座れば坐骨、寝れば仙骨―対麻痺患者の殿部潰瘍は「体位」で読む
第112回医師国家試験 C問題 第44問
国試問題にチャレンジ
67歳の男性。3週間前に脊髄梗塞を発症し,下肢対麻痺を呈している。殿部に皮膚潰瘍を合併し,治療に難渋している。殿部の写真を別に示す。 この病変に関係するのはどれか。

- a.坐骨
- b.仙骨
- c.尾骨
- d.腸骨
- e.大腿骨
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
褥瘡は骨突出部に持続的な圧迫が集中し、皮膚・皮下組織が虚血に陥ることで生じるため、患者がどの体位で長く過ごしているかから関係する骨を推定します。仰臥位では仙骨部が最多ですが、側臥位では大転子部や腸骨部、坐位では坐骨結節部が代表的な好発部位です。脊髄障害による対麻痺患者は運動麻痺と感覚障害のために痛みに気づかず自力で除圧できず、車椅子坐位が始まると坐骨部の褥瘡を生じやすくなります。治療の大原則は圧迫とずれの除去であり、プッシュアップなどの除圧動作、体圧分散用具、栄養管理を組み合わせ、深い病変ではデブリードマンや外科的治療も検討します。体位と骨突出部を結びつけて考える視点は、褥瘡の予防とケアを担う臨床の現場で欠かせない基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・67歳男性。3週間前に脊髄梗塞を起こし、両下肢の対麻痺がある。脊髄障害では運動麻痺だけでなく障害レベル以下の感覚障害や自律神経障害も伴うため、圧迫による痛みを自覚できず、自分で体位を変えることも難しい。 ・殿部に治りにくい皮膚潰瘍がある。長時間の圧迫で皮膚・皮下組織が虚血に陥って生じる褥瘡(圧迫による潰瘍)と考えられる。
写真の所見
殿部に皮膚欠損(潰瘍)があり、その周囲に発赤と紫褐色の色素沈着が広がっている。圧迫による組織傷害が表面の傷より広い範囲に及んでいることをうかがわせ、治療に難渋しているという経過とも合う。
部位の考え方
褥瘡は、骨が皮膚の直下で突出している部位に体重による圧迫が集中して生じる。したがって、患者がどの姿勢で長時間過ごしているかから、圧迫を受ける骨の突出部を推定する。本例は脊髄障害による対麻痺の患者であり、発症から3週間が経過してリハビリテーションとして車椅子坐位をとり始める時期にあたる。坐位で体重を受けるのは坐骨結節であり、車椅子を使う対麻痺患者に褥瘡ができやすい代表的な部位である。この病歴と写真の殿部病変を合わせると、本例は坐骨部の褥瘡と解釈され、関係する骨は坐骨となる。 なお、部位は写真のみから厳密に同定するのではなく、病歴から想定される体位と、骨の突出部ごとの好発部位の知識を組み合わせて判断するのが実際的である。
選択肢考察
- ○a. 坐骨
坐骨結節は坐位で体重を支える骨突出部であり、車椅子に長時間座る対麻痺患者では、ここに圧迫が集中して褥瘡が生じやすい。感覚障害があるため本人が痛みに気づかず、除圧動作(プッシュアップなど)が不十分だと発生・悪化しやすい。脊髄梗塞による対麻痺で車椅子坐位が想定される本例の殿部潰瘍は坐骨部の褥瘡と解釈され、関係する骨は坐骨である。
- ×b. 仙骨
仙骨部は仰臥位で最も圧迫を受ける部位で、褥瘡全体の中でも最も頻度の高い好発部位である。典型的には殿部上方の正中に生じる。本例は車椅子坐位による坐骨部の褥瘡と解釈され、仙骨は関係しない。
- ×c. 尾骨
尾骨部は仙骨のさらに下方の正中にある。仙骨部ほど多くはないが、ベッドの頭側を挙上した半坐位(ずり落ちによるずれ力が加わる姿勢)や、骨盤を後傾させた坐位などで褥瘡を生じることがある。ただし対麻痺患者の坐位で最も圧迫が集中するのは坐骨結節であり、本例の病変は坐骨部の褥瘡と解釈されるため、尾骨は該当しない。
- ×d. 腸骨
腸骨では、上前腸骨棘や腸骨稜が側臥位や腹臥位で圧迫を受けて褥瘡の好発部位となる。これらは骨盤の側方〜前方にあり、坐位で圧迫を受ける部位ではない。本例の殿部病変は坐骨部の褥瘡と解釈され、腸骨は関係しない。
- ×e. 大腿骨
大腿骨では、大腿外側上部に突出する大転子部が側臥位で圧迫を受け、褥瘡の好発部位となる。坐位で体重を受ける部位ではなく、坐骨部の褥瘡と解釈される本例の病変とは関係しない。
褥瘡の発生機序
骨の突出部と寝具・座面との間で皮膚や皮下組織が持続的に圧迫されると、毛細血管が閉塞して組織が虚血・壊死に陥る。圧迫に加え、ずれ力(皮膚と深部組織が逆方向に引っ張られる力)、摩擦、湿潤(失禁・発汗)、低栄養、浮腫、感覚障害、運動麻痺などが危険因子となる。圧迫の影響は皮膚よりも筋肉・皮下脂肪など深部のほうが受けやすく、表面の傷が小さくても深部に大きな欠損やポケットが隠れていることがある。
体位ごとの好発部位
・仰臥位:仙骨部(最多)、尾骨部、踵部、後頭部、肩甲骨部、脊椎棘突起部、肘部 ・側臥位:大転子部、腸骨部、外果部、膝の外側、肩峰部、耳介 ・腹臥位:前額部、膝蓋部、上前腸骨棘部、肋骨部 ・坐位(車椅子など):坐骨結節部(最多)、尾骨部
脊髄損傷・脊髄障害患者の褥瘡
運動麻痺に加えて感覚障害があるため、痛みによる警告がなく、自分で除圧することもできない。急性期の臥床中は仙骨部・踵部、車椅子生活に移行すると坐骨結節部の褥瘡が多い。予防として、臥床時には2時間ごとを目安とした体位変換(体圧分散マットレス使用時は間隔を延ばすことがある)、坐位では15〜30分ごとのプッシュアップなどの除圧動作、体圧分散用具(エアマットレス、車椅子用クッション)の使用、皮膚の観察と清潔保持、栄養管理を行う。
褥瘡の深達度分類(NPUAP/EPUAP分類)
・ステージⅠ:皮膚は保たれているが、指で押しても消えない発赤がある ・ステージⅡ:真皮までの部分的な皮膚欠損(浅い潰瘍、水疱を含む) ・ステージⅢ:皮下脂肪組織に達する全層の皮膚欠損(骨・腱・筋は露出しない) ・ステージⅣ:骨・腱・筋の露出を伴う全層組織欠損 ・ほかに、壊死組織に覆われて深さが判定できない「判定不能」、皮膚表面は保たれているが深部組織が損傷している「深部損傷褥瘡(DTI:deep tissue injury)疑い」がある。 日本では、深さ(Depth)、滲出液(Exudate)、大きさ(Size)、炎症・感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット(Pocket)を点数化するDESIGN-R(DESIGN-R2020)が経過評価に広く用いられる。
治療
原則は原因となっている圧迫・ずれの除去であり、これがなければどんな局所治療も効果が乏しい。浅い褥瘡では創面を適度に湿潤に保つ(ドレッシング材の使用)。深い褥瘡では壊死組織の除去(デブリードマン)、感染制御、ポケットの切開、肉芽形成の促進を行い、難治例や骨露出例では皮弁形成術などの外科的治療を検討する。骨髄炎の合併にも注意する。
POINT
・褥瘡は骨突出部に圧迫が集中して生じるため、患者がとる体位から関係する骨を考える。 ・仰臥位では仙骨部、側臥位では大転子部、坐位(車椅子)では坐骨結節部が代表的な好発部位である。 ・対麻痺患者は感覚障害と運動麻痺のため除圧ができず、車椅子坐位で坐骨部褥瘡を生じやすい。 ・脊髄障害による対麻痺+殿部の褥瘡 → 坐骨(坐骨結節部)を想起する。
