抗菌薬で治っては再燃する咳―キノロンが隠した結核と、診断医が果たすべき2つの責任
第113回医師国家試験 A問題 第65問
国試問題にチャレンジ
82歳の男性。咳嗽と微熱を主訴に来院した。4か月前に咳嗽と微熱が出現したため,3か月前に自宅近くの診療所を受診した。キノロン系抗菌薬を1週間処方され解熱した。2週間前に同症状が再燃したため再び受診し,同じキノロン系抗菌薬の内服で改善した。3日前から再度,咳嗽と微熱,さらに喀痰が出現したが自宅近くの診療所が休診であったため受診した。喀痰検査で結核菌が検出された。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.直ちに保健所に届出を行う。
- b.患者にN95マスクを装着させる。
- c.広域セフェム系抗菌薬に変更する。
- d.キノロン系抗菌薬を点滴で再開する。
- e.最近4か月の間に接触した人について聴取する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
数か月続く咳と微熱が抗菌薬で一時的に改善しては再燃する経過は、肺結核を強く疑わせるパターンです。キノロン系抗菌薬は結核菌にも効くため症状を隠して診断を遅らせ、単剤投与は耐性化を招くので再開してはならず、βラクタム系への変更も無効です。結核は二類感染症として診断後直ちに保健所へ届け出るとともに、症状出現以降の接触者を把握して接触者健診につなげることが求められます。感染対策では患者はサージカルマスク、医療者はN95マスクという使い分けも重要です。高齢者の結核は非典型的で見逃されやすいため、診断医が治療と公衆衛生の両面に責任を負うという意識は臨床の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・82歳男性。4か月前から咳嗽と微熱が続いている。 ・診療所でキノロン系抗菌薬を処方されるたびにいったん改善するが、中止すると再燃することを2回繰り返している。 ・今回は咳嗽・微熱に加えて喀痰が出現し、喀痰検査で結核菌が検出された。
診断へのプロセス
通常の細菌性肺炎であれば、適切な抗菌薬で治癒し、短期間に同じ症状が何度もぶり返すことは少ない。「数か月に及ぶ慢性の咳と微熱」「抗菌薬で一時的に軽快しては再燃する」という経過は、肺結核を強く疑わせる典型的なパターンである。キノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)は結核菌にも抗菌活性をもつため、一般的な肺炎として短期間投与すると症状が一時的に軽くなり、結核の診断が遅れる原因になる。本例では喀痰から結核菌が検出されたことで肺結核の診断が確定する。喀痰から菌が出ているので、周囲に感染させうる状態(排菌状態)と考えて対応する。
設問への考え方
結核と診断した医師には、患者個人の治療だけでなく、公衆衛生上の対応が求められる。具体的には、①感染症法に基づく保健所への届出、②院内での感染拡大防止(空気感染対策)、③発症後に接触した人を把握して接触者健診につなげること、④抗結核薬の多剤併用療法による治療、である。本例は4か月前から症状があるため、少なくともその時期から周囲に感染させていた可能性があり、この期間の接触者の把握が重要になる。一方、一般細菌を対象とした抗菌薬の変更や、キノロン系単剤の再投与は誤った対応である。
選択肢考察
- ○a. 直ちに保健所に届出を行う。
正しい。結核は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で二類感染症に位置づけられており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。届出を受けた保健所は、患者の療養支援(服薬支援を含む)、入院勧告の判断、接触者健診の計画などを行う。喀痰塗抹陽性など感染性が高い場合には、結核病床をもつ医療機関への入院勧告の対象となる。
- ×b. 患者にN95マスクを装着させる。
誤り。N95マスクは、空気中を漂う微細な飛沫核を吸い込まないようにする高性能の防護マスクで、結核患者に接する医療従事者や面会者が着用するものである。患者自身には、咳やくしゃみで出る飛沫を口元で捕らえて飛沫核の発生を減らす目的で、サージカルマスクを着用させる。N95マスクは呼吸抵抗が大きく、高齢者や呼吸機能が低下した患者が装着すると息苦しさを招くため、患者に着けさせるものではない。
- ×c. 広域セフェム系抗菌薬に変更する。
誤り。セフェム系などのβラクタム系抗菌薬は結核菌に対して臨床的な効果がなく、結核の治療にはならない。原因菌が判明しているのに、効きそうだという理由で抗菌スペクトルの広い薬剤に切り替える考え方自体が不適切で、耐性菌を増やすことにもつながる。結核は抗結核薬を複数組み合わせて治療する(標準治療ではイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールの4剤で開始する)。
- ×d. キノロン系抗菌薬を点滴で再開する。
誤り。キノロン系抗菌薬は結核菌にもある程度効くため症状を一時的に抑えるが、単剤では結核を治すことはできない。さらに結核菌に単剤で使い続けると、キノロン耐性結核菌を選択してしまう危険がある。キノロン系は多剤耐性結核などで他の抗結核薬と組み合わせて使う重要な薬剤であり、ここで耐性化させると将来の治療選択肢が失われる。投与経路を点滴に変えても単剤投与であることに変わりはなく、行ってはならない対応である。
- ○e. 最近4か月の間に接触した人について聴取する。
正しい。本例は4か月前から咳嗽が続いており、この間に結核菌を周囲に排出していた可能性が高い。そのため、症状が出始めた頃から現在までに接触した人(同居家族、介護者、通所施設の利用者・職員、2つの医療機関の関係者など)を聴き取り、保健所と連携して接触者健診(インターフェロンγ遊離試験〈IGRA〉や胸部エックス線検査など)につなげる必要がある。感染者を早期に見つけて発病を防いだり、新たな発病者を早期に治療したりすることで、二次感染・三次感染の連鎖を断つことができる。
結核の感染経路と感染対策
結核は、排菌者が咳をした際に出る飛沫の水分が蒸発してできる微小な飛沫核を吸い込むことで感染する空気感染(飛沫核感染)である。対策は以下の通りである。 ・患者:サージカルマスクを着用させる。 ・医療従事者・面会者:N95マスクを着用する。 ・病室:陰圧個室(空気感染隔離室)に収容する。
感染症法上の扱い
・結核は二類感染症で、診断後直ちに届け出る。 ・感染性が高い(喀痰塗抹陽性など)患者は入院勧告の対象となり、結核病床で治療する。 ・保健所は接触者健診を実施し、服薬を確実にするためにDOTS(直接服薬確認療法)を中心とした支援を行う。
治療の原則
・感受性のある薬剤を複数組み合わせ、十分な期間投与する(単剤投与は耐性化を招くため禁止)。 ・標準治療:イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、エタンブトール(EB)の4剤で2か月治療した後、INHとRFPの2剤で4か月継続する(計6か月)。PZAを使えない場合はINH・RFP・EBで2か月の後、INH・RFPで7か月継続する(計9か月)。
キノロン系抗菌薬と結核
キノロン系、特にレボフロキサシンやモキシフロキサシンは結核菌に有効で、多剤耐性結核の治療で中心的な役割を担う。一方、市中肺炎に対して原因菌を確かめずに安易に使用すると、結核の症状が一時的に隠れて診断が遅れ、その間に感染が拡大したり、キノロン耐性菌が生じたりする。肺炎にキノロン系を使う前には、喀痰の抗酸菌検査などで結核を除外することが望ましい。
高齢者の結核
わが国では新たに登録される結核患者の多くを高齢者が占め、特に80歳以上で罹患率が高い。若い頃に感染して潜伏していた結核菌が、加齢や合併症による免疫低下で再び活動を始める(内因性再燃)ことが主な原因である。高齢者では症状が乏しく非典型的なことが多く、一般の肺炎として治療されて診断が遅れやすい。
POINT
・慢性の咳・微熱が抗菌薬で一時的に改善しては再燃する→結核を疑う。 ・キノロン系抗菌薬は結核の症状をマスクし、診断の遅れと耐性化を招く。単剤投与は禁忌的。 ・結核は二類感染症で、診断後直ちに保健所へ届け出る。 ・感染対策:患者はサージカルマスク、医療者はN95マスク、陰圧個室。 ・症状出現以降の接触者を把握し、保健所と連携して接触者健診を行う。 ・治療は抗結核薬の多剤併用(INH・RFP・PZA・EBの4剤で開始)。
