StudyMed医師国家試験

お風呂上がりに白目が真っ赤!―「充血」か「出血」かを見極めて、あえて何もしない勇気

第112回医師国家試験 F問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第62問

77歳の男性。入浴後に左眼が真っ赤になったため受診した。眼痛はないが,眼が重い感じがするという。眼脂や流涙は認めない。視力は右0.5(1.2×-0.75 D),左0.6(1.2×-0.5 D)で,眼圧は右14mmHg,左13mmHg。左眼の前眼部写真を別に示す。  適切な対応はどれか。

第112回 F問題 第62問の問題画像
  1. a.圧迫眼帯
  2. b.経過観察
  3. c.結膜下洗浄
  4. d.眼球マッサージ
  5. e.抗菌薬眼軟膏塗布

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「赤目」の患者さんへの対応を考える問題だ。眼が赤いといっても原因はさまざまで、放っておいてよいものから失明につながるものまである。着眼点は2つ。赤みが「充血」なのか「出血」なのか、そして眼痛・視力低下・眼圧上昇・眼脂といった危険なサインがあるかどうかだ。
医学生医学生
真っ赤と聞くと、まず結膜炎を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
自然な連想だね。でも結膜炎なら眼脂や流涙がつきものだ。今回はどちらもない。それに写真をよく見ると、白目の一部が境界のくっきりした鮮紅色でべったり塗りつぶされたように見えていて、一本一本の血管の走行がわからない。これは血管が拡張している「充血」ではなく、結膜の下に血液が漏れ出た「出血」の見え方なんだ。
医学生医学生
充血なら血管が太く浮き出て見えるけれど、出血だと面になる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。眼科では赤目をまずこの2つに分ける。充血の中でも、結膜の奥の方ほど赤い結膜充血と、角膜の周りが紫がかって赤くなる毛様充血は区別が大事だ。毛様充血を見たら、角膜炎、ぶどう膜炎、急性緑内障発作といった重い病気を考える。
医学生医学生
急性緑内障発作は、OSCE前に救急の講義で「頭痛と嘔吐で内科に来ることがある」と習いました。今回は眼圧が正常なので否定できそうです。
ドクタードクター
よく覚えているね。急性緑内障発作なら激しい眼痛や視力低下、高眼圧、角膜浮腫を伴う。今回は痛みもなく、矯正視力は両眼とも良好で眼圧も正常範囲だ。眼が重い感じがする程度で、視機能はまったく損なわれていない。
医学生医学生
では診断は結膜下出血ですね。入浴でいきんだり血圧が上がったりしたのがきっかけでしょうか。
ドクタードクター
そう考えられる。入浴、いきみ、咳、くしゃみ、飲酒などで一時的に静脈圧や血圧が上がると、結膜の細い血管が破れることがある。高齢者に多く、動脈硬化や高血圧、抗血小板薬・抗凝固薬の内服が出血しやすさに関わる。では対応はどうする?
医学生医学生
見た目が派手なので何か処置したくなりますが……圧迫眼帯で止血するのはどうでしょう。
ドクタードクター
そう考える学生は多いよ。でも結膜下出血はほとんどの場合、受診した時点ですでに止まっている。圧迫する意味はないし、片眼をふさぐと視野が狭くなって高齢者では転倒の危険まで増える。出血は1〜2週間ほどで自然に吸収されるから、正解は経過観察だ。
医学生医学生
結膜下にたまった血液を洗い流すのもだめですか。
ドクタードクター
眼の洗浄は化学物質や異物が入ったときの処置で、結膜の下にある血液は洗っても取れない。そもそも自然に吸収されるから除去する必要もないんだ。
医学生医学生
眼球マッサージは、網膜中心動脈閉塞症のときにやる処置でしたよね。
ドクタードクター
そう。眼圧を上げ下げして塞栓を末梢に流そうとするもので、結膜下出血には効果がない。むしろこすると出血が広がるおそれがある。抗菌薬の眼軟膏も、眼脂も外傷もなく感染の所見がない今回は使う理由がない。
医学生医学生
つまり、危険な病気を除外したうえで、何もしないのが一番の治療なんですね。患者さんへの説明が大事になりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが臨床のポイントだ。患者さんは真っ赤な眼に驚いて来るから、視力には影響しないこと、吸収されるときに赤から黄色っぽく色を変えながら薄れていくことを説明して安心してもらう。ただし発展知識として注意点もある。何度もくり返す、範囲が広いといった場合は、血圧測定や血算・凝固検査、服薬内容の確認をして、高血圧や血小板減少、抗血栓薬の効きすぎがないかを調べる。
医学生医学生
外傷が原因のときも、ただの出血として片づけてはいけないですよね。
ドクタードクター
その通り。外傷後なら眼球破裂や結膜裂傷を見逃さないよう注意が必要だ。それから、眼脂や流涙、異物感を伴って結膜下出血がみられたら、エンテロウイルス70型などによる急性出血性結膜炎も考えたい。感染力が強いので、院内感染対策も含めて区別が大切だ。もう一つ、拡張した結膜血管がくねくね蛇行して眼球突出や血管雑音を伴うなら頸動脈海綿静脈洞瘻を疑う。
医学生医学生
同じ赤い眼でも、随伴症状と見え方で全然違う病気になるんですね。眼科実習で細隙灯の使い方を習ったときより、赤目の見方がずっとはっきりしました。

まとめ

突然片眼に生じた、血管走行の見えない境界鮮明な鮮紅色の赤みで、眼痛・視力低下・眼圧上昇・眼脂を伴わない場合は結膜下出血と考えます。入浴やいきみ、咳などによる一時的な血圧・静脈圧上昇が誘因となり、高齢、高血圧、抗血栓薬の内服が背景になりやすい病態です。出血は1〜2週間で自然に吸収されるため経過観察が適切で、圧迫眼帯や洗浄、眼球マッサージ、抗菌薬は不要であり、視力に影響しないことを説明して患者を安心させることが大切です。一方、くり返す場合は血圧や血液凝固能、服薬内容を確認し、外傷では眼球破裂を、眼脂を伴えば急性出血性結膜炎を鑑別します。赤目を「充血」と「出血」に分け、危険なサインの有無を確かめる手順は、眼科以外の外来や救急でも役立つ基本的な考え方です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・77歳の高齢男性。入浴後に急に左眼が真っ赤になった。片眼だけで、突然起こっている。 ・眼痛はなく、眼が重い感じ(軽い異物感)があるだけである。 ・眼脂(めやに)や流涙はなく、感染性結膜炎を思わせる所見はない。 ・視力は裸眼では右0.5、左0.6だが、軽い近視を矯正すると両眼とも1.2に達する。視機能は障害されていない。 ・眼圧は右14mmHg、左13mmHgで正常範囲(おおむね10〜21mmHg)にある。 ・前眼部写真では、白目(球結膜)の下に境界のはっきりした鮮紅色の赤い部分が、べったりと面状に広がっている。

診断へのプロセス

眼が赤くなる「赤目」は、大きく2つに分けられる。1つは血管が拡張する「充血」、もう1つは血管の外に血液が漏れ出す「出血」である。 充血の場合は、一本一本の血管が太く浮き出て見える。結膜炎による結膜充血、角膜炎・ぶどう膜炎・急性緑内障発作による毛様充血(角膜の周囲が強く赤くなる)、強膜炎などがある。本症例のように血管の走行が見分けられず、境界のはっきりした鮮紅色の面になるのは、結膜の下に出血している所見である。 鑑別すべき重い疾患も否定的である。急性緑内障発作なら激しい眼痛、頭痛、視力低下、高眼圧、角膜浮腫を伴う。ぶどう膜炎や角膜炎なら眼痛、羞明(まぶしさ)、視力低下が出る。細菌性・ウイルス性結膜炎なら眼脂と流涙がある。頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)では、拡張した結膜血管がくねくねと蛇行し(メドゥーサの頭)、眼球突出や血管雑音を伴う。本症例はこれらのどれにも当てはまらない。 以上から、結膜下出血と診断する。入浴、いきみ、咳、くしゃみ、飲酒などで一時的に静脈圧や血圧が上がると、結膜の細い血管が破れて起こることが多い。高齢者に多く、動脈硬化、高血圧、抗血小板薬や抗凝固薬の服用が出血しやすさにかかわる。

設問の考え方

結膜下出血は視機能に影響しない良性の病態で、出血は1〜2週間ほどで自然に吸収される。特別な治療は必要なく、経過観察が適切である。患者には、出血が吸収されるときに色が赤から黄色っぽく変わりながら薄れていくこと、視力には影響しないことを説明して安心させる。

選択肢考察

  1. ×a.  圧迫眼帯

    圧迫眼帯は、眼瞼の手術後などに、出血や腫れを抑えて傷口を安静に保つために使う。結膜下出血はほとんどの場合すでに止血しており、自然に吸収されるのを待てばよいので、圧迫する必要はない。片眼をふさぐと視野が狭くなり、高齢者では転倒の危険も高まる。

  2. ○b.  経過観察

    結膜下出血は自然に治る良性の病態で、出血は1〜2週間で吸収されて消える。視力も眼圧も正常で、痛みや眼脂もない本症例では、治療をせずに経過をみるのが適切である。ただし、何度もくり返す場合や広い範囲に出血する場合は、高血圧、血液疾患(血小板減少など)、抗血栓薬の効きすぎなどがないかを全身的に調べる。外傷が原因なら、眼球破裂や結膜裂傷を見逃さないよう注意する。

  3. ×c.  結膜下洗浄

    眼の洗浄は、化学物質が入ったときや異物が入ったときに行う処置である。結膜の下にたまった血液は洗い流せないうえ、自然に吸収されるので除去する必要もない。異物や外傷のない本症例で行う意味はない。

  4. ×d.  眼球マッサージ

    眼球マッサージは、網膜中心動脈閉塞症の急性期に、眼圧を急に上げ下げして詰まった塞栓を末梢へ流す目的で行うことがある処置である。結膜下出血に効果はなく、こすると再び出血したり出血が広がったりするおそれがある。

  5. ×e.  抗菌薬眼軟膏塗布

    抗菌薬の眼軟膏は、細菌性結膜炎・角膜炎の治療や、外傷・手術後の感染予防に使う。本症例には眼脂も外傷もなく感染の所見がないので、抗菌薬を使う理由はない。

結膜下出血の概要

・球結膜の下の血管が破れ、結膜と強膜の間に血液がたまった状態である。境界のはっきりした鮮紅色の斑として見える。 ・誘因:いきみ、咳、くしゃみ、嘔吐、入浴、飲酒、眼をこすること、外傷、コンタクトレンズなど。誘因がはっきりしないことも多い。 ・背景:高齢、高血圧、動脈硬化、糖尿病、抗血小板薬・抗凝固薬の服用、出血しやすい体質。 ・症状:痛みはないか、あっても軽い異物感程度である。視力は低下しない。 ・経過:1〜2週間で自然に吸収される。範囲が広いと数週間かかることもある。 ・何度もくり返す場合は、血圧測定、血算・凝固検査、服薬内容の確認を行う。 ・急性出血性結膜炎(エンテロウイルス70型などによる)でも結膜下出血がみられる。この場合は眼脂、流涙、異物感を伴い、感染力が強いので区別が必要である。

赤目の鑑別の整理

・結膜充血:結膜の円蓋部(白目の奥側)ほど赤く、表層の血管が拡張する。眼脂を伴えば結膜炎を考える。 ・毛様充血:角膜の周囲が強く、紫がかった赤色になる。角膜炎、虹彩毛様体炎、急性緑内障発作を考え、視力低下や眼痛を伴う。 ・強膜炎:深いところの血管が充血し、強い眼痛を伴う。関節リウマチなどの膠原病と関連することがある。 ・結膜下出血:血管の走行が見えない、境界のはっきりした面状の赤み。痛みや視力低下はない。 ・頸動脈海綿静脈洞瘻:拡張した血管がくねくねと蛇行し(メドゥーサの頭)、拍動性の眼球突出、血管雑音、眼圧上昇を伴う。

POINT

・突然の片眼の境界鮮明な鮮紅色の赤み+痛み・視力低下・眼圧上昇・眼脂なし → 結膜下出血 ・結膜下出血は1〜2週間で自然に吸収されるため、経過観察でよい ・くり返す場合は高血圧、出血しやすい体質、抗血栓薬の服用を確認する ・赤目は「充血」(結膜充血・毛様充血)か「出血」かを見分け、眼痛・視力低下・眼圧上昇を伴う重い疾患を除外する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。