導を行う。 ・喀痰吸引は家族も実施でき、指導するのは医師・看護師である。研修・認定を受けた介護職員も実施可能。 ・経鼻胃管の挿入・交換は医師・看護師が行う医療処置であり、家族に挿入を指導しない。 ・ケアプランはケアマネジャーが作成する。医師は主治医意見書・訪問看護指示書を書く。 ・褥瘡が残っていれば褥瘡対策は退院まで継続し、在宅側へ引き継ぐ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。