国の豊かさで死因は変わる―円グラフで読み解く「疫学転換」
第112回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
WHOが公表した2015年の低所得国と高所得国における主な死亡原因の割合を示す。 (ア)はどれか。

- a.感染症
- b.悪性新生物
- c.心血管疾患
- d.不慮の事故
- e.周産期の異常
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
WHOの2015年データでは、低所得国の死因で最大の割合を占めるのは感染症で、下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、結核、マラリアなどが上位に並びます。一方、高所得国では感染症の割合は小さく、心血管疾患が約3分の1で最大、次いで悪性新生物が大きな割合を占めます。周産期の異常は低所得国では一定数みられるものの高所得国ではほぼみられず、不慮の事故は道路交通傷害を中心に低所得国でやや多くなります。社会経済の発展に伴い死因の中心が感染症から非感染性疾患へ移る現象を疫学転換といい、低・中所得国では両者が併存する「二重負荷」が課題です。この考え方を押さえておけば、国際保健の統計や日本の死因構造の歴史的変化も一貫して理解できます。
解答・解説
正解はaです
グラフの読み取り
2つの円グラフは、世界保健機関(WHO)がまとめた2015年の死因構成割合を、低所得国と高所得国で比べたものである。各項目の大きさを概観すると次のようになる。 ・(ア):低所得国で約3割と最大の扇形を占めるが、高所得国ではごくわずか。 ・(イ):低所得国でも1割強を占め、高所得国では約3分の1で最大。 ・(ウ):両国群とも数%〜1割程度で、低所得国の方がやや大きい。 ・(エ):低所得国では1割弱あるが、高所得国ではほぼ線状でほとんど存在しない。 ・(オ):低所得国では小さいが、高所得国では約3割に達し(イ)に次ぐ。
考え方
所得水準による死因構造の違いは「疫学転換(epidemiological transition)」の考え方で整理できる。上下水道・栄養・予防接種・抗菌薬などの医療資源が不十分な低所得国では、下気道感染症(肺炎など)、下痢症、HIV/AIDS、結核、マラリアといった感染症が死因の上位を占め、平均寿命も短い。一方、社会経済が発展すると感染症死亡が減って寿命が延び、高齢化に伴って心血管疾患や悪性新生物などの非感染性疾患(NCDs: non-communicable diseases)が死因の中心となる。 したがって、低所得国で最大、高所得国でほぼ消失している(ア)は感染症である。同じ考え方で、高所得国最大の(イ)が心血管疾患、高所得国で2番目に大きく低所得国で小さい(オ)が悪性新生物、高所得国でほとんどみられない(エ)が周産期の異常、両国群で中程度かつ低所得国でやや多い(ウ)が不慮の事故と対応づけられる。
選択肢考察
- ○a. 感染症
低所得国では衛生環境・栄養状態・ワクチンや治療薬へのアクセスが不十分なため、下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、結核、マラリアなどによる死亡が多く、感染症は低所得国の死因で最も大きな割合を占める。WHOの細かい死因分類でも、低所得国の死因第1位は下気道感染症である。一方、高所得国では感染症による死亡の割合は小さい。低所得国で最大・高所得国でごく小さいという(ア)の特徴に合致する。
- ×b. 悪性新生物
悪性新生物(がん)は加齢とともに罹患が増えるため、平均寿命が長く高齢化の進んだ高所得国で死因の大きな部分(約3割)を占める。低所得国では、がんを発症する年齢に達する前に感染症などで亡くなる人が多いことなどから割合は小さい。この特徴は(オ)に相当する。
- ×c. 心血管疾患
虚血性心疾患や脳卒中を含む心血管疾患は、高所得国の死因第1位であり、全体の約3分の1を占める。低所得国でも高血圧の管理や急性期治療が十分に行き届かないことから一定の割合(1割強)を占める。両国群で目立ち、高所得国で最大となる(イ)に相当する。
- ×d. 不慮の事故
不慮の事故(傷害)による死亡は、道路交通傷害を中心に低所得国で割合が高い。交通安全対策や救急医療体制の未整備が背景にある。高所得国でも一定数みられるが割合は小さい。両国群で中程度にみられ、低所得国でやや大きい(ウ)に相当する。
- ×e. 周産期の異常
早産・低出生体重、出生時仮死、新生児感染症などの周産期の異常による死亡は、妊婦健診や分娩介助、新生児医療が不十分な低所得国では依然として多い。高所得国では周産期医療の充実によりほとんどみられない。低所得国では1割弱を占めるが高所得国ではほぼ消失している(エ)に相当する。
疫学転換
社会経済の発展とともに、死因の中心が感染症・母子保健関連疾患(周産期・妊産婦の死亡、栄養障害)から、心血管疾患・悪性新生物・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)へ移っていく現象を疫学転換という。日本でもかつては結核や肺炎などの感染症が死因の上位であったが、現在は悪性新生物、心疾患、老衰などが上位を占める。
低所得国と高所得国の死因の特徴(WHO、2015年前後)
・低所得国:下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、マラリア、結核などの感染症が上位。周産期の異常(早産合併症、出生時仮死など)も多く、乳幼児死亡率が高い。道路交通傷害も重要な死因である。 ・高所得国:虚血性心疾患と脳卒中が上位を占め、肺癌などの悪性新生物、アルツハイマー病などの認知症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が続く。下気道感染症も高齢者を中心に一定数みられる。
世界全体の動向
世界の死亡の7割以上を非感染性疾患が占めるようになっており、WHOは低・中所得国においても感染症対策とNCDs対策の両方が必要な「二重負荷」の状態にあると指摘している。
POINT
・低所得国の死因で最大の割合を占めるのは感染症(細分類では下気道感染症が第1位)。 ・高所得国の死因第1位は心血管疾患、次いで悪性新生物。 ・周産期の異常は低所得国で多く、高所得国ではほとんどみられない。 ・不慮の事故(特に道路交通傷害)は低所得国で割合が高い。 ・所得水準の上昇に伴い感染症から非感染性疾患へ死因が移る(疫学転換)。
