「腫れて痛い」には理由がある―婦人科疾患を主訴から見分ける
第116回医師国家試験 C問題 第16問
国試問題にチャレンジ
痛みを主訴に受診するのはどれか。
- a.子宮前屈
- b.子宮腔癒着
- c.子宮腟部びらん
- d.バルトリン腺炎
- e.子宮頸管ポリープ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
婦人科疾患は主訴と結びつけて整理すると理解しやすく、「急性炎症があれば痛みが出る」が基本的な考え方です。バルトリン腺炎は排出管の閉塞に細菌感染が加わって起こり、膿瘍化すると片側の外陰部が発赤・腫脹して強く痛むため、痛みを主訴に受診する代表的な疾患です。治療は抗菌薬と切開排膿で、再発例には開窓術が行われます。一方、子宮前屈は正常な位置、子宮腟部びらんは円柱上皮の外反による生理的な偽びらん、子宮頸管ポリープは接触出血の原因、子宮腔癒着症は過少月経・無月経・不妊の原因であり、いずれも典型的には痛みを伴いません。疾患ごとの「受診のきっかけ」を押さえておくことは、外来で訴えから鑑別を組み立てる力につながります。
解答・解説
正解はdです
婦人科の外来には、腹痛や外陰部痛のような痛み、不正性器出血、帯下(おりもの)の異常、月経異常、不妊などさまざまな訴えで患者が来る。本問は、それぞれの疾患や所見がどのような訴えにつながるかを問うている。 考え方の軸は「炎症があれば痛みが出る」という点である。急性の細菌感染で膿がたまると、組織が腫れて内圧が上がり、強い痛みが起こる。一方、子宮の位置の違い、子宮頸部にみられる生理的な所見、良性のポリープ、子宮の内腔に限られた癒着は、ふつう痛みの原因にならない。これらは無症状か、不正出血・無月経・不妊などのきっかけで見つかる。 選択肢の中で急性炎症による腫れと痛みが典型的な症状になるのは、外陰部のバルトリン腺炎である。
選択肢考察
- ×a. 子宮前屈
子宮前屈とは、子宮体部が子宮頸部に対して前方(膀胱側)に曲がっている状態で、多くの女性にみられる正常な位置である。子宮後屈も約2割の女性にみられ、それだけでは病的な意味はない。ただし、子宮内膜症や骨盤内の炎症のあとに癒着が起こると、子宮が後屈した位置で動かなくなる(可動性のない後屈)ことがある。この場合は月経痛や性交痛が出ることがあるが、痛みの原因は癒着を起こした病気のほうであり、子宮前屈そのものが痛みの原因になることはない。
- ×b. 子宮腔癒着
子宮腔癒着症(Asherman症候群)は、何度も行った子宮内容除去術(掻爬)や子宮内の感染などで子宮内膜の基底層が傷つき、子宮の内腔の前壁と後壁がくっついてしまう状態である。主な症状は月経量の減少(過少月経)や無月経、不妊、習慣流産であり、痛みで受診することは典型的ではない。診断には子宮鏡や子宮卵管造影を用いる。なお、子宮頸部が完全にふさがって月経血が子宮内にたまる(子宮留血症)と周期的な下腹部痛が起こることがあるが、これは例外的な状況である。腹腔内の癒着が慢性骨盤痛の原因になることとは区別して考える。
- ×c. 子宮腟部びらん
子宮腟部びらんは、子宮頸管の内側を覆う円柱上皮がエストロゲンの作用で腟部側にせり出し(外反)、肉眼で赤くただれたように見える状態である。本当の上皮欠損(真性びらん)ではないため、偽びらんとも呼ばれる。性成熟期の女性や妊婦、経口避妊薬を服用している人によくみられる生理的な所見で、基本的に痛みはなく治療も必要ない。帯下の増加や性交後の少量出血をきっかけに見つかることはあるが、子宮頸癌との区別のために細胞診で確認することが大切である。
- ○d. バルトリン腺炎
バルトリン腺は腟の入口の後外側(大陰唇の下端の奥)に左右一対ある分泌腺で、性交時の潤滑液を出す。その排出管がふさがって細菌(大腸菌などの腸内細菌、ブドウ球菌、淋菌など)に感染するとバルトリン腺炎になる。膿がたまってバルトリン腺膿瘍になると、外陰部の片側が赤く腫れ、強い痛みのために歩いたり座ったりするのもつらくなる。発熱を伴うこともある。このように痛みを主訴に受診する代表的な外陰部疾患なので、本問の正解である。治療は抗菌薬の投与と、膿瘍ができた場合の切開排膿である。再発を繰り返す場合は開窓術(造袋術)を行う。なお、感染を伴わない単純なバルトリン腺嚢胞は、小さければ無症状のことも多い。
- ×e. 子宮頸管ポリープ
子宮頸管ポリープは、子宮頸管の粘膜が限られた範囲で増殖してできた良性の隆起で、外子宮口から赤く柔らかい突起として見える。多くは無症状で、内診や検診のときに偶然見つかる。症状がある場合は、性交後や運動後の接触出血、不正性器出血、帯下の増加であり、痛みは伴わない。外来で茎をねじって取り除く(捻除する)ことができる。悪性の病変はまれだが、取り除いたポリープは病理検査に提出する。
婦人科疾患と主な訴え
・痛み(外陰部): バルトリン腺炎・膿瘍、性器ヘルペス(多数の小さな潰瘍があり、強い痛みと排尿時痛を伴う)、外陰炎 ・痛み(下腹部、急性): 異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血、骨盤内炎症性疾患(PID)など ・痛み(月経に関連): 月経困難症、子宮内膜症、子宮腺筋症 ・不正性器出血: 子宮頸管ポリープ、子宮頸癌、子宮体癌、子宮内膜ポリープ、萎縮性腟炎など ・無月経・不妊: 子宮腔癒着症(Asherman症候群)など ・無症状(生理的な所見): 子宮前屈、可動性のある子宮後屈、子宮腟部びらん(偽びらん)
バルトリン腺の病気
バルトリン腺嚢胞は、排出管がふさがって分泌液がたまったもので、感染がなければ痛みは軽い。細菌感染が加わるとバルトリン腺炎やバルトリン腺膿瘍となり、片側の外陰部が強く痛み、腫れて赤くなる。治療は抗菌薬、穿刺・切開排膿、開窓術(造袋術)である。閉経後の女性に新しくできたバルトリン腺の腫瘤は、まれではあるがバルトリン腺癌との区別が必要になる。
子宮腟部びらんの成り立ち
子宮頸部では、外側の重層扁平上皮と頸管の円柱上皮の境目(扁平円柱上皮境界: SCJ)が、エストロゲンの影響で外側へ移動する。外に出た円柱上皮は薄く、下の血管が透けて赤く見える。これが「びらん」の正体である。この境目のあたり(移行帯)は子宮頸癌ができやすい場所なので、細胞診はここを狙って採取する。
POINT
・バルトリン腺炎・膿瘍は、片側の外陰部が腫れて強く痛む。治療は抗菌薬と切開排膿、再発例には開窓術 ・子宮前屈は正常な位置。後屈も可動性があれば病的意義はない ・子宮腟部びらんは円柱上皮の外反による生理的な偽びらんで、無症状 ・子宮頸管ポリープは接触出血や不正出血の原因になるが、痛みはない ・子宮腔癒着症(Asherman症候群)は子宮内容除去術のあとに起こり、過少月経・無月経・不妊をきたす
