「ボキッ」という音の正体―陰茎折症は白膜が裂けるケガ
第112回医師国家試験 D問題 第24問
国試問題にチャレンジ
39歳の男性。性交中に鈍い音と同時に陰茎に激痛があり,痛みが持続するため受傷2時間後に来院した。圧痛は中等度であり,陰茎の腫脹が目立ち,陰茎全体と亀頭の一部が暗赤色を呈している。陰茎の写真を別に示す。 この病態と関連するのはどれか。

- a.尿道下裂
- b.尿道損傷
- c.陰茎絞扼症
- d.陰茎海綿体損傷
- e.尿道海綿体損傷
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
勃起中の陰茎に屈曲力が加わり、断裂音とともに激痛・腫脹・皮下血腫(ナス様変形)が生じるのは陰茎折症で、その本態は陰茎海綿体を包む白膜の断裂、すなわち陰茎海綿体損傷です。勃起時には白膜が引き伸ばされて薄くなるため断裂しやすく、漏れ出た血液が皮下に広がります。尿道海綿体は勃起時の内圧が低く単独損傷はまれで、損傷すれば血尿や外尿道口出血など尿道損傷の所見を伴い、陰茎絞扼症は絞扼物の存在が前提、尿道下裂は先天奇形である点で本例とは異なります。治療は早期の血腫除去と白膜縫合が原則で、尿道損傷の合併を見逃さないことが重要です。陰茎の解剖と勃起の生理を結びつけて理解することが、泌尿器外傷を正しく診るための基礎になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・39歳男性。性交中(勃起時)に「鈍い音」とともに陰茎に激痛が生じ、痛みが持続している。 ・陰茎の腫脹が目立ち、陰茎全体から亀頭の一部が暗赤色に変色している(皮下血腫)。 ・写真でも陰茎の腫脹と皮下出血による変色がみられる。
診断へのプロセス
勃起した陰茎に、性交時の「突き損ない」や自慰、寝返りなどで無理に曲げる力が加わり、断裂音(「ポキッ」「バキッ」と表現される)と同時に激痛、急速な勃起消失、陰茎の腫脹・皮下出血が起こるのは、陰茎折症(penile fracture)に特徴的な経過である。 陰茎折症の本態は、陰茎海綿体を包む白膜(tunica albuginea)の断裂である。勃起時には陰茎海綿体に血液が充満して白膜が引き伸ばされ、厚さが平常時の約2mmから0.25〜0.5mm程度まで薄くなるため、屈曲力に弱くなる。白膜が裂けると海綿体内の血液が漏れ出し、陰茎皮下に血腫が広がって腫脹・暗赤色の変色(ナス様変形:eggplant deformity)を生じる。 したがって、本例の病態に関連するのは陰茎海綿体損傷である。病歴と視診でほぼ診断でき、必要に応じて超音波やMRIで白膜の断裂部位を確認する。
選択肢考察
- ×a. 尿道下裂
尿道下裂は、胎生期の尿道形成不全により外尿道口が亀頭先端ではなく陰茎腹側(亀頭部・冠状溝・陰茎体部・陰囊・会陰部)に開口する先天奇形である。陰茎の腹側への屈曲(索)や包皮の背側偏在を伴うことが多く、出生時から存在する。性交中に突然発症する外傷とは関係がない。
- ×b. 尿道損傷
尿道損傷は、骨盤骨折に伴う後部尿道損傷、会陰部を強打する騎乗型損傷(またがり損傷)による球部尿道損傷、尿道カテーテルの不適切な挿入や留置バルーンを膨らませたままの自己抜去などで生じることが多い。症状は外尿道口からの出血、排尿困難・尿閉、血尿である。陰茎折症の一部(報告により1〜2割程度)に尿道損傷が合併することはあるが、その場合は外尿道口からの出血や血尿、排尿障害がみられる。本例ではそうした所見の記載はなく、本病態の主体ではない。
- ×c. 陰茎絞扼症
陰茎絞扼症は、金属リングやパイプ、ボトルの口などの硬い物、あるいはゴム・紐・毛髪などの軟らかい物が陰茎に巻き付いたりはまり込んだりして抜けなくなり、末梢側の血流・リンパ流が障害される状態である。絞扼部より末梢が浮腫・うっ血し、放置すると壊死に至る。絞扼物の存在が前提であり、性交中の断裂音と激痛で始まる本例とは異なる。
- ○d. 陰茎海綿体損傷
勃起は、性的刺激により海綿体神経終末や血管内皮からNO(一酸化窒素)が放出され、陰茎海綿体平滑筋内のcGMPが増加して平滑筋が弛緩し、海綿体洞に動脈血が流入することで起こる。膨らんだ海綿体が白膜を伸展させ、白膜下の導出静脈を圧迫して血液の流出が妨げられ、硬い勃起が維持される。このとき白膜は薄く張りつめているため、無理な屈曲力が加わると断裂しやすい。本例の断裂音・激痛・腫脹・皮下出血はまさに陰茎海綿体白膜の断裂(陰茎折症)によるものである。
- ×e. 尿道海綿体損傷
尿道海綿体は陰茎腹側で尿道を取り囲む海綿体で、先端は亀頭を形成する。勃起時にも陰茎海綿体ほど内圧が上がらず、白膜も薄く柔軟であるため、性交時の屈曲で単独に断裂することはまれである。損傷すると尿道損傷を伴いやすく、血尿や外尿道口からの出血、排尿障害をきたす。本例の病態の主体は陰茎海綿体側である。
陰茎の構造
・陰茎は背側の左右1対の陰茎海綿体と、腹側正中で尿道を包む1本の尿道海綿体からなる。尿道海綿体の先端が膨らんで亀頭となる。 ・陰茎海綿体は厚く強靭な白膜に包まれ、その外側をBuck筋膜、さらにその外側を浅陰茎筋膜(Colles筋膜に連続する)と皮膚が覆う。 ・Buck筋膜が保たれていれば血腫は陰茎内にとどまり陰茎全体が腫れる(ナス様変形)。Buck筋膜も破れると血腫は陰囊・会陰・下腹部へ広がり、会陰部の蝶形血腫を呈することがある。
陰茎折症
・原因:性交時(特に女性上位などで陰茎が恥骨や会陰に強く当たる場合)、自慰、勃起時の寝返りなど。 ・症状:断裂音、激痛、急速な勃起消失(detumescence)、陰茎の腫脹と皮下血腫、損傷側と反対方向への陰茎の偏位。 ・合併症:尿道損傷(外尿道口出血、血尿、排尿困難があれば逆行性尿道造影や膀胱尿道鏡で評価)。 ・診断:病歴と視診で多くは診断可能。超音波・MRIで白膜断裂部を確認できる。 ・治療:原則として早期の手術(血腫除去と白膜断裂部の縫合修復)。保存療法に比べ、勃起障害や陰茎の弯曲・疼痛性勃起・結節形成といった後遺症が少ない。
勃起の薬理との関連
PDE5(ホスホジエステラーゼ5)はcGMPを分解する酵素で、これを阻害するシルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルは勃起障害の治療薬である。タダラフィルは前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療薬としても承認されており、α1遮断薬と並ぶ第一選択薬の一つである。硝酸薬との併用は高度の血圧低下をきたすため禁忌である。
POINT
・勃起時の陰茎に屈曲力が加わり、断裂音・激痛・勃起消失・腫脹・皮下血腫をきたすのは陰茎折症である。 ・陰茎折症の本態は陰茎海綿体白膜の断裂(陰茎海綿体損傷)である。 ・尿道損傷を合併することがあり、外尿道口出血・血尿・排尿障害の有無を確認する。 ・治療は早期の外科的修復(血腫除去と白膜縫合)が原則である。
