StudyMed医師国家試験

宣言と憲章の取り違えに注意―ヘルシンキ宣言が定めたのは「研究の倫理」

第112回医師国家試験 F問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第5問

保健医療に関する国際的な提言と内容の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.WHO憲章 ―― 健康の定義
  2. b.オタワ憲章 ―― ヘルスプロモーション
  3. c.リスボン宣言 ―― 患者の権利
  4. d.ヘルシンキ宣言 ―― 公衆衛生の定義
  5. e.アルマ・アタ宣言 ―― プライマリヘルスケア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、保健医療に関する国際的な宣言や憲章と、その中身の対応を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、組合せが間違っている1つを見つければいい。コツは、それぞれの文書を「誰がまとめたか」と「何を扱っているか」のセットで覚えることだ。
医学生医学生
名前がどれも似ていて、試験直前にいつも混乱してしまうんです。
ドクタードクター
多くの人がそうだね。そこで大きく2つのグループに分けてみよう。WHOが関わったのが、WHO憲章、アルマ・アタ宣言、オタワ憲章。世界医師会が採択したのが、ジュネーブ宣言、ヘルシンキ宣言、リスボン宣言だ。WHO側は社会全体の健康、世界医師会側は医師や医療の倫理を扱うと整理すると覚えやすい。
医学生医学生
WHO憲章は健康の定義ですよね。「病気でないだけでなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」というのは公衆衛生の講義で最初に習いました。
ドクタードクター
その通り。1946年に採択され、到達しうる最高水準の健康を享受することは基本的人権の一つだとも書かれている。この組合せは正しい。次はアルマ・アタ宣言とオタワ憲章だ。
医学生医学生
アルマ・アタ宣言がプライマリヘルスケア、オタワ憲章がヘルスプロモーションでしたっけ。正直、この2つの違いがあいまいです。
ドクタードクター
組合せはどちらも正しい。違いは背景にある。1978年のアルマ・アタ宣言は、おもに開発途上国を念頭に、地域の人々が主体的に参加し、身近で費用的にも受けられる基本的な保健医療サービスを、すべての人に届けることを目指した。「2000年までにすべての人に健康を」という目標が有名だね。
医学生医学生
一方のオタワ憲章は、先進国向けということですか。
ドクタードクター
おおむねそう考えていい。1986年のオタワ憲章は、生活習慣病が中心となった先進国を背景に、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義した。個人の努力だけでなく、健康的な公共政策や健康を支援する環境づくりも含めているのが特徴で、日本の「健康日本21」の土台にもなっている。
医学生医学生
リスボン宣言は患者の権利ですね。臨床実習前の医療倫理の授業で、自己決定権や知る権利、知らされない権利を学びました。
ドクタードクター
よく覚えているね。1981年に世界医師会で採択され、良質の医療を受ける権利、選択の自由、守秘義務に関する権利なども掲げている。これも正しい組合せだ。では残るヘルシンキ宣言はどうかな。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言は……インフォームド・コンセントに関係していたような。公衆衛生の定義ではない気がします。
ドクタードクター
正解。ヘルシンキ宣言は1964年に世界医師会で採択された、人を対象とする医学研究の倫理原則だ。第二次世界大戦中の人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領の流れをくんでいる。だから「公衆衛生の定義」との組合せは誤りで、これが答えになる。
医学生医学生
公衆衛生の定義を示した人は別にいるんですか。
ドクタードクター
ウィンスロウによる定義がよく知られている。組織化された地域社会の努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進を図る科学であり技術である、というものだ。ヘルシンキ宣言とは関係がない。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言の具体的な中身も押さえておいたほうがいいでしょうか。
ドクタードクター
ぜひ押さえておこう。1975年の東京総会での改訂で、倫理委員会による事前審査とインフォームド・コンセントが明確に位置づけられた。研究対象者の福利を科学や社会の利益より優先すること、プラセボの使用は条件付きで認めることも重要な原則だ。採択の1964年と東京改訂の1975年は混同しやすいので区別しておきたい。
医学生医学生
基礎配属で研究に参加したとき、倫理審査委員会の承認番号を論文に書く理由を先生に聞いたのを思い出しました。あれもヘルシンキ宣言がもとになっているんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床研究に携わる以上、日常的に関わってくる考え方なんだ。ついでに、ジュネーブ宣言はヒポクラテスの誓いを現代向けにした医師の倫理の宣誓文、2018年のアスタナ宣言はプライマリヘルスケアの再確認、とあわせて覚えておくと整理しやすいよ。

まとめ

保健医療に関する国際文書は、まとめた組織と内容をセットで覚えると取り違えを防げます。WHOが関わったものとして、WHO憲章は健康の定義、アルマ・アタ宣言はプライマリヘルスケア、オタワ憲章はヘルスプロモーションを扱います。世界医師会が採択したものとして、ジュネーブ宣言は医師の倫理、ヘルシンキ宣言は人を対象とする医学研究の倫理、リスボン宣言は患者の権利を定めています。ヘルシンキ宣言は1964年に採択され、1975年の東京改訂で倫理委員会の審査とインフォームド・コンセントが明確になりました。公衆衛生の定義はウィンスロウによるものが代表的で、これらの文書の理解は臨床研究や患者対応の基盤となる倫理観を支えるものです。

解答・解説

正解はdです

保健医療・医療倫理に関する主要な国際文書と、その中心テーマとの対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」と問われているので、組合せが間違っているものを1つ選ぶ。 それぞれの文書は、誰がまとめたのか(WHO〈世界保健機関〉か、世界医師会〈WMA〉か)と何を扱っているのかを合わせて覚えておくと、取り違えにくい。 ・WHOが関わったもの:WHO憲章(健康の定義)、アルマ・アタ宣言(プライマリヘルスケア)、オタワ憲章(ヘルスプロモーション) ・世界医師会が採択したもの:ジュネーブ宣言(医師の倫理)、ヘルシンキ宣言(人を対象とする医学研究の倫理)、リスボン宣言(患者の権利) ヘルシンキ宣言が定めているのは、人を対象とする医学研究の倫理原則である。公衆衛生を定義した文書ではないので、dの組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  WHO憲章 ―― 健康の定義

    正しい組合せである。WHO憲章は1946年に採択され、1948年に発効した。その前文で、健康とは病気でないとか弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることだと定義している。到達しうる最高水準の健康を享受することは、人種・宗教・政治的信条・経済的社会的条件によって差別されない基本的人権の一つであることも明記されている。

  2. ×b.  オタワ憲章 ―― ヘルスプロモーション

    正しい組合せである。オタワ憲章は、1986年にカナダのオタワで開かれた第1回ヘルスプロモーション国際会議(WHO主催)で採択された。ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義した。そのうえで、5つの活動領域を示している。健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人の技術の開発、ヘルスサービスの方向転換である。日本の「健康日本21」も、この考え方を土台にしている。

  3. ×c.  リスボン宣言 ―― 患者の権利

    正しい組合せである。リスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)は、1981年にポルトガルのリスボンで開かれた世界医師会総会で採択された。その後も改訂や再確認が行われている。良質の医療を受ける権利、選択の自由の権利、自己決定の権利、情報を得る権利(知らされない権利も含む)、守秘義務に関する権利、健康教育を受ける権利、尊厳に関する権利などを掲げている。

  4. ○d.  ヘルシンキ宣言 ―― 公衆衛生の定義

    誤った組合せであり、本問の正解である。ヘルシンキ宣言は、1964年にフィンランドのヘルシンキで開かれた世界医師会総会で採択された、人を対象とする医学研究の倫理原則である。第二次世界大戦中の人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領(1947年)の流れをくむ。1975年の東京総会での改訂で、倫理審査委員会による審査とインフォームド・コンセントが明確に位置づけられ、その後も改訂が重ねられている。主な原則は次のとおりである。研究対象者の福利を科学や社会の利益よりも優先すること、自由意思によるインフォームド・コンセントを得ること、研究計画を倫理委員会で事前に審査すること、プラセボの使用は条件付きで認めること。公衆衛生の定義としては、ウィンスロウ(C.-E. A. Winslow)による「組織化された地域社会の努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進を図る科学であり技術である」(1920年)がよく知られており、ヘルシンキ宣言とは関係がない。

  5. ×e.  アルマ・アタ宣言 ―― プライマリヘルスケア

    正しい組合せである。アルマ・アタ宣言は、1978年に旧ソ連カザフ共和国(現カザフスタン)のアルマ・アタで、WHOとUNICEF(国連児童基金)が共同で開いた国際会議で採択された。プライマリヘルスケア(PHC)を、地域の人々が主体的に参加し、身近で受けられ、費用の面でも負担できる、基本的な保健医療サービスとして位置づけた。「西暦2000年までにすべての人に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げた。2018年には、PHCの理念を再確認するアスタナ宣言が採択されている。

主な国際文書(年・採択した組織・内容)

・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験を裁いた裁判の中で示された。被験者の自発的な同意が絶対に必要であるとした。 ・WHO憲章(1946年採択、1948年発効):健康の定義 ・ジュネーブ宣言(1948年、世界医師会):ヒポクラテスの誓いを現代向けに書き直した、医師の倫理の宣誓文 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):人を対象とする医学研究の倫理原則 ・患者の権利章典(1973年、アメリカ病院協会):患者の権利を明文化した先駆け ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHO・UNICEF):プライマリヘルスケア ・リスボン宣言(1981年、世界医師会):患者の権利 ・オタワ憲章(1986年、WHO):ヘルスプロモーション ・バンコク憲章(2005年、WHO):グローバル化した世界におけるヘルスプロモーション ・アスタナ宣言(2018年、WHO・UNICEF):プライマリヘルスケアの再確認

プライマリヘルスケアとヘルスプロモーションの違い

プライマリヘルスケアは、おもに開発途上国を念頭に、すべての人が基本的な保健医療サービスを受けられるようにすることを目指した。ヘルスプロモーションは、おもに先進国の生活習慣病対策を背景とし、個人の努力だけでなく、健康を支える環境づくりや政策も含めて健康の実現を目指す考え方である。

POINT

・WHO憲章は健康の定義、アルマ・アタ宣言はプライマリヘルスケア、オタワ憲章はヘルスプロモーションである。 ・世界医師会の宣言は、ジュネーブ宣言が医師の倫理、ヘルシンキ宣言が人を対象とする医学研究の倫理、リスボン宣言が患者の権利である。 ・ヘルシンキ宣言は1964年に採択された。1975年の東京改訂で、倫理委員会とインフォームド・コンセントが明確になった。 ・公衆衛生の定義はウィンスロウによるものが代表的である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。