酒粕様の帯下と顕微鏡の「糸と粒」―外陰腟カンジダ症を見抜いて抗真菌薬を選ぶ
第113回医師国家試験 A問題 第62問
国試問題にチャレンジ
25歳の女性。外陰部瘙痒と帯下を主訴に来院した。3日前から強い瘙痒と帯下の増量を自覚するようになった。最終月経は15日前から6日間。月経周期は29日型,整。口腔内に病変を認めない。鼠径リンパ節の腫大を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。外陰部は発赤し,帯下は酒粕様で多い。帯下の顕微鏡写真(無染色)を別に示す。 適切な治療薬はどれか。

- a.抗菌薬
- b.抗真菌薬
- c.抗ヘルペス薬
- d.抗トリコモナス薬
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
外陰部の強い瘙痒と発赤、白色の酒粕様帯下を認め、帯下の鏡検で仮性菌糸と分芽胞子が確認されれば外陰腟カンジダ症と診断でき、治療は抗真菌薬の腟錠と外陰部への外用薬が基本です。抗菌薬は乳酸桿菌を減らし、ステロイドは局所免疫を抑えるため、いずれもカンジダ症の誘因となり治療としては不適切です。黄色泡沫状で悪臭のある帯下と運動する原虫はトリコモナス症、魚臭とclue cellは細菌性腟症、有痛性の水疱・潰瘍は性器ヘルペスと、帯下の性状と鏡検所見で原因を区別して薬を選びます。妊娠や糖尿病、免疫低下も誘因となり、再発例では基礎疾患の検索が重要です。帯下の性状から原因微生物を推定し治療薬に結びつける考え方は、外来診療で頻度の高い腟炎に的確に対応するための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・25歳女性。3日前から強い外陰部瘙痒と帯下の増量。 ・最終月経は15日前から6日間、29日周期で整:現在は排卵期前後にあたり、月経に伴う出血や妊娠を示唆する情報はない。 ・口腔内病変なし:口腔内アフタを伴うBehçet病や、口腔カンジダ症を伴うような全身の免疫低下を積極的に疑わせる所見はない。 ・鼠径リンパ節腫大なし:有痛性の鼠径リンパ節腫脹を伴いやすい性器ヘルペス(初感染)などを示唆する所見はない。 ・外陰部の発赤と、多量の酒粕様(白色でぽろぽろした塊状、カッテージチーズ様とも表現される)帯下。 ・帯下の無染色顕微鏡像:細長い糸状の仮性菌糸と、出芽して増える楕円形の胞子(分芽胞子)が観察される。
診断へのプロセス
性成熟期女性の外陰部瘙痒と帯下増量では、主に外陰腟カンジダ症、腟トリコモナス症、細菌性腟症を鑑別し、ほかに性器ヘルペス、接触皮膚炎(下着・洗剤・外用薬などによるかぶれ)なども考える。帯下の性状は鑑別の大きな手掛かりで、カンジダ症は白色・酒粕様、トリコモナス症は黄色~黄緑色の泡沫状で悪臭を伴い、細菌性腟症は灰白色で均質な薄い帯下と魚臭が特徴である。 本例は強い瘙痒、外陰部の発赤、酒粕様帯下という典型的な臨床像に加え、顕微鏡で仮性菌糸と分芽胞子が確認されたことから、Candida albicansを主とするカンジダ属真菌による外陰腟カンジダ症と診断できる。したがって治療は抗真菌薬である。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬は細菌に対する薬剤で、真菌であるカンジダには効果がない。むしろ抗菌薬の使用は、腟内を酸性に保って病原体の増殖を防いでいる乳酸桿菌(Döderlein桿菌)を減少させ、カンジダ症の誘因となる。抗菌薬が用いられるのは細菌性腟症(メトロニダゾールなど)、クラミジア・淋菌感染症、梅毒などの細菌感染症である。
- ○b. 抗真菌薬
外陰腟カンジダ症の原因はカンジダ属の真菌であり、抗真菌薬で治療する。わが国では、イミダゾール系(クロトリマゾール、ミコナゾール、イソコナゾールなど)やトリアゾール系の腟錠・腟坐薬を腟内に投与し、外陰部の病変には抗真菌薬のクリーム・軟膏を塗布するのが基本である。経口抗真菌薬が用いられることもある。あわせて誘因(抗菌薬使用、通気性の悪い下着、コントロール不良の糖尿病など)の除去を図る。症状が消失すれば治癒と判断してよく、無症状の保菌者は治療の対象とならない。
- ×c. 抗ヘルペス薬
アシクロビル、バラシクロビルなどの抗ヘルペス薬は、単純ヘルペスウイルス(HSV)による性器ヘルペスの治療薬である。性器ヘルペスでは外陰部に疼痛の強い小水疱・浅い潰瘍が多発し、初感染では発熱や有痛性の鼠径リンパ節腫脹を伴うことが多い。本例には水疱・潰瘍の記載がなく、顕微鏡で真菌要素が確認されており、適応はない。なお、ヒトパピローマウイルス(HPV)による尖圭コンジローマには抗ヘルペス薬は無効で、イミキモド外用や凍結療法、外科的切除などで治療する。
- ×d. 抗トリコモナス薬
メトロニダゾールやチニダゾールなどの抗トリコモナス薬は、原虫であるTrichomonas vaginalisによる腟トリコモナス症に用いる。トリコモナス症では黄色~黄緑色の泡沫状で悪臭のある帯下、腟壁の発赤・点状出血(いちご状)がみられ、鏡検では鞭毛を動かして運動する洋梨形の原虫が観察される。性行為感染症のためパートナーの同時治療も必要である。本例の酒粕様帯下と真菌要素の所見とは合わない。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイド外用薬は、接触皮膚炎や湿疹など非感染性の炎症による外陰炎で用いられる。カンジダ症に用いると炎症が抑えられて一時的に瘙痒が和らぐことはあるが、局所の免疫を抑えて真菌の増殖を助長し、病状を悪化・遷延させるおそれがある。ステロイドの使用はむしろカンジダ症の誘因の一つであり、本例の治療としては不適切である。
外陰腟カンジダ症の概要
・原因:カンジダ属真菌(約9割がCandida albicans、ほかにC. glabrataなど)。カンジダは健常女性の腟や皮膚・消化管にも常在しうる日和見病原体で、宿主側の条件が変化すると増殖して症状を起こす。性行為以外でも発症し、典型的な性感染症とは位置づけが異なる。 ・誘因:抗菌薬の使用(乳酸桿菌の減少)、妊娠(エストロゲン高値で腟上皮のグリコーゲンが増える)、糖尿病、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用、HIV感染などの免疫低下、高温多湿や通気性の悪い衣類など。 ・症状:強い外陰部瘙痒、灼熱感、外陰部の発赤・腫脹、白色の酒粕様(カッテージチーズ様)帯下。帯下の悪臭は少ない。 ・診断:帯下の鏡検(無染色または10%KOHで仮性菌糸・分芽胞子を確認)、培養。腟内pHは通常4.5以下と正常範囲であることが多い。 ・治療:抗真菌薬の腟錠・腟坐薬と外陰部への外用薬(必要に応じて経口薬)。誘因の除去。再発を繰り返す例では糖尿病などの基礎疾患を検索する。妊婦では腟錠・外用薬による局所療法が基本となる。
帯下・腟炎の鑑別のまとめ
・外陰腟カンジダ症:白色酒粕様、強い瘙痒、pH正常、仮性菌糸と分芽胞子 → 抗真菌薬 ・腟トリコモナス症:黄色~黄緑色泡沫状、悪臭、いちご状腟壁、pH上昇、運動する原虫 → メトロニダゾールなど(パートナーも治療) ・細菌性腟症:灰白色均質、魚臭(KOH添加で増強:アミンテスト陽性)、pH 4.5超、clue cell(細菌が付着した腟上皮細胞) → メトロニダゾールなど ・萎縮性腟炎:閉経後、エストロゲン低下による乳酸桿菌減少、黄色~血性帯下 → エストロゲン補充(腟錠など) ・淋菌・クラミジア子宮頸管炎:膿性帯下(淋菌)、無症状も多い(クラミジア) → 抗菌薬
POINT
・外陰部の強い瘙痒+白色酒粕様帯下+鏡検で仮性菌糸・分芽胞子 → 外陰腟カンジダ症 → 抗真菌薬(腟錠+外用薬)。 ・抗菌薬やステロイドの使用、妊娠、糖尿病、免疫低下は発症の誘因。 ・泡沫状・悪臭の黄色帯下はトリコモナス症(メトロニダゾール)、魚臭とclue cellは細菌性腟症。 ・抗ヘルペス薬はHSVによる性器ヘルペスに用い、HPVによる尖圭コンジローマには無効。
