白苔のついた扁桃に要注意―伝染性単核球症とアンピシリン、そしてEBNA抗体の時計
第112回医師国家試験 D問題 第70問
国試問題にチャレンジ
23歳の男性。咽頭痛と全身の皮疹とを主訴に来院した。3週間前に咽頭痛と微熱が出現し,その後咽頭痛が増悪するとともに全身に皮疹が出現してきたという。体温37.2℃。全身にびまん性の紅斑を認める。眼瞼結膜に貧血を認めない。白苔を伴う扁桃の発赤と腫大とを認める。頸部リンパ節を触知する。血液所見:赤血球441万,Hb 13.7g/dL,Ht 42%,白血球12,800(桿状核好中球12%,分葉核好中球30%,好酸球1%,好塩基球1%,単球8%,リンパ球40%,異型リンパ球8%),血小板28万。血液生化学所見:総蛋白7.9g/dL,AST 78U/L,ALT 84U/L,LD 365U/L(基準176~353),ALP 240U/L(基準115~359),γ-GTP 27U/L(基準8~50)。咽頭ぬぐい液のA群β溶連菌迅速検査は陰性。体幹部の写真を別に示す。 この疾患について正しいのはどれか。2つ選べ。

- a.空気感染する。
- b.アシクロビルが著効する。
- c.アンピシリンは禁忌である。
- d.皮疹は二峰性の経過を取る。
- e.発症直後の抗EBNA抗体価は陰性である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
若年者で白苔を伴う扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、異型リンパ球の増加、肝細胞障害型の肝酵素上昇がそろえば、EBV初感染による伝染性単核球症を考えます。感染経路は唾液(kissing disease)で空気感染はせず、アシクロビルに臨床的有効性はないため対症療法が基本です。アンピシリン・アモキシシリンは高頻度に皮疹を誘発するため禁忌で、溶連菌性扁桃炎との誤診に注意が必要です。抗EBNA抗体は回復期に陽性化して生涯持続するため、「VCA-IgM陽性・EBNA陰性」が初感染を示します。脾破裂予防のための運動制限やEBV関連腫瘍との関わりも含め、日常診療で頻繁に出会う咽頭炎の中から本症を見抜く力は、不要な抗菌薬処方を避けるうえでも重要です。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・23歳の若年成人。3週間前から咽頭痛と微熱があり、咽頭痛が悪化するとともに全身に皮疹が出てきた。 ・身体所見:微熱(37.2℃)、体幹・上肢を中心とするびまん性の紅斑、白苔の付着した扁桃の発赤・腫大、頸部リンパ節腫脹。 ・血液検査:白血球12,800/μLと軽度増加し、リンパ球40%に加えて異型リンパ球8%が出現している(リンパ球系の割合が合計約半数を占める)。貧血や血小板減少はない。 ・肝機能:AST 78 U/L、ALT 84 U/Lと肝細胞障害型の軽度上昇、LDも軽度上昇。一方ALP・γ-GTPは基準範囲内で胆汁うっ滞はない。 ・A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)迅速検査は陰性。
診断へのプロセス
若年者の発熱・咽頭痛・皮疹では、まず感染症を念頭に置く。 1. 白苔を伴う扁桃炎は溶連菌性咽頭炎でもみられるが、迅速検査が陰性であり、溶連菌の毒素による猩紅熱も考えにくい。 2. 「扁桃炎+頸部リンパ節腫脹+異型リンパ球の増加+トランスアミナーゼ上昇」の組み合わせは、伝染性単核球症(infectious mononucleosis:IM)に典型的である。 3. 皮疹と頸部リンパ節腫脹を伴う疾患として風疹も鑑別に挙がるが、風疹で異型リンパ球が目立って増えたり、肝酵素が上昇したりすることは少ない。伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)は、かぜ症状がおさまった後に頬の紅斑と四肢のレース状紅斑が出るもので、扁桃炎や肝障害の像とは合わない。 4. IMを起こす病原体には主にEpstein-Barrウイルス(EBV)とサイトメガロウイルス(CMV)があるが、白苔を伴う強い咽頭扁桃炎はEBVによるものに特徴的で、CMVによるIMでは咽頭所見が軽いことが多い。 以上より、EBV初感染による伝染性単核球症と診断する。皮疹は、IM自体による発疹のほか、咽頭炎に対して投与されたペニシリン系薬(特にアンピシリン、アモキシシリン)による薬疹のこともある。
設問の考え方
本問はEBVによるIMの「感染経路」「治療」「禁忌薬」「皮疹の経過」「血清診断」という基本事項を問うている。特にEBV関連抗体(VCA抗体と抗EBNA抗体)の出現時期を正しく理解しておくことが鍵になる。
選択肢考察
- ×a. 空気感染する。
誤り。EBVは主に唾液を介して感染する。キスによってうつることが多いため、kissing diseaseとも呼ばれる。乳幼児期には養育者の唾液や食器・玩具の共用などによる濃厚接触でうつる。輸血や臓器移植で伝播することもあるが、空気感染(飛沫核感染)はしない。空気感染するのは麻疹、水痘、結核の3つが代表である。なお、IMのもう一つの原因であるCMVも、唾液・尿・母乳・血液・性交などによる接触で感染し、空気感染はしない。
- ×b. アシクロビルが著効する。
誤り。アシクロビルはウイルスのチミジンキナーゼでリン酸化されて活性型になり、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害する。単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に対しては効果が確立している。一方、EBVに対しては試験管内(in vitro)でウイルスの複製を抑えるものの、IMの症状や経過を改善するという臨床的効果は示されておらず、使用は推奨されない。IMの多くは数週間で自然に治るため、治療は安静、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)、水分補給といった対症療法が基本である。気道閉塞のおそれがあるほど扁桃が腫れた場合、自己免疫性溶血性貧血や重い血小板減少を合併した場合などには、副腎皮質ステロイドを使うことがある。
- ○c. アンピシリンは禁忌である。
正しい。IMの患者にアンピシリンやアモキシシリンといったアミノペニシリン系抗菌薬を投与すると、高い頻度で全身に斑状丘疹性の紅斑が生じる。頻度は報告によって大きく異なるが、多くの患者に発疹が出るとされる。このため、わが国のアンピシリンの添付文書でも伝染性単核球症は禁忌とされている。EBVに感染して活性化したB細胞・T細胞が関与する一過性の過敏反応と考えられており、IMが治った後には同じ薬を使っても発疹が出ないことが多い。扁桃に白苔が付着していると溶連菌性扁桃炎と区別しにくく、誤ってアミノペニシリンを処方してしまう危険がある。そのため、迅速検査や血液像(異型リンパ球・肝機能障害)でIMの可能性を確かめることが重要である。本症例の皮疹も、その可能性を考える必要がある。
- ×d. 皮疹は二峰性の経過を取る。
誤り。IMの皮疹は斑状丘疹状、麻疹様、蕁麻疹様などさまざまな形をとるが、いったん消えて再び出るような二峰性の経過は特徴ではない。「二峰性」はむしろ発熱の経過で問われることが多く、典型例は麻疹である。麻疹ではカタル期の発熱がいったん下がりかけた後に再び高熱となり、その時期に発疹が出る。カタル期の終わりには頬粘膜にKoplik斑がみられる。
- ○e. 発症直後の抗EBNA抗体価は陰性である。
正しい。EBNA(EBV nuclear antigen:EBV核内抗原)は、潜伏感染している細胞の核内で発現する抗原である。抗EBNA抗体は初感染の急性期には作られず、発症からおおむね数週〜数か月(6〜12週程度)たってから陽性になり、その後は生涯陽性が続く。したがって、発症直後に「VCA-IgM抗体陽性」かつ「抗EBNA抗体陰性」であれば、EBVの初感染(急性期)と判断できる。逆に、急性期にすでに抗EBNA抗体が陽性であれば、過去にEBVに感染したことがある(既感染)とわかる。
伝染性単核球症(IM)の概要
・原因:大部分はEBVの初感染による。CMV、HHV-6、HIVの急性感染、トキソプラズマ症なども似た病像(伝染性単核球症様症候群)を起こすことがある。 ・疫学:わが国では乳幼児期に症状のほとんどない初感染(不顕性感染)を済ませる人が多い。思春期以降に初めて感染すると、典型的なIMを発症しやすい。 ・感染経路:唾液を介する(kissing disease)。潜伏期は4〜6週程度と長い。 ・三主徴:発熱、咽頭扁桃炎(白苔・偽膜を伴うことが多い)、頸部リンパ節腫脹(後頸部が目立つ)。 ・その他の所見:肝脾腫、眼瞼浮腫、口蓋の点状出血、皮疹(アミノペニシリン投与で高頻度に出現)。 ・検査:リンパ球の増加と異型リンパ球(多くは10%以上)。異型リンパ球の正体は、EBVに感染したB細胞を攻撃する活性化した細胞傷害性T細胞(CD8陽性)である。AST・ALT・LDの上昇もよくみられる。欧米では異好抗体(Paul-Bunnell反応)も使われるが、小児や日本人では陽性率が低い。
EBV抗体の推移
・VCA-IgM抗体:急性期に陽性になり、数週〜数か月で陰性化する。初感染の指標。 ・VCA-IgG抗体:急性期から陽性になり、ピークの後は少し下がって生涯陽性が続く。 ・EA(early antigen:早期抗原)抗体:急性期に一時的に陽性になる。再活性化でも上がる。 ・抗EBNA抗体:回復期(発症後おおむね6〜12週以降)に陽性になり、生涯陽性が続く。 → 初感染のパターン:VCA-IgM(+)、VCA-IgG(+)、EBNA(−) → 既感染のパターン:VCA-IgM(−)、VCA-IgG(+)、EBNA(+)
合併症と注意点
・脾破裂:脾腫がある間は、接触の多いスポーツや激しい運動を数週間避けさせる。 ・上気道閉塞、自己免疫性溶血性貧血、血小板減少、肝炎、脳炎・Guillain-Barré症候群などが起こりうる。 ・まれに慢性活動性EBV感染症やEBV関連血球貪食性リンパ組織球症(HLH)へ進むことがある。 ・EBVはBurkittリンパ腫、上咽頭癌、Hodgkinリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、節外性NK/T細胞リンパ腫などの発症にも関わる。
皮疹を伴う咽頭炎・発熱の鑑別
・猩紅熱:溶連菌の発熱毒素による。びまん性の小さな紅斑、イチゴ舌、口囲蒼白がみられ、迅速検査は陽性。 ・風疹:耳介後部・後頸部のリンパ節腫脹と、3日ほどで消える発疹。血小板減少性紫斑病を合併することがある。 ・麻疹:二峰性の発熱、Koplik斑、色素沈着を残す融合傾向のある発疹。 ・伝染性紅斑:頬のりんご様紅斑と四肢のレース状紅斑。
POINT
・扁桃炎(白苔)+頸部リンパ節腫脹+異型リンパ球+肝酵素上昇 → EBVによる伝染性単核球症を考える。 ・感染経路は唾液(kissing disease)であり、空気感染はしない。 ・アンピシリン・アモキシシリンを投与すると高頻度に皮疹が出るため禁忌である。溶連菌性扁桃炎と誤診しないこと。 ・特異的な抗ウイルス療法はなく、対症療法が基本である(アシクロビルは臨床的に無効)。 ・抗EBNA抗体は急性期には陰性で、回復期に陽性化し生涯続く。「VCA-IgM(+)・EBNA(−)」が初感染を示す。 ・脾腫がある間は脾破裂を防ぐため激しい運動を控えさせる。
