腹囲と「たばこ」で決まる支援レベル―特定保健指導の階層化を読み解く
第112回医師国家試験 F問題 第48問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。特定保健指導のため来院した。身長170cm,BMI 25.5,腹囲94cm。血圧124/72mmHg。血糖98mg/dL,トリグリセリド160mg/dL。喫煙は20本/日を22年間。飲酒はほとんどしない。特記すべき自覚症状はない。定期的な受診や服薬はしていない。毎日のデスクワークで運動不足を感じている。 対応として正しいのはどれか。
- a.積極的支援レベルに分類される。
- b.保健指導後の評価は1年後に行う。
- c.電話やメールなどを用いた指導はできない。
- d.標準化された指導内容を画一的に行う必要がある。
- e.運動や体重コントロールを勧める必要はない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
特定保健指導の階層化では、まず腹囲(男性85cm以上・女性90cm以上)またはBMI 25以上で内臓脂肪蓄積を判定し、次に血糖・脂質・血圧の追加リスクを数えます。喫煙歴はほかのリスクが1つ以上ある場合に限って加算され、腹囲基準該当で追加リスク2つ以上なら積極的支援、1つなら動機付け支援となり、65〜74歳は積極的支援相当でも動機付け支援とします。メタボリックシンドロームの診断基準とは別の仕組みであり、診断基準を満たさなくても積極的支援の対象になりうる点に注意が必要です。指導は個別性を重視し、継続支援には電話やメールも使え、評価は1年後ではなく3か月以上の支援後に行います。階層化の手順と指導の進め方を理解しておくことは、予防医学の実践や将来の健診業務・産業保健の場面で直接役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
42歳男性で、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)の結果を受けて特定保健指導に来ている。 ・腹囲94cm:男性の基準85cm以上を満たす(内臓脂肪蓄積あり)。BMIは25.5でこれも25以上である。 ・血圧124/72mmHg:保健指導判定値(130/85mmHg以上)未満でリスクに数えない。 ・血糖98mg/dL:空腹時血糖の判定値(100mg/dL以上)未満でリスクに数えない。 ・トリグリセリド(中性脂肪)160mg/dL:判定値150mg/dL以上を満たし、脂質のリスクが1つある。 ・喫煙20本/日×22年:喫煙歴あり(ブリンクマン指数440)。 ・服薬なし:降圧薬・血糖降下薬・脂質異常症治療薬を使っていないため、保健指導の対象から外れない。
階層化の手順
特定保健指導の対象者は、次の手順で「情報提供」「動機付け支援」「積極的支援」に振り分けられる(階層化)。 ①内臓脂肪蓄積の判定:腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上か、腹囲が基準未満でもBMI 25以上か。 ②追加リスクの数を数える:血糖、脂質、血圧の3項目のうち該当するもの。喫煙歴は、血糖・脂質・血圧のいずれか1つ以上に該当する場合に限って追加リスクとして1つ数える。 ③腹囲基準を満たす者では、追加リスク2つ以上で積極的支援、1つで動機付け支援となる。 ④65〜74歳の前期高齢者は、積極的支援に該当しても動機付け支援とする。 本例は腹囲基準を満たし、脂質(TG高値)に該当するため喫煙歴も加算され、追加リスクは2つとなる。年齢も40〜64歳であるから積極的支援レベルに分類される。 なお、日本のメタボリックシンドローム診断基準(腹囲基準に加え、脂質・血圧・空腹時血糖110mg/dL以上の3項目のうち2項目以上)には、本例は脂質の1項目しか該当しないので当てはまらない。ただし、喫煙を数に入れる保健指導の階層化はメタボリックシンドロームの診断とは別の仕組みであり、診断基準を満たさなくても積極的支援の対象になる点に注意する。 設問では、階層化の結果に加え、特定保健指導の実施方法(評価時期、支援の手段、個別性)を正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ○a. 積極的支援レベルに分類される。
腹囲94cmで男性の基準(85cm以上)を満たす。追加リスクは、トリグリセリド160mg/dL(150mg/dL以上)による脂質の1つに加え、脂質リスクがあるため喫煙歴も1つとして数えられ、合計2つになる。腹囲基準該当かつ追加リスク2つ以上で、年齢が40〜64歳であるから、積極的支援に該当する。
- ×b. 保健指導後の評価は1年後に行う。
特定保健指導では、初回面接で行動目標を立て、その後の継続的な支援の成果を数か月後に評価する。評価は3か月以上の継続支援を経てから行い、かつては初回面接から6か月後とされていたが、現在は3か月経過後に評価してよい。1年後まで待つのではない。1年後の特定健診の結果は次年度の階層化に使われるもので、保健指導の評価とは別のものである。
- ×c. 電話やメールなどを用いた指導はできない。
初回は対面の個別面接やグループ支援が基本である(条件を満たせばICT(情報通信技術)を使った遠隔面接も認められる)。その後の継続的な支援には、個別面接・グループ支援に加えて、電話、電子メール、チャットなども使える。忙しい勤労世代が支援を続けやすくなるよう、多様な手段の活用が認められている。
- ×d. 標準化された指導内容を画一的に行う必要がある。
特定保健指導の目的は、対象者が自分の生活習慣の問題に気付き、自ら行動を変えて続けられるように支援することである。生活環境、仕事、嗜好、行動変容への準備状況(行動変容ステージ)は人によって違うため、それに合わせた個別性のある指導が求められる。画一的に同じ内容を行うのは誤りである。
- ×e. 運動や体重コントロールを勧める必要はない。
本例は腹囲94cm、BMI 25.5で内臓脂肪蓄積があり、高トリグリセリド血症も伴う。本人もデスクワークによる運動不足を自覚している。運動量を増やし、食事を見直して体重と腹囲を減らすことは、特定保健指導の中心的な内容である。体重や腹囲がわずかに減るだけでも検査値の改善が期待できる。あわせて禁煙支援も重要である。
特定健康診査・特定保健指導の概要
・根拠法:高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)。2008年度に開始された。 ・実施主体:医療保険者(市町村国保、健康保険組合、協会けんぽなど)。 ・対象:40〜74歳の被保険者・被扶養者。 ・目的:内臓脂肪型肥満に着目して生活習慣病の予備群を見つけ出し、生活習慣の改善によって糖尿病・高血圧症・脂質異常症などの発症や重症化を予防する。
階層化の追加リスク判定値
・血糖:空腹時血糖100mg/dL以上、またはHbA1c 5.6%以上 ・脂質:空腹時トリグリセリド150mg/dL以上(随時採血では175mg/dL以上)、またはHDLコレステロール40mg/dL未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上、または拡張期85mmHg以上 ・喫煙歴:上の3項目のいずれかに該当する場合のみ加算
階層化の結果
・腹囲基準該当(男性85cm以上、女性90cm以上):追加リスク2つ以上で積極的支援、1つで動機付け支援 ・腹囲基準未満でBMI 25以上:追加リスク3つ以上で積極的支援、1〜2つで動機付け支援 ・65〜74歳:積極的支援に該当しても動機付け支援とする ・降圧薬、血糖降下薬、脂質異常症治療薬を服用中の者は特定保健指導の対象としない(医療機関での管理に任せる)
支援の内容
・動機付け支援:原則1回の面接で行動計画を作成し、3か月以上経過後に評価する。 ・積極的支援:初回面接で行動計画を作成し、3か月以上の継続的な支援を行ってから評価する。第4期(2024年度〜)からは、腹囲2cm・体重2kg減少などの成果(アウトカム)を重視する評価方式が導入された。 ・支援の手段は、個別面接、グループ支援、電話、電子メール、ICTを使った遠隔面接などがある。
POINT
・階層化:まず腹囲(男性85cm以上・女性90cm以上)かBMI 25以上で内臓脂肪蓄積を判定し、次に追加リスク(血糖・脂質・血圧)の数を数える。 ・喫煙歴は、他のリスクが1つ以上ある場合にだけ追加リスクに数える。 ・腹囲基準該当で追加リスク2つ以上なら積極的支援、1つなら動機付け支援。65〜74歳は積極的支援に当たっても動機付け支援とする。 ・評価は3か月以上の支援後に行う(1年後ではない)。 ・電話やメールでの支援も認められている。指導は画一的ではなく個別性を重視する。
